材木座がようやく作品をネットにアップした。あいつが言うにはぽつぽつコメントも来てるらしい。
ちょっとスマホで覗いてみたんだが、最初にごちゃごちゃと世界観やら主人公の説明のくだり多すぎて本編の内容あんまりなかった。
流石の俺でもあれはキツい、正直見る気失せた。あとはネットの暇人に任せよう。
皆さま、どうぞご存分に。
そんなことを考えながら俺は普段弁当を食べてるベンチに移動して、ぽかぽかと春を感じながら1人の時間を満喫する。2年になってからは、春仁も由比ヶ浜も奉仕部でお昼休みを過ごしている様だ。
先日クラスのトップカーストの金髪縦ロールと由比ヶ浜がなにやら揉めてた様だが「ゆきのんが待ってるから」ってきっぱり言ってたな。縦ロールはなんとも言えない表情してた。
俺も気が向いたら行こうと思う。多分。そのうち。気が向いたら。
最初は由比ヶ浜に無理矢理連れていかれたが、俺が嫌がると誘わなくなった。
いや、嬉しいんだけどさ。メシくらい静かに喰いたいし、一人でぼーっとしたい時間も大切だと思う。
何より3人の邪魔したくない。
春仁と雪ノ下は幼馴染って聞いたし、由比ヶ浜は雪ノ下大好きだし…春仁も気になってんだろうな…
食事を終えてMAXコーヒーをくぴりと飲む。あ‟ぁあ~…んまい。
「あれ? ヒッキーなにしてんの?」
「うひぁ!」
「あはは。 ヒッキー、変な声出てるよ」
「んぐっ。 急に話しかけられたら誰でもびっくりするだろ。ってか由比ヶ浜は部室じゃなかったのか?」
「うん!ゆきのんとゲームしてたの。 ジャン負けでジュース奢るってやつね。んでさ。最初はゆきのんも『くだらないわね』とかいろいろ言ってたんだけどね。あたしが『へぇーゆきのん勝つ自信ないんだね』って言ったらさ。 ぷっくく…『由比ヶ浜さん、それで挑発のつもりなの? いいわよ、後悔させてあげるわ』って言ってね。 あっははは。その時のゆきのん超可愛かったんだよ! ハル君も笑い堪えててさ。ぷるぷるしてた!」
「それで負けたのか。雪ノ下のドヤ顔が目に浮かぶな。『私の勝ちね由比ヶ浜さん。いつでもかかってらっしゃい』とか言ってそうだ」
「あはははは! ヒッキー似てる!! でも、それは言ってなかったけどさ、小さくガッツポーズはしてたよ。ゆきのん」
雪ノ下の初見はなんというか…いきなり通報されそうだったからな。なかなか可愛らしい一面をお持ちの様で何よりだ。本人に言ったら何されるかわからんから言わんけど。いやでもアレだ。そんな一面あるならちょっとは仕返ししてみようかなって考えてしまう。今度怒らない程度にイジってみよう。
「あっ。 さいちゃん。 やっはろー!」
「や、やっはろー由比ヶ浜さん」
由比ヶ浜の友達だろうか?と声がする方へ視線を向ける。
ジャージを着てテニスラケットを持った“女”生徒が、こちらへ歩いてきてにこやかな笑顔で返事していた。
めっちゃ可愛い…由比ヶ浜や雪ノ下も相当レベルが高いが、この子もかなり可愛い。
「あっ 比企谷君…だよね?」
「お、ぉぅ。そうだが……で、誰?」
「知らないんだ!? 同じクラスだよ!?」
「アハハハ…えっと。 戸塚彩加です。よろしくね。比企谷君」
俺は戸塚さんから目が離せない。何?この曇りなき笑顔。
人か?いや天使だ。天使でいい。
ってか。この笑顔はやばい…ど真ん中だ。ど真ん中すぎてバットが折れるまである。
アナタを好きになっていいですか?好きになって、告白して…振られて。ってそれあかんやつや。
「えっと…比企谷君?」
「…はっ!…どうした?戸塚さん」
「むぅ~!ヒッキーきもい! なんで男の子にでれでれしてんの!?」
――は?
いやどう見ても女だろ。こんな可愛い男がいるワケがない。
「あはは… ボク、正真正銘の男なんだけど…」
まじかぁ~男だったかぁ~。振られる率が天元突破してたわ危ない危ない。また黒い歴史が1ページ増える所だった。
イヤだから告白から離れようね。八幡君?
