ダイヤのA×BUNGO   作:スターゲイザー

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春の都大会準々決勝、青道vs市大三高

真中:センバツを一人で投げ切ってベスト8、都大会でも前の試合で稲実に投げたかもしれない(前半確定、後半は本作設定)

文悟:前の試合は丹波・川上のリレーで勝利。準備万端エネルギー100%、秋の雪辱を果たす為にポテンシャルが120%に上昇。

パワプロ的に言えば、真中を含めて市大三高が絶不調、青道が絶好調状態。

その結果は如何に。




第十七話 真中を打ち落とせ

 

 

 

 春の都大会準々決勝が行われている明治神宮球場に沢村栄純はやってきた。正確には連行されたのである。

 

「何をそんなにムクれてるのよ、栄純」

 

 自校の公式試合を応援に来たというのに不満そうな沢村に、隣に座ったマネージャーが肩を小突く。

 

「うっさい。大体、なんで若菜が青道にいるんだよ」

 

 地元の高校に進学したはずの蒼月若菜が青道に入学しているのを知ったのは入学式の後のことであった。

 仲間達と共に三好高校に進学したとばかり思っていたから若菜の姿に沢村は盛大に驚いたものである。

 

「受験してみたら受かったから」

「だから、その受験した理由をだな」

「どこを受けようと私の勝手じゃない」

 

 幾ら幼馴染といえど他人なのだから若菜の進路に沢村が口を出す権利はない。しかし、その理由を教えてもらえないのでは沢村といえど機嫌が良くなるはずがない。

 

(栄純が心配だからだなんて言えるわけないじゃない)

 

 若菜が沢村に理由を話せないのは、青道への進学を決めた契機が好意に発したものであったから。

 

(エースの人みたいに怪我してでも投げようとしそうだから私が止めないと)

 

 秋の大会の青道の試合を沢村と共に観戦した際、デットボールを受けたエースは負傷しても投げ続けた。

 沢村を良く知る若菜だからこそ同じ状況になればどうなるかが簡単に想像がつき、いてもたってもいられずに青道への入学を決めた。最も大変だったのは親の説得であったが東京に親戚がいたお蔭で認めてもらうことが出来た。

 

「俺はフォームを固めたいのに、観戦は希望者だけだったのに若菜が無理やり連れて来るから」

 

 あのテストの後、改良フォームの改善点を示されて継続していくように片岡監督から直々に言われた沢村は日夜シャドーピッチングを行っていた。

 ここ数日になって特に手応えを感じていただけに、試合を観戦するよりも練習したかった。

 

「今日の試合の相手があの秋の相手だって知ってる?」

「何ッ!? あの市大三高だってのか!」

「うん」

 

 妙に先輩達は気合入っているな程度にしか考えていなかった沢村はその理由を教えられて目を剥いた。

 

「言うべき言葉は?」

「ありがとうございました!」

 

 沢村は秋の大会後、再試合で青道に勝利した市大三高がセンバツで戦う姿を自宅のテレビで若菜と見た。

 自分ならどう投げるのか、どう打つかを考えたものである。

 

『1番ショート、倉持君』

 

 沢村と若菜が話している間に市大三高の選手紹介が終わり、青道の番になっていた。

 

『2番セカンド、小湊君』

 

 聞き覚えのある苗字に沢村は視線を横へとずらした。

 

「…………分身?」

「なんでその結論に至るの? 僕の兄だよ」

 

 若菜とは反対側に座る少年がグラウンドにいる小湊とあまり差異がなかったからといって頓珍漢な疑問に、小湊春市は呆れ顔を見せる。

 

『3番センター、伊佐敷君』

「うぉおおおおおおおおおおお!!」

 

 スピッツっぽい人が雄叫びを上げているのに気を取られた沢村は春市の顔を見ていなかったが。

 

『4番ファースト、結城君』

「あ、ごめん。なんだっけ」

「もう、いいよ……」

 

