「…………」
さて、どうしたものかと言う空気が遊戯王部部室を漂わせていた。
部室には気まずい雰囲気で部室の椅子に座る晃に、目を閉じて無言を貫こうとする涼香、若干顔を赤らめてもじもじとする茜に、どうしたものかと珍しく溜め息を吐く創の4人だ。
そんな雰囲気の中、唯一の部外者ともいえる風戸有栖はそんな遊戯王部メンバーを見てはわけもわからず首を傾げる一方だ。
「あー、えっと……風戸だったな、すまん」
普段は年上である生徒会長ですら物言わぬ態度とため口で接する創だったが、今回に今回に限っては歯切れが悪く謝った。いったい何で謝られたのだろうと彼女はぽかんとした表情で返す言葉もわからないのか唖然としていた。
「あ、あの……こ、この手紙は?」
だからか話を逸らすかのように遊戯王へと来るように告げられたラブレターを出したのだ。その手紙を見た時、さすがにやりすぎてしまったと茜が『あはは』と苦笑いを浮かべた。
「ご、ごめんなさい……それ私のせいです。ちょっと、有栖ちゃんに話を聞いてもらいたくて書いちゃいました。本当にごめんなさい」
「そう……なんだ」
本当に申し訳ないと謝る茜に、嘘だと知ってしゅんと落ち込む有栖。
けれど茜を責めるつもりは無いのか、ふるふると首を振っては話題を変えようと懸命に話す。
「あ、あの……その話というのは何?」
「それはだな……」
なんて創が語ろうとしたが、そんな彼をぐいっと押しのけて涼香が割って入った。
先ほど逃げられた事を気にしていたのか、彼女はなるべく笑顔を浮かべるようにして見えたが、どこかぎこちなく威圧感のような物を漂わせているから余計に怖い。
「この部活に入ってくれないかしら」
「ひぅ……ご、ごめんなさい」
涼香の迫力に圧倒されたのか、彼女は涙目で謝るように断った。
そんな彼女に『ムッ……』とわずかに苛立ちの表情を見せる涼香に、どうしたものかと困った笑顔を見せる茜。黙って見守る創とそれぞれが独特の反応を見せていた。
そんな中、晃だけは小さく問う様に呟いた。
「なんでだよ……?」
「ふぇ?」
「風戸……お前は、俺と
「っ…………」
彼女とぶつかってカードを落とした時の慌て方。
教室で決闘をするときのカードの扱い方。
なんとなく、それは遊戯王部のメンバーたちに似ている様な感じを晃は覚えていた。きっと、彼女も遊戯王が好きなのだろう。だからでこそなんでそこまで頑なに拒むのかが晃にはわからなかった。
そんな晃に返答することもできずに黙ってしまう風戸。それを制止するかのように、創が仲裁した。
「まあ、人には言えない事情が様々ってことさ。けどさ、風戸……あんたは何でここまで嫌なのか聞いてもいいか?」
「そ、それは……」
口ごもってしまう。
有栖はふと遊戯王部のメンバーを一瞥したのち、目を逸らすように俯いてしまった。
もっとも創は彼女の理由というものを調べて知っている。それでもこれは彼女の口から聞きたかったのだ。そんな有栖は消えそうな声で呟くように語った。
「わ、わたしは……本当は遊戯王は好き。でも……その分だけ独りになるから」
「独り……って何よ?」
なんてわけもわからず首を傾げる涼香と茜、晃に関しては同じ様な言葉を一度聞いているためか、そこまで驚きもしない。そんな言葉足らずに説明を創が解説するように語った。
「まあ、強さ故に孤立したって聞いたぜ……けどさ、風戸。今だって独りじゃないのか?」
「っ……でも……」
「また失うってのは嫌なのはわかるぜ。けどさ、それじゃつまらないだろ……一つ賭けをないか?」
「か、賭け?」
そんな創の言葉に涙ぐんでいた目が収まり、わけもわからないといった表情で彼を見つめていた。無論、晃や茜、涼香も創の賭けという発言に対し理解できないといった表情で同じく創を見る。
「っても、それだけ別に難しいことじゃねえよ。単に一週間ぐらい仮入部するってのはどうだ? 別に俺たちはお前を置いては行かないぜ!」
成程、そんな手がと他の遊戯王部メンバーは感心する。
普段は馬鹿な人物っぽい創もこういう部に関係する場合においては、なんとも策士である。気付けば有栖は何か考えるかのように視線を逸らしていた。それも数秒間ののち、視線を戻してはコクリと小さく頷いたのだ。
