西東京大会は強豪と呼ばれている高校が順当に勝って行き、決勝へは市大三校が先に駒を進めていた。
そして残る準決勝では、市大三校と同じく西東京の三強と言われる稲城実業高校と青道高校の戦いが行われようとしていた。
「間に合いましたね、峰さん」
月間野球王国の記者である大和田秋子がバックネットフェンス前の記者席に滑り込んで来る。
「ああ、なんとかな」
大和田に少し遅れてやってきた先輩でありベテランである峰富士夫が流れ出る汗を拭いながら答える。
「まさか渋滞に巻き込まれるなんて考えてませんでしたもんね」
「事故なら仕方ない。こればかりは早めに出なかった俺達の責任だ」
事故による渋滞で会場入りが遅れたことで良い場所が取れなかった野球王国の記者2人は空いていた端の席に陣取ることを決め、カメラ類を鞄から取り出す。
「今日は暑いな」
「そうですよ。この夏の最高気温を記録してるらしいですから」
「良く知ってるな」
「ラジオで言ってましたよ。試合に気を取られて聞いてなかったんじゃないですか」
「否定出来ん」
ハンチング帽を取ってハンカチで汗を拭いた峰は中天に差し掛かろうとする太陽を見上げた。
「なにせ全国に名を知られた強豪同士がぶつかるんだ。高校野球ファンなら否が応でも惹きつけられる」
だが、それだけでは収容人数3万人を超える明治神宮球場が満員になることはないはずだった。
なにせ青道はここ数年、稲実と市大三校に甲子園行きを独占されているのだから。
「注目は2人の1年生サウスポーだ」
「稲実の成宮君と、青道の石田君ですね」
「片や投手として既に高い
惜しむらくは、実質的に青道のエースである石田は準々決勝で先発しているので、この準決勝で先発する可能性は限りなく低く、数日空いているとはいえ1年生であることを考えれば連投することはまずないことだった。
成宮は先発することはないがリリーフとして何度か出ているので、2人が直接対決をするとしたら試合終盤になる。
「2人が投げるとしたら終盤になるだろうが、両チームの先発の質を考えると青道が不利だろうな」
両チームのエースの質は、稲実に分があると峰は見ていた。
「では、勝つのは稲実と?」
「青道にはプロも注目している打者である東がいる。クリスが怪我で抜けたとはいえ、打の青道と言われるだけあって、攻撃力という点では稲実が劣るから難しいところだな」
そういう意味では、文悟が先発していれば稲実が不利なのかもしれないが、準々決勝も中々に接戦だったので致し方ない面がある。
「さて、勝利はどちらの手に転げ落ちるか」
試合が開始して1回表は青道の攻撃から始まったこの時点で後の展開を予測出来た者は誰一人としていなかった。
「すまん、石田」
更に暑くなってきたような錯覚すら覚えるマウンドに走ってやって来た文悟に3年エースがボールを手渡してくる。
「任せて下さい」
念が籠っているのではないかと思うほどに重いボールを受け取った文悟は強張りそうになる顔を必死に抑える。
「6回7-2でノーアウト満塁、また随分と重要な場面で回って来たな」
クリスが退いて空いた正捕手の座を射止め、この試合も最初から出ていた御幸がマウンドにやってきて声をかけた。
「大丈夫だ、一也」
ボールをグラブに収めてロージンを手に取った文悟は確信を持って答えた。
「青道は負けない。俺が敗けさせない」
ロージンを置いて指先に息を吹きかけて余分な粉を飛ばした文悟の眼を見た御幸の背を走る電撃のような痺れ。
「へっ、最近の文悟は絶好調だもんな。期待してるぜ」
クリスの怪我が発覚してからの急成長には目を見張るものが有り、正捕手が離脱したというマイナスを吹き飛ばすほどの活躍を文悟はしていたから御幸の眼にも焦りはない。
「この暑さでテンションも上がってる。少しボールが浮くかもしれない」
自己分析を繰り返させられてきた文悟だからこそ、今の自分の調子が悪いものではないが準々決勝の疲労も完全に抜けきったとは言えない中ではボールが浮く危険性を承知していた。