 紹介が続いているので長々と話を続けるのはどうかと思った春市の方から諦めて打ち切った。

 

『5番ピッチャー、石田君』

 

 文悟の名前がコールされた瞬間、球場のあちこちから歓声が起こった。

 

「な、なんだっ!?」

 

 センバツベスト8の市大三高の時よりも明らかに歓声が多くて、沢村は驚いて辺りをキョロキョロと見渡してしまう。

 その理由は直ぐに春市が教えてくれた。

 

「秋の大会でデットボールさえなかったら市大三高と青道は逆の立場になっていたって言われるぐらいの投手だもの。後、速い球を投げる投手って人気らしいから」

「そうなのか……」

 

 確かに沢村も秋の青道の試合とセンバツのテレビ放送を見ている時、速い球を投げる投手の方が見ていて楽しかったのでその気持ちは良く分かる。

 

「後、西東京のトップスリーの市大三高と再戦が早くも来たからっていうのもあると思う」

『6番キャッチャー、御幸君』

「因縁の相手再びだもんな」

 

 分かる分かる、と御幸の紹介を全く聞いていない沢村は秋の試合を実際に見たことと、今は自分も青道の一員なので市大三高を目にすると敵愾心がメラメラと燃え上がって来る。

 

「うう、俺も試合に出たい!」

 

 きっとドキドキハラハラした物凄い良い試合になると沢村は勝手に考えて思いの丈を叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カキン、と金属バットが白球を打ち上げて高々と明治神宮球場の空を舞い、ライト寄りのセンター方向のフェンスを越えてバックネットに突き刺さった。

 

「うぉおおおおお行ったぁああああああああ!!」

 

 唖然である。呆然であった。そして最後は喝采を上げた。

 

「初回、いきなりの満塁ホームラン!!」

 

 センバツで連戦したことで疲れ切っている真中要から間に犠牲フライを挟んだとはいえ、ヒットや四球で塁に出続けて満塁になって6番の御幸がホームランを打ったのであった。

 それからも打線は爆発して点が入りまくった。

 

「初回で10点か……」

 

 見ているだけで市大三高が可哀想になってくるほどに青道の打線が爆発しまくった。

 

「これで増子先輩が出てたらどうなったんだ?」

 

 同室の倉持洋一から増子透が試合でエラーをしてスタメンを外されたと聞いている。

 代わりの選手がアウトになったことを考えると、体格から見てもパワーがありそうな増子が出場していたらと考えてしまう。

 

「分からないけど、このままのペースだと5回コールドになるんじゃないかな」

 

 満塁ホームランでは全員が諸手を上げ、ビックイニングに喜んでいた部員達も徐々にトーンダウンしてしまうほどに圧倒的だった。

 なにかもう勝ったな的なムードが新入生の間で流れているが、ここでひっくり返ってしまう経験を幾度も嫌になるほど特に経験してきた3年生は慎重にマウンドに上がる文悟を見遣る。

 

「頑張れよ、文悟!」

 

 学年ごとに別れて観客席に座っている中の2年生のところから一際大きな応援の声が響いた。

 

「大きな声の人だな」

「応援してるんだから当たり前でしょ」

 

 若菜が言うように応援とは声が大きくてなんぼのものだが、沢村は何故か不思議とその声が気になった。

 

「僕の同室の前園先輩。ちょっと強面だけど良い人だよ」

 

 その後も続く声援に坊主頭の巨漢の後ろ姿を見ていると、声の主を知っていた春市が説明してくれた。

 

(スタンドにいるってことは二軍か三軍か)

 

 青道は途中退部者は殆どいないと聞いた。一軍は2年と3年ばかりだからスタンドにいるのは、都大会が始まったのが入学前で選手登録が絶対に間に合わない1年生が自然と多くなってしまう。

 沢村がそんなことを考えていると、ズドンと太鼓の音のような腹の底に響く大きな重低音が球場全体に響いた。

 

「うわっ」

 

 余所見しながら別のことを考えていた沢村はその音に驚いて体をビクリと震わせた。

 

