人生イージーモード   作:EXIT.com

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第2話

 気が付くとベッドで寝ていた。俺はなんで寝てるんだろうか。今日はたしか総武の入学式で朝起きて…あぁ思い出したわ。車道に飛び出して、車にはねられて、今は病院か…

 ちょっと言ってみたかった。きっと俺の近くには誰もいない。

 

「知らない天井だ…」

「お前、それ言いたいだけだろ。バカハチ」

 

 誰もいないと思ってつい言ってしまった…まさか春仁がいるとは。くっそ恥ずかしい。黒い歴史がまた1ページ。破いて捨てたい。こんちくしょう。

 

「――春仁。…スマン」

「何も言うな。どうせ体が勝手に動いたんだろ?全治3週間だってよ」

「犬は――どうなった?」

「無傷だ。よかったな、バカハチ。身体張った甲斐あったぞ、あぁそれと、お前のクラスはF組で俺はE組だってよ」

「バカって言う奴がバカなんだぞ?知ってるかアホハル」

 

 春仁がここにいるって事は、こいつは入学式サボったのだろうか…心配かけたのは悪いと思うが、俺はぼっちでも大丈夫だから、そんなにやわじゃないから。

 

「高校でも俺がぼっちなのは変わらないみたいだ」

「そうだな。二人ぼっちだな」

「一人だよ!勝手に増やすんじゃねぇよ」

「いいじゃねぇか二人ぼっちでも。それになコレはどうにもならんぞ?お前がいくらぼっちだって言い張っても、それを決めるのは他人だからな」

 

 ぐぅっ…確かに正論だ。言い返せない。

 

「いや、お前は俺なんかと違って上手くやれるだろ?俺はその、アレだ上手くやるのがイヤなんだよ」

「やりたくてやってると思ってるならそれは違う、やるしかなかったからやってただけだ」

「…そうかよ。」

「おう、そうだ。あと八幡」

「なんだ?」

「“なんか”とか言うな。次言ったら本気でぶっ飛ばす。いいな?」

 

 ――やるしかなかった。か。そうだよな。こいつは乗り越えてんだよな。尊敬するわ。

 そんな春仁のいう事はちゃんと聞こう。決して、怖いからとか殴られたくないからではない。でもまたちびるのはいやだ。

 

「わかった、わかったから。俺を睨むのをやめろ。マジ怖いから」

「俺が本気って事が伝わって何よりだ」

 

 本気だったのかよ。この鬼いちゃん怖い。

 

「…小町、ハルにぃが怖いよ…助けて」

「ねぇはちまんおにいちゃん♪兄ぃはやめろって言ったよね♪」

 

 春仁さん。声のトーンおかしくないですか?

 

「怖い怖い!すまん春仁!キモいからやめてくれ!」

「そうだねはちまんおにいちゃん♪」

 

 うっわー。凄いいい笑顔だけどマジ怖いコレ。《キュポッ》って春仁さん?

 それなに?サインペン?それ臭いからしまってくれないか?

 《キュッキュッ》

 

「っちょっ!待て待て待て!何書いてんだよ!」

「ふふふ、俺から八幡へ送る賛辞だ、ありがたく受け取りたまえ!」

 

 俺の左足に巻かれたギプスに【たいへんよくできました】とでかでかと書きやがった。

 春仁からの賛辞の言葉。これは惨事の間違いではないだろうか?

 だったら春仁は鬼いちゃん。これもやはり違ってない。違うか?いや正しい。

 

「なんかほしいもんあったら言えよ?持ってくるから」

「じゃあ、読書したいから適当に持ってきてくれ」

「オーライ、またな」

 

 これがお見舞いイベントってやつか。ラノベで見た事あるけど鼻で笑ってたわ。

 いや…でも…アレだな。割と良いもんだな。

 

 

◆  ◆  ◆  ◆  ◆

 

 

 入院から3週間が経過した。

 

「歩けるか?」

「っく。歩けない事はないが、まだちょっとキツいな」

「もう少し入院しとくか?焦っても仕方ないし」

「それは願ったりなんだが…その、費用とかが気になってな」

「安心しろ、全額雪ノ下建設持ちになった」

 

 雪ノ下建設との話し合いに際して、俺は事実と客観的な証言をしている。

 これにより雪ノ下建設から、せめて費用くらいはと温情を頂いた。向こうも被害者といえば被害者なのにな。

 関係者と言えば、サブレの飼い主である由比ヶ浜結衣は参加していない。

 彼女とその家族が参加を拒否したのではなく、そもそも無関係なので呼んでいないだけだった。八幡が入院した要因ではあるけど八幡は自分の意志でやったんだし。いいだろう。

 

「マジか…何やったんだ?」

「何もしてねぇよ。一筆書いただけだ」

 

 内容はちょっと言えないけど。

 

「一筆ってお前…あぁそういえばこの前、小町が来た時に“お菓子の人”来たよーって言ってたな、意味わからんかったんだが、春仁は知ってるか?」

「きっと飼い主だな、俺もあまり気にしてない」

「そうだな、俺も気にしてない。礼とか謝罪とか正直困る」

「礼も謝罪も受け止めてやれ、本人が楽になりたいだけだとしても。だ」

 

 八幡は俯きながら答える。

 

「…善処する」

「んじゃ、今日は帰るわ」

「おう、いつもありがとな」

 