「じゃあ、打者と真っ向勝負と行くか」
「え?」
「全球ど真ん中の
御幸の予想外の提案に驚きで目を丸くした文悟はやがて笑みを浮かべる。
「
「だろ」
近年の野球では、剛速球だけでは通用しない。変化球と制球力も合わせて、投手にも総合力が求められる時代だからである。
文悟には
「来い、文悟!」
この時の御幸もまた文悟のポテンシャルを見誤っていたことを知らなかった。
「ねじ伏せる……」
御幸の言葉が頭にリフレインしている文悟は大きく1つ深呼吸し、ど真ん中を狙えばいいので隅を狙う必要が無い分だけキャッチャーミットを近くに感じる。
「んっ!」
コースはど真ん中、狙うのは御幸のミット。
思考は単純、極々シンプルになった文悟は準々決勝を投げた疲れなど忘れて踏み込んだ。
「っ!?」
何時の間にかミットに叩き込まれたボールに意識が遅れて気が付いた御幸はマスクの内側で目を見開いた。
「ストライクワン!」
(
主審のコールを聞きながらも、御幸はミットを超えて手を震わせたボールの手応えに震撼を隠せずにいた。
「ストライクツー!」
驚きは冷めることなく、寧ろ大きくなっていった。
「ストライクバッターアウト!」
全球ど真ん中のストレートという配球に、流石にこのバッテリーが何をしようとしているのかを察した球場全体がどよめく。
それでも彼ら以上に文悟の球を受けている御幸の驚きの方が大きい。
「ストライクワン!」
2人目の打者にも真っ直ぐでど真ん中。しかし、分かっているのに振り遅れる。
「ストライクツー!」
事態を把握した打者は憤怒を覚え、不遜な考えに至ったバッテリーを懲らしめんとバットを振るが掠りもしない。
当てに行く為にバットを限界まで短く持って振るった。
『抜け――――切れた……僅かにファウル!』
コースも球種も分かっていたのに、それでも振り遅れているからこそ三塁線のフェアゾーン外のファウルになった。
「ストライクバッターアウト!」
続いて投げられたボールには当てることは出来ず、空振りをして三振を宣告された打者は次の打者と入れ替わる際に耳打ちする。
「舐めてかかるな。ココに来ると判断した場所からボール2、3個分上に来る」
コースと球種が分かっているからと言って、舐めてかかったら自分の二の舞になるとアドバイスを残したが実を結ぶことはなかった。
「ストライクワン!」
「くそっ!」
球種は変わらない。コースも変わらない。なのに振ったバットが当たらない。絶対にストライクを取られるど真ん中だから振らずにはいられないのに。
「ストライクツー!」
バットを短く持ち、バントの構えを取るもボールはその上を通過していく。
ど真ん中のストレートだけで挑んで来るバッテリーなど、決して許してはいけない、絶対に無視してはならない。
分かっていれば必ず打者は対応できるはずのなのに、文悟が投げたボールはその思惑の上を行く。
「ストライクバッターアウト!」
ノーアウト満塁からの三者連続三振。
ピンチどころか負けている青道を盛り上げるには十分な圧巻のピッチングに、ベンチに戻って来た文悟は大きな歓迎を受けた。
「ようやってくれた文悟!」
強打者として徹底的にマークされて勝負してもらえないフラストレーションが溜まっていた東が巨体で覆い隠すかのように文悟を抱きしめる。
「ちょ、ちょっとキャプテン!? 文悟が潰れるって」
「お、すまんすまん」
大胸筋で窒息しそうになった文悟を助け出した御幸は打順が近いのでプロテクター類を外す。
「しかし、よう全球ど真ん中なんて投げれるのう」
「俺もまさかここまで
疲れもある文悟を発奮させることが目的の冗談だったのに、全球同じコースを選ばされたのは文悟のボールがあまりにも良かったから。
「今の文悟のストレートは準々決勝の時とは段違いです。流石にもう連続ど真ん中はやれませんけど、この調子を維持できるなら」
投げるごとに凄みを増していく文悟がどこまで成長するのか分からなくて御幸はブルリと震えた。
