人生イージーモード   作:EXIT.com

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第21話

 材木座君が鬼気迫る様相で救援を求めてきた。

 今までであれば大仰な言い回して相手するのもウザかったのだが、今日は一味違う様だ。

 彼は端的に分かりやすく「助けてほしい」と言ったが、正直めんどくさい。時間も押している。

 八幡んとこで結衣のパーティーが控えているのだから、議論の余地はない。

 

「どうしたんだ?材木座」

 

 八幡がめんどくさそうに聞く。

 そういえば材木座君は女性との会話が不自由だったな。

 ちょいちょい設定だけだったりプロットだけの状態で持ってきてるから少しは慣れたと思っていたのだが、この3人はどうしても緊張してしまうらしい。

 

「カツアゲでもされたのか?」

「うわぁ、ド直球。んで材木座君。誰にいくら盗られたんだ?」

「違うわ!そもそもカツアゲ如き、備えがある我には隙はない!」

 

 備えあれば憂いなし。よく聞く言葉だ。

 カツアゲという犯罪行為にどの様に備えるのか少し興味が湧く。

 相手は多数、しかも実力行使を躊躇わない。ソースは俺。

 俺も昔は集団でリンチにあったりしてたが、リーダー格を見極めて徹底的に反撃した。そこで得た結論。

 

 暴力に備えなど無意味。これに至る。

 

 では、剣豪将軍の備えとやらを拝聴しよう。

 あぁもう。うんたらかんたら中二設定はいいから早よ言え。

 

彼奴(あやつ)らが欲しいのは金であろう!ならば我はそこに罠を巡らせる。つまり!その金を持ち歩かない事で、彼奴らに精神的な屈辱を負わせているのだぁ!!」

 

 ユキはため息を吐いた。それはもう深呼吸と聴き間違える程の露骨なため息。

 結衣は顔を痙攣らせている。

 携帯をポチポチいじっているいろは。どうやらガチで聞いてないご様子。

 

 俺と八幡はたっぷり10秒ほど硬直した。

 だるまさんがころんだ。後ろ向いてそのまま帰れ。

 ってかさ。お前もう足利将軍じゃなくてペルセウスで良くね?石化できるし。ゴーゴンの首獲る前に石になってそうだけど。

 不覚にも半裸の材木座君を想像してしまった。声付きで。

 うわぁ…変な汗が出てきた。

 いや待て。何故俺が精神攻撃を受けているのだろうか。

 

 剣豪将軍、恐るべし。

 

「いや、それ備えって言わねぇから。むしろ負けてるから」

「言うな!我に現実を突きつけるでない!」

「どうでもいいから。材木座君。用件は何だい?助けてって何を?」

 

 剣豪将軍の言葉を咀嚼して、紐解いて、結論づける。

 これが色々と厄介極まりない。なにいってるかわからん。

 何せまともに会話出来るのが八幡だけで、女子3人はお芝居の最中は露骨に遠ざかる。俺は結論が聞きたいので、背景やら状況やらはどうでもいいのだ。がんばれはちまん!

 

「つまり、自分の夢を否定されたから、一言物申したい。と」

 

 予想の遥か斜め下だった。斜面じゃなくて断崖の方。

 間違いなく全員が同じ事を考えたであろう。

 

『いや、一人で行けよ』と。

 

「その通りだ。ネットで非難されるのはもう良い。文句言いたいが会えんしな。しかし身近におるなら話は別だ!クソ生意気な鼻っ面をへし折ってくれるぅ!」

 

「そうか。頑張れよ。材木座。じゃあな」

 

 八幡がすごくめんどくさそうに単語をつらつらと言う。

 

「ちょ。待って待って。応援、応援だけでいいから! はっ!柊殿!どうか慈悲を!我をお助け下され!」

 

 ユキは深呼吸、いや、ため息を吐いて。こめかみに指を当てていた。

 お前は保健室行ってバファリン貰ってこい。50パーセントの優しさでもマシになるだろう。

 

 どうしたものかと腕を組む。文句言いたいのなら言えばいいし。

 そこに俺達がぞろぞろついて行くのもおかしい。

 

 

「いや、俺ら関係ないと思うんだが…」

「あー!もう!めんどくさいっ!ぱっと片づけて早く行きましょう!お腹すいてきましたし!文句言いたいだけですよね?何処ですか?」

 

 材木座君の案内で目的地に向かう。

 結局、彼のの泣き落としで文句を言うのを手伝う事になった。

 なんでこんな事を俺たちがしなければならないのか(いきどお)りを禁じ得ない。

 

「ここだ!」

 

 材木座君の案内で俺たちは2階に案内され、扉に遊戯部と書いてある部屋に着いた。

 ノックをすると応答があったので中に入る。

 

 ユキによると最近できた部活の様だ。そこがどんな部活なのかは説明を受けるまでもなかった。

 室内に積み上げられた様々なゲーム。トランプはもちろんの事、ベーゴマやおはじきなどの時代を感じる玩具もある。

 単純にゲームなどで遊ぶだけの部活ではない様だ。どれもどこかしら使った跡がある。

 

