お待たせしたならすいません。布団に勝てない私をお許し下さい。
修学旅行の日程と時系列を修正しました。
ちゅんちゅんちちちと鳥の声が聴こえる。一色家に泊った時は必ずと言っていいほど、この鳴き声で目覚める。
――朝か…。
しかし瞼ごしに光を感じない。きっと夏が終わったせいだろう。
寝る場所が変わったとしても体内時計は狂わないみたいで、俺の身体は活動を開始している。もぞもぞと身をよじると「ん~」と。甘ったるい声が耳元で聞こえた。仄かに香る柑橘系の香りと柔らかい感触。耳をすませば、とくとくと安らぐ音が聴こえてくる。
俺はいろはに抱きしめられていた。しかも、俺の頭は彼女の谷間に埋まっている。
昨夜寝るときは俺が彼女を抱きしめて寝たはずなのだが、朝になったら逆になっている。背中に回してる腕に少し力を入れて俺も抱きしめた。
――満たされる。
何が。と言われると困ってしまう。コレに名前をつけるのは俺にはまだ早い気がするのだ。いろはと出会う前の俺であればいとも簡単に名前を付けていただろう。しかし今はそれができないでいる。これは成長なのだろうか…。
「はる…ひとぉ…」
「……」
一気に顔が熱くなった。悶えてごろごろしそうになるが、ぐっと堪える。いろはを起こしたくない。
ゆっくりと身体を下げて拘束から抜け出す。いろはの肌は磨いてる成果もありすべすべしていた。
元の位置まで戻ると彼女の腕が何かを探しているかのようにふわふわしている。
彼女の寝顔も、どこか悲しそうだ。
「…どこぉ…」
「……」
俺の彼女が可愛すぎて辛い。
腕を頭の上から枕の間に滑り込ませる。虚空を漂っていた腕は俺の背中を探し当ててきゅっと身体ごとすり寄って来た。
ほにゃりと緩んだ顔をじっと見る。
「いろは…」
「うんぅ…おはよう…」
くあぁとあくびをするいろは。なんだか猫っぽくてつい髪をよしよしと撫でてしまう。朝の挨拶を言葉と唇で交わして、ふと窓の方を見る。
カーテンの隙間から漏れる光はまだうっすらとしていた。つまり早朝だ。いつもならジョギングをしている時間だけど、いろはといる時は走らない事にしている。
寝てる間でも俺を探しているのだろう。前に俺が勝手起きてに走った後に戻ったら、いろはが泣いていたのだ。『怖かった。いなくなったのかと思った』と零された時は胸が苦しかった。
すりすりと頬を当ててくるいろは。亜麻色の髪が鼻にかかってくすぐったい。
「やんっ…」
彼女の背中をつつーっと指でなぞる。色っぽい声が漏れだして、頬が赤く染まる。
そんな彼女を見て、俺が我慢できる訳もなく…。
「あんっ…昨日あれだけシたのに…んっ…やんちゃなひと…ですね」
――朝っぱらから致した俺はきっと間違ってない。と思う。
二度寝から目覚めた俺達は、もう一度朝の挨拶を交わして身体を起こす。俺もいろはも一部を除いて気分の良い目覚めだった。
「腰が痛いですね…」
何も言えない。だって俺のせいだし。いや、俺も痛いけどさ。
ふわぁ~と抜けた声を出してぐっと伸びをするいろは。
お前、下着すらつけてないの忘れてるだろ。もしかしてわかってやってるのだろうか。なら悪魔と言って差し支えない。
「はるひとのえっち!」
いろはがハッとした顔で言う。…どうやら悪魔ではなかったみたいだ。
顔を赤くしてうーうーと唸ってる。自業自得だと思うのだが…。
それでも彼女に逆らう事は得策ではない。
「ひとつ、言う事を聞いて下さい」
愛する彼女の為だ。出来る事はやってやろう。
しかし、いろはの次の言葉で俺は深く後悔する事になる。
「今度。わたしの下着を選んで下さい」
「は?」
俺にある意味で極刑になり得る判決が下された。弁解の余地はない。
いや、そもそも冤罪なのだが…。
