「なるほど…状況は理解できたわ」
「まだなにもないが、様子がおかしいのは確かだ」
「その由比ヶ浜さん?に、一度話を聞いてみないと何もできないわね」
「やっぱそうだよな」
「言った様に、絶対にこっそり聞くのよ?でないと同じ事になるわ」
「あぁ、ありがとう。ユキ」
彼女の経験を元にしたアドバイスは3つあった。
『貴方との距離にもよるのだけれど、突き放してはダメよ』
『大勢の目の前では注意して行動する事ね、勝手に勘違いするのよ。あの人達はね』
『ハルが何らかの犠牲になるのは一番ダメ』
何故という疑問は浮かばずに、ストンと胸に落ちた。
16歳ともなると様々な手段が案として出てくるが、同時に法律に制約を受ける事になる。
つまり、俺が使える手段はそれほど多くない。
小学二年の暴力事件は本来であれば傷害罪に問われるが、相手が複数だった事により自衛と認められ、事件にはなっていない。中学三年の件も相手側の親が非を認めたので同様だった。
しかし今回は違う。暴力は傷害罪。相手が女性であればもれなく暴行罪もついてくる。何よりも誰も救われない結果になるのは目に見えている。
俺は思案を巡らせながら帰宅した。
「八幡」
「ん?どうした春仁」
八幡に相談を持ちかける。内容は結衣の事だ。
「お前の考えを聞きたい」
「人気者の男子が一人の女子を懇意にしていると容疑者が勝手に勘違いして、その嫉妬から容疑者が問題を起こした場合。お前はどう対処する?当事者の場合と部外者の場合で教えてくれ」
「やけにリアルな質問だな…由比ヶ浜が絡んでるやつか?」
「まだ。だな。 でもうなるかもそれない。そうなった場合俺は当事者になる」
「そうだな…他人なら、どうでもいいってなるけど由比ヶ浜がってなると…」
「当事者だったら俺により強い悪意を向けさせる」
「部外者だったら…そうだな。そいつらの関係を破壊する様に裏で動く」
八幡は最後に「俺に悪意が集まるのは変わらない」と付け足した。
『どうしたの(´・ω・)』
『少し話をしたい。今日の放課後空いてるか?』
『わかった。空けるね^_^ノ』
『すまん。一旦家に帰っておいてくれ。他の人に見られるのは良くない』
ハル君からメールが来た。
同じ教室で互いの距離は数メートルしかないがあえてメールでやり取りをするのはなんでだろ?今日はさがみんと遊びに行く予定あるけど、ハル君を優先させよう。
他の人に見つかったらダメって事は大事な話なんだろうし。
さがみんには家の用事で。って理由で納得してもらった。なんかやだなぁ…さがみん。もやもやする。
ハル君とは何もないのにぐちぐち言ってくるのやめてほしい。ちゃんと言えないあたしも悪いんだけどさ。
あたしが家に帰って少ししたらハル君から電話がかかってきた。電話ってちょっと緊張するよね…メールだとそそれどでもないのにさ。
『もしもし』
「やっはろーハル君。それであたしはどうしたらいい?」
『今晩外出れるか?』
「うーん…ママに聞いてみる」
ハル君はママのお気に入りだったりする。いっつも「あらあら~♪」ってわざとらしく胸押し付けてからかってる。もう!ママったら!あたしが恥ずかしいんだからせめて玄関ではやらないで!ってダメじゃん!
場所の問題じゃない。やめてほしいな。うん。
んでママに聞いてみたら案の定ニヤニヤしながら「外でナニするの~♪」って言ってきた。その時わかった。ママはあたしで遊んでる!もう!もうもう!
あー顔あっつい。
ママが「ウチでご飯食べたらいいわよ」って言ってくれたからそれを伝える。
あれ?保留になってない…って事はさっきの全部聞こえてた!?
はわわわわわわ!おちけつ――じゃなかった!おちつけあたし!
「…ハル君。ママがね。あたしんちで…ご飯食べるなら許可するって…」
『…予想のはるか上が来た』
「え?どしたの?」
『なんでもない、呼ばれますって伝えといてくれ。また連絡する』
「あ、うん。わかった」
電話を切った後に部屋のベッドでごろごろ悶えちゃった。
あの会話きこえてないよね?はぅ~恥ずかしい…全部ママのせいなんだから!
――1時間後。
ハル君から『今着いた』とメールが来た
音を聞いたママがいきなりドア開けて「いらっしゃぁ~い」と出迎える。
ママ…そんなに速く動けるんだね…
やっぱりママは抱き着いてた。胸を顔にぐいぐいしてた。あたしを見ながら。
こっちみんなし!ってかそれやめてぇ!顔真っ赤「ママ!?ここ玄関だよ!」と思ってた事言っちゃってさ。やっぱりあたしはあわあわしてた。うん。
「「いただきます。」」
ハル君が食事のお礼を言い、舌鼓を打つ。箸は止まる事なく真っ白なお皿が残った。
あたしの食べる量見てハル君がなんか失礼な事考えてるみたいだったからジト目で睨んだ。いいじゃん!たくさん食べたっていいじゃん!!
