人生イージーモード   作:EXIT.com

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第15話

 どうしてこうなったのかしら。

 私はこめかみに指を当てて「はぁ…」とため息をはいてしまう。

 決して頭痛がしている訳ではないのだけれど。アタマは痛いわね。

 

『わたし、奉仕部に入りたいです』

『……それは許可出来ないわ』

『……分かりました。今日は出直します』

 

「雪ノ下せんぱいの紅茶すっごく美味しいです!」

「そ、そう。ならいいのだけれど」

 

 昨日、戸塚君の練習中に彼女に入部したいと言われて私は断った。はずなのだけれど、「こんにちはぁー」と甘ったるい声で自称可愛い後輩がやってきたわ。

 そう、一色いろはさん。

 

 昨日、一色さんは経緯はどうあれ、ハルに会いたくて奉仕部に来た。彼に会いたいなら、私ではなくハルに頼む方がずっと入部しやすい事は考えるまでもないはず。

 

 私は、何故あのタイミングで、何故私に行って来たのか、知りたくなった。

 

「一色さん」

「はい。雪ノ下せんぱい」

「昨日はごめんなさい。キチンと理由を聞かないまま断ってしまったわ。よければ…その、入部したい理由を教えて欲しいのだけれど」

「理由…ですか」

 

 私は「えぇ」と返す。適当な理由をでっち上げる事はとても簡単でしょう。でも彼女はそれをしない。いえできないでしょうね。

 でも私が考えていた事全てが杞憂だったわ。

 

「柊せんぱいの見てる景色が見たいです」

 

 私は納得できた。これ以上にない程に。

 

「一色いろはさん。ようこそ奉仕部へ、貴女を歓迎するわ」

「うぇ!?い、いいんですか?」

「さっきの一言で十分よ」

「あ、ありがとうございます!」

 

 一色さんが入部届を書いてる間に由比ヶ浜さん達が部室に入ってきた。今更だけれど、あの「やっはろー」というのは挨拶なのかしら?世の中には謎が多いのね。

 

 私は美味しい紅茶を振る舞う為に席を立った。

 

「いろはちゃん、入部したんだね」

「まぁ…よろしくな」

「やっぱ来たか、予想より早かったな」

「はい!よろしくお願いします!」

 

 奉仕部が大分賑やかになってきた。私は胸の高鳴りを抑えれない。

 始めは平塚先生の一言からだった。その後にハルが帰ってきて来て、比企谷君と由比ヶ浜さんが来て。

 今日、一色さんが来てくれた。

 私はドキドキしている。私は今まで友達という関係に縁がまったく無かった。

 始めてできた友達は突然いなくなってしまった。留学先でも別れが決定しているのだから、歩み寄ってくれる人達を遠ざけてしまった。別れは辛いから…悲しいのはもう嫌だった。

 

「ユキ…大丈夫か?」

「えっ…あ…」

 

 涙が出ていた。ぽたぽたと私のスカートに斑点ができていく。

 

「ゆきのん」

「由比ヶ浜さん…」

 

 優しく抱きしめられた。トクントクンと心臓の音が心地よい。

 

「よかったね。ゆきのん」

「ゆい…が…はま…さん…」

 

 頭を撫でてくれた。彼女の手のひらが温かい。頭を撫でられたのはいつぶりだろうか…

 私も彼女の背中に手を回して抱きしめる。嬉しいから。言葉にできない嬉しさを伝える様に強く抱き着いた。

 

 

◆  ◆  ◆  ◆  ◆

 

 

 ゆきのんが泣いてた。

 

 あたしはびっくりしてハル君の方を見る。そしたらヒッキーとハル君が頷いていろはちゃん連れて部室から出て行った。

 

 3人とも優しい顔してたな。

 

 ゆきのん。と声をかけて、だきしめて、頭なでてあげたらわかった。

 

 嬉しいんだよね?わかるよゆきのん。

 

 あたしもゆきのんがそう思ってくれて嬉しいな。だってさ。ずっと欲しかったんだよね?こーゆーの。あたしも欲しいって、ずっと思ってたんだ。

 あーヤバい、あたしも泣いちゃいそう。でも我慢だ。うん。

 ゆきのんが休んでる時ってさ。あたし知らない。

 だからね、あたしと二人の時は甘えてほしいな。

 

「由比ヶ浜さん、ありがとう…」

「ねぇ、ゆきのん。結衣って呼んで。」

「え、えぇっ…あの…その、ゆ…ゅぃ。」

「ちゃんと呼んで、ゆきのん。」

「ゆ、結衣さん。」

「ゆきのん。あたしは離れないから。ね?いつでも甘えていいんだよ?」

 

 ゆきのんが顔を真っ赤にして「ありがとう。結衣さん」と言ってくれた。

 あたしは嬉しくて嬉しくてつい胸に《ぎゅっっ!》てしちゃってちょっと睨まれちゃった。アハハ…

 胸が大きいのはあたしせいじゃない、あたしは悪くない。うん。

 

