遊戯王部活動記   作:鈴鳴優

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第3章 転校生勧誘作戦
019.いや、違うんだ


 対生徒会戦より数日後。

 1年2組と表札が架けられたクラスの昼休みにてある取引が行われていた。

 

「カズ……約束の物は用意できているな?」

「へへっ、旦那もいい買い物をしたもので……」

 

 カズと呼ばれた男性は、1000円程度あれば購入できそうな安っぽい作りのリュックサックのチャックを開き中の品物が見えるようにもう一人の人物に差し向けた。中にはおよそA3サイズほどの書籍がギッシリとつまっているのだ。

 

「悪いな、持ってくるの大変だっただろ」

「いやいや、これで約束の品が手に入るのであればこの程度苦にすらなりませんよ。では、さっそく約束の品を」

「あ、ああ……」

 

 男は何か罪悪感で躊躇うかのようにポケットからゴソゴソと何かを取り出そうとする。

 教室の隅。このようなやり取りが行われている中に一人の少女が割って入った。

 

「アンタたち何やってんのよ!」

「んなっ、ひ、氷湊!?」

 

 突然の来訪者に驚きおもわず数歩、後へと飛び出してしまった二人のうちの一人である橘晃は見知った彼女の名前を思わず口にしてしまう。何もコソコソと教室の隅で怪しげな取引をしているのであれば彼女でなくとも誰かが止めに入ってしまうだろう。

 

「だから何、コソコソとやってんのよアンタたち。橘と……遠山君よね? 生徒会庶務の」

 

 ちなみに晃ともう一人、カズと呼ばれた少年の名前は遠山和成。

 あまり目立たなくはあったが数日前の生徒会戦で司会を務めていた人物であり、実は彼は晃や涼香と同じ1年2組の人物であった。

 彼、遠山和成は両手を前に突き出しては必至に言いわけの言葉を述べる。

 

「氷湊さん……これには海よりも深い訳があるんですよ」

「海より……ね。見たところ何かの本みたいだけど、まさか卑猥な本とかじゃないよね二人とも♪」

「「…………」」

 

 低いトーンで語る彼女だが、笑っていた。

 しかもこれ以上無い笑みで。ただし、目は明らかに笑ってはいないのだ。

 

 糸屋の娘は目で殺す、などという言葉がある。

 本来これは、美女が色眼をつかつて男子を悩殺することを現す言葉なのだが笑みでありながら目だけは笑っていない彼女の場合、本当の意味で目で殺されそうだ。

 しかし、別に彼らの取引する書物は決して彼女の言う卑猥な本では無い。弁明するように晃は中身を出して見せつけた。

 

「い、いや……オレたちが取引するのはこれだ。別にエロ本とかじゃ無い!」

 

 出された書物には『遊戯王ザ・ヴァリアブル・ブック』と書かれた本がギッシリとつまっていた。所謂、遊戯王のガイドブックのようなものでカードについての情報が書かれた書物なのだ。

 これを見ては、氷湊も晃の考えている事を理解する事ができた。

 

「へぇ……そういう事ね」

「まあ、そういうことだよ」

 

 橘晃という決闘者は勝率が限りなく低い。

 遊戯王を始めてからいまだ一カ月にも満たない彼だからでこその結果であるが、彼自身遊戯王カードについての知識も浅いというのがその中に関連する原因の一つでもある。

 

「やっぱ、あんな重要な局面で1キルされたってのもショックだったしな」

 

 彼が指しているのは生徒会戦で行われた第一戦目で彼が生徒会書記である初瀬小桃が扱った【歯車デミス】によって1ショットキルを行われた事だ。デッキやその場の引きの相性があったものの、廃部すら賭けた試合であっけなくやられたのを気にしていたのだろう。

 故に彼は、遊戯王の知識を得るべく遠山から遊戯王の書籍を借りることにしたのだ。

 

「だからさ、話してみればカズも遊戯王をやってる上にこの本を持っているって聞いたから譲ってもらう事にしたんだ。な?」

「お、おう!」

 

 同意を求めるようにカズこと遠山和成へと振ると彼も一瞬、慌てるも答えてくれる。

 無論、それがカモフラージュである可能性が無いわけではないため涼香は1冊1冊を手に取ってはペラペラと捲って確かめる。最初の1冊から最後の1冊まで間違いなく遊戯王関連の本だ。

 

