人生イージーモード   作:EXIT.com

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第1話

 母の葬儀も滞りなく終わり。喪の49日も経過したある日の事。

 俺は叔母である真里さんと共に、叔父の家に呼ばれていた。居間に通され座るように言われたので座る。子供の俺に自由などなかった。

 

 しばらくすると大人の男女が数名入って来た。聞けば全員俺の親族にあたるらしい。

 真理さんしか記憶にないのだが--この人たちは本当の事を言ってるのだろうか。

 

「………こんにちは」

 

 何故自分が呼ばれたのか解らないが、誘拐はされないだろうし挨拶くらいしても問題ないだろう。知らない親族が「こんにちは」だったり「おっす」と返事を返してきた。

 定型文の様な『お悔みを申し上げます』の言葉に反吐がでそうだ。

 

 話し合いの内容は“俺を誰の養子にするか”だった。

 

 俺の事なのに俺は蚊帳の外。意味が解らなくて震える俺の手を「落ち着いて」と真里さんは隣で握っててくれた。真里さんが俺の母の遺言状を机に置き読み上げる。

 

「遺産は柊春仁へ。そして春仁の親権者は春仁が望む人になってほしい。と遺言がございます」

 

 場の空気が変わった。粘りつくような視線と、綺麗に飾られた哀れみの言葉で撫でまわして来る知らない大人達。

 俺の顔はきっと恐怖に震えて青くなっているのだろう。

「大丈夫?」という声さえ恐ろしく感じた。

 

 内容をかいつまんで聞くと、大人達が争ってる原因は俺の遺産にあった。

 真里さんによると俺の遺産は相続税を引いたとしても1億円はあるらしく、俺は未成年だから養子を組まないといけない。いや組みたい。と言うべきか。

 

 俺は呆れたが納得もできた。

 

 やはり人間は醜い生き物だ。自身の欲望の為に、親族であろうと蹴落とし我欲を満たそうとする。

 この大人達が一度でも母の病室に来た事があっただろうか?俺の記憶にない以上、それはありえない。流石に一度見たら印象は残る。

 

 さっきの言葉や表情も、俺のご機嫌を取るためだった、養子縁組をして俺を守ってくれるのではなく、俺の遺産が目当てだったのか…

 

「―――俺は、真理さんの所がいい……」

 

 ぽしょりと言うと場が静まり返った。しかし状況は良くはならなかった。

 真里さんに対してあからさまな攻撃が始まった。

 

『春仁を脅してるんだろ!』

『洗脳するなんてサイテーよ!』

『詐欺だ!俺は騙されないぞ!』

 

 人間としての品性を疑う様な言葉を吐く大人達。俺にはもう人には見えなかった。

 

『このアマァ!!』

『きゃぁあ!』

 

 真里さんが殴られた。俺を守ってくれる人が危険な目に遭っている。

 頭が真っ白になって身体が無意識に動いた。

 

「――おまえらは敵だ」

「春ちゃん!?」

 

 気が付いた時には真里さん以外いなくなっていた。床には血が飛び散った跡がある。

 きっと俺が暴れたのだろう。手の甲に鈍い痛みがある。

 

「春ちゃん…助けてくれてありがとう。でもね、暴力はダメだよ?」

「――…はい」

 

 真里さんの頬が赤く腫れていたが、彼女は微笑んでいた。

 暴力をまき散らす悪い癖。いい加減、どうにかしないとな…。

 

 

◆  ◆  ◆  ◆  ◆

 

 

 1年前に家族が増えた。俺の従兄弟で柊春仁って名前らしい。歳は同じみたいだが…弟か…だめだ。俺をお兄ちゃんと呼ぶのは小町だけでいい。

 

「春にぃ」

「にぃはやめろ八幡、俺とお前は同い年だぞ。」

「じゃあ俺にお兄ちゃんって言ってみろよ、気持ち悪いから」

「ねぇ…はちまんお兄ちゃん…」

 

 これはやばい。ぞわっって来たわ…寒気で風邪ひいちゃうまである。

 学校サボる時に使えるか?サボったら小町に怒られるからやめとこう。

 

「…………」

「こりゃやばいな、流石八幡、気持ち悪かったぞ」

「待て、感想ついでに俺を傷つけるのはやめろ」

「気持ち悪かった」

「春仁?主語がないと余計傷つくからね? まぁ過去形だしいいんだけど」

 

 春仁も来た時はアレだったが、俺とも小町とも本当の家族みたいに仲良くなった。

 こいつは頭もいいし、運動もできる。身体も鍛えてるみたいだ。

 しかもイケメンと来た。神様、俺にも何か下さい。

 一年前のあいつは、学校ではトップカーストに入る事間違いない。

  --と思ってたが実際には真逆だった。

 

 こいつは俺と同等のぼっちだった。ぼっちはぼっちでも俺とは別種のぼっちだ。

 俺は誰にも迷惑をかけないぼっち、いわばエリートだがあいつはなんか違う。

 話しかけられたら対処するし、普通に笑うけどなんつーか普通すぎる。

 ぼっちを気取ってるエセでもないし…ぶっちゃけ何考えてるかわからんかった。

 一緒にいるけどいない…そんな感じだ。

 

