ダイヤのA×BUNGO   作:スターゲイザー

16 / 38


ちょっと長め




第十六話 沢村と降谷

 

 

 

 石田文悟と沢村栄純の違いは多い。寧ろ類似点を探す方が大変である。

 

「やっぱり文悟と同じとまではいかなかったか」

 

 知り合いなだけあって沢村のテストには目が行ってしまった御幸一也は1人納得するのであった。

 

「俺がなんだって?」

「こっちの話」

 

 近くにいた文悟が自分の名前が出たこともあって気にするが本人に知られるのはあまり良くないことなので適当に話をはぐらかす。

 文悟が眉を顰めていると、同じようにテストの手伝いをしているマネージャーの夏川唯が遠投で使うボールの入った籠で難儀していた。

 

「文悟君、ちょっとこっち手伝ってもらえる?」

「分かった、夏川さん」

 

 御幸を追及するよりも夏川の手伝いを優先した文悟が籠を持ち上げる、満タンにボールが入った2箱を。

 

「だ、大丈夫?」

 

 恐らく夏川としては籠を1つずつ運び、自分と片方ずつを持ってもらえれば十分だったのだろうが、そこら辺の機微が鈍い文悟は気付かずに2個とも持ってしまった。

 

「平気平気。これって遠投用のボールだろ? もう1年の試験が始まるから急がないと始まっちまう」

 

 1年の頃から身体能力に関しては図抜けていて、その頃よりも成長している力ならば籠を2つ抱えてもフラつくことなく試験現場に向かって進む文悟の後を夏川も追っていく。

 

「俺みたいなイケメンじゃないのに何故かモテるんだよな」 

 

 文悟はイケメンというよりは田舎にいそうな朴訥な顔をしているのに御幸よりもモテている、野球一筋過ぎて本人に自覚はないが。

 さっきも御幸だって一緒にいたのに何故かスルーされて頼みごとをされたのは文悟なのを根に持っていないが疑問は大きい。

 

「やっぱ投手って目立つポジションにいるからかね」

 

 他のどのグラブとも違うキャッチャーミットに魅力を感じて捕手を始めた御幸も、やはり野球の中で投手が一番目立つ花形ポジションであることは否定できない。

 

「文悟は素人でも分かりやすいぐらいに凄いし、なんか目を引くプレーをするんだよな、アイツは」

 

 恵まれた体格と鍛え上げられた体から放たれる球はど真ん中でも打者が仰け反る程のノビを見せる。人の注目を惹きつける選手はああいうのを言うのだろうと常に思う。

 

「好みが眼鏡をかけた巨乳のお姉さんって辺りで大体が範囲外なんだよな。つうか、礼ちゃんどストライクだし」

 

 男子高校生ならば一度ぐらいは性の話をする機会が有り、その際に聞き出した文悟の好みが特定の人物を指していることに嘘の可能性を疑わないではないが、納得の頷きをした者は多い。男子高校生にとって、美人で巨乳は偉大であるのだから。

 

「おっと、俺も行かねぇと」

 

 何時までも1人思考に耽っていて試験官の役目を果たしていないことが片岡監督にバレたらどんな罰が待っているのか、考えるだけでも恐ろしい。

 御幸はそそくさと移動するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある程度の試験を記録して文悟はブルペンへと向かっていた。

 

「お~い、文悟。こっちこっち」

 

 先にブルペンに入っていた御幸に呼ばれてその横に並び、既に始まっている投手の適性テストを見守る。

 

「今、何人目?」

「2人目。今は松方シニアの東条の番」

 

 投手候補達が一塊になっているので、もう始まっているのかが分からずに聞くと既に1人目は終わっていたようだ。

 噂になっていた全国ベスト4になったことがあるという東条秀明から視線をずらす。

 

「捕手は1人か」

「やっぱり上に俺という絶対的捕手がいるから出番が回ってくる可能性が低いと見たんだろう」

「はいはい」

 

 投手の人数は投げている東条を含めても4人いるが、捕手は受けている1人しかいないようだった。

 捕手は他のポジションよりも専門性が高いので容易にコンバートが出来ない。御幸は雑誌に載るほどの捕手であったから余程の自信が無ければ、青道に来ることは避ける。1人でも来てくれただけで儲け物だろう。

 

「狩場航、だったっけ」

 

