ダイヤのA×BUNGO   作:スターゲイザー

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前提条件:降谷の剛速球と沢村の出所の見えない新フォームによるムービングを一年捕手である狩場では取れない。

では、どうするのか。




第十八話 紅白戦ver.2

 

 

 

 市大三高に雪辱を百倍にして返した翌日、片岡監督が朝練の時に集まった部員達の前で言った。

 

「1年と2、3年で紅白戦を行う」

 

 青道野球部において片岡監督の決定は確定事項である。

 朝食後に全学年の部員が試合の行われるAグラウンドに集まる中で、市大三高戦で出場した選手はオフであったが三々五々に動いていた。

 

「文悟はどうする?」

 

 オフなのに普通に練習着を着ている石田文悟に御幸一也が訊ねる。

 

「投げるのは禁止されてるし、ウエイトでもやろうかなって」

 

 同じように練習着を着ているからトレーニングするつもりなのだろうと、Aグラウンドまで一緒に付いてきた御幸に文悟は言った。

 

「おいおい、1年が気になんないのかよ」

「1年のことよりも自分の能力を上げないと」

「真面目君だねぇ…………よし、面白いことを教えてやる」

 

 絶好調時の80%でも、疲れている強豪校には打たれると分かったのでトレーニング一択だった文悟は御幸の耳打ちに表情を一変させた。

 

「それ、本当か?」

「マジマジ。狩場、だったけかがテストの時に降谷のストレートを取れなかったのは見てただろ。試しに沢村のあの変則フォームのボールも試したら駄目だったんだと」

「だからってそんなことありか? ありえないだろう」

 

 テストの時のことを思い出した文悟は無理からぬことと思いつつも、御幸の耳打ちの内容を容易には信じられなかった。

 

「例年通りなら1年は全員出すとしたら、本当かどうかは見てれば分かるって」

 

 御幸の言うことは一理あった。

 文悟は少し考えた後で見学の人になることを決めた。

 

「1年と2、3年の紅白戦か。俺達は出れなかったよな」

「もう一軍入りしてたから日程が合わないのは仕方ないって」

 

 耳打ちの内容とは別に、1年生の時は一軍入りしていたから参加したら著しくバランスを崩すとして出場できなかったこともあって見る気になっていた。

 

「参加出来ない方がいいんだけど」

 

 大体、大事な試合の後とかの主力がオフの時にこの紅白戦は行われるので、参加出来ない方が良いという意味はスタメンであり続けることを表明していた。

 この紅白戦の空気を外からしか感じることの出来ない文悟達の視線の先で1年生達が緊張していた。

 

「やべぇ、緊張してきて手が震える」

「俺だって昨日、寝れなかったよ」

 

 同じ1年生の言葉に同調しながら金丸信二は対面のベンチを見て体を震わせる。

 

「まさか入部して1ヶ月足らず俺達が上級生相手に試合するなんて」

 

 緊張で凝り固まっている1年生達をOB等のギャラリーが見つめていた。

 

「うぅむ、まさかこんな早い時期に1年生の力を見るとは」

「青道にしては珍しいですが、去年の石田や御幸のように掘り出し物がいるかもしれませんから片岡監督の気持ちも分かります」

 

 ギャラリー達の視線の先で主審を務める片岡監督が1年生達がいるベンチへと向かう。

 

「準備はいいか?」

『は、はい!』

「1年生には全員出場のチャンスを与える。何時でも行けるように各自アップを済ませておけ」

『はい!』

 

 1年生達が緊張しながらも返事をしたのを見届けた片岡監督は主審として動く。

 

「1年生チーム先攻で試合開始!」

 

 2、3年生チームの投手としてマウンドに上がったのは、市大三高戦で出番が無かったので志願した丹波光一郎。

 

「ふしっ!」

「わっ」

 

 1年生の1番打者は丹波の縦カーブが体に向かって来ると思って避けたところでボールにブレーキがかかり、大きく変化して滝川・クリス・優が構えたミットに収まった。

 

(カーブの精度は抜群。後はストレートが良ければ問題なしだが)

 

 続けて投げられた内角低めは構えたミットよりも若干浮いたがノビのある良いストレートである。

 

「ナイスボール!」

 