「「ごちそうさまでした」」
「お粗末様でした」
あたしの部屋に始めて男子が入る。正直かなり緊張してたけど、落ち着いてるハル君見てたらなんか力抜けて気にならなくなった。ハル君すごいなぁ、なんか大人っぽい。
そして、ハル君が話を切り出した。
「最近、結衣の様子がおかしいと感じるんだけど、何かあったか?」
「……ない。って言うとウソになっちゃうかな」
「…言いづらいか?」
「アハハ…ちょっとだけ。」
「じゃあ、違うなら違うって言ってくれ」
「…うん。」
「普段一緒にいる女子グループでイヤな思いしてないか? ないと思いたいが相模から何かされてないか?」
確信をついた質問だった。ハル君気づいてたんだね…。
「されてる。のかな? ううん。まだされてないって言った方が正しいかな」
「良ければ教えてくれないか?多分…俺も無関係ではないと思うしさ」
もうダメだ。隠しきれないよ…でもハル君も無関係じゃないって言ってくれてるしさ。
相談してみよっかな。
「なんかさ、さがみん。いつもだれかの悪口言っててさ。あたしが『そーゆーのよくないよ』っていってもさ。なんでか毎回どこかで『春仁君と一緒にいれる結衣ちゃんが羨ましいなー』って言われて…。あたしなんか悪い事したのかな…」
あたしはそのまま続ける。
「あたしがさ。『そんなことないよ、友達だったら普通じゃん?』って言ってもなんか茶化されてさ…こんな関係でもさがみんは『友達だよね?』って言うしさ。なんか色々わかんなくなっちゃって…」
「結衣は、今の状況をどうしたい?」
「あたしは…どうにかしたけど。何をどうすればいいのかわかんないや…」
「じゃあ質問を変える、相模とどうなりたい? 俺は、相模ははっきり言って関わりたくない類の人だ」
「あたしも悪口ばっか言う人はヤダな…でも友達はやっぱり欲しい…」
友達は…ヒッキーとハル君しかいない。友達ってどんな関係なんだろう…さがみんは友達だって言ってくれてるのは嬉しいけど。さがみんとの関係は二人のそれとは違うんだよね…
「八幡と友達になった時の事、覚えてるか?」
「うん。よく覚えてるよ。嬉しかったし、多分ずっと忘れない」
「八幡の言う友達ってのはな《信じる》って事なんだ」
「あはは、ヒッキーそう言ってたね。――!そっかあたしさがみんの事…」
「もう一度聞くぞ。結衣、相模南とどうなりたい?」
そっか…そういう事か。友達って事。少しわかった気がする。
あたしは決めた。あたしが決めた。さがみん…ごめんね。
「相模さんとは他人でいい」
「わかった」
朝。時計を見て、しばし硬直する。
かなり寝坊してしまった。
結衣が決断した顔を見て安心できたのはいいが、帰ってアレコレ考えてたら夜が白んでいた。
少しだけ眠れたが身体がたるい。朝食を用意して弁当を作る。いつもより遅い時間だが、ギリギリ遅刻は免れそうだ。
しかし八幡のヤツ…!手伝わずに置いていくとはいい度胸だ。イヤ寝坊したの俺だけど。寝坊したのも俺が原因だけど。でもなんかイタズラしてやろう。
喜べ八幡。今日のお昼は栄養満点のトマトを沢山入れてやろう!
午前の授業はよく覚えてない。顔に跡がついてないので寝てはなかったみたいだ。
八幡がこっちに来る前に俺は奉仕部に避難する事にした。
ユキに事の顛末を説明しなきゃだしな。遠くで『おい春仁!これは――っていねぇのかよ!』って聞こえて来たが無視だ無視。残したら今後作ってあげないんだから!
地味だな、俺。あとキモい。
「なるほどね、今の状況なら私もそれがいいと思うわ」
「相模が事を荒立てるなら俺にも考えがあるが、なるべくやりたくはないね」
「そうね、付き合ったフリなんてしたら貴方発狂するわよ?」
「なんでわかるんだよ!」
「ふふっ。なんででしょうね」
結衣が相模に物申したら連絡がある。
俺たちはさっと昼食を食べ終えてその時を待っていた。
「ユキ、ありがとうな」
「私は何もしていないのだけれど…どういたしまして、ハル」
彼女はなんだか照れ臭げにする。するとスマホに着信があり、出てみると結衣の噛み殺した嗚咽が聞こえた。結衣に優しく「屋上に行ってろ」と言い返事を待たずに通話を終了する。
「ハル、いってらっしゃい」
「あぁ、行ってくる」
屋上へゆっくり向かう。そこに着くころには彼女も少しは落ち着いているだろう。
男は女の涙には弱いんだ。泣き止む時間があってもいいだろう。ってか泣き止んでてほしい。
屋上に着くと結衣が眼を晴らしていたが、もう泣いてはいなかった。
「――すごくつらいんだね」
「そうだな…よくがんばったな結衣。お疲れ様」
「うん…ありがと…」
彼女は肩を震わせ、声を殺してまた泣いた。
これは安易に人を信じた罰ではないだろうか。そう思えてしまう。
結衣は友達を失ったのか?おそらく違う。
これが八幡の言う『勝手に期待して勝手に裏切られて』って事なんだと俺は理解できた。