人生イージーモード   作:EXIT.com

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高校二年生編
第10話


 俺のバイレンタインデーのその後と言えば。

 

 ――2月16日

 母の命日だったので比叡山延暦寺まで墓参りに行った。

 千葉から京都まではかなりの距離があったが、バイクで出発。

 途中静岡のサービスエリアで見た富士山はすごかった。寄り道もけっこうしたけどおおよそ6時間ほどで到着。

 近況報告(お参り)だけしてそのまま7時間くらいで帰った。せっかくだしと寄った大阪のたこ焼きはヤバかった。

 あの味は盗めない。

 

 ――3月3日

 小町の誕生日だった。

 友達のお宅で盛大に祝ってもらうようで、俺と八幡でプレゼントだけ用意した。

 俺は送り迎えだけやったけど、八幡は残念そうだったな。でも帰って来た小町が超甘えてたら優しく小町の頭なでなでしてた。小町にとってはそれがプレゼントなのだろう。

 

 ――3月14日

 ホワイトデー。

 クッキーを適当に焼いて適当にラッピングして世話になった人全員に配った。もちろん男女問わず。

 文化祭で一致団結もできたし、1年E組(このクラス)でいれるのもあと少しなんだよな。

 ユキにはバレンタインのお返しも兼ねてちょっと特別感出した。

 あと平塚先生にも渡しといた。デスクにあったゼクシィの事は俺は知らない。

 

 ――3月20日

 学期末テストがあった。

 俺も八幡も余裕だったが、結衣が危なかった。『高校で留年とか絶対ヤダ!』って必死なってた。主に俺と八幡が。

 当人は『えへへぇ♪』ってお花畑に頭突っ込んでるし…なんつーか。

 二度とやりたくない。

 

 ――そんなこんなで2年に進級。

 

「やったぁー!同じクラスだね!」

「結衣もF組になったのか。八幡は?」

「Fだ」

 

 結衣がぴょんぴょんしてる。周りの男子の視線が上下しているが結衣には黙っておこう。

 八幡は別段興味ない様にしてる。1年の時の様子を俺と結衣は知らないが、文化祭の時を思うとぼっちやってたのかもな。

 クラス名簿を眺めていると『葉山隼人』と『相模南』の名前を見つけた。

 

 葉山隼人君。

 彼はユキの幼馴染って言っていいだろう。なにせ小学校3年からのつきあいだ。ただ…あれだけの事態になって平然としてられるのは不気味だ。

 爽やかなイケメンだが、あの顔は俺の遺産目当てで近づいて来た親族に通ずるものがあるな…一応用心しておこう。

 

 相模南。

 結衣にばっさりされてからは、悪口もあんまり言わなくなった。

 しかし時折こちらを羨ましそうに見ている。結衣と仲良くやりたいのだろうか勇気が出ないみたいだ。

 機会があれば声かけてやろう。もともとの狙いは俺だったハズだし。結衣に危害が行かなければいい。

 

「席につけー」

 

 マジかよ…担任かよりによってあの人か…。

 俺は心で悪態をつくがどこか安堵を覚える。間違いなく一番世話になってる教師だ。

 

「担任の平塚だ。これから1年間よろしく頼む」

 

 そう言って平塚先生は原稿用紙を配布して、“高校生活を振り返って”という題で作文を明後日までに書けと言う。

 1年間何をしてきたのか知るためだろうか? 俺はめんどくさいと思いつつも1年間を振り返る。

 八幡もめんどくさいというのが顔に出て先生に睨まれてた。

 

 

 

 ――翌日の放課後。

 

 ~~高校生活を振り返って。~~  

 

 2年F組  柊春仁

 

 高校生活の1年間を振り返って得たモノは何もない。今はそう思う。

 この類のモノは大人になってから始めて得たモノに気づくのではないだろうか? 高校生になって、中学生の頃を鑑みればたしかに得たモノはあると言える。

 今必要なのは、自分の能力の低さを認めて向き合う事。それを高めて、社会に出て1人で生きていける力を培う事だ。自分の能力が低ければ、他人を蹴落として我欲を満たす醜い大人になるだろう。それは絶対に嫌だ。