 現在開発中のフォークはまだ他校相手に使える段階にはないが1年生が相手ならば試験台としては十分。

 

「しゃあっ!」

 

 カーブに比べればフォークの精度は数段劣る。丹波の求めている領域には遥か遠い。

 1年生相手とはいえ3球種を織り交ぜて一度もバットに触らせもせずに三者連続三振に取れたことは、丹波にとって小さいながらも自信となるだろう。

 

「どうだった、俺のフォークは?」

 

 ベンチに戻ると丹波から評価を聞かれたので、クリスは一瞬考えた。

 

「辛口か普通、優しめのどれで答えてほしい?」

「か」

「ちなみに辛口は文悟仕様な」

「…………普通で」

 

 ここで辛口と言えないのが丹波の欠点であった。

 

「辛口と言えなければエースの座は奪えないぞ」

「エース以前に自信を無くしたくはない」

 

 クリスと御幸の文悟に対する批評は傍から聞いていた丹波ですら心が折れそうなレベルなので、文悟仕様の辛口を向けられて自信を失わない気がしなかった。

 

「じゃあ、普通に評価するが」

 

 プロテクター類を外しながら、クリスは三球程度しか投げていないフォークを思い出す。

 

「現段階で通用するのは2、3回戦レベルぐらいまでだ。元々、70球を超えたらコントロールが甘くなる丹波の性質を考えると、多投すればそのレベルにも打たれるようになる」

「3ヶ月で精度を高めればどうだ?」

 

 本戦まで3ヶ月以上あった。

 

「稲実相手にも使える武器になるだろう。フォークは見せ球にするという前提条件になるがな」

 

 文悟がカーブを習得してから焦ってフォークを覚えようと思って投げ過ぎて怪我をした秋の大会のことを考えれば、現状は十分な手応えがある。

 

「不満だろうが、お前のカーブの完成度は全国レベルなんだ。主軸はカーブになる。だが、どんな変化球を投げれようともストレートがイマイチでは何の意味もない」

「変化球ばかりにうつつを抜かすなと言いたいのか」

「さっきも浮いていたからな。一言言わずにはいられなかったんだ」

 

 言って、クリスは5番打者として打席へと向かって行った。

 

「同じことを御幸に言われたら腹が立つのだろうが、クリスだとやはり違うな」

 

 あっという間に自分を追い越して行った文悟といい、クリスに代わって正捕手に成った御幸の胆の据わり具合といい、下の学年の突き上げに負けるものかと丹波は1人で決意を固めていた。

 

「俺がなんだって?」

 

 今さっき打席に向かったはずのクリスがもう戻って来たので丹波は目を丸くした。

 

「随分と早いな」

「連打を打ち込まれているからな。コースも球威も甘過ぎだった」

 

 ヘルメットを外しているクリスを見ながら隣に座っていた宮内啓介は丹波の左肩に手を置いた。

 

「満塁ホームランを打っといて、この余裕だぜ。クリス完全に復活だな」

 

 丹波がスコアボードを見れば2、3年のところに5点入っていた。

 

「この調子だと丹波まで打順が回って来るから準備をした方が良い」

 

 クリスの言葉通り、打順はもう一回りしたところでようやく1回が終わった。

 

「初回で15-0か。思ったよりも点差がついたな」

 

 1年生の投手は松方シニアで全国ベスト4にまでなった東条秀明である。

 まさか昨日の真中要よりも打ち込まれるとは想像だにしていなかった東条はもう限界だった。その様子を見た1年生チームの暫定監督である落合博満コーチは口を開いた。

 

「東条、交代を希望するか」

「は、はい……」

「じゃあ、次は金田がマウンドに上がれ」

 

 2回の表も丹波はストレートとカーブを主体に、時折フォークを織り交ぜた投球で1年打者に一度も触れさせずに三者三振の6連続三振。

 

「うわぁあああああああああああ!? 止まらねぇ!!」

「もう勘弁してくれよ……」

 

 マウンドに上がった金田忠大は打たれに打たれ、更に追加点が入ったところでようやく回が終わった。

 

「丹波、交代。川上、マウンドに上がれ」

「はい!」

 

