『あの!貴方の事が好きです!私と付き合って下さい!』
『ごめん。君の事知らないからさ。君とは付き合えない』
『…っでも!これから知って行けばいいと思いませんか!?』
『ごめんなさい。俺を好きになってくれたくれた事は嬉しい。でも君とは付き合えない』
屋上での青春の1ページ。少女が少年に想いを告げる。しかし、それは少年には届かない。少女の勇気は称賛に値するが、それに応える義務は少年にはない。せめて心を折る事が少年の優しさなのだ。
「はぁ~…」
「ハル君どうしたの?」
時刻は昼休み、教室に戻って来れた俺は弁当を広げる。
「いやぁ、なんつーか心が痛い」
「あー…アハハ…また“アレ”来たんだね」
自分で言うのもアレだが俺はイケメンらしい。
成績は学年次席、運動神経も良いとくれば思春期の女子が気にならないワケがなかったようで。2日に1回は屋上に足を運んでいる。
言い寄られては突き放し。呼び出されては一刀の元に切り伏せる。
フラれた方は気持ちを切り替えて新しい恋を始めれる。
しかし、断る方はそうもいかない。
適当に言えば、悪い噂を流される。やんわり言えば、相手を期待させてしまい、自身に危害が及ぶ可能性もある。
彼女を作ってしまえば良いのだが…
「はぁ~…マジめんどくせぇ…」
「もうすぐ文化祭だからね~」
「あぁ、そういえばそうか。この時期に告りに来るのはそれが目的か」
学校行事で《私の彼氏》を見せびらかしたいのだろう。少女達は周りから羨望の眼差しを向けられ、本人は主演女優気分でスポットライトを浴びた気分に浸れるのだ。
しかし、少女たちが主演の“恋する乙女の物語”には本人しか登場しない。
そして、恋する自分自身に焦がれて、その身もろとも焼き尽くす悲劇になるだろう。
「まぁ、俺を装飾品としか思ってないってのはなんとなく解ってた」
「ハル君も大変だね~」
「いやいや、結衣にだけは言われたくないな」
結衣も例にもれず告白ラッシュの被害に遭っていた。その手段も様々で――
『由比ヶ浜結衣さん。俺と付き合ってください』
『えっと…誰?』
直球だったり――
『結衣ちゃん。君をもっと知り『名前で呼ばないで』…ごめん』
変化球だったり――
『由比ヶ浜さん、俺と友達になってくれないかな?』
『ん~…なんで?』
からめ手まであった。
「アハハハ…はぁ~――あ!ため息うつっちゃった!ハル君のせいで幸せが逃げる!」
「断じて俺のせいではないっ!」
「うっす、春仁。お、由比ヶ浜もいたのか」
「「やっはろーヒッキー!」」
「…何その挨拶?流行ってんの? アホっぽいからやめてくんない? っていうか春仁キモいぞ」
「やっはろー。 はちまんおにいちゃん」
「…えっ――ハル君?」
「ほらみろ春仁。キモくて由比ヶ浜が引いてるぞ?」
「そんな事よりメシ食うぞ。八幡」
「えっ?投げっぱなし?ちょっとヒドくね?」
E組に八幡が来て三人でお昼を食べる。三人にとってはいつもの光景で周りの事は一切気にしていない。最初の頃は気にして箸がすすまなかったが「気にしたら負け」と口にしてから逆に開き直り。気にしなくなった。
午後の授業はホームルームに変更になり、文化祭実行委員を選出する運びとなった。
俺と結衣の二人は、最初に推薦されるという危機的状況に陥るが「バイトあるから無理」、「アハハ…よくわかんないからちょっと…」でなんとか乗り切った。正直危なかった。
担任が実行委員のやりがいだとか、精神論的な何かでクラスの生徒を説得した所、立候補者が出たのでその男女二人に任せることになった。
「なんとかなったな。」
「ホントにね、知らない男子と一緒に何かやるとかちょっとムリ…」
クラスの出展について討議が始まった。食品を扱う。お化け屋敷。縁日にあるようなゲーム。
様々な案が出たがここで俺に白羽の矢が突き立てられる。
曰く『準備にもバイトで出れないのだから当日はメインでやってほしい』
当たり前だが俺も万能ではない、できる事は限られる。