 人を妬んで邪魔する時間があるなら、自分を磨く時間に使う方が有意義だ。

 しかし、誰かを羨望して自分を磨く人は少ないと言い切れる。その理由は考えるまでもなくイジメ問題だ。

 どんな年齢であろうと関係なくイジメは起こる。しか、俺はそれをどうこう言うつもりはない。勝手に妬んで、勝手に醜くなって、自滅する他人の人生など、どうでもいい。

 話がそれたが、1年間を振り返って得たモノはないが、感じた事はある。

 

 それは人間は醜い生き物だという事だ。

 

「――それで、柊。 これは一体何かね?」

「先生が出した作文ですが?」

「そんな事はわかっている! ちゃんと振り返ってはいるが、なんだこの内容は!高校生が書く内容ではないぞ!」

「先生、俺は高校生なんですが…あと妄想ではなくて事実ですからね?」

「はぁぁー…まぁいいだろう。お前といい比企谷といい…まったく…」

「柊。 君はもう行っていいぞ」

「はい、失礼します」

 

 八幡もやらかしたのか。そういや『青春とは嘘であり、悪である――』って書きだしてたな。後で見せてもらおう。

 今日はバイトがあるが、職員室に呼び出されて少々時間を食った。少し急いで下校する事にしよう。

 

 

◆  ◆  ◆  ◆  ◆

 

 

「はぁ…チョコ渡したかったなぁ…――」

 

 あたしはひどく落ち込んでいる。バレンタインデーにヒッキーにチョコレートを渡す事に失敗したからだ。

 ハル君に教えてもらいながらという手段は一番最初に浮かんだけど、あたしだってがんばれるって事みせたかった。

 こういうのって一人で作らないとだめだとおもうんだ。

 ちゃんとあたしの『ありがとう』と『ごめんなさい』は伝わった。次は『好きです』って伝えたい。

 前にハル君と話して自分の気持ちハッキリした。すごく恥ずかしいし怖い。

 断られたらどうしようって思っちゃう。あたしがヒッキーと恋人になっても…ハル君は変わらずに接してくれるのかな…

 

 あたしが料理のれぴし?見ながらやってみたけどできたのは予想と全然違った。

 結果は……なんか黒い塊ができた。あんなの渡せないよね?それくらい、あたしでもわかる。

 

「はあぁ~…――」

 

「どうした由比ヶ浜、ため息は幸せが逃げると言われているぞ?」

「あ……先生…」

「話してみたまえ」

「えっと…なんといいますか。おいしいチ…クッキーとかを作れる様になりたいなぁって…でもあたし、料理がてんでダメで…」

「そうか、残念だが、私も台所関連は上手くないから私ではそれに応えられないな」

「はぁ……どうすればいいのかなぁ」

「由比ヶ浜、奉仕部に行って依頼してみたまえ」

「ほーし ぶ?」

「そうだ、特別棟の4階の端にある教室が奉仕部だ。そこで相談してみたまえ、何かコツがわかるかもしれないぞ?」

「わかりました…行ってみます」

 

 あたしの目的は決まってたんだけどさ。なんかいつの間にかすりかわってた。

 あたしはヒッキーに想いを告げたかったの。丁度バレンタインだからチョコになっただけだった。

 いつのまにか作る事が目的になっちゃってたなぁ。贈る物はなんでもいいのにね。

 でもあたしががんばったって事をヒッキーに見てほしい。そのためにもクッキーはがんばろう。うん。

 

 あたしは迷わずに辿り着き、扉をノックしてそろーっと中を覗き込む。

 

「お…おじゃましまーす 奉仕部ってここであってますか?って ヒッキー!?っななっなんでヒッキーがここにいんの!?」

「うるせぇな、仮入部したんだよ、ついさっきだがな」

「あはは…部員なんだ…。 あ、あたしは由比ヶ浜結衣です」

 

 あわわわ、ヒッキーが目の前にいる。ヒッキーに渡すのにヒッキーに教えてもらうっておかしいよね!?