「ふーん、だったら別にいいわ。けど、だったらこんな怪しく取引してるんじゃないわよっ!」

「ぐっ!?」

 

 晃からすればひさびさの蹴りだった。

 涼香が放った蹴りは見事、晃の鳩尾へとめり込むような形で入り込む。文句なしのクリティカルヒットだ。

 彼女が咄嗟に放っただけの一撃とはいえさすがに、これを受けて平然としていられるわけも無く晃は小さな悲鳴と共に仰け反り、涼香に邪魔される前からずっとポケットに入れていた手が抜き出てしまう。それと同時に、彼がポケットに入れていたカズ曰く約束の品という物までもが地面へと落ちる。

 

「あっ……!?」

「しまっ!?」

 

 二人が声を揃えて失態を明かすような声を上げてしまう。

 晃がポケットに入れていた例の約束の品とやらが原因だ。二人は即座にそれを拾い上げようと手を伸ばしたものの、一足先にその品は氷湊涼香の手へと渡ってしまった。

 

「へぇ……アンタたち……この写真はいったい何なのかしらね?」

「「いや、違うんだ」」

 

 咄嗟、背筋が凍りつくかのような冷たい目で睨まれ二人は綺麗に声を揃えては弁明する。

 それも彼女が拾いあげた品、1枚の写真のせいだ。映っているのは風景から見れば遊戯王部の部室だ。しかも、椅子に座って遊戯王をやっている涼香の姿が映っており珍しくも困り顔というブロマイドというやつだろうか。

 

「い、いや氷湊さん! これは晃が勝手に!」

「こらっ! カズ、お前一人だけ助かる気か!?」

 

 ちなみにだが、『遊戯王ザ・ヴァリアブル・ブック』を譲ってもらうために遠山和成が取引の条件として提示したのが、涼香の写真だ。あまり知られていないが彼女はクラス内においてはクールビューティーという印象で通っており男子からの人気が高い。

 

 故に彼は写真を取引の条件に持ち出したものの、さすがに本人に言って「はい、そうですか」と撮らせてくれる人物では無く盗撮という形でしか撮れないだろう。それは、この写真の彼女がカメラ目線でない事が物語っていた。

 

「ふぅ……どっちでもいいわ。どっちにせよ、二人まとめて制裁するつもりだもの」

「「っ……!?」」

 

 いつも通り。いや、それ以上とも思える穏やかな口調。

 そのはずなのだが、春先の気温の中二人は冷や汗を流していた。さらに表情は青ざめており死刑宣告を判決されたかのような感覚に見舞われたのだ。

 

 瞬間氷結の戦乙女。

 

 その二つ名の通り、晃と和成の精神的な面が彼女のやわらかくもゾッとする様な台詞に一瞬で凍えたと言えよう。二人とも彼女の運動神経は知っている。男子である二人には敵わないものの女子としては高く、殴られたり蹴られてりすれば一溜まりもない。

 制裁は嫌だ。だからこそ、必死に逃れようと何かしら策を練り始めた。

 

「そ、そうだ氷湊さん! だったら決闘(デュエル)しよう。それでボクが勝ったら見逃してくれ!」

 

 デュエル脳的発言だ。

 だが悲しいかな。ここは全てを決闘で決めるデュエルアカデミアや童美野町、ネオドミノシティなどのような世界では無いのだ。犯罪者を決闘で拘束するなんて事はしない。ごく普通に法で裁かれるのだ。

 

「嫌よ」

 

 きっぱりと言われた。

 さすがに自分の写真を盗撮された挙句、それを決闘で勝てた場合見逃せなどと言われても通すわけがない。第一、彼女自身にメリットなど何もないのだ。

 だから、ここは和成よりも彼女を知っている晃の出番だ。涼香は、決闘者としてプライドが人一倍高い事を利用するしかない。

 

「逃げるのか? いや、さすがにないよな氷湊に限ってそんな事」

「っ……なんですって?」

 

 わかり易いぐらいに挑発に乗ってくれる。

 

「そこまで言うのだったら、いいわ! 二人まとめて──」

 

 二人まとめてかかってあげる。

 などと口に出そうとした瞬間、彼女はそれは失言だと気付いた。

 

 彼女の実力ならまず、あの二人相手に1対1で負ける気は毛頭ない。

 だが、2対1ならどうだろうか?

