人生イージーモード   作:EXIT.com

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第11話

「平塚先生」

「あぁ、柊。わざわざすまないね」

 

 俺は平塚先生から『放課後に職員室にきたまえ』と言われ、職員室を訪れていた。隣の応接室に通され用件を聞く。

 

「柊、部活はどうかね? あぁそうだクッキー美味かったよ。 感謝する」

「お口にあったようでよかったです。 おかげさまで周りは平和になりました、9年ぶりの再会もできましたし、ありがとうございます」

「はは、それはよかった。 それで来てもらった件だが…」

「成績の事…ですか?」

「察しが良くて助かるよ」

 

 俺の成績は学年総合三位に落ちた。俺も勉強をしていない訳ではないが、記憶力に頼りすぎるきらいがある。

 人間が衰えるのは必然であり、記憶力も例外ではない。

 学生における“勉強”とはテストの点を取ることではなく、勉強する事を“習慣”とする事だ。

 しかし俺はバイトがあり習慣になりづらい。それが今回の原因だ。

 高校2年生にもなれば、進路や将来の事を考える必要が出てくる。

 それを考えるのは早いにこしたことはないのだ。

 

「柊、まだ早いと感じるかもしれないが、高校卒業後はどう考えてるのかね?」

「……そうですね。大学には行きたいと考えてますが、その先まではまだですね…」

「そうか、ちゃんと考えてるみたいだな。なら、アルバイトはまだ必要かね?」

「あぁバイトは目標金額まであと少しですから、それで辞めますよ。 流石に今のままで大学に行けるとは思えません」

「よし、ちゃんと理解している様でなによりだ。 可能であれば大学で、何を学びたいかも視野に入れておきたまえ」

「…はい」

 

 俺は一礼して退室し、奉仕部に向かう。何やら大きな声が聞こえるので「何事か?」とごちって奉仕部のドアを《ガラッ》と空けた。

 

「あら、こんにちは。ハル」

「やっはろー!ハル君!」

 

 ユキと結衣に「よぅ」と挨拶を返す。八幡は何やら怪しい男の友人?――いや知人とめんどくさそうに話していた。八幡にどうしたと内容を聞いた所、この怪しい男『【剣豪将軍】材木座義輝が書いた小説を読んで、感想を伝える』という事らしい。八幡個人宛と思えば奉仕部宛の依頼だった。

 

「はぁ…まためんどくさい事を…」

「それで、なんでここに来たんだ?材木座」

「うむ!以前平塚教諭にここに行けば願いを叶えてくれると言われてな!参上した次第である!」

 

 材木座君は所謂中二病だ。八幡がユキと結衣に説明すると「つまりあれを治せばいいのね?」とユキがぶっ飛んだ解決策を提案し、「キモい!」と結衣が拒否反応を明確に示した。

 材木座と八幡の関係は『忘れたのか!あの苦痛に満ちた時間を!ともに走った仲ではないか!』なんか色々捏造されてる気がするが、要約すると体育でペア組んだだけという関係だった。

 言い回しが大層なのは気にならない、むしろ本人がやりたいなら好きにしたらいい。

 

 ――しかしだ。俺と話す時はペコペコし、ユキと結衣に至っては、女子と話すのが苦手なのか恥ずかしいのか知らんがまともに会話をしない。

 マトモに話せるのは八幡だけという状況に次第に俺はイライラしていった。

 しかし俺もガキじゃないし、最低限の礼儀はわきまえてる。いきなり怒鳴ったり、拒否したりはしない。

 

「ちょっといいかな?材木座君」

「…なな、なんでしょうか?」

「奉仕部への依頼なんだよね?」

「…は、はい…その通り…です」

「奉仕部の理念はね、自立を促す事なんだ。例えば『飢えてる人に魚ではなく釣り竿を与える』という事なんだ、これはわかるよね?」

「しょ、しょれは理解できましゅ」

「なら、俺たちは『感想を貰える様に、材木座君を自立させる』って対応になるんだが…あってるか?ユキ」

「えぇ春仁。あってるわ」

「なら奉仕部への材木座君の依頼は『小説投稿サイトに投稿する手段を教える』で解決だ」

 

 材木座君は予想を裏切られたと思ったのか、大きな声で訴える。

 

「なぬっ!八幡!!話が違うではないかぁ!我との盟約を忘れたかぁ!」

「うるさいぞ、声を落とせ材木座。っつか話してねぇし、盟約もしてねぇだろうが、作り話は小説の中だけにしろ」

 

 八幡のいう事は正しい。熱意が本物なら発言に嘘がまざるのはダメなんじゃないか?