 黒髪の超かわいい子が「雪ノ下雪乃よ」って返してくれた。

 

「比企谷君、貴方彼女に何したの?通報してあげましょうか?」

「オイ、気持ちはわかるが出会って数時間で俺を犯罪者に仕立て上げるのはやめろ」

「そんなことより比企谷くん、由比ヶ浜さんに椅子を用意してあげたら?」

「俺の冤罪がそんなことかよ、まぁいいけど。ほれここ座れ」

 

 なんか仲よさそう…あたしのヒッキーが取られちゃう? そんなのダメ!って思ってたら「ヒッキー!何デレデレしてんの!? バカ!」と本音もれちゃった…アハハハ…

 

「俺、今労働してるよね? いい眼科紹介してやろうか?」

「椅子だしてるだけじゃんか!」

 

 あたしは二人に向かい合う様に座って、やりたい事を話した。

 

「つまり『おいしいクッキーを作れる様になりたい』ということかしら」

「うん!そう!」

「クッキーは作り方が決まってるからそんなに難しくないわ それじゃ、家庭科室に行きましょうか」

「あ、ヒッキーに伝えとくね」

「そうね、お願い。由比ヶ浜さん」

 

 ヒッキーは雪ノ下さんに頼まれてジュース買いに行ってくれた。文句言うけど結局やってくれるんだよね♪エヘヘ♪

 ヒッキーに『家庭科室へ移動するよー(^^)/』って送っといた。

 

 雪ノ下さんが手本を見せてくれて、あたしはそれをじっと見てた。雪ノ下さんも簡単だからって言ってたしさ。

 あたしでもちょちょいっとできるよね。

 雪ノ下さんのクッキーは美味しかった。これデパートで売ってるクッキーじゃない?って思えるくらい美味しかった。同じ手順でやればヒッキーにも美味しいクッキー食べてもらえる―――

 ――と思っていた時期があたしにもありました。

 できたのはやっぱり黒い塊だった。なんでよぉ!――ぐすん。

 

 ヒッキーも合流して、味見してくれることになった。ヒッキーごめんね…

 雪ノ下さんはテーブルに突っ伏してため息ついてる。タハハ…はぁ。

 

「どうすれば伝わるのかしら…」

「やっぱ、あたしって才能ないのかなぁ…」

 

 あたしが思った事を口に出したら、雪ノ下さんが真剣な顔で言った。

 

「由比ヶ浜さん。その言葉は努力した人だけが言っていい言葉よ。努力もしないうちから『才能がない』というのは努力している人への侮辱だわ」

「っでも、雪ノ下さんにも迷惑かけっぱなしだしさ、きっと向いてないんだよ。友達とかにもそう言われた事あるし」

「由比ヶ浜結衣さん。貴女、自分の向き不向きを他人に勝手に決められて悔しくないの?できない理由を他人のせいにするのもひどく不愉快だわ。」

 

 ハッキリ言われた…苦しい。けどさ。本気で言ってくれたんだよね?今までの人たちとなんか違う。

 これが叱るって事なんだろうな。あたしは嬉しくなって泣いてしまいそうになる。

 でもちゃんといわなきゃ。 ね。

 

「…ありがとう……」

 

「「は?」」

 

「あの、由比ヶ浜さん?話聞いてた?結構キツい事言ったつもりなんだけど」

「うん、苦しいし、泣いちゃいそう。でもさ。雪ノ下さんが本気で叱ってくれたから…嬉しかったの。ごめんなさい雪ノ下さん、次はちゃんとやるから」

 

 

◆  ◆  ◆  ◆  ◆

 

 

 由比ヶ浜が雪ノ下に事細かく指導を受けながら、クッキー生地を練り上げる。

 その表情は真剣であり、教えている雪ノ下もそれを見て『由比ヶ浜さんが真剣なのに私が手を抜く訳にはいかない』と容赦なく指導する。そうしてキツネ色に焼きあがったクッキーが完成した。

 俺はは腹を労りつつ味見――いや毒味をする制作物を見る。

 由比ヶ浜の確かな成長は見られるが、劇物と言っても過言ではないそれらをこれから腹に収める。

 

「やったぁ~!できたぁ〜!」

「おめでとう、由比ヶ浜さん」

「…んじゃ、喰うぞ…」

 

 クッキーを持つ手が震える。このクッキーは由比ヶ浜の努力の結果だ。それを食べないって事は彼女の努力を否定する事にならないだろうか?俺は覚悟を決めクッキーを⦅さくり⦆と咀嚼する。さっきの“物質”を⦅ゴリッ⦆と処理したが、これはまさしくクッキーの食感であった。ようやくクッキーが食べれる!と期待したのも束の間、口内に拡がる“物質”の味に、ささやかな期待は打ち砕かれた。

 