 ハル君に連絡して戻ってきてもらった。

 ゆきのんは「嬉しかったのよ」とみんなに説明していた。ハル君とヒッキーは『そうか』で済ませてたけど、いろはちゃんがすごい。

 なんかもう、ゆきのんにベタベタしてた。腕くんだりさ。抱き着いたりさ。

 ゆきのんも「近いわ…一色さん」とか言ってるけど振りほどかないしさ。

 

「いろはちゃん!ゆきのんはあたしの!!――あっ」

 

 またやっちゃった…超はずかしいぃ。

 部室内がシーンとした。あたしの声が反響して聞こえる。

 

「春仁、用事できたわ。帰る。」

 

 えっ?ヒッキー用事あったの?

 

「そうか、俺も用事できたから帰るわ。」

 

 ハル君まで!ていうか、できたって何!?

 

「あっ!柊せんぱい!わたしも柊せんぱいとの用事思い出しました!」

 

 いろはちゃんは顔でわかる。悪い顔してる。

 

「みんなそれうそじゃん!!」

「結衣さん…貴女はホントに…ハァ…」

「うわぁーん!まってよぉ!口が滑ったの!」

 

 さんざんみんなから揶揄われて、いつのまにかいろはちゃんからも結衣せんぱいって呼ばれてた。えへへ♪

 

 トントンと扉がノックされた。ゆきのんが「どうぞ」って言ったら扉がスライドして既視感のあるコートを着たキモい人が立ってた。

 

「柊殿はおられるか?」

「あぁ、いるよ材木座君」

 

 つい先日の事が思い出される。あの時のハル君は怖かった。またあの感じになるのかな。中二が分かってくれてたらいいんだけど。

 

「先日は申し訳ない。改めて感想を一緒に見てくれぬだろうか?」

 

 驚いた。ちゃんと中二が頭下げてる。

 あたしたちは中二が投稿した作品の感想欄を見る。そこには暴言や汚い言葉も沢山あったけど感想や批評も割とあった。中二は「ぬわあああああ!」とかうるさかったけどちゃんと受け止めてた。よかったね中二。

 

「材木座。パクりはだめだろパクりは」

「ぐっはぁぁぁ!」

 

「文法もおかしいじゃない、てにおはって知ってるのかしら?」

「んぐうううう!」

 

「ここで脱ぐ意味なくないですかぁ~?ぶっちゃけキモいです」

「ぐげええええ!」

 

「アハハ…みんな容赦ないね。でも中二すごいよね?難しい言葉沢山知ってるし!」

「…………はぽっ」

 

「結衣が息の根止めたぞ、でも材木座君」

「な…なんでござろうか……」

「ここの感想にもあるけどさ。熱意はちゃんと伝わってる。適当に綺麗な文字を書く人より、熱意あるぐちゃぐちゃな文字の方が俺は好きだな」

「柊殿……」

「小説家になるんだろ?熱意が伝わる事知ったんだから。もう大丈夫かな?」

「あぁ、大丈夫だ。評価も受け止めて見せよう。そして奉仕部の方々に感謝する。それと我儘だが…また読んではくれぬだろうか?」

「完結してるならいいよ」

「………はぽんっ」

 

 中二は満足そうに部室を後にした。中二ははっきり言ってキモいけどさ。あの一生懸命な姿勢と諦めない心はかっこいいと思う。ハル君もそう思ったから感想書いたんだよね?あたしわかってるよ。多分中二以外全員わかってる。ハル君ってさ。一生懸命なの好きだよね♪

 

 

◆  ◆  ◆  ◆  ◆

 

 

 材木座先生の襲来を退けた俺たちは気ままに過ごしていた。

 女子3人は姦しくおしゃべりやら楽しそうに話し、俺と八幡は振られた話に時折まざるくらいで基本読書をしていた。いつのまにか美少女3人はお互いを名前で呼ぶようになりユキの涙の理由が良き結果に終わった事に安堵する。彼女らはこの先たいていの事では離れないだろう。9年前に突然いなくなった俺は何も言えないが。

 

「ってか。いろは」

「はぁい。柊せんぱいっ!」

「きゃるんってするな気持ち悪い。お前サッカー部どうしたんだ?」

「春仁…ストレートだな…」

「気持ち悪いってなんですかぁ~!可愛いですぅ~!」

「ん"んっ!――いろは、可愛いよ」

 

「はぅ!うぅ。ふ、ふふ不意打ちはずるいですぅ~!――ハッ!柊せんぱいそうやって私の事可愛いって言ってもう彼氏気取りですか?すごくうれしいんですけど昨日の今日でいきなりすぎて心の準備まだできてないんでまだムリですごめんなさい!」

 

「ぽんこついろは」

「柊せんぱい!?」

「おぉ…春仁がフラれてる」

「八幡。お前ちゃんと聞いてないだろ?」

「アハハハ…いろはちゃんがすごい」

 