裁判ごっこはさておき、汗を流して劣情をリセットしよう。支度を終えた頃にはいろはママである桃花さんが朝食を用意してくれていた。
ひとりで生きていく事を基準としている俺にとって、だれかと一緒にいる事は素晴らしい事だ。心からそう思う。
隣のいろはとキッチンにいる桃花さんに感謝をしつつ朝食を頂いた。
昨日と同じ様に記録雑務の仕事を引き受け、学校内を巡回する。流石に外部の人が多い中、黒いTシャツの生徒が人員整理だったり場所の誘導だったりと、臨機応変に対応していた。
途中、小町からのタックルをモロに喰らったり、ユキといろはから両腕を拘束されて周囲からの視線に突き刺されたりとラブコメなトラブルはあったものの、他に目立った問題もなく、文化祭の幕が下りた。
中でもはるのちゃんのオーケストラは凄かった。それを俺の隣でじっと睨む様に見ていたユキはどんな気持ちだったのだろうか。時折掴まれている腕にぐっと力が入ったのを覚えている。
天才の姉の背中を追う、秀才の妹。傍目には美しく見えるのかもしれないが、俺にはそうは見えなかった。
『なにもしないで』
あの言葉の裏にはどんな気持ちが隠れているのだろう。しかし、俺がわかったとしても何もできない。
――いや、しない方がいい。
はるのちゃんがユキに嫌われようとしている事はわかった。彼女にはちゃんとした目的があるのだろう。それを邪魔するのは駄目な気がするんだ。
はるのちゃんとは少しだけ目があったけど、妖しい微笑みを見せてそのまま帰って行った。
エンディングセレモニーの挨拶もしっかりできた。実行委員にキチンとお礼も言えた。文句のつけようもない成功だと先生も言ってくれている。
――しかし、本当にこれで良かったのだろうか。
今回は成功した。しかしそれだけだ。失敗した上での成功と、ただ成功と。価値があるのはどちらだろうか。
言うまでもなく前者だ。いろはもユキも相模も、困難に立ち向かい、失敗した上で改善して、最後には成功させている。
果たして、俺はちゃんと失敗できていたのだろうか…。
あれから数日が経過し、日常らしい日常を送っている俺は、奉仕部での日常がひどく懐かしく感じている。たった1ヶ月ほど来ないだけでこんな気持ちになるとは思わなかった。
やはり、自分が思ってるより此処は大事な場所なのだと再認識する。
衣替えも済みあと2ヶ月もすれば1年の節目となるこの時期、2年生には修学旅行という行事がある。3泊4日の京都観光だ。歴史的な文化遺産も数多くある。個人的には豊臣秀吉と彼の妻であるねねを奉ってる高台寺が気になる。実際に見てみたい。
歴史的な場所と言えば広島県の江田島にある参考館には、一度ひとりで行ってみたいと思っている。ちなみに元海軍墓地だ。館内には第二次世界大戦の遺品、遺書が納められている。つまり神聖な場所だ。
京都特集をぺらぺらめくってめぼしい場所に折り目をつけていくユキとそれを見てきゃんきゃんと燥ぐ結衣。八幡も学問としての好奇心は高く、どこか浮ついて見える。
「わたしだけでお留守番ですかー。寂しいです…。でも!お土産期待してますねっ!」
「ふふっ。いろはさん。奉仕部をお願いね」
しゅんとするいろはにユキが返す。3日目の自由行動の時は4人で観光地を巡る事になっている。結衣と八幡もユキが来るのが当然と言わんばかりに行く先を決めていく。
「ゆきのんとハル君はどこに行きたいの?」
「俺は高台寺に行きたいな」
「高台寺か…ねねが秀吉の為に建てた寺だな」
「え?大阪まで行くの?」
「結衣さん?私達は京都に行くのだけれど…」
どうやら秀吉と大阪城を結び付けたようだ。ユキがこめかみに指を当てて呆れている。
「4人で回るのだし、私は適当でいいわ」