「見た目は改善したのに…どうしてかしら」

「アレだ、由比ヶ浜が二度と料理しないって方法で良くないか?」

「えぇ!ヒッキィ~ひどいよぉ!」

「比企谷君、それは最終手段よ」

「雪ノ下さんまで!?」

「つーかお前ら、なんでおいしいクッキーに拘ってんの?」

「えっ?どうせなら美味しいの食べてほしいからにきまってんじゃん!」

「…どういう事かしら?由比ヶ浜さんの努力が無駄だとでも言いたいのかしら?」

 

 雪ノ下は怒りを帯びた声で言う。

 

「雪ノ下、話は最後まで聞け。今回の依頼はおいしいクッキーを作る事か?たしかに実際にやってみて作り方を学習させるのは必要だが、万人がおいしいと感じるクッキーを作るのは不可能だ。違うか?」

「…たしかにそうね」

「由比ヶ浜の努力が感じ取れたら、味とか見た目とかは重要ではないんじゃないか? それにな、男ってのは単純なんだ。去年の誕生日にホント久しぶりに祝ってもらったんだが、俺はプレゼントよりも“祝ってもらった事”の方が嬉しかったんだ。あぁいや、プレゼントがどうでもいいって訳ではないからな?」

 

 これが俺の正直な気持ちだ。祝ってくれる時点ですでに嬉しいし、自分の為に頑張ってくれた事が感じ取れればなんだっていいだろ。あー、でもまともなクッキーが完成する前に卒業してそうだな。

 

「…ヒッキー」

「…そうね、それはよく理解できるわ」

 

「んでまぁ、アレだ。奉仕分の方針としては、由比ヶ浜の努力を確認するってのが落とし所だと思うんだが、どうだ?雪ノ下」

「そうね、それなら奉仕部の理念とも合致するわ、由比ヶ浜さん、貴女はどう?」

「あたしもそうしてほしいな。雪ノ下さん、ありがとう!」

「由比ヶ浜、あんまり頻繁に持ってこなくていいからな?アレだ。3年に1度くらいでいいから」

「年単位だ! 長いよぉ~!作ったら味見してよぉ〜!」

「私も比企谷くんを支持するわ」

「雪ノ下さんまで!?」

 

 ―――翌日の放課後。

 

 昨日平塚先生に勧められて仮入部してみたんだが、ここが以外と心地いい。

 すごい静かだ。時計の針の音とページをめくる音しか聞こえない。何もなかったら読書やら勉強やらしていいし、雪ノ下が俺を罵倒してこなけりゃ文句ないんだが。

 俺がふと本から目線を上げると雪ノ下と目があった。

 

「今日もヒマだな」

「えぇ、そうね」

 

 突然《ガラッ!》とドアが開き「やっはろー!」とアホっぽい挨拶が響いた。

 

「やっはろーゆきのん!ヒッキー!」

「こんにちは、由比ヶ浜さん」

「おう」

「その…ゆきのんっていうのはひょっとして私の事?」

「そうだよ!雪乃だからゆきのん♪」

 

 雪ノ下が明確な拒否をしている。しかし由比ヶ浜には話が通じていないのか一方的にまくし立ててゆきのん呼びが定着した。

 

 こうなった由比ヶ浜は動かない、雪ノ下諦めろ。もう手遅れたぞ?

 雪ノ下がしぶしぶ諦めて「ハァ…」としてると由比ヶ浜が「ゆきのん♪ゆきのーん♪」って抱き着いてた。

 美少女が美少女に抱き着いて抱き着かれた美少女は「ちょっと…近いわから離れて…」と口では嫌がってはいるけど突き放したりはしない。むしろあの“離れて”ってのは“もっと”って意味だろう。

 そういや由比ヶ浜が来る前に雪ノ下から聞いたんだが、春仁もここの部員らしい。

 でもバイトある日はそっち優先でいないんだそうだ。

 平塚先生からは「ためしに入ってみたらどうだ?続けるかどうかは任せよう」って言ってくれたけど、案外ここの空気も悪くないんじゃないだろうか?今日で「やっぱやめとくわ」って言おうとしたけどその選択肢は捨ててしまおう。

 俺はいちゃこらしてる百合ノ下と百合ヶ浜から本に目線を逸らしひとりごちる。

 

「今日の由比ヶ浜はピンクか」

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