「う、うん……よ、よろしくお願いします……」
またしても消えそうな頼りない言葉だ。
けれど、これは小さいけれども確実に一歩の前進だろう。
+ + + + +
「さて、どうしたものか……」
なんて部活動が終わっては、部室の窓から暗く染まりつつある空を眺めては創がつぶやいた。現在、仮入部という形で入った有栖を除く晃、茜、涼香、創の4人だけが残って重大な会議みたいな話合いをしているところなのだ。
「一応、仮で入ってくれたのはいいですけどねー」
なんて苦笑気味に語る茜の言葉に他も無言で肯定する。
なにせ、彼女〝風戸有栖〟という人物は遊戯王における知識、センスは実際にデュエルを行っては問題ないと感じたのだが、それ以前の問題があった。
かつて晃が有栖とデュエルをしては、途中で創に止められたような事が起きたのだ。
平たくいえば、プレイングミスが多い。それも彼女自身自覚して意図的にやってしまっているというのだ。
「……私には理解できないわね」
「そう言うなって、風戸には風戸にしか無いことなんだろ?」
なんて本当に理解しがたいような口調で語る涼香に創が宥める。
逆に涼香といえば相手がどうだろうが遠慮もなく圧倒するのだ。有栖とは対照的とも思えるだろう。
「なんでしょうか、ずっとネット決闘をやっていたと聞きますかから実際の決闘で緊張でも、してしまったのでしょうか?」
「うーん、それも違う気がするわ。なんていうか、敢えてそうしている……ううん、それしか出来ないみたいな顔をしてたわ」
各々が考察していく。
そんな中、晃は口元に手を添えては有栖との決闘での出来事を思い出そうと考えて行く。
創が発言した『逃げ出したいとでも言いたげな目をしている』などという言葉。
「なんだろう、イップスみたいなもんッスかね?」
「は、イップス?」
「平たくいえば精神的な原因でプレイに支障をきたす障害ッスね。もっとも、スポーツで使う用語なんスけど……」
なんて用語の意味がわからない風な表情をする創に対し年下の晃が解説するように語る。それも彼らはずっと遊戯王というものに打ち込んでいたために運動部とは無縁だったから仕方が無いといえばそうだろう。ちなみにだが、創の体育の成績はそれでも上位に分類される。考えるような仕草をして頭をかるく掻きながら創は『そうだなー』なんて軽く呟きながら語る。
「当たらずとも遠からず……って、俺は思うぜ。何せ強くて孤立したんだ……同じことが起きるなんて考えれば怖いもんさ」
「けどさ、どうすんのよ? 団体戦に出るっていうなら、そもそもウチは一敗は確定してるもんよ。風戸さんまで勝てないってことだと勝つのは難しいわ!」
涼香が抗議する。
とりあえずこの場で彼女が『一敗は確定してる』なんて言葉を否定する者は誰もいない。
特に晃はただ立ちつくしたまま抗議をする素振りも見せない。
「あれ、おかしいな……なんか涙だ……」
「元気出してください。橘くんはこれからですよ」
本当に涙が出るわけではないが悲しいのは間違いない。そんな晃の肩を叩いて茜がフォローしてくれているが、そんな二人などスルーで創は再び考えるように『ふむ』と口元に手をやる。
「そうだな、良い考えがあるぜ!」
「……アンタのその良い考えって、私には凄く嫌な予感しかしないんだけど」
創の発言に、涼香はげんなりした態度で答えた。
なにせ前に晃の弱さをなんとかしようと辿りついた結果が、購買でパンを買うという前例があるのだ。それも晃が変なパンを買ったという結果しか残らず、彼の弱さは以前と変わらないのだ。
「まあ、そう言うなって……様は勝たなくちゃいけないデュエルを風戸にやらさればいいんだ」
「勝たなくちゃいけない……ですか?」
「そう。そうすれば後には引けないだろ!」
なんてサムズアップをして自身満々と答える創。
確かに勝つということに恐怖を感じる有栖とはいえ、勝たなくちゃいけない場面という窮地に立てばもしかしたら、と思ってしまう。その点では皆も納得はする。
「けど、そんな場面ってあるかしら?」
「大会……も、少し違いますね」
だが、勝たなくてはいけないデュエルという場面などあるのだろうか?