 由比ヶ浜結衣か、少なくとも自宅まで足を運んだペットの飼い主。

 謝罪か感謝かあるいは両方を伝えに来たのだろう。家の住所どうやって知ったんだろうか?同じ学校だし教師や親伝いで教えてもらったんだろう。

 帰ってから小町にどんな人か聞いてみるか。小町が何も言ってこないって事はそういう事なんだろうが…。

 

「ただいま小町」

「おかえり、ハル兄ぃ。ご飯もうすぐできるよー」

「あいよ、ありがとな。」

「小町、前に来た“お菓子の人”の事なんだが、どんな人だった?」

「あぁ~、あの女の人ね。たしか総武高校の制服着てたよ。なんかいきなりすみませんでした!って言って帰っちゃったし、小町はあーゆー人あんまり好きじゃないや」

「なるほどな、面会謝絶状態だから自宅まで来たと」

「ふぇ?そうなの?小町そんなの聞いてないよ?」

「ああ、言ってないぞ」

 

 不必要な情報の拡散をして良かった試しがない、せっかくの雪ノ下家のご厚意に水を差すのもよろしくない。俺と真里さんはそう判断して、情報公開を必要最小限に留めた。

 

「そっかぁ、まぁいいや。お兄ちゃんもそろそろ退院できるんでしょ?」

 

 小町がブラザーコンプレックスな事はうすうす感づいているが、八幡がいない今がチャンス。俺はポケットのスマホで録音を開始する。

 

「あの調子なら後一週間ってとこじゃないか?よかったな小町。八幡が戻ってくるぞ」

「っべ!別にお兄ちゃんを待ってなんかないんだから!」

「ツンデレ小町いただきました」

 

 胸ポケットに忍ばせたスマホを取り出し画面をタップ。

 そこからはシスコンの八幡が聞けば昇天してしまうのではないかと思われる音声が出た。

 

『――っべ!別にお兄ちゃんを待ってなんかないんだから!』

 

「きゃぁああぁぁ! ハルにぃ! 消して!お願い!お願いぃい!」

 

 小町よ、そんな声出すのか…八幡の事好きすぎだろ…。

 

「小町、八幡が好きなら“好き”って言った方がいいぞ?」

「ぁあうぅ、なんでわかるのぉ?」

「小町、俺の事好きか?」

「はるにぃ?うん、好きだよ」

「じゃあ小町、八幡の事好きか?」

「おにいちゃん?…あぅぅ…好き…だょ」

 

 耳まで真っ赤にして俯く小町。本気な相手に軽々しく“好き”とか言える歳ではない。春仁もそこは解っている。だからこそイタズラは楽しい様だ。

 小町も鬼いちゃんに隙を見せてしまった事を後悔する。

 

『おにいちゃん?…あぅぅ…好き…だょ』

 

「―――――アハ、アハハハハ♪――はるにぃ~。それ消すよねェ?ケスヨネ?消して?早くハヤクケシテ?」

「冗談だよ、ほれ。消したから。な?ちゃんと確認しろ」

 

 小町はツンデレだけでなくヤンデレの素養もありそうだな。からかうのはほどほどにしよう。

 

「「ごちそうさまでした。」」

 

 小町はデータ消去してもらえた事で気が抜け、ソファーにふにゃりとしている。

 

「小町、寝るなら部屋に行けよ?」

「ん~」

 

『――っべ!別に!――』

 

 小町がガバッ!と反応したのを横目に自室に戻る。

 この場に八幡がいたとしたらと思うと悪い顔になってしまう。小町サイドで俺と戦うのか?俺サイドで小町を見て悶えるのか?あるいは第三勢力としてやりとりを眺めるのか?どうなるかはやってみないと解らない。

 しかしどの選択肢を選んだとしても、最終的に割りを食うのは八幡自身だろう。

 

 

◆  ◆  ◆  ◆  ◆

 

 

 翌日。お菓子の人に声を掛けた。

 

「由比ヶ浜結衣さん。であってるかな?」

「あ、はい、あたしです」

 

 んんん?この反応はなんだ?あの時の事忘れたのか?それならちょっとひどくね?

 

「あの、何の用…ですか?」

 

 様子がおかしい、何かに怯えている様に見える。もしかしたら…

 

「サブレ。大丈夫でよかったね」

「あ…あぁ~!あの時の男の人!」

「やっぱり忘れてたか……」

「アハハ…ごめんなさいぃ…」

 

 あー…ちょっとわかったかもな。俺に告白されるって思っちゃった感じかね?

 男に声かけられるイコール告白という結論を出すのはいささか早合点が過ぎるがムリもない。

 少し茶が入った手入れが行き届いた黒髪、くりっとした瞳。控え目に言ってめっちゃ可愛い。制服のブレザーの上からでもはっきりわかる女性らしいプロポーション。視線を制御するのに苦労する。

 

「まぁ、それはいいとして」

「用件って、ヒッキーの事?」

「…えっ――と。ヒッキーって誰?」

「あわわわわ!ごめんなさい!比企谷だからヒッキーって呼びたいな…って」

「あぁ…なるほど。うん、わかった」

 

 会ってもないのにあだ名呼びとは…男に近づかれるのは嫌だけど近づくのはいいのか。

 やはり女心はわからん。でも本人も言いたい事あるだろうし連れてってやろう。

 

「由比ヶ浜さん。八幡のお見舞いに行かないか?」

「――――えっ?」

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