「誰もいないのかな?」

 

 結衣が不思議そうに言う。たしかに返事があったのに誰も出てこない。

 すると奥からメガネを掛けた男子生徒が現れた。

 

「あの、遊戯部に何か御用ですか?」

「あれ?剣豪さんじゃないですか?まだ何かあるんですか?」

 

 メガネが増えた。

 

「貴様ぁ!1年坊の分際で生意気な口叩きおって!」

「材木座。少し黙れ」

「んなっ!八幡!何を言うかぁ!こやつこそ我の敵であるぞぉ!」

「いや、俺の敵じゃねーし。文句言うんだろ?さっさと済ませろ。俺たちはこの後予定あんだよ」

 

 なにやら1年生がひそひそ話をしている。どうやら憧れのユキ先輩といろはが目の前にいてびっくりしている様だ。

 材木座君が文句言ってそれで終わり。帰ってからの行動をシミュレートしていると材木座君が口走った。

 

「モハハハ!そうであったな!待たせたな1年坊。この剣豪将軍、材木座義輝が礼儀ってもんをキッチリ教え――」

「不愉快だ」

「――てやるぅ! ぇ?」

 

 俺の一言で場の空気が変わった事がわかる。反省はしているが後悔はしていない。

 1年生の二人には悪い事をしているだろう。後日ちゃんと謝りに来よう。

 

ハ、ハル君…?

 

 しかし、はっきり言っておく必要がある。俺達は何故ここにいるのか。この男はいつになったら学習するのだろうか。

 この後予定があって時間がないと俺たちははっきり伝えている。ひょっとしてバカにしているのだろうか。

 俺達の時間を自由に使っていい権利でも持っているのだろうか。俺達に熱意が伝わってるんだからそれでいいじゃないか?何が不満なんだ?

 

おい春仁…落ち着けって

「あ、あああの。柊先輩。どどどどうかしたん――」

「材木座義輝」

 

 俺は明確な意志を持って、簡潔に、幼稚園児でもわかる様に言う。

 

「俺は、お前のそういう所が嫌いだ」

 

 

◆  ◆  ◆  ◆  ◆

 

 

 材木座はいい加減学習してほしい。一色も『めんどくさいからパッと終わらす』って言ってたよね?

 俺たちはここについて、20分程経過しているが、まだ肝心の話は切り出してない。

 時間も時間なので由比ヶ浜と雪ノ下は俺の家に先に行ってもらった。

 一色は自分が言ったのだから。と、一緒に残るみたいだ。春仁が心配なのだろう。

 

『…待ってるね。ヒッキー』

『ハルの事…お願いね。』

 

 本来であれば今頃は小町も含めた6人で由比ヶ浜の誕生日会が始まる頃だろうか。

 

「材木座君。俺たちはお前の何だ?」

 

 トーンが低い。前のチェーンメールの時よりもずっと低い。

 この声が春仁の素の声って事なのだろうか。

 あの時は怒りをまき散らしてたが、今は冷静に見える。

 一色は春仁の服をちょんとつまんでいる。こんな時にいちゃこらする気じゃないだろうな。

 

「…その…友達だと思って…ます。」

 

 材木座が俯いてしゅんとしている。自分が何やったか理解できたみたいだ。

 

あの…比企谷先輩。俺達どうしたらいいんですか?ぶっちゃけ怖いんで逃げたいんですけど…

あー…すまんな。材木座がお前らに用があるって言うから来てるんだ。悪いが少し待ってくれ。

出て行きたくても出口に柊先輩いるし…これは我慢しよう

 

 1年生の二人、相模と秦野だったか?こいつらも運が悪い。だいたい材木座のせいだけど。

 アレだろ。どうせ材木座の夢を現実的にみて叶いっこないって素直な感想言っただけだろ。

 投稿サイトの無意味な罵倒は良くて、こいつらのまっすぐな気持ちがダメなのはなんでだろうな。

 色々考えてるうちに春仁が材木座に論理的に詰め寄ってた。

 あれは俺でも無理だ。俺は遊戯部の2人と少し奥に引っ込んで、様子を見る事にした。

 

 ――お前と後輩二人の(いさか)いだろ?俺達がここに来た意味を教えてくれ。

 

 いやそれは…その…。

 

 ――そうだな。意味なんてない。それとも利用したかっただけか?

 

 なっ!そんなつもりはない!

 

 ――じゃあ聞くが。お前は友達に自分の都合を押し付けるのか?今日話す必要はあったのか?それに俺たちは予定があると言ったにも関わらず、また泣き落としだ。

 

 ……ごめんなさい

 

 ――謝罪はいらない。俺は説明して欲しい。

 

 春仁やばい。謝罪はいらない、説明を要求するって拷問じゃねぇか。

 

 ――また、だんまりか。いい加減に甘えた考えは捨てろ。お前の問題だろ?それとも「可哀そうだねー」とでも言ってほしかったのか?