もしこれが遊戯王の世界でならば〝闇のゲーム〟は勿論、何かを遊戯王で解決する世界であるため困らないであろう。だが、ここではカードゲームに何かを委ねるなんて早々無いのだ。
いったいどんな時だろうと思考する彼女らに創は、『ふっ』と軽い笑みを見せて答える。
「なに、遊戯王部が力を合わせれば造作も無いさ! と、いうわけで作戦実行は明日の部活時に、細かい打ち合わせは昼休みにでも連絡するさ!」
「「「?」」」
なんて仕切る創に、晃に茜、涼香の1年生3人は顔を見合わせては首を傾げることしかできなかった。
+ + + + +
翌日の放課後。
有栖のための作戦を実行すると言っておきながら晃だけは打ち合わせというのをしなかった。というよりも、茜と涼香に対しては何か話をしたみたいだったが、晃に関しては〝状況に合わせて対応してくれ〟なんて一言だけを伝えられたのだ。
そこで部室に来ても誰もいない。
晃は、ここで誰かが来るまで適当に遊戯王のザ・ヴァリュアブル・ ブックを読んで適当に時間を潰すしかないのだ。そのまま数分がたったのち、ガラリと部室の戸が開いてはおそらく遊戯王部に出入りする中で最も身長が低く腰にまで伸びたロングヘアーの少女。現在、仮入部状態の風戸有栖はちゃんと来てくれてた。
「あ、あの……こんにちは」
「あ、あぁ……というか、教室同じだけどな」
なんて軽いツッコミを入れながら応じる。
すると彼女は扉を閉めてはキョロキョロと首を2、3度振るように部屋の中を見渡しては今ここに晃以外の人物がいないことに気が付いた。
「あの、み、皆さんは?」
「いや……オレも知らない──」
なんて言葉を言いきる前に『ゴッッッ』なんて鈍い音が扉から鳴り響いた。晃は何事かと一度、驚いては本から扉へと視線を向け有栖もまた『ひぅ』なんて怯えた声を上げては真後ろだった扉から逃げるように遠ざかった。
「ハァ、ハァ……くっ……」
再び扉が開く。
そこから入ってきたのは、何故か満身創痍の茜だった。そんな彼女は腕に決闘盤を付け、前の勧誘なのかわからない魔王と勇者ごっこの時に身に着けていたマントを模したカーテンを纏っては決闘盤を持った腕の方の肩を押さえながら部室に入ってきたのだ。
「日向!? 何ごとだよっ!?」
なんて晃が、驚きの声を上げると今度は開いた戸から黒いマントを模した暗幕を纏った創が悪役面で姿を現したのだ。
「フハハハッ、勇者の末裔である女勇者アカネ=ヒムカイも大したことなかったな。
なんて高笑いをする創もとい始まりの魔王だ。
途端、廊下から姿を現したのか涼香が創の元まで早足で歩いてはローキックを彼目がけて放ちだした。
「誰が
「っ、痛っ……すまん、いや、ほんとすみませんっ!」
痛みに創は素に戻っており全力で謝っていた。
しかし、ここで満身創痍という表情だった茜も素に戻って『まあまあ』と涼香の肩を叩いて宥めていたのだ。
「涼香ちゃん、ここは堪えて……ほら、有栖ちゃんのためですし」
「ぐ……し、仕方ないわ。今回だけよ」
握り拳をわなわなと震わせては堪えていた。
涼香は、一度ため息をついては仕方ないと言いたげな目で部室に入っては何か負傷したみたいに茜と同じく肩を押さえて壁に背中を預けた。一方の茜もまた満身創痍の表情に戻っていた。