「今日の文悟は気合入っとるなぁ」

「やっぱ秋のことがあるから気合も入るだろ」

「ここ最近で最速じゃないの?」

「スタンドから見ても打てる気がしねぇ」

「相変わらずエグ過ぎるストレートだぜ」

 

 2、3年の中からそんな声が漏れるほど、今日の文悟はスタンドから見ていても気迫溢れる雰囲気で、投げられたストレートも異常としか思えないほどのノビを見せていた。

 

「三者三振か」

 

 場所は変わって文悟の球を受けていた御幸は因縁の相手である市大三高の1番から3番までを圧倒した投手と共にベンチへと戻る。

 

「外角の出し入れも出来るぐらい絶好調じゃないか、文悟」

 

 コントロールが良い文悟もその日の調子によっては制球が微妙に定まらないことがある。

 逆に絶好調の時は120%の力を発揮してもボール1個分ずらして投げ分けるなんてことも出来る。そして今がその絶好調な時であった。

 

「これだけ点差がついてんだから、もう少し力を抜いてもいいんだぜ」

「1点もやるつもりはないよ。完全試合のつもりで行く」

 

 実際、センバツを投げ抜いて疲労が全然抜けていない様子の真中と、今の絶好調状態の文悟ならば5回コールドで参考記録ながらも完全試合をするのは難しくはないだろう。

 

「勿体ねぇ」

「は?」

「今の市大三高に勝ったからって秋の屈辱を晴らすことにはならねぇだろ」

 

 球場に向かう前に学校で片岡監督が『受けた屈辱は10倍にして返すぞ』と宣言しているのに、思いっきり逆のことを言っている御幸にベンチ中の視線が集まっているが本人が気にしている様子はない。

 

夏の大会(本番)で当たることを考えて圧倒して格付けしておくのは悪いことじゃないとは思う」

 

 参考記録ながらも完全試合をすれば、打たれまくった真中は勿論のこと打てなかった打者達も文悟に苦手意識を持つ可能性がある。もしも、夏の大会で当たったら有利に運ぶことになるだろう。

 

「手を抜けとまでは言わねぇよ。秋や夏に比べて春の大会の意味合いは決して高くないからって負けて良いなんてことは絶対にない」

 

 プロテクター類を外している御幸だって市大三高に完全試合をくらわしてやれば胸がスッとする。

 

「まだ準々決勝(・・・・)なんだ。センバツで疲れてる市大三高に文悟が120%の力で戦う必要はねぇよ。80%で十分に抑えられるって」

 

 打たれそうになったら出力上げればいいしな、と続けた御幸に文悟は片岡監督を見る。

 片岡監督は打たれまくった真中がライトに島流しに遭い、代わった次の投手からホームランを打っている伊佐敷純を見遣って、最後に得点ボードを見る。

 

「12点差か…………1点でも取られたら御幸は交代だ」

「つまり、点が取られない限りは俺の意見が採用されるってことですね」

 

 次のバッターである結城哲也が長打で二塁ベースに進んでいる間に御幸も準備を進める。

 

「って、わけで次の回からペース落としていくぞ」

「…………分かった」

「不満そうだな」

「俺は10倍よりも1万倍ぐらいにして雪辱を果たしたかった」

「完封コールドゲームにしたら十分だって」

 

 後を見据えて手加減して投げろという御幸か、完全試合をしようとする文悟か。どちらが市大三高に取って酷いのかは人によって変わるだろう。

 

「この回で後4、5点取れば相手の心も折れるから80%で完全試合にしよう」

 

 時間も無いので2人の合意は折衷案で可決された。

 

「行った、ホームラン!」

 

 打者として手加減は必要なし。投げる方が絶好調な時は打つ時も絶好調であった。

 センター方向に2ランホームランを放った文悟が帰ってきた後、御幸が打席へと立ち、直ぐにそのまま戻って来た。

 