 

 まず、晃については何の問題もない。

 プレイスタイルは【武神】の基本的プレイングを行う彼なのだが、何故か非常に弱いのだ。彼が1人や2人、まして100人でかかって来ようとも負ける気がしない。

 

 問題は和成の方だ。

 彼の実力が未知数なのだ。

 

 彼も庶務という役職でも生徒会のメンバーなのだ。別に生徒会のメンバー=決闘が強いなどと言う式が成り立つわけではないせよ前の生徒会戦で行われた3人は誰もが粒ぞろいとでも言えるような強さを持っていた。

 仮に、彼ら並みの実力を持っていたとすれば彼女といえど1対2では勝つ方が難しいだろう。

 

 そのような思考をしていた時だ。

 突如、思いもよらぬ来訪者が来た。

 

「あ、あのーお取り込み中のところ悪いのですけど、晃くんに涼香ちゃん。部長から今日の部活で伝言が……」

 

 などと割って入ってきたのはクラスが違うものの同じく遊戯王部メンバー1年の日向茜だ。この時、涼香は『チャンス!』と心の中で呟いては、即座に茜の手を取った。

 

「ごめん、日向さん力を貸して!」

「……え? え?」

「これで2対2! 文句は無いわね!」

 

 訳がわからず強制的に参加させられる茜。

 だが、これで晃と和成、涼香と茜でのタッグデュエルの条件が揃ったのだ。

 勿論、晃や和成は罪を逃れるチャンスとして文句を言う立場ではない。むしろ、チャンスが出来ただけ願ったり叶ったりだ。

 

「日向さんはデッキ持っているわよね?」

「え? はい、常に持ち歩いていますけど……あー、決闘(デュエル)するんですね。わかりました!」

「よし、行くわよ!」

 

 などと勢い込むが、この教室の場では決闘盤が無いどころか行うスペースすら無いのだ。そのため4人は机を2つくっつけてその上にカードを広げて行う事になる。

 遊戯王部メンバーの一人である茜はデッキを持ち歩いていた事。またここが他3人の教室であることからデッキの準備もスムーズに行われた。

 

「決闘盤が無いので先攻後攻を決めるわけですけど……また、コイントスにしますか?」

「そうだな。じゃあ、今度は裏にする」

 

 日向が可愛らしい柄の財布から百円玉を1枚取り出しては、指で高めに弾いた。

 上から下へと落ち、机の上で跳ねた百円玉はさらに数度跳ねたのち、桜の絵が上となって止まったのだ。こちらが表。

 かつて茜と始めての対戦を行ったときも、そうだが晃は2度連続で外した事になった。

 

「それじゃあ私たちの先攻ですね。どうしますか涼香ちゃん?」

「そうね。日向さんからでいいわ」

「了解しました」

 

 などと、向こうは向こうで順番を決めた模様だった。

 

「じゃあ、晃。先、頼むぜ」

「え? ……いや、別にいいけど」

 

 これで決闘の流れは茜、晃、涼香、和成の順と決定した。

 後は、決闘を行うだけだ。

 

「「「「決闘(デュエル)!」」」」

 

 4人が同時に開始の宣言を告げる。

 先攻プレイヤーである茜からこのタッグデュエルは始まる。

 

「私のターン、ドロー……と、あまり手札が良くないですね。では《手札抹殺》を発動します」

 

 開始早々手札交換のカードが発動される。

 互いのプレイヤーが手札を全て墓地に送り、送った枚数分ドローするというカードであるがタッグデュエルのルール上、茜と現在、意味がまったくないが優先権プレイヤーは和成なのでその二人が《手札抹殺》の効果を受ける事になる。

 茜のデッキは【フェニキシアン・クラスター・アマリリス】だ。墓地肥やしが重要となる彼女のデッキなら悪い手札を交換したどころか、少しでも有利な状況に持ち込んだ。

 

「では、《カードガンナー》を召喚して効果を発動します。デッキトップ3枚を墓地に送ってエンドフェイズまで攻撃力が1500上がります」

 

 カードガンナー

 ☆3 ATK/400→1900

 

 赤い小さなロボットの絵が書かれたカード。

 攻撃力は低いものの、このカードが持つ自己強化効果により墓地肥やしを行うことができる有能なカードだ。墓地に送られたのは《フェニキシアン・クラスター・アマリリス》、《薔薇の刻印》、《ナチュル・チェリー》の3枚だ。

 

「うわ……さっそく“アマリリス”が落ちた」

 