 去年、文悟と御幸がやったように、捕手が5球コースを指定して投げ、次に投手が同じ数だけコースを指定して投げている。

 

「文悟から見て狩場はどうだ?」

「普通は同じ捕手である一也の意見が先だと思うんだが」

「投手だからこそ見える物もあるだろ」

 

 御幸に誤魔化されている気がしないでもないが、文悟は東条の球を受けている狩場を改めて見てみる。

 

「良くも悪くも平凡って感じ。リードも何もない現段階じゃ他に言いようがない」

「東条は?」

 

 少なくとも狩場のキャッチングに関しては特に上手いとも下手とも思えなかった文悟に、御幸は投げている東条に対する評価を求めた。 

 

「即戦力とはちょっと言えないけど、来年以降なら戦力になってくれると思う」

 

 狩場が指定した後の投手がコースを指定して、投げている東条のボールを見た文悟の正直な感想だった。

 

「まあ、そうだよな。全体的な平均値(アベレージ)は高いけど高校じゃあな……」

 

 特段、ボールが速いわけでもなく、コントロールが良いわけでもなく、変化球のキレが良いわけでもない。中学レベルとしては合格点だとしても、高校の強豪レベルとして見ると合格点にはほど遠い。

 

「多分、監督も同じことを考えてるはず」

「あの新コーチも?」

「あの人こそ、だろう。夏以降のことを考えるなら有望な1年には唾をつけときたいだろうし」

 

 少し視線をずらせば片岡監督と共にいる中年の男の姿が目に入った。

 

「OBじゃないコーチって、やっぱりそういう(・・・・)ことなのか」

 

 片岡監督から専属のコーチとして紹介された男がこの場にいる理由を2人は薄々と察していた。

 

「OBじゃなくて甲子園常連の紅海大相良で20年コーチをしてた人が専属で来るってことは、学校側が痺れを切らしたってことだろう。甲子園を目的にしてる強豪校ならば珍しい話じゃない」

 

 実際のところ、御幸が気づいて文悟に話したことで認識に齟齬があったことが分かったりしたのだが些末な事である。

 

(前年以上と言われる強力打線と文悟がいて甲子園に行けなきゃ、学校も監督手腕を疑うよな)

 

 御幸が早くに察したのも、夏が終わればごっそりといなくなるクリーンナップのことを以前から考えていたからである。

 幾ら文悟が打たれなくとも、たった1人の投手が全ての試合を投げ切れるわけではない上に点を取れなければ勝つことは出来ないのだから。

 

「でも、甲子園に行ければその話はなくなる」

「実績さえ出来れば片岡監督が離れる理由は無くなるし、丹波さんの調子も上がって来てるしノリも悪くない。不可能じゃないはずだ。寧ろ部員数が多いうち(青道)に専属のコーチがそのまま付いてくれれば大助かりになると思うぜ」

 

 御幸達が前向きでいられるのは、打線は強力で、懸念材料だった投手陣も上向いて来ている。逆に言えば1年生が入る余地がないということでもあった。

 

「ありがとうございました!」

 

 バッテリーが無駄話と取れる話をしている間に東条の投手能力テストが終わったようで、大きく元気な声で帽子を取って頭を下げた。

 

「次、降谷暁」

「はい」

 

 東条が下がって入れ替わるようにプレートに立ったのは長身の降谷暁。

 

「1年にしては背、高いな。俺、負けてそう」

 

 御幸も180㎝近いがギリで届いていない。

 男にとって背の高さは一種のステータスであり、やはり年下に負けるというのは精神的に宜しくない。

 

「文悟と同じぐらいか?」

「さっき近くで立った時は俺の方が少しだけ高かったぞ。1㎝かそこらぐらいの差だろうけど」

「ってことは、183ぐらいか」

 

 文悟が184㎝なので、1㎝程度の差だとするなら降谷の身長はそれぐらいになる。

 

「持ち球は?」

「ストレートだけです」

 

 進行はOBのコーチが行っていて、持ち球がストレートだけと言い切った降谷から文悟へと視線が集まる。

 

「なんでみんな俺を見る?」

「そりゃ1年前の誰かさんを思い浮べるからだよ」

 

 先にテストを行った2人も1つか2つは変化球を披露したので、どうしても直球一本というのは目立つ。しかも、去年の文悟が同じことを言い、衝撃を齎しただけに余計に。

 

「コースは真ん中で」

 