それにお化け屋敷などの退屈な出展だと“つい”風邪を引いて休むだろう。俺は嘘はつかない主義だ。
「皆の言う事も一理ある、俺が当日に交代なしでシェフをやるから、食品関連で話を進めてくれ」
「「「「「柊君料理できるの!?」」」」」
クラスの出展は喫茶店に決まり。メニュー作成を任され、考える事になった。
「喫茶店か、メニューなにしよっかな」
「あのカレーは難しい?あたし、あれ食べたいなぁ」
「喫茶店でカレーかよ。まぁ祭ってつくし、いいか」
「やたっ♪ あれすっごい美味しかったからね~」
「ドリンクメニューも紅茶とコーヒー系が適当にあればいいだろ紅茶だけで3種類位はいけるしな、葉っぱ変えたらその倍になる」
「わぁぁ!なんかたのしそうだね!」
「なぁ、春仁」
「ん?」
「お前らの近くにいると周りの目が痛いんだが、これはどうにもならん事なのか?」
「どうした?何かあったのか?」
八幡の顔がなんとなく暗い。本人は気付いてるのかわからんが、目線がどことなく遠い。
「春仁や由比ヶ浜と一緒にいると気にならないんだが、一人になるとどうもな。」
「なるほど、アレか?なんでオマエなんかがってやつか?」
「あー…そうだな、そんな感じの視線を感じる。 んでな。俺が陰口叩かれたり、蔑ろにされるのはいいんだ。慣れてるしな。 でも俺と一緒にいて…春仁と由比ヶ浜が悪く言われるのはたまらなく嫌なんだ。 でもお前らとは同じトコに居たいって思う。 どうすりゃいいのかちょっと解らなくてな」
「そうか、八幡はそう考えるんだな。 お前はやっぱすげぇよな」
「お前らとの関係は壊したくないからな、アレだ壊れるのと壊すのは違うだろ?」
「ふむ、じゃあ悩める弟の八幡にアドバイスをやろう」
「ははっ。なんだそれ。よし、拝聴しよう」
八幡にはまだ理解できないだろうな。俺も母さんに言われた時は意味わからんかったが、今ではちゃんと理解できてる。八幡もいつか解る時が来るだろう。
「お前の世界の中心はどこで回ってる?」
「――スマン意味がわからん」
「解説してやろう。 世界は回ってるよな?社会や経済。時間だってそうだ」
「そうだな。当たり前の事だ」
「じゃあその世界は誰の世界だ?」
「―――っ!誰…の…?」
「そうだ八幡。 俺の世界は俺が自分を中心にして回してるんだ。 この意味が解るか?」
「俺の世界…中心?…俺が?」
自分の世界を、他人を中心にして回してはならない。それは自己犠牲などではなく。生きる事を諦めるのと同義だ。そんな人は死んでいないが生きてもいない。
「今は理解できなくてもいい。見下してる訳じゃないからな? 俺はそうしないときっと死んでいたから…――だから八幡。お前の世界は、お前を中心にして、お前が回すんだ」
「…わかった。すぐにはムリだが…やってみる」
辛くても苦しくてもそれは自分の物で、他にぶつけていいものではない。
それをぶつけても、ぶつけられた相手からは何も帰ってこない。
俺が思うあるべき姿はそれを受け入れ、背負う事だ。そうでなければカッコ悪い悲劇のヒーロー気取りにしかならない。正直ダサい。
それと同時に、他人から贈られた、喜びや感謝なども拒否してはならない。
相手の気持ちを無下にするのはただの攻撃だ。
そんなのいらないと思うなら、受け取った後に捨てればいい。受け取ったものを持ち続ける義務などない。
「お前の事が羨ましいだけの奴なんざ気にするな」
「俺が羨ましい?…あぁそういう事か」
「そいつらは俺や結衣と一緒に居れる八幡が羨ましいんだろ?」
「そうか、俺はその視線を勘違いしてたのか、自意識過剰もここまでくるとヤバいな」
「自意識過剰の自覚あったのか!」
「上げて落とすのやめてくれそれは俺に効く」
「んじゃ、帰ろうぜ」と言い「おう」と返す八幡。どこからみても兄弟に見えない二人が並んで帰路につく。
翌日より、出展用のメニュー作成と経費の算出に頭を抱えるのであった。