 聞けばサッカー部は辞めたそうだ。本人が決めたのだから口を挟む気はないが、目標がすり替わって努力の方向まで転換してしまわないだろうか。せっかく努力した事を無駄にしないでほしいものだ。

 

 

 ――1週間後。

 

 今日も今日とて奉仕部は騒がしい――主にいろはが。

 ふと俺と結衣にメールが届く。俺は無視しているが、結衣は眉をハの字にして悲しい顔をした。

 

「またきたよ…これで何通目かなぁ。こんなのヤダな」

 

 届いたメールは所謂チェーンメールだった。特定の個人を中傷する内容が匿名で書かれておりその悪質さにユキと俺が怒りを露わにする。俺たちにとって絶対に許容されるものではないのだ。

 

 今日は来客が多いようでまたしてみドアがノックされて、かの葉山隼人が入って来た。

 

 彼の奉仕部への依頼は今まさに起こっているチェーンメールをどうにかしてほしいという事だったのだが、問題はそこではなかった。中傷されていたのは彼のグループの男子3人の事だった。

 

 戸部は暴力的でカラーギャングの仲間。

 大和はラフプレーで相手に怪我させている。

 大岡は3股をかけるクズで女の敵。

 

 極めつけに言った葉山君の一言。

 

「犯人を捜したいんじゃない。丸く収めたいんだ」

 

 俺は周りに目で合図する『危なくなったら俺を止めてくれ』と。そして俺は葉山隼人へ言葉の槍を突きつける。

 

「依頼は受けない。自分でなんとかしろ」

「えっ…なんでだい?ここは相談に乗ってくれるんだろ?」

「お前が俺達にした事を忘れたとは言わせないし、お前のグループがどうなろうと知った事ではない」

「………すまなかった」

「今更謝罪なんぞいらん」

「そうね、葉山君。依頼はこの通り受けないわ。お帰りはあちらよ?」

 

 葉山君は肩を落として帰って行った。しかし結衣が嫌がってるのも事実。俺にもこのメールは来てるしウザい。

 だから俺たちは結衣の為に独自で解決策を講じる事になった。中傷をする動機はなんだろうか、それを探る為、明日俺と八幡が彼らを観察する事になった。結衣が言うには三浦さんともう一人のグループ女子も辟易している様だ。なにか情報があればいいのだが、あまり期待はしないでおこう。

 

 ――翌日。

 

 動機は判明した。来週にある職場見学会の班決めが3人1組な事が背景としてあり、葉山君を含めると4人になる。そこであぶれる1人になりたくないという事だった。小学生かよ。

 動機が分かった。犯人は意外にも中傷されてた3人に絞られた。

 

 放課後の奉仕部で結衣を除く4人で解決策を模索する。結衣は三浦さんと海老名さんというメガネ女子と一緒に買い物に行く様だ。結衣と三浦さんは一時期ギスギスしてたけど、戸塚君に三浦さんが謝罪に来た時に打ち解けて、以前よりさらに仲良くなっている。二人とも笑顔が眩しかった。

 

「春仁、ぶっちゃけ葉山があいつらに組まないって言うだけでチェーンメールはなくなるんだが、それじゃダメなのか?」

「ダメだ。」

「そうね。人の尊厳を踏みにじる輩は排除するべきだわ」

「わたしは噂なんか信じないんですけど、ほっとくってのは選択肢にないんですかぁ?」

 

 俺達には一切関係ないし、実害もない。でも結衣が嫌がってるって事だけで十分だ。

 一度味を占めたら、阿呆はそれを繰り返す。次は誰が標的になるかわからない。

 

「いろは、残念だけどそれは今のとこない。八幡の案が最終手段だな。でもこの3人の中で明らかに被害が少ない奴がいるな」

「大岡って奴か。俺は知らんな」

「八幡…クラスの奴くらい覚えてやれよ…」

「どういう事かしら?3股ってけっこうな風評被害だと思うのだれけど?」

「ユキせんぱい。男子からすると3股って一種のステータスですよ?3人の女性に好かれるってすごい事ですからね?」

「調べたらすぐわかる事なのにな、いっそのこと調査するか?」

「やだよ!めんどくせぇ」

 

 ですよねー。さすが八幡ぶれない。

 

「関係者に話を通してみるか」

「三浦か。それもアリかもな」

「結衣さんとも仲いいみたいだし、一度話をしておくのも悪くないわね」

 

 結衣はチェーンメールでクラスの空気が悪い事を嫌がってる。三浦さんはグループ意識が強いけど、この前の件で少し考えが変化したかもしれない。

 

「んじゃ。明日にでもF組の女王に話聞いてみる」

「三浦せんぱいは怒らせたらダメな人です。コワイです」

 

 チェーンメール問題解決はさらに明日に持ち越しになった。

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