しっかりドッグイヤーがついた特集を閉じながら微笑むユキ。間違いない、この子が一番修旅を楽しみにしている。
秋の風情を4人で楽しめればそれでいい。どこに行くかが重要ではない、誰と行くかが重要なのだ。
「わたしも、いつか連れて行って下さいね」
返事をしない変わりに髪を撫でた。彼女は目を細めて気持ちよさそうにしている。
俺達は京都へ行くが、正直京都くらいならいつでも行ける。2人で行くならお互いが知らない場所に行きたいものだ。
ユキがいつの間にか、いろはの隣に移動して同じ様に髪を撫でていた。うちのお姫様はユキに抱き着いてすりすりと甘えている。
「いろはさん…暑いのだけれど」
ユキ、それは「もっとして」と言ってるのと変わらないのだが、学習してないのか、それとも確信犯なのか…。
あ、顔が真っ赤になった。学習してないだけか。
ユキが口だけの抵抗をしていると、部室のドアがトントンとノックされる。
「…どうぞ」
奉仕部を訪れたのは隼人と戸部君、大岡君に大和君のいつもの4人だった。戸部君の落ち着かない様子から、悩み事があるのは彼だと一目瞭然。隼人は付き添いで後の2人はヒマなのだろう、戸部君を揶揄っていた。
「…ほら戸部」
「言っちゃえよ」
「ほらほら」
なんだろうか、見てて煩わしい。隼人はまだわかるが、あとの二人は何をしに来たんだろうか。
「用件はなに?」
ユキが冷たい声で言う。隼人が嫌いなのは確かなのだろうが、大和と大岡の茶々入れに嫌気がさしたのだろう。確かにこれは見てて気分の良いものではない。普段から同じグループに属している結衣ですら、冷ややか目線を投げつけている。
「隼人。用件があるのは誰だ?」
「…戸部だよ」
うっとおしい位の前置きを経て依頼が告げられた。
「俺さ…海老名さんに告白して、イイ感じになりたいっつーか…でも告白してフラれたくないっつーか。そんな感じでオナシャス!」
「戸部せんぱいが何言ってるのかちょっとわからないですねー」
いろは、言ってやるな。俺達全員そう思ってるから。
「頼むよ!奉仕部の人達てさぁ、恋愛経験豊富そうじゃん?オナシャス!」
女性陣は言わずもがな、告白された回数は全員で3桁に乗るのではないだろうか。そういう俺も人の事は言えない。
しかし5人とも全員が告白した事があるのは事実だ。経験豊富と言えば豊富だが、それが何の参考になると言うのだろう。
「戸部っちの事は応援してあげたいけど…」
「…俺は関わりたくないんだが……」
結衣とその彼氏が言う。
「お断りよ」
「わたしそもそも学年違いますし…」
姉妹みたいにじゃれあってるふたりもはっきりと拒否した。
「柊君!なんとか!オナシャス!」
「……」
自分の想いを告げる。それは凄いエネルギーが必要だ。緊張もするし、もしフラれたらと考えてしまう。誰かを頼りたくなるのも理解できる。
――しかし、ひとりでやらなければその気持ちは嘘になるのだ。
…戸部君はどう考えているのだろうか。本気だったらここには相談には来ない。隼人だけで完結している事だ。
「奉仕部としては、その依頼は受けない。でも個人的にであれば、見守ることくらいはやってやろう」
「柊君…ありがと! 俺さ、がんばるからさ! ちゃんと見ててくれよな!」
なるほど理解できた。戸部君が望んでいるのは逃げ道をなくしてほしいという事だ。背水の陣というやつだろう。鶴翼の陣かと思ったが、それは見当違いだったようだ。
「…そういう事ね。なら私も個人的に応援する事にしましょう」
「ゆきのん…あたしも応援する!」
「逃げ道を無くすだけなら…まぁ。いいんじゃねぇの?」
これで戸部君の逃げ道はなくなったと言っていいだろう。
しかし腑に落ちない事がある。ここに依頼に来たという事は、彼ら3人では戸部君の背水の陣は完成しなかったという事だ。