 俺は誠意のない人間が嫌いだ。自分で最低限の事もやらないうちに他人に頼ってくる神経に虫唾が走る。

 

「材木座君、何故小説を書いてるの?」

「書きたいから書いているのだ!」

 

 書きたいから書く。 ね。

 

「書くだけなら感想もらう必要はないんじゃないかな?」

「………我は! 小説家になりたいのだ!」

「それで、上手くできてるか解らないから感想がほしいって事?」

 

 俺は苛立っているだろうな。無理矢理な笑顔作ってる、つか絶対目が笑っていない。

 他の三人は絶対気付くだろうな…八幡は一緒に1年以上一緒に生活してるし、結衣は空気読める。

 ユキに至っては幼馴染だ。

 俺はあまり怒らない様にしてる。暴力に走ってしまうと八幡と結衣、もちろんユキも悲しむからな…。

 俺のあんな姿はできるだけ見せたくない。八幡には見られてるけどな。

 

「その通りだ。我には読んでくれる盟友など八幡以外におらぬ」

「八幡、ユキ。 どうするんだ?」

「…奉仕部の依頼だし、春仁の案でいいと思うぞ」

「私もそれならいいわ」

「はちまぁぁぁぁん!」

「うひゃあ!ちゅうにキモい!」

 材木座君が八幡にすがり、泣きついた。

 自分の要望が通らなかったら泣き落としかよ。結衣怖がってるし。結衣はまぁいいか。

 

「だぁぁ!うっとおしい。離れろ! ハァ…じゃあ折衷案だ…聞け材木座。 お前はひとまず投稿サイトに作品をアップしろ、それから他人が出した評価を俺たちが一緒に見る。これならどうだ?」

「それなら奉仕部の理念には反しないわね」

 

 八幡の案は『小説投稿サイトに作品を投稿し、書かれた感想や評価を確認する事』だった。

 これであれば、第三者目線からの指摘、改善点。ひいては本人のメンタル強化に繋がるだろう。

 まさに奉仕部の理念に最もふさわしい。流石だ八幡。

 

「ちょっとくらい読んでみてくれてもいいではないか!!」

 

 ――は? っと我慢だ我慢。

 

「材木座君、読んでほしいなら、せめてその態度を改めてくれないかな?」

 

 俺の堪忍袋も限界が近い、なんで初対面の相手に無礼な態度でごちゃごちゃ言われなきゃなんねぇんだ?

 そもそもコイツの我儘を依頼ってだけでうけなきゃならんのか? そんな仕事給料もらってもお断りだ。

 

「どこに改める必要があるのだ?ちゃんと頭を下げて頼んでいるではないか? どうしてこうリア充共は上に立ちたがるのか、我には理解できん」

 

「あぁそうかよ、じゃあな」

「…………ハル…」

 奉仕部の空気が凍り付いたのが解る。 俺は何事もなかったかの様に下校した。ユキごめん。

 

 

◆  ◆  ◆  ◆  ◆

 

 

 春仁が真顔で「じゃあな」って帰った。あの顔はマズい、中学3年の時に女子の顔ボコボコにした時の顔に近い。

 もう春仁には暴力を振るってほしくない。もし春仁が退学とかになったら二度と会えない気がする。

 そんなのはダメだ。俺は春仁を独りにしたくない。

 

「材木座…お前なぁ…春仁怒らせんなよ…」

「…………」

 

 こいつ黙ってるけど解ってんのか? ハァ…フォロー入れんの俺なんだから、余計な事しないでほしい。

 ホントめんどくさい。

 

「雪ノ下、由比ヶ浜。 大丈夫か?」

「えぇ…大丈夫よ。 ハル…心配だわ」

「はぁぁぁぁー、こわかったよぉー!」

 

 やっぱ一緒にいた時間が違うか。大丈夫そうだ。

 