「そっ、そうか。ところで、戸塚はテニス部か。がんばってんだな」
「うん。比企谷君もテニス上手だよね!体育の時のフォームがすごく綺麗だし、ちょっと声掛けようかなって思ってたん――」
「戸塚。俺と一緒に壁打ちしないか?」
俺は戸塚の手をギュッと握って言う「ヒッキーそれ2人の意味ないし!」由比ヶ浜、少し黙れ。ばれるだろ。
「あはは…壁打ちは今度でいいかな…。 それよりちょっとお願いがあるんだけど」
「どうしたの?さいちゃん」
聴けばテニス部に入ってほしいという事だった。
しかし俺は既に奉仕部に入っているので入部ができない。
それを言うとすごく残念な顔をしたので心が締め付けられた。
罪を少しでも軽くしたい俺は、奉仕部へ依頼したらどうだ?と提案した。そしたら「ありがとう比企谷君!」と言って戸塚スマイルが俺に直撃した。
キンコンカンコンと昼休み終了の知らせが鳴った。そういえば由比ヶ浜はなんでここにいたんだっけ?
「由比ヶ浜」
「なに?」
「お前、ジュースは?」
今日の昼間のユキはなんというか相変わらずだった。じゃんけん勝ってガッツポーズとか。もうね。
午後の授業も終わり、俺は奉仕部でユキが淹れてくれた紅茶を味わっている。八幡も指定席に座って「おぉ…美味い」ってくぴくぴ飲んでるところに「やっはろー!」と結衣が来た。
俺がバイトしてる事もあり、4人が揃うのはなんだか久しぶりな気がする。
「今日は依頼人を連れて来たよー」
「あれ?柊君もここの部員なんだ」
依頼人は戸塚君だった。
少し前にテニス部に勧誘されて《バイトガ》使って断ったんだけど、その時の罪悪感がやばかった。なんかこう、胸が苦しくなった。
上目遣いで『だめ?』とか覚えたら逆らえない気がする。
可愛いだろうなぁ…だが男だ。
戸塚君の依頼はテニス部を強くしたいって事だった。
「うちのテニス部ね、すごく弱いんだ…3年が引退したらもっと弱くなる」
「なるほど、それで奉仕部に依頼に来たという事ね」
「それでね、ボクがテニスうまくなればみんなもやる気出してくれると思うんだ」
「じゃあ私たちは戸塚君の練習のサポートをする。という事になるのかしら?」
「そうなるな、練習メニュー考えたり、マネージャー的な人員がいるだけでも大分違うだろうし」
今日の放課後から戸塚君へのサポートが開始される事になった。
ユキが「とりあえず、死ぬまで走る、死ぬまで素振りね」とか言ってたけど、無視したらちょっと拗ねてた。
後でネコミミ結衣を与える約束したら機嫌なおしてくれた。結衣には何も言ってないけどまぁ大丈夫だろ。あの子ユキの事好きだし。
トレーニングは基礎体力作りから開始となった。
――ランニング
準備運動を済ませだいたい2キロほど軽く流して走る、軽く汗をかくくらいがベストだ。
今本気で走る必要はないだろう。テニスに必要なのは瞬発力と持久力ではないだろうか。速く走れるにこしたことはないが、優先度はそれほど高くない。何より身体を起こす事が大事だ。
結衣も走ってた。超がんばれ。
――腕立て伏せ
手の位置を変えつつ50回ほどこなす。ここでも必要以上にやる事はない。腕に求められるのはしなやかさだ。
腕に負荷をかけた状態でラケットを握る事がトレーニングのポイントだろう。
八幡が地味に鍛えてるみたいで難なくこなしてた。戸塚君は少し辛そうだ。
――球出し
ユキがギリギリとれるかどうかの位置にボールを送り戸塚君が打ち返す。戸塚君の膝が笑いだしたのを見て柔軟をして今日は終了となった。
八幡が撮影した動画でユキのフォームと自分のフォームを家で確認してもらう。
「すごいね!短時間でもこれだけできるって始めてだよ!」
「雪ノ下だしな、さっき死ぬまで走るとか言ったけど、それじゃなくて良かったわ」
--翌日の昼休み。
さっと昼食を終えて、俺と八幡と戸塚君は校庭にあるテニスコートに向かう。ユキと結衣は、奉仕部でジャージに着替えてからテニスコートの申請を出して合流する予定だ。
昼休憩の時間はそれほど多くない事もあり。軽く試合形式で練習しようという運びになった。
戸塚君の相手はユキと俺が勤める。ユキは体力がないから、俺がユキの交代要員って訳だ。八幡はスマホで撮影役をやってもらう、これは戸塚君からのお願いもあったし、八幡も快諾した。
結衣はマネージャーとしてベンチに控えてもらった。
ポコーンポコーンとラケットの音が繰り返される最中、ユキがきわどい位置にスマッシュを打ち込んだ。それに戸塚君が素早く反応して打ち返しそうとする。彼は今までトレーニングはひとりでずっと続けていたのだろう、一朝一夕ではできない動きだった。