「一也はランナー居ないと本当に打たないな」

「その前の打席で満塁ホームラン打ったんだから勘弁してくれ」

 

 ランナーが居ない時は自動アウト製造機とまで言われる御幸はそう言って文悟から目を逸らす。

 

「真中さんならもう一発行けたのに……」

 

 ぐぬぬ顔をしてライトにいる真中を逆恨みする御幸であった。

 今日の文悟の様子からして今日は出番がないだろうと1人で思っていた丹波が幼い頃からのライバルが雑魚扱いされて表情を曇らせる。

 

「で、5回の裏までノーヒットで来たわけなんだけど」

 

 回毎に投手を炎上させて交代させたことで、取るも取ったり17-0という強豪同士とは思えない点差で5回の裏に文悟は遂にランナーを出してしまった。

 

「変化球無しと80%のストレートでこれは上出来じゃね?」

「御幸が厳しいコースを要求し過ぎ」

「流石に2巡目になればストレートしか投げないって分かるだろうし、必然厳しいコースをついていくしかないだろ」

「それで四球(フォアボール)出してたら意味ないって」

 

 これだけ点差があると諦めムードを出す者、奮起する者などに別れているので御幸からすれば一巡目は料理するのは簡単だったが、流石に変化球もなしだと合わせられることが増えて来た。

 幸い球威と球速は抑えようとも絶好調なことには変わらないので抜群のコントロールを活かし、コーナーをついていたが少し狙い過ぎたかもしれない。

 

「しゃあない。ここでヒットを出すのも気持ち悪いし、ストレートだけは出力上げたのも混ぜよう」

 

 120%は出させる気はなく、今の乱れまくっている市大三高相手ならば80%と100%のストレートで十分に惑わせられると御幸は判断した。

 

「ランナーは意地でも先の塁に進みたがるだろうから、初球は外してランナーを刺す。それで1アウトだ」

「思いっきり外すぞ」

「任せろ」

 

 物凄く微妙そうな顔でホームベースに戻っていく御幸の姿を見送った文悟はロージンを手に取る。

 

「!」

 

 クイックは苦手なので心持ち早めぐらいのモーションに入ると、御幸が言ったようにランナーが走り始めた。

 

「ボールセカンッ!」

 

 右打者から最も遠い場所に放り、御幸は立ったままボールを捕球して二塁へと投げた。

 

「っ!?」

「はい、お疲れさん」

 

 ショートの倉持が危なげなくボールを捕球してスライディングも出来ない好送球に呆然としているランナーにタッチする。

 

『青道! 青道! 青道! 青道! 青道!』

 

 目立つプレーに球場に青道コールが鳴り響く。

 

「目立ちたがりめ」

 

 倉持からボールを受け取って球場の空気が完全に青道が握ったのを感じ取った文悟は次の打者へと意識を切り替える。

 

「ゲームセット!」

 

 残る2人を無駄玉一切なしの3球三振に切って取り、試合は大方の予想を大きく裏切って終わるのだった。

 

「センバツベスト8の市大三高有利の下馬評が、終わってみれば17-0で青道の5回コールド勝ちになるとは」

「しかも、幾ら疲労があるとしても参考記録ながらもノーヒットノーランで」

「毎年の課題だった絶対的エースが居て片岡監督も安心だろう」

「2番手投手の丹波君も調子を上げているし、この強力打線もあれば全国制覇も夢じゃないかもしれないな」

「これで去年の石田君や御幸君のような掘り出し物が1年生に居たら稲実も危ないかも」

 

 今までにないほどの戦力の充実を見せる青道が再び全国にその名を轟かす日も遠くないと、球場にやってきた誰もが思ったのだった。 

 

 

 




去年の秋に、死球を受けても投げ切った文悟の姿に不安を覚えた若菜が青道入り。でも、あまり目立たない。マネージャーだから仕方ないね。

春の都大会準々決勝、青道vs市大三高は17-0で五回コールド。

これも仕方ないね。

次回『紅白戦ver.2』


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