 丹波の調子が良いのは分かったので、これ以上マウンドに上げておく理由はなく、これまた志願した2年の川上憲史が引き継ぐ。

 

「す、すげぇ……これが高校野球……」

 

 丹波のように三者三振とまではいかないが、厳しい守りを一度も抜けることが出来ず打者3人でシャットアウト。

 反対に代わった金田も1回で折れた東条と違って2回分投げたが、大量点を取られて誰の眼から見ても限界だった。

 次は4回だが、35-0という野球とは思えないスコアに1年生チームに覇気はない。

 

「みんなして何だよ、おい!まだまだ試合は始まったばかりだぞ!!」

 

 試合に出ていた者だけでなく、ベンチまで一様に絶望的な表情を浮かべる中で沢村だけは発奮していた。

 

「まだ後7回もあるんだ。先輩達が2回で出来たことを俺達が出来ないはずがない!」

「お前、ちゃんと試合見てたのか!?」

 

 サードを守っていた金丸は打球の速さ、走塁、スライディング、投手が投げる直球の速さも変化球のキレも何もかもが中学とは次元が違う。

 

「ああ、見てたとも」

 

 試合に出ていなかったからこそ、沢村にはもっと絶望的な物が見えていた。

 

「でも、あの人達だってレギュラーじゃないんだぜ」

「っ!?」

 

 沢村達にとっては次元違いと思える2、3年生たちも、一軍にいる者もいるがスタメンではないのだ。

 

「ここで臆しているような奴が上へ行けるわけがねぇだろ。俺はこの学校に自分の力をぶつける為に来たんだ。エースに成る為に諦めてたまるか」

 

 後で同室の倉持から聞いた話だが、市大三高戦で文悟は途中から80%に力を抑えていたという。

 その状態の文悟にも遥か及ばないと思ったのに、こんなところで足踏みしている暇はない。

 

「1年生全員を入れ替える。我こそはという者はいるか」

「僕が投げます」

「は……って、おい!?」

「いいだろう、降谷。マウンドに上がれ」

「ノォオオオオオオオオオオオオっ!?」

 

 ベンチの中で鼻提灯膨らませて寝ていた降谷暁が誰よりも早く立候補したので、この場で言えた者を落合も優先的に決めた。

 一歩遅れた沢村はムンクの如き叫びで絶望する。

 

「僕もやります」

「小湊春市か、セカンドに入れ」

「はい」

「軍曹! 俺も!!」

「何故、軍曹? まあ、いいだろう、ライトにつけ。降谷の後に投げてもらう」

 

 その後は本人達は絶対に認めないだろうが沢村に発奮させられた希望者でポジションは大体埋まった。

 

「しかし落合コーチ、全員代えるとなるとキャッチャーがいません。仮に狩場を続投させても降谷の球を取るのは」

 

 1年生の捕手は狩場航の1人だけ。交代しようにも人員がいない。

 狩場が降谷と沢村の球を取れないことは首脳陣にも周知の事実なので、落合は主審をしている片岡監督を見る。

 

「問題ない。クリス!」

「はい」

「1年の捕手をやれ」

「分かりました」

 

 1年生の中に3年のクリスが入ってしまうが、降谷の剛速球を取れるのは正捕手の御幸を除いてクリスか宮内しかない。

 既に1ホーマーと3安打で、打点こそ2ホーマーの増子に劣っているものの、5番の仕事は十分に果たせている。活躍という点では十分だったので、2、3年チームの捕手を小野弘に任せて移動する。

 

「降谷暁、球種はストレートだけだったな」

 

 どうして知っているのだろうかと降谷はマウンドに来たクリスを見て思ったが、口数が多いタイプではなかったので頷くに留めた。

 

「2、3年の中には文悟のストレートを打てる者もいる。低めに投げて来い」

 

 一軍以外は80%以下に抑えた、という枕詞がつくが降谷には敢えて言わずにホームベースへと向かう。

 

「一球集中! 締まっていくぞ!!」

 

 ホームベースの向こう側で振り返り、やる気に満ちている1年生達に声をかけて座る。

 

「低め低め」

 

 自分の上位互換である文悟が投げるところが見たくて市大三高戦を観戦した降谷はコントロールの必要性を強く認識していた。

 言われた通りに低めを意識して投げる。

 