 大物かどうかは初球で分かるし、印象は大きく変わる。

 モーションはゆっくりで深く踏み込むこともないオーソドックスなものだったが、投げられたボールは轟音を立てながら構えていた狩場のキャッチャーミットから外れた。

 

「っ!?」

 

 狩場が急いでミットを上げるも間に合わず、ボールは後ろの壁のネットを揺らした。

 

「…………いやはや、ここまで文悟と似るとはね」

 

 先天性か後天性かどうかはともかく、今の(・・)文悟に準ずるほどの球速と球威は一朝一夕で得られるものではない。

 

「何が?」

「今年の遠投で120mを投げたのは、あの降谷ともう1人だけなんだよ」

「へぇ、今年も2人なのか。去年も俺と一也の2人だったし、毎年2人ってジンクスなのかね」

 

 微妙にズレている文悟の返答に御幸の顔が変化する。

 

「相変わらず天然どうも」

「?」

 

 分かっていなさそうな文悟に詳しく説明するつもりのない御幸が降谷に視線を戻すと、片岡監督の姿が見えた。

 

「御幸、降谷の球を受けろ」

「俺がですか?」

 

 座り込んだまま動けない狩場の下へと向かって何かを話した片岡監督が振り返って言った内容に御幸は驚いた。

 

「狩場では降谷の球を受けられん。それではテストの意味がない」

 

 狩場のテストは2人の投手候補を受けた時点で既に終わっていると言っても良い。

 1年捕手が他にいない以上は御幸が受けても支障はない。

 

(まさかその為に俺をテストに関わらせたんじゃ……)

 

 希望ポジションは入部届の時点で提出させられているので、1年捕手が1人なことは分かっていた。

 御幸としては有望な1年探しのつもりだったが、片岡監督は万が一のことを考えてテストに関わらせることを選んだのではと邪推してしまう。

 

「分かりました」

 

 とはいえ、降谷の球に興味があるのは事実。

 早い段階で受けれるのならば、それに越したことはないと御幸は足を踏み出した。

 

「頑張れ、新1年生」

「うっせぇ」

 

 用意を手伝ってくれた文悟の茶化しを返しつつ、プロテクター類を身に着けてブルペンへと戻る。

 

「遅くなりました」

 

 時間がかかるのは当然であるが、それを当たり前とせずに言葉を忘れない。

 片岡監督と落合博光新コーチに見られながら東条とキャッチボールをしていた降谷が御幸を見る。

 

「よろしくお願いします」

「ああ、よろしく」

 

 自己紹介では自分に受けてもらう為に青道に来たと降谷が言っていたことを、今更ながらに思い出した御幸は片岡監督を見る。

 

「コースとかはどうしますか?」

「もう一度最初からだ」

 

 つまりは捕手である御幸がコースを指定する必要があるということである。

 

「じゃあ、もう1回ど真ん中からいってみようか」

「はい」

 

 降谷の性格はまだ掴めない。

 一からやり直すというならば、ここしかないだろうというコースを選択する。

 

(さて、本物かどうか)

 

 先程の球がただの偶然かどうかは次の一球で分かる。

 やはり降谷は緩やかなモーションで動き、先程よりも球威を増した剛速球が御幸が構えていたど真ん中から大きく外れた上へと逸れていく。

 

「おっと」

 

 文悟のボールを受け続けた御幸に取って驚くような球威と速度ではない。

 もっと凄い物を間近で知っているのだから、もしも後ろに審判がいれば成人男性の立っている顔辺りの高さのボールを難なく捕球する。

 

「次、外角低め」

 

 ボールを投げ返しながら次のコースを指定すると、降谷はポカンとした顔で取り落としていた。

 

「ほれ、早く投げろ」

「…………はい」

 

 外角低め、内角高め、外角高め、内角低めと指定するも、降谷が投げたボールは指定された場所から大きく外れる。

 

(こいつ、ノーコンタイプか)

 

 球速と球威は何の問題は無くとも、こんなにもコントロールが悪くては試合で使うことはできない。

 

「真ん中、行きます」

 

 制球力が課題と心のメモに記して、御幸の中で降谷を即戦力の欄から外そうとしたところで構えたところにボールが入って来た。

 

「外角低め」

 