 母ちゃんから教えてもらった時は愕然とした…。なんだよ天涯孤独って…。

 まぁ今はそれも受け入れてちゃんと笑えてるみたいだし、俺も安心できた。

 俺の接し方も嬉しかったみたいだし、俺のエリートっぷりに感謝してほしい。

 

「それで、どうしたんだ八幡?」

 

 俺が舞い上がって“誰にでも優しい女の子”に勘違いして告白したが、それを別の女子グループにひどくイジられて、そのグループの一人が『あんたに告白されたなんてカワイソー』とか抜かした時に春仁が突然来てそいつの顔面殴ってボコボコにしたんだが。

 アレだ、春仁がめっちゃ怖かった。真顔で女殴るってやばくね?

『お前結構可愛いよな。お前の顔もカワイソーって言われる様にしてやるよ』って言った時は女子ども震えてたな。俺?俺はちびったわ。

 

「告白の件の報告だ。俺と折本にアイツの親が頭下げて来たわ」

「流石に本人はいないか」

「あれはムリだろ。ってかあんまやり過ぎんなよ?」

「善処する」

 

 春仁は顔真っ赤な教師に色々言われてたが『身体を傷つけるのには文句言うのに心を傷つけるのには文句言わない理由を言え』って啖呵切ってた時はほんとスカッ!としたわ。教師が答えに詰まったら『言えないのかよ話にならん』って切って落としてたな。

 二人で腹抱えたわ。こいつがいたから俺は救われた。そう思えてくる。

 

「なぁ春仁。もうすぐ卒業だが、たった一年間なのにホント色々な事があったよな」

「…そうだな」

「春仁が来てからの一年間は…なんつーか、濃い。三年分に凝縮されてるまである」

「大げさだぞ八幡、いてもいなくても一年は一年だ。世界はそんなに都合よくないぞ?」

「ばっか、マジメに返してんじゃねぇよ、恥ずかしいだろうが…」

 

 いつかちゃんと言いたい『ありがとう』って『お前に会えてよかった』って。

 でも春仁がここにいるのは家族を亡くした結果だ。俺はそれを喜んでるみたいで自分が嫌いになる。だからそれはまだ言えない。

 だから態度で伝えよう。こいつが俺のそばにいてこいつがしんどい思いするなら俺がぼっちにもどればいいだけだ。

 

 

◆  ◆  ◆  ◆  ◆

 

 

 総武高校入学式当日

 

 八幡が早めに家を出た。

 新しい制服は似合っていたな…いつもよりキマってた。俺も早く目覚めたが朝食と弁当作ってたら結局いつもの時間になってしまった。いつもの時間でも余裕で間に合う。

 八幡もソワソワしてたから高校生活は楽しみなんだろう。

 2人分の弁当を鞄に突っ込み、いざゆかん。

 

 八幡と同じ中学校だった事と真里さんからの勧めもあり、俺は八幡と同じ総武高校に入学となった。勉強の甲斐あり学年次席で合格。八幡と過ごす3年間は楽しみで仕方ない。ペダルに力が入る。グングンスピードが上がり、俺は気だるそうにペダルを漕ぐ八幡を視界にとらえた。

 

「…八幡、早く出たんじゃないのかよ…――っ!?」

 

 急に速度を上げた?俺に気づいてるとは思えない。俺が疑問符を浮かべていると八幡は自転車を蹴り、車道へ勢いよく飛び出した。

 

「八幡!!」

 

 キイィィィ!と甲高いブレーキと鈍い音が鳴り、八幡の体が投げ飛ばされ、道路を数メートル転がり停止した。俺は自殺行為ではないかと気が気でなかったが、八幡に駆け寄ると彼の腕の中にはミニチュアダックスフンドが抱えられていた。

 俺はその時に飛び出した理由を知る。

 黒い高級車から出て来た男性に依頼して救急車を手配してもらい、話は後日に真里さんとする運びとなった。

 雪ノ下建設と書いてある名刺からふと視線を上げると反対車線側の歩道にぺたりと座り込んでる少女を見つけた。

 おそらく犬の飼い主だろうと、俺は少女の元に言って話を聞く。

 

「うえぇぇん! ごべんだざい~!」

「はぁ…まいったなぁ。とりあえず落ち着いて、君、名前は?」

「ゆい…がはま…ゆい…です…」

「災難だったけど誰も亡くなってないから、ね? 少し落ち着いて」

「うん…ぐすっ…」

 

 事情を聴く。彼女が日課の散歩をしていると、ペットのサブレが走り出し首輪が壊れて車道に飛び出してしまったとの事。彼女も総武高校の新入生で、入学式にも参列するみたいだ。

 

「とりあえず、君は家に帰って家族にこの事伝えといて。ってか大丈夫?帰れる?」

「あ…はい。だいじょ…ぐすっ…ぶです」

 

 ミニチュアダックスフンドのサブレを抱きしめたパジャマ姿の少女はふらふらと帰って行った。

 大丈夫には見えないけど、今は八幡が最優先だ。

 

 俺は一路病院を目指す。

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