 

 やばい。材木座がぷるぷる震えてる。泣いちゃうんじゃね?

 俺の肩をちょんちょんと相模がつついた。秦野も合わせて3人で向かい合う。

 

「柊先輩ってなんか先生みたいですね。なんか剣豪さん見てて微笑ましいです」

「だねー。柊先輩ってすごいですね。面と向かってあれだけの事をはっきり言えるってすごい事だと思います」

「…春仁はそういう奴なんだよ。おかげで色々めんどくさい」

 

 好きの反語は嫌いではない。無関心だ。

 材木座が春仁から怒られるのはこれが2度目になる。あの時はきっと無関心だったに違いない。

 

 しかし、春仁は『嫌い』と言った。

 

 嫌いってのは期待の裏返しだ。春仁は材木座の一生懸命な所に惹かれた。応援したいって思った。

 だから投稿サイトにわざとらしくコメントも入れてるし、ちゃんと見てる事を伝えてる。

 

「剣豪さんが少し羨ましいです」

「……そうだね」

 

 

◆  ◆  ◆  ◆  ◆

 

 

 柊せんぱいがヒートアップしない様に見張ってますが。逆にクールというかドライというか。

 そっち側になっちゃって手を繋げない。怖くて服をつまむのが限界だった。

 でも途中から空気というか雰囲気というか。なんか柔らかくなっている。

 あれだけキツい言葉でも温かさを感じる。それは彼の本心だからでしょう。

 柊せんぱいは、ただ分かってほしいだけなんですね。

 

『俺が分かってるから』って。『他人の言う事なんか気にするな』って。

 

 わたしも柊せんぱいの事見てますから。安心して下さいね。

 中二せんぱいが俯いて泣きそうになった。わたしは見計らった様に柊せんぱいの手をするっっと握って温もりを感じてもらう。

 

「柊せんぱい。もういいと思いますよ。きっと伝わってます」

「いろは…」

 

 優しく微笑んだ柊せんぱいはどこか悲しそう。

 

「材木座君。ちゃんと見てるから。話して来い」

「…柊殿。わかった。すぐ済ませる。時間を取らせて申し訳ない」

 

 そこからは早かった。メガネ二人と中二せんぱいがあーだこーだ言ってたけど、中二せんぱいの一言で穏やかな空気が流れた。

 

「柊殿が、我を見てくれてる。今はそれだけでいい」

「剣豪さん…俺達も言い過ぎました。すいません」

「いや。謝罪はよしてくれ。お主らは素直に言ってくれたのであろう?今ではそれを嬉しく思う。ありがとう」

 

 きゅっと手を握られた。私は手を放して腕に抱き着く。

 

「よかったですね。柊せんぱい」

「あぁ。ありがとう。いろは」

 

 そんな甘い声でわたしを呼ばないで下さい。またぽんこついろはって言われてしまう。

 あれ結構恥ずかしいから自粛したいので、柊せんぱいも協力してください。

 

「さ!帰りましょう!さよならで~す」

「相模君と秦野君だったかな?急に空気悪くしちゃってごめんね。機会があればまた寄らせてもらうよ」

 

 やっと終わった。結衣せんぱい達が向かってから1時間ほど経過している。わたしのケーキ残ってるかなぁ。

 残ってなかったらそれをダシにして、柊せんぱいにあちこち連れてってもらいましょう。

 てくてく歩きながら自分が用意したプレゼントを確認する。

 結衣せんぱいのイメージとは違うかもしれないけど、わたしが好きな香りがする香水だ。ほんのり香るふるーてぃーで、偏差値低そうな香り。

 

「柊せんぱいは何買ったんですか?」

「俺はアロマキャンドルを買ってあるぞ」

 

 ほぉー。なかなかおしゃれなチョイスですね。こんどわたしも買ってもらいましょう。

 

「なんだ?いろはも欲しいのか?たしか4月16日だったか。それまでお預けだな」

「あひぇ! ななななんで知ってるんですか!? まさかアレですか!わたしの事ちゃんと見てるってアピールですか? これ以上アピールされたら隠したいのに隠せてないぽんこつ度合いが柊せんぱいを通して尾ひれと背びれまでもれなくついて歪曲したあげく拡散されるので自重してください!ごめんなさい!」

「や、もう手遅れだから」

「そこは大丈夫だよって言ってください!

 

 むぅ~!こういう不意打ちはやめてほしいです。いつか仕返しをしたいので回数を数えておこう。

 

 

 比企谷せんぱいの宅に着いたわたしは予想通りだが想定外の歓迎をうけた。

 

「あ!来た来たぁ!いろはちゃ~ん♪」

「結衣せんぱい!くっ!苦しいです!」

 

 抱きしめられました。ぎゅっ!って。むにゅんって。

 あの、柊せんぱい。笑ってないで助けて下さい。




15名の方より評価を頂けてうれしく思います。
この場を借りてお礼申し上げます。

ありがとうございます。
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