「我の…どこがおかしかったと言うのだ!」

「「「全部!」」」

「……すいません」

 

 春仁が退室した後に残され俺たちは、先程の反省会を行う事にした。

 言っちゃアレだが、春仁の事を少しだけ話した。雪ノ下は知ってるみたいだったけど。

 

「ざいもく ざ?君。正直に言うけれど、本当は私も依頼は受けたくないわ。 ハルの事もあるのだし」

「……ゆきのん。うん、あたしもそうかな」

「由比ヶ浜さん。その呼び方はやめて頂戴って言ってるでしょ?」

「いいじゃん!ゆきのんゆきの~ん♪」

「ちょっ…近いわ。 由比ヶ浜さん」

「お前ら…百合百合すんな。んで受けたくない理由って…アレか?」

「我にも教えて頂きたい…」

「材木座、お前マジで解ってないのか?いいか?――」

 

 めんどくさい、ほんとめんどくさい。でも言わないと春仁が遠くに行ってしまう可能性が上がる。

 それは俺がイヤだ。そうだ。この説明は俺の為だ。

 

「――まず、お前は嘘をついた。体育でペアになったのは事実だが、俺達は友達ではない。あと盟約ってのはお前の妄想であって、そんな話もしていない」

「次に、頭を下げたと言ってたが、俺以外に下げてないし、『お願いします』すら言ってない。雪ノ下と由比ヶ浜に至ってはロクに会話もしていない。んでアレだ。要望通らなかったら泣きついて来ただろ、お前」

「最後に、春仁が歩み寄ったがお前はそれを突っぱねた。以上だ。何か質問ある?」

 

「我は嘘などつ――」

「あぁ材木座、アレだ、先に言っておくぞ。お前が中二病だからとか、俺らには関係ないからな? よく考えて発言してくれ」

 

 危ない…いらん事言わんでくれ。

 

「雪ノ下と由比ヶ浜はなんかあるか?この際だ、言いたい事言っていいだろ。つか、お前らは完全にとばっちりだしな」

「…そうね、私からはひとつだけ。“口は災いの元”とだけ言っておくわ」

「…あたしはハル君にちゃんと謝ってほしいかな。あたしたちじゃなくてさ」

「由比ヶ浜、謝罪は逆効果だ。今の材木座は春仁の視界に写らない」

「そっか、うん。やっぱり…そうなっちゃうか」

 

 由比ヶ浜はやっぱり優しいな。雪ノ下は遠回しに「もう話さない方がいい」って言ってるな。辛辣だ。

 

「我はそこまでの事をしたのか!? それに八幡!何故それを言い切れるのだ!」

「春仁は俺の兄貴だ」

「ッなんだとぉ!!なんで黙っておったのだ!」

 

 材木座…いい加減その芝居やめてほしい。日常なら問題ないよ?今は非日常だからね?そこんとこよろしく。

 

「まぁ従兄弟だけどな、あと春仁のメシはマジで美味しい。ってゆーか、お前に教える必要ねぇだろ?」

「え?同じ家?でも柊って…」

「お前が何考えようと知らんけどな、雪ノ下も言ってただろ?“口は災いの元”だって。 それの意味から調べてこい、小説書く以前の問題だぞ」

 

 材木座は言葉が出ないようだ。まぁそうだろうな。

 

「…材木座、自分が言った事おぼえてるか?」

「……覚えておる」

 

「ならいいんじゃねぇの?知らんけど。 それと雪ノ下、材木座の依頼受けるんだろ?」

「えぇ、比企谷君の案で受けるわ」

「だそうだ、材木座。作品、サイトにアップしとけよ?」

「……心得た」

 

 

◆  ◆  ◆  ◆  ◆

 

 

 翌日になった。俺は少し思い返す。

 

 あの時はかなり頭に血が上って危なかった。落ち着いてからユキに『ごめん』とだけメール入れたら『大丈夫』とだけ返信があった。

 校庭が見えるベンチに座ってぼーっとしてると八幡が隣に座って来た。

 

「春仁」

「どうした八幡?」

「ごめんなさい」

「ど、どうした八幡?何かあったのか?」

「材木座の件だ。あの後に春仁と俺の関係を少しだけ話した」

「なるほど。それでごめんなさいか」

 