「ボール!」

 

 低め過ぎてワンバウンドしてしまった球は当然ながらボールだった。

 

「次だ次!」

 

 切り替えろと言われているようで、今の感覚から少し上目を意識して投げてみる。

 

「ストライク!」

 

 今度は高めだったが、1球目がワンバウンドしたのもあって打者が慌てて振ってくれたお蔭でストライクとなった。

 

「フォアボール!」

「むぅ……」

 

 微調整が利かない降谷はストライクが入らず、四球で打者を歩かせてしまった。

 

(球速に関しては同じ頃の文悟を上回るのに、コントロールは及びもしない。まあ、こっちが普通なんだが)

 

 今の降谷が調子の悪い時かもしれないが、速球投手にありがちな制球力の低さが全く無い文悟の方が異常なのだろうとクリスは思うことにした。

 

「ど真ん中で来い!」

 

 低めはどうするの、と表情が顔に出ないながらも読み取ったクリスは、ここまでコントロールが悪いと際どい所を投げさせられないので敢えて単純な場所を指定する。

 

「バッターアウト!」

 

 ボールが先行しがちながらも、真ん中を狙わせた分だけまだストライクゾーンに入って来ることが多くなった。

 ど真ん中を指定したのにコントロールが悪いので勝手にボールが散らばることもあって、球威に押されて当たっても外野まで飛ぶことはなく五人で終えることが出来た。

 2、3年のベンチに戻りかけて気づき、1年の方へとやってきたクリスはたった1回で疲れている様子の降谷の左肩に手を置く。

 

「今は良いが、せめて低めにボールを集めることが出来なければ一軍は夢のまた夢だぞ」

「…………真ん中狙いならいいのでは?」

まだ(・・)打たれていないだけだ。狙ったところに投げられない投手など何時打たれるか怖くて試合に出せるか」

 

 それでも降谷には打たれない自信はあっても、市大三高戦で見た文悟がキャッチャーミットにピタリと投げ込む姿を思い出せば反論の言葉は欠片も出て来ない。

 

「ブルペンに来い。今の調子でどうすれば低めに投げれるかを見つけろ」

 

 降谷が3回から登板したことで流れは変わった。

 

「流石に二巡目にもなれば、コントロールの悪い剛速球にも当ててくるか」

 

 一巡目からヒット性の当たりを見せた増子も春市の好守備でアウトになったが、二巡目からは他の選手も当てることが増えて来た。

 

「フハハハハハハ! ついに点を取られたな、降谷! 何時でも変わるぞ!!」

 

 その点を取られた理由がライトを守っていた沢村がバンザイした所為だったりするのだが本人は全く気にしていないようだった。

 

「冗談」

 

 と、言いつつも低めを意識して全精力を込めて1球を投げているので降谷の疲労は極致にある。

 ボール球は減り、可能な限り低めに集めて来たお蔭で沢村がバンザイさえしなかったら得点は入らなかった。

 

「交代だ、降谷」

 

 追加点を与えずになんとかベンチに戻ることが出来た降谷だったが、肩で息をしているのを見れば続行は不可能と落合コーチも判断した。

 

「沢村、次の回からマウンドに上がれ」

「OKです、軍曹!」

 

 遂に出番が回って来た沢村は意気揚々とマウンドに向かおうとしてクリスに練習着の首の後ろを掴まれた。

 

「ぐえっ!?」

「今は1年の攻撃なのにマウンドに行こうとしてどうする」

「あ」

 

 文句を言おうとして状況が見えていなかった沢村は恥ずかし気に頭を掻く。

 

「お前もブルペンに来い。噂のムービングボールを投げて来い」

 

 7回マウンドに上がった沢村はクリスの助言でフォームを修正し、左腕が遅れて球の出所が見えないムービングで打者に的を絞らせることはなく、最後の最後に増子に一発を浴びた姿も含めて1年前の文悟を幻視した者は多かったという。

 

 

 




掟破りの三年のクリスを一年生チームに投入。
尚、守りだけで攻撃時はDH的な感じで一年打者が出た感じで。

紅白戦後、降谷・沢村・春市が二軍昇格した模様。

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