――隼人に話を聴く必要がある。
俺は、お手洗いに行くと告げ、密かに隼人を屋上へ呼び出した。
春仁から呼び出しを受けた。言うまでもない、さっきの事だ。
屋上へ向かうと春仁がぼーっと空を眺めていた。
「すまない。待たせた」
「気にするな。それで呼び出した件なんだが」
「戸部の事。だろ?」
「いや、隼人。お前の事だ」
――さすが春仁。勘が鋭い。
「お前だけが少し苦い顔をしていたんでな。あと、隠してる事があるだろ」
「…わかった。話そう。でも、他の人には黙っててほしい。他言無用だ」
彼は嘘をつく人間じゃない。千葉村でも俺を支えてくれた数少ない『友達』と呼べる人。
彼も、俺の事をそう認識してくれているだろう。だったら、俺がする事はひとつだけだ。
「姫菜からも相談を受けててね。…内容は戸部からの告白を未然に防いでほしいって事なんだ…」
「……板挟みか…」
「戸部はもう決心してしまった。姫菜には悪いが、もう戸部を止める事はできない」
「……」
俺はみんなで仲良くできればそれでいいと思っている。揉め事があったとしても話し合って、仲直りすればいいじゃないか。
ずっとそうやって来たし、それが間違ってるとは思わない。
「隼人。戸部君を止めたかったのか?」
「戸部の事は応援したい。むしろ俺に止める権利なんかないさ。でも、姫菜がそう望んでるんだ。今の関係を壊したくないってさ」
こんな事で壊れるほど薄い関係って事は俺も分かってる。でも、姫菜の気持ちもわかるんだ。
春仁は俺の言葉を受けて真剣に考えてくれている。
「そのふたつを両立させるのは不可能だな」
「…春仁。俺はどうすればよかったんだ?お前だったらどうした?」
「簡単だ。海老名さんに受け止めさせて、戸部君にちゃんと失恋させてやればいい」
彼はそのまま続ける。
「普通は個が集まって群になる。群に人が属してる訳じゃないんだよ。お前たちのグループは後者だ。これはわかるか?」
「それはわかるけど、社会ってのはそういうものじゃないのか?」
「じゃあ聞くが、お前のグループはお前に属してなんの対価を得てるんだ?」
――対価。と聴いてピンときた。
部活動や企業をモデルとして考えていた俺は、個と個の関わり方を勘違いしていたかもしれない。
俺が部長をやっているサッカー部は、部活という群に属する事で体力や技術の向上という対価を得れる。
俺のグループに属する事で得れる対価…。
――なにもない。一緒にいれる、それだけだ。そんなモノは対価ではない。
「俺は根本が間違っていたみたいだ。ありがとう春仁」
「戸部をしっかりと見ててやれ、他でもない隼人を真っ先に頼ったんだろ?」
ああ、そうだ。ほかの人には目もくれず。彼は俺に本気の気持ちを語って来た。
「姫菜の事は…そうだな優美子にお願いしてみようかな」
「三浦さんに言うタイミング間違えるなよ?あの人オカンだから、ミスると戸部の告白どころじゃなくなるぞ」
「ははっ。違いない」
姫菜は優美子には話してないだろう。俺達はあくまで4人+3人のグループであって7人のグループではない。
公開はしてないが比企谷君と結衣がカップルになった事もあって優美子と結衣が一緒にいる時間も前よりも減って来ている。
ここで優美子に相談するときっと彼女を苦しめる。姫菜はそう考えたのだ。
姫菜なりの優しさなのだろうけど、はたしてどうだろうか…。
春仁にお礼を言って別れた後はいつも通り優美子と何でもないようなことを話していた。戸部達3人は既に帰ったみたいで、姫菜もここにはいないが彼女の鞄はまだあった。
「隼人。なんかあった?顔が暗いし」
「ああ、ちょっとね」
まだ、ここで言うべきではない。せめてここを出てから言うべきだろう。