俺は戸塚君の一生懸命な姿勢を応援したい。自然とそう思える。
「うわっ!」
戸塚君の脚が言う事を聞かなかった様で派手に転倒してしまった。
それを見て結衣が駆け寄る。膝は擦りむいた様で出血していた。
それよりも、少し変な転び方をしてたから捻挫が危ぶまれる。
「さいちゃん、大丈夫?」
「イタタ…大丈夫だよ。ありがとう。由比ヶ浜さん」
戸塚君が立ち上がるが少し様子がおかしい。きっと足首を捻ったのだろう。少しだけ違和感のある歩き方をしている。
「雪ノ下さん。続きをお願い」
「……まだやるつもりなの?」
「うん、やりたいんだ。お願い、雪ノ下さん」
「わかったわ、でも先に応急処置をしましょう」
「戸塚、捻挫を甘く見るなよ?あれはクセになりやすいからな」
怪我をしても戸塚君の熱意は冷めなかった。それほど本気なのだ。
それがユキにも、八幡にも、もちろん結衣にもビシビシ伝わってるだろう。
結衣は優しく戸塚君を支えてベンチに座らせ、ユキは「保健室に行ってくるわ」と言って消毒液を取りに行った。
「ありがとう。みんな!」
「戸塚、テーピングするから――」
「あっれー! テニスやってんじゃーん! ねぇ~隼人ぉ~、あーしもテニスしたぁ~い」
偏差値低そうな声の方を見ると、制服であるブレザーに身を包んだ美少女と言って差し支えない金髪の女子が立っていた。たしか名前はみうら?だったか。くだらない話を大声でしてるので俺は良い印象は持っていない。
八幡のいうクラスカーストとやらの上位に君臨する女王様らしい。隣には例の葉山君が爽やかな顔をしている。
「そうだね、ちょっと遊んでいこうか。由美子」
遊び?
遊びだと?
こいつら俺らがジャージ着てんの見えてないのか? ただの遊びに見えるのか? 戸塚君が一生懸命に打ち込んでる邪魔をするのか? たしか葉山君はサッカー部だったよね…
「み、三浦さん。 ボク達…遊んでる訳じゃ――」
「あぁ?きこえないんですけどぉ~」
戸塚君が三浦さんに睨まれてしゅんとした。それを見兼ねた八幡が割って入る。
「こっちは部活でやってんだ。遊んでる様に見えるのかよ。それにな、こっちはちゃんと許可取ってんだ、部外者は入ってくんな」
「はぁ? あんたらテニス部じゃないっしょ?あんたらも部外者――」
「まぁまぁ、由美子落ち着いて。ヒキタニ君だったかな。どうだい?みんなでやった方が戸塚君の為になると思うんだ。どうかな?」
八幡が「ハッ」と鼻で嘲笑って続けようとするが、俺は我慢する事をやめた。
「おい、葉山隼人」
「柊君、何かな?」
「お前、戸塚君が一生懸命にやってるのわかってて言ってんだよな?」
俺が怒気を存分に込めて言うと葉山君はたじろいで答える。
「あ、あぁ。もちろんわかってるよ。ただ上手い人と練習した方がいいと思ってね、実際に由美子はテニス経験者だよ」
「そうか、ならサッカー部で同じ事しても笑ってられるって事でいいんだよな?」
「え?いや。なんで――」
「いいんだよな!?はっきり答えろ!!」
「…………」
葉山君は黙って俯いた。自分が何をしたのか考えてるのか、それとも理解したのか。もうどうでもいい。いまさら遅いし許さない。トップカーストかなんだか知らんが、他人が真剣に打ち込んでる場所に勝手に上がり込んでそれを奪うって行為がどれだけ残酷な事か教えてやろう。
「っちょ!ひーらぎ!あーしはただテニスしたいだけだし!隼人は関係ないっしょ!?」
俺は三浦を無視してベンチの戸塚の所へ向かい、八幡達3人に話す。
「戸塚君、大丈夫か?」
「う、うん…大丈夫。だよ。あの柊君。僕の事で怒ってくれるのは嬉しいけど。ちょっと怖い…かな」
「春仁。気持ちはわかるが落ち着いてくれ。たのむ」
戸塚君の足首を見ると少し腫れていた。捻挫だと見てわかる。
「この足じゃ昼の練習はできないな。放課後に足を使わないトレーニングをしよう」
「……ハル君」
俺は結衣にユキへの連絡をお願いして、戸塚君を負ぶって保健室へ向かう。保健室に着くとユキが待っていてくれて、膝の消毒と足首を固定させる為にテーピングを施術した。八幡によると、結局テニスコートは使われてなかったらしい。
俺達はユキに事の顛末を話した。
「そう…そんな事があったのね」
ユキの悲しそうな表情に結衣も黙ってしまう。八幡も顔が険しい。こいつも思うところがあるようだ。
戸塚君は「もういいよ、まだがんばれるから」と笑顔を見せる。
俺は今日の放課後に、意外な結末が訪れる事を知る由もなかった。