 御幸が指定したコースをなぞるように放たれたボールは外角低めというにはズレた。このズレを許容出来るかどうかは人によって差があるだろう。

 その後も内角の高低と外角高めはピタリとキャッチャーミットに収まることもあれば、大きく外れたこともあった。

 

(う~ん、微妙な)

 

 嵌れば凄いが、外れる時はこちらの予想も超える時もある。イマイチ判断の難しい投球だった。

 

「お疲れ」

 

 御幸も片岡監督も何も言わないのが若干不安なのだろう。投げる前も後も表情を殆ど変えなかった降谷が下がりながら不安そうにしていた。

 

「次は沢村――」

「真打は最後に登場するもの!」

 

 4人目の投手として呼ばれかけた沢村栄純が、その名前が言い切られる前に大声で登場する。

 

「青道のエースに成る為の第一歩! 沢村栄純の名をみんなの心に刻んで見せるぜ!」

 

 コーチの言葉を遮っておきながら気づいてもいない様子の沢村は無駄に自信満々な様子で宣言する。

 

「あ~、俺は代わります?」

「何故!?」

「だって、あくまで臨時だし」

 

 片岡監督に聞いた御幸としては当然の流れだったが沢村にとっては違ったらしい。

 

「時間がかかり過ぎる。受けてやれ」

 

 狩場はプロテクター類を外してしまっているので、片岡監督は御幸に続行を指示した。

 

「持ち球は?」

「男は真っ直ぐ一本のみ!」

「だから、なんでそんなに自信満々なんだよ……」

 

 今はプロになっている東清国に投げた時といい、沢村の自信がどこからやってくるのか不思議で仕方ない御幸だった。

 

「らっ!」

 

 半年前と同じく、ストレート一本と言いながら打者の手元で上下左右に変化するムービングボール。

 

(相変わらずの汚いストレートだ)

 

 しかも、半年前よりもクセ球のキレが増している。

 キレが増したムービングは取る方からしたら堪ったものではない。打者が打ち難い球とは即ち捕手が取り難い球でもあるのだから。

 

「次は外角低めですね!」

「お前が指定するなよ。いや、そうだけどさ」

 

 別にコースを変更する理由も無いので御幸も文句を言いつつも、外角の低めにキャッチャーミットを構える。

 

「オイショーッ!」

 

 変な掛け声と共に投げられたボールは予測も出来ない変化を見せて外角低めからズレる。

 

(黙って投げられないのか?)

 

 と、思いつつも御幸はあくまで手伝いの捕手の立場でしかない。黙って球を受け続ける。

 

「待て」

 

 先に投げた降谷を意識して速い球を投げようとして沢村はフォームが崩れていた。これはあくまでテストなので御幸が言うべきか迷っている間に5球を終えたところで、片岡監督が止めに入った。

 

「速い球を投げようとして逆に体が開いている。これ以上、続けてもフォームを崩すだけで無駄だ」

 

 投手として速い球は大きな基準であるから意識しない方が難しい。

 高校時代は投手として甲子園準優勝し、母校に恩返しをする為にプロに行かずに母校に戻って来た片岡監督にはその気持ちが良く分かる。このままでは沢村がフォームを崩してしまうと止める。

 

「俺はまだやれます! 大体、まだ後5球あるじゃないですか!」

 

 理論的に説明されてもバカな沢村は納得できない。

 が、沢村の理屈も一理ある。幾らフォームを崩しているとしても、既定の10球まで半分しか行っていないのだから。

 

「沢村の言う通りですよ、監督」

 

 と、言いつつも御幸は無策ではない。

 沢村のムービングはクリスのダウングレードしたトレーニングメニューをしっかりとこなしたようで、ある程度の土台が出来てキレを増している。コントロールはまだ悪いので即戦力とまではいかないが、先輩として少しぐらいのアドバイスをするつもりだった。

 

「いいか、沢村」

 

 沢村の下へ向かった御幸は口火を切る。

 

「幾ら力を込めても速い球は投げられない。先天的な物もあるしな」

「俺にはその先天的なものがないってことですか?」

「まあ、聞け」

 

 先輩をするのも楽ではない。

 憮然とした面持ちの沢村に持っているミットを突きつけた。

 

「重要なのはグローブを持つ手の方だ…………って、言っても分かんないか」

 

 チンプンカンプンという様子の沢村に、捕手の自分では上手く実演できないので御幸は横を向いて文悟を見た。

 