 ちなみに、何度も彼女と決闘を行っている晃なら序盤で《フェニキシアン・クラスター・アマリリス》が墓地に行った厄介さがわかる。幾度と復活するのに倒せばダメージを負い、残していればエクシーズへと繋がるこのカードの対処は難しい。

 

「カードを2枚伏せて、エンドフェイズです。《カードガンナー》の攻撃力が戻り、墓地の《ナチュル・チェリー》を除外して《フェニキシアン・クラスター・アマリリス》を守備表示で特殊召喚です」

 

 フェニキシアン・クラスター・アマリリス

 ☆8 DEF/0

 

 特殊召喚された彼岸花の様なモンスター。

 さて、どうしたものかと考えながらターンが移り晃の番が来た。カードを引き、現在の手札と相手の場を見てはどのようにプレイを行うかシュミレーションを行う。

 

「仕方ない。《武神─ヤマト》を召喚!」

 

 武神─ヤマト

 ☆4 ATK/1800

 

 もはやお馴染みの晃の主軸モンスターだ。

 彼の考えとしては《フェニキシアン・クラスター・アマリリス》は置いておく。まずは、攻撃力が戻った《カードガンナー》を潰し少しでもダメージを与える事が重要だ。

 

「させません! 《激流葬》です!」

「うわっ、全体除去かよ!?」

 

 ただし、そう簡単に相手の思い通りにさせないのも決闘者の戦術の一つだ。

 モンスターの召喚、反転召喚、特殊召喚をトリガーとし場のモンスター全てを破壊するという強力な全体除去の罠カードである《激流葬》。これで晃の《武神─ヤマト》、茜の《カードガンナー》、《フェニキシアン・クラスター・アマリリス》が破壊される。

 

「ここで破壊された2枚の効果です。《カードガンナー》の効果で1枚ドローして、“アマリリス”で800のダメージを受けてもらいます」

 

 晃&和成 LP8000→7200

 

 実際これで破壊されたモンスターの数は茜たちの方が多い。はずだが、2体ともが破壊される事で効果を発動するモンスター故にアドバンテージを稼ぐ事ができたのだ。現状、どちらが不利になったかと聞いてもはっきりと答える事はできないだろう。

 だが、幸いにも今日の晃の引きは良かった。

 

「だったら墓地の《武神─ヤマト》を除外し、《武神─ヒルメ》を特殊召喚!」

 

 武神─ヒルメ

 ☆4 ATK/2000

 

 天照大神の呼び名の一つ日霊(ひるめ)の名を持った武神だ。

 武神の中では珍しく展開力の強化を行えるモンスターであり攻撃力もアタッカーとしては十分だ。今、モンスターがいない茜たちの場ならば直接攻撃が可能。

 

「よしっ、バトルフェイズに入って《武神─ヒルメ》で直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

 

 涼香&茜 LP8000-2000→6000

 

 先手を取る事ができた。

 これで有利なのは自分たちだと晃が思った矢先、茜もそう簡単にやられはしないと墓地から1枚のカードを発動させた。

 

「いい攻撃です。けれど、詰めが甘いですよ! 墓地の《ヴォルカニック・カウンター》を発動させます!」

「ヴォルカニック……カウンター?」

 

 聞きなれないカードの名前に晃は首を傾げる。

 彼女とは幾度と対戦を行っていたが、今まで1度とそのようなカードを使用してきた記憶が無い。ならば、茜もデッキを改良していたのだろう。

 

「ふふ、私だって少しづつ進化していくんですよ! 戦闘ダメージを受けたとき墓地のこのカードを除外し、私の墓地にそれ以外の炎属性モンスターがいるため同数値のダメージを受けてもらいます!」

「っ……同数値!?」

 

 晃&和成 LP7200-2000→5200

 

 《手札抹殺》の時に墓地に送られたのだろう。条件として他の炎属性モンスターがいなければ発動できないものの彼女の場には《激流葬》で墓地に送られた1枚。《フェニキシアン・クラスター・アマリリス》が存在するため効果も問題なく発動し、晃たちのライフも戦闘で与えた同等のダメージを負ってしまう。

 

「っ……カードを1枚伏せてターン終了」

 

 現在、ライフ差は対して無い。

 なのだが実力は総合的に見れば確実に向こうが上だ。どうしようと思いながら、次のプレイヤーである涼香のターンへと移った。

 

 

 

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