一方の晃はため息。
有栖に至っては、状況に理解が追いつかないのか目をパチクリとさせていた。そんな状態で創もとり始まりの魔王は再び高笑いをする。
「クハハッ、女勇者たちを倒した我に敵はいない! ここで世界制服の拠点としてまずは、この部室を占領するのだぁ!」
「あー、そういうことッスか」
正直、晃は呆れ果てていた。
なんとなく創の目論見は理解したものの、さすがにこの方法は苦しいのではと思ってしまう。乗り気でなさそうな涼香もそんな表情だ。
しかし、そんな晃や涼香を放っておいて創と同じでノリ気だと思われる茜は怪我を負ったような足取りで有栖の前まで立ち寄っては、決闘盤を外して彼女に差し出すように向けた。
「お願い。私はもう駄目みたい……けど、魔王を封印する聖女たる血を引く貴女なら、きっとできるはず。お願い戦って、私たちの部室を守って!」
「えっ……わ、わたし?」
なんて戸惑いを見せる有栖。
正直茜の演技は無駄に上手い。まるで本当にここで有栖が戦わなければ終わってしまうかのような迫力が伝わってくる。そのためかほんの数秒間の間を空けたのち有栖は茜から決闘盤を受け取ったのだ。
「う、うん頑張る」
「受け取った!? いや、それはいいとして部長が相手だと拙いんじゃないッスか?」
しかし、この流れだと有栖の相手は部長である創となるのだ。いくら彼女自身、実力はあると思われるとしても創の実力も折り紙付きだ。それも涼香にすら勝てる実力者では、無理があるのではと思った時、創はパチンと指を鳴らした。
「クハハ、誰が一人だと言った? 今日はもう一人呼んでいてね……紹介しよう我が呼んだ召喚獣〝怪鳥ニカイドウ〟だ」
「ふんっ、これは貸しだ。覚えておけよ新堂」
なんて入って来たのは、生徒会長である二階堂学人だと思われる人物がアヒルのような黄色い鳥の着ぐるみを着た人物だった。特に口元から顔を出すその姿はシュールだ。さすがに予想外だったのか、晃は叫んだ。
「つか、何やってんすか生徒会長ぉおおおおお!?」
「……そこの馬鹿に頼まれてな。貴様らが頼りないから手を貸したまでだ」
なんて、着ぐるみの姿が恥ずかしいのかそっぽを向きながら答えていた。
恥ずかしなら着るななんてツッコミはしたかったが、さすがに晃はツッコミ疲れてはこれ以上細かいツッコミはしたくなかった。
「そんなわけだ。我は貴様らにタッグデュエルを申し込むぞ。聖女の末裔アリスに、そこの村人A!」
「えー!? いや、タッグデュエルって……というか村人A!?」
ちなみに村人AはAkiraのAだ。
「いやいや、オレの実力しってるッスよね? 逆にオレが入らない方が……むしろ氷湊とかの方が適任じゃないッスか?」
「橘くん、こういうのって逆境になればなるほど燃えるものですよ」
なんて終いには重荷扱いだった。
さすがにここまで言いたい放題されれば晃とて我慢の限界がある。
「ああ、くそっ! やってやるッスよ!」
「クハハッ、準備は整った様だな……逝くぞ! ────屋上でな」
なんて創の最後の言葉で、さすがにここで決闘盤を使ってのデュエルが出来ないことに気づく。そのまま、皆が屋上へと向かうのだが、その中にコスプレやらの姿をしているとなれば周囲からは白い目で見られたのは言うまでも無い。