言葉に詰まっていると教室に姫菜が戻って来た。優美子が下校を促して3人で教室を出る。
ほどなくして姫菜と別れ、優美子とふたりになった俺は彼女に相談を持ち掛ける。
「相談があるんだ。聞いてくれないか?」
「隼人…わかったし」
適当な喫茶店に入り、席に座って注文を済ます。ホットコーヒーの香りで心を落ち着かせて優美子を勘違いさせない様に細心の注意を払う。
「それで、相談ってなんだし」
「落ち着いて聴いてくれ」
姫菜の相談と戸部の相談が相反する事。奉仕部へ戸部が相談に行っている事を話した。
優美子は最初は憤っていたが、姫菜の想いを代弁すると理解してくれたみたいで、今は落ち着いている。
「…優美子はどう思う?」
「あーしは…ヒナとはちゃんと友達だって思ってる…あーしに相談してくれなかった事が悲しい…かな。 でもね。あーしはヒナの考えがおかしいと思う。ユイみたいにばっさり振ってやる事が正しいと思うし」
「姫菜にとって今のグループは薄っぺらいんだ…。告白した、されたで、簡単に崩れると思ってる。俺はそこを何とかしたい」
「隼人…あーしもそう思う」
「春仁がね…俺に言ったんだ。個が集まって群になるけど俺達は群に属してる個だって…。 俺はそれに言い返せなかったよ」
優美子は俯いて黙ってしまった。彼女も思うところがあるのだろう。
三浦優美子その名の通り、凄く優しい可憐な女の子だ。面倒見もいい。姫菜が彼女から離れてしまったら優美子は悲しむだろう。
――だったら離さなければいいのだ。
「優美子。強力してくれるか?」
彼女は小さく頷いてくれが、顔は少し暗かった。
喫茶店を出てその場で別れた
俺は、ひとりで考える。
数時間前までは修学旅行の行先で盛り上がっていた。しかし、今はどうだろうか。少なくとも優美子は楽しい気持ちではない。
――何に責任があると言うのだろう。
良くない事が起こる時、それには原因がある。火のない所に煙は立たない。
今回の火は何だろうか。
戸部が姫菜の事を好きになったからか?
――それは絶対に違う。
姫菜が現状維持を願ったからか?
――それも違う。
俺が応援したり相談に乗った事か?
――違う…と思いたい。もしそうなら…世の中はなんて生きにくいのだろう。
誰にも責任がないのに、良くない事が起こる。誰かのせいにできれば楽なんだろうな…。
でも、それは逃げてるだけだ。
思考の沼から抜け出せないている。ふと電話がかかってきた。誰からかかってきたのか確認しないで電話に出る。
「…もしもし」
『隼人。俺だ』
春仁からだった。新手のオレオレ詐欺か?と言ってやろうとも思ったが、声色がそれを許さなかった。
「優美子に話したよ」
『…そうか』
「なぁ、春仁。俺が悪いんだろうか…俺が間違っていたからこんな事になってしまったのだろうか」
『隼人。それは違う。お前が正しくても戸部君は海老名さんの事を好きになっているだろう。少し頭を冷やした方がいい、現地でも相談に乗るから、今日はとりあえず頭を休めてろ』
「わかった。それじゃあ…」
お前は俺が悪くないと言ってくれるが、それを証明しろと言うのは所謂悪魔の証明ってやつだろう。
友達のいう事は素直に聞いておこうと思い、俺は沼から抜け出した。
自宅に帰ったその数分後に俺の友達からメールが届いた。
『責任を追及しないといけなくなったら、俺がそれを背負ってやるよ。全部俺のせいにしてしまえばいい』
視界が曇る。零れた雫はスマホの画面に落ちた。
俺は袖を濡らして前を向く。
「そんな事には、俺がさせない。残念だったな春仁」
3泊4日の京都へ行く修学旅行で学ぶのは歴史だけではない。もっと大切な何かを学ぶのだ。
こうして、俺の夜は更けていく。