「文悟、ちょっと沢村に見本を見せてやってくれ」

「見本って言われても」

「投げ方を見せてくれればいいって。うちの部に他にサウスポーって文悟しかいないし」

 

 文悟は人に披露できるほど熟達していないと本人は思っている。

 今は沢村にグローブを持つ手の使い方を見せるだけなので、同じ左投手の沢村からミットを借りる。

 

「グローブが小さい」

「ぐぬぬ……」

 

 身長が10㎝近くも違えばグローブのサイズも変わる。

 グローブは使い続ければ本人の手の形に合うのだから、沢村のグローブが文悟の手に合うはずもないのだが何か負けた気がしたようで嫉妬を抱えた顔になっていた。

 

「じゃあ、やるよ」

 

 窮屈な沢村のグローブを嵌めた文悟がボールは持たずに投げるモーションに入る。

 

「ストップ」

 

 右足が踏み込んだところで静止がかかり、多分そうなるだろうと予測していた文悟は動きをピタリと止めた。

 

「体重移動した体を支える右足と、その力を逃さず溜めておく右手が壁を作るイメージをしたら分かりやすいと思う」

 

 文悟の近くへ行って右足とグローブを持つ右手を指し示しながら具体的にイメージを伝える。

 

「弓矢みたいにギリギリまで体の溜を作って、下半身から伝わるエネルギーを一気に振り抜く…………でしたよね、監督」

「その通りだ」

 

 去年、文悟の剛速球に影響されて速い球を投げようとフォームを崩していた前の3年投手の1人にアドバイスしていたのを偶々近くで御幸は見ていて覚えたのだった。

 

「へぇ」

 

 感心している沢村の後ろで降谷や東条に金田忠大も文悟のモーションを真似している。

 

「でも、壁を作るイメージってどうやったらいいんすか?」

「言葉通りのまんまなんだが…………文悟はどうやってる?」

「俺はグローブの先に壁があると思い込んでる。イメージしずらいなら壁じゃなくて、グローブが動かないように考えてみたらどうだろう」

 

 壁を作るイメージが湧かない沢村は文悟の意見を聞いて返してもらったグローブを動かないようにするにはどうしたらいいか考える。

 

「はっ、パントマイムっ!?」

 

 取りあえずグローブを動かさない感じで体を動かすも、何かが違う気がした。

 

「モーションの途中でグローブは全く動かさないわけじゃないぞ」

「グローブを動かさないって言ったのに!?」

 

 御幸のツッコミに沢村は余計にこんがらがってきた。

 

「ほれほれ、時間は無いんだ。試行錯誤はまた後にやってくれ。今はグローブを止めると意識して投げてみな」

 

 あまり長引かせると片岡監督に悪印象を植え付けてしまう、と御幸に耳打ちされて沢村はその背を見送ることしか出来なかった。

 

「駄目で元々! ど真ん中行きます!」

 

 人はそれをやけくそになったと言う。

 右手を意識すると手に力が入ってしまい、沢村は無意識にグローブを握り潰しながら投げた。

 

(え!?)

 

 これはフォームを崩す悪循環になるかな、と沢村が混乱したまま投げる姿を見て諦観していた御幸の反応が遅れた。

 左腕が遅れて振り抜かれたことで軌道が予測できず、ど真ん中から大きく外れたボールは御幸が必死に伸ばしたミットを霞めて飛んで行った。

 

「ぬわぁっ!? どうしてだっ!!」

 

 本人はどんなフォームで投げたのか自覚はなかったのだろうが、受けた御幸と先程実演した文悟、片岡監督と落合コーチは気付いた。

 

「…………あんな窮屈な投げ方でまともに球を投げれるとは、よほど天性の柔軟な肩を持っているんでしょうな」

 

 東条はキープ、唾をつけるのは降谷で、信頼を得るのは正捕手の御幸とエースの文悟と心に決めていた落合コーチですら沢村を見る目を変えた。

 

「沢村、今の感じでもう1回投げて見ろ」

 

 同じく見る目が変わった御幸に言われて、残り4球を投げた沢村の暴走振りを見た落合コーチが過大評価だったかと思うほど酷いものであった。

 

 

 




入学前から文悟という目標を持っていたのとクリス製トレーニングメニューをこなしていたので土台は出来ている沢村栄純。
新フォームに目覚めた模様。

次回は『真中を打ち落とせ』


評価・感想待ってます。

 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。