 八幡は俺の過去を、勝手に話してしまった事を謝罪する。材木座君を納得させる為とはいえ、勝手に話した事は事実だ。八幡はそれを気にしていたのだろう。

 

「八幡、ありがとな。もう気にしてない。大丈夫だ」

「本当?怒ってない?」

「その言い方可愛いな。本当だ。気にするなら罰を与えてもいいけど?」

「この話は終わろう、そうしようむしろそれがいい」

「はは、そうだな」

 

 俺は全く気にしていなかった。というか気にしない様に“した”。つまり材木座義輝という人間は俺の世界には存在しない。小説家になりたい夢を持ってる?中二病を拗らせた?友達がいない?

 

 “それがどうした”

 

 かの自由惑星同盟軍第13艦隊分艦隊司令官のアッテンボ〇ー中将が言うには最強の言葉だそうだ。たしかに強い。

 

「材木座の依頼は俺の案で受けた、そんだけだ」

「そうか」

 

 ユキと結衣にも少し悪い事したな、後でちゃんと謝っておこう。

 

 ――さらに翌日。 の放課後。

 

 今日も今日とて奉仕部に向かう。

 昨日結衣にちゃんと謝ったらすごく心配された。それでいったん話は終わったんだが――

「ゆきのんとどういう関係なの!?」――ってめっちゃ迫って来たからこれから話さないといけなくなった。

 ホント子犬みたいな子だな。興味持ったら一直線で間違えない。

 ちゃんと考えてるのはわかるんだが、もうちょっと周りに気を使ってほしい。

『パンツ見えてるよ』とか俺から言えんだろ。ちなみに水色だった。

 

「よう、ユキ早いな」

「こんにちは、ハル」

 

 少しして「やっはろー」と結衣が入って来た。いつもの席に座る。

 教室の黒板側が依頼者の席、その反対側の窓側のにユキ、その隣に結衣、その隣に俺、ドア側の端に八幡って感じになってきてる。

 

「ハル君!ゆきのん!」

「昼間の件か?」

 

 ユキは首を傾げてきょとんとしている。

 

「そう!ふたりはどんな関係なの? そっその…つっつつつき合ってるのっ!?」

 

 俺とユキが揃って『幼馴染』と答えた。今度は結衣が「はぇ?」ってきょとんとした。

 もう! お前らぁ! 可愛いから自重してくれ。

 

「あはは…そうなんだ。 なんかさ。 すごく自然な距離だからさ。 特別なのかなーって思って」

「特別、そうねハルは特別な人だわ」

「俺もそうだな、ユキは特別だ」

「つきあってんじゃん!」

『違う』

 

 結衣の顔が赤くなってきた。そろそろ暴走しそうだし、アレ使ってみるか。

 俺はカバンからアレを取り出し「結衣」って呼んで「ん?何?」こっち向かせてこれを《スッ》とつければ。

 

「ほらユキ」

「あぁ…猫…にゃ~♪」

 

 結衣が暴走しそうだったからユキを暴走させて沈めてみる試みは成功を収めた。

 ユキが「にゃー♪」って可愛く鳴きながらネコミミカチーシャ装備の結衣を《なでなで》としている。

 

「えっ? ちょっ!ゆきのん? ゆきのん!? うひゃあ! 待って 待って!ゆきゅう…はふぅ」

「うふふふふ。可愛いわ。ほらにゃ~んって鳴きなさい」

「はふぅ。 ぁぅぅ。  んにゃー…えへへぇ」

 

「「「…………」」」

 

「ユキ、ほどほどにな」

「えぇ、ごめんなさい」

 

 何事もなかったかの様に俺とユキは読書を始める。放置された結衣は顔を真っ赤にしてぷるぷる震えてる。

 俺が「結衣?どうした?」と聞くと「ふたりともひどいよぉ!ちゃんと相手してよぉ!」とおねだりしてきた。

 ユキが「うふふ♪ 仕方ない子ね♪」と再び愛でていた。今度はユキに犬耳カチューシャ着けてみよう。

 ユキは猫の事になると周りが見えなくなる。

 スカートめくれてたから黙ってさっと直しといた。

 

 ピンクだった。

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