「あ」
ベンチ入りした伊佐敷に水を貰っていた文悟の気の抜けた声がベンチに響いて、御幸がその視線の先を追うと白球が天高く飛んで行くところだった。
「ホームランだ!」
「哲の野郎、打ちやがったぞ!」
文悟の衝撃が色濃く残るマウンドで投げた稲実の三年投手の初球を5番の結城哲が掬い上げるように打った球はバックスクリーンに入った。
「7-6。1点差は十分に射程距離だな」
「後は俺達が点を取られなきゃいい。流石にど真ん中連続は避けてコーナーも付いて行こう」
結城のソロホームランの後、動揺している三年投手を狙い撃ちにして一回に一挙に四点を入れて一点差にまで詰め寄った。
(打順は2番からのクリーンナップ。初球はど真ん中で相手に印象付ける)
御幸が知る限りで文悟のストレートが毎球過去最高が更新されるようなのを見てしまえば後に続く打者も強く焼き付くだろう。
「ストライクワン!」
思惑通り、今度は違うコースを狙うだろうという打者の想像をど真ん中からぶち破り、バットを振らせない過去最高が更新されたストレートが御幸のミットに収まる。
(これでど真ん中を印象付けられた。後は料理するだけだ)
敢えて普通のストレートはまだ使わない。
御幸にも今のストレートがどこまでキレていくのか知りたかったし、下手に文悟の調子を崩させるのも嫌だったから。
「ストライクバッターアウト!」
1人目は明らかな高めのボール球を振って三振、2人目は詰まらせてファーストゴロ、3人目は低めと錯覚したど真ん中に手が出ずに三振。
「おお! 神様仏様文悟様!」
最早、覚醒しているとしか思えないほどの投球を見せる文悟に今度は伊佐敷が抱き付く。
「落ち着こうね」
「おっふ」
小湊亮介に脇腹を突かれ、息を吐き出された伊佐敷が文悟から離れる。
「おっ、おま……!」
「しかし、本当に絶好調だね」
「ええ、怖いぐらいです」
実は弱点な脇腹に攻撃を入れられた伊佐敷が文句を言おうとするも、当の小湊は御幸と話していて全く聞いていない。
「当てられることも多くなってきたので二巡目が怖いですね」
出来ればこの回も大量得点を入れて安全マージンを取りたい、と言いかけた御幸がグラウンドに目を戻すと表情を険しくした。
「出て来るのか、鳴」
稲実側も文悟が流れを呼び寄せたと知れば、流れを引き戻す為に3年エースを代えて成宮鳴を投入して来た。
「前の回は三者凡退か」
既に8回。青道の残る攻撃のチャンスは一度だけとなり、代わった成宮が文悟とは全く違う変化球を駆使しての投球術で躱して流れは両チームの間で揺れている。
「この回も頼むぞ、文悟」
しかし、変化球のない文悟の限界とでもいうのか。
1人目は三振を取るものの、二度当てられてファールにされた。
2人目も外野フライで打ち取ったが守備に助けられた面もある。
3人目には普通のストレートも織り交ぜて、三振に切って取ったがここに来て変化球がないことが重しに感じて来た。
「はぁはぁ」
決して準々決勝の疲れが消えたわけではないので、ほぼ全球全力投球しているような物である文悟も流石に息が荒れて来た。
「俺達で撃つぞ」
9回の表となり、打順は5番である結城哲。
1年生にここまで発奮させられたのだから、先輩である自分達がやらなくてはどうするとばかりに打席でオーラを迸らせる。
「――っ!」
ストレートは文悟の領分である。結城はそう言わんばかりに厳しいコースを突いてきたストレートを狙い打った。
打球は外野の頭を超えて長打コース。
「回れ、哲!」
フェンスにぶつかって帰って来た球をレフトが捕球して投げる頃には、伊佐敷の声援に後押されるように結城は二塁に到達していた。
「ようし! 続けよお前ら!」
そう言う東は前の回に成宮に詰まらされてアウトになっていた。
6番は成宮に動揺が残っていて四球で一塁に進んだものの、文悟とは大きく違うタイプの投手である成宮に7番と8番は相次いで三振に切られて迎えたのは9番打者の文悟。
「文悟!」
9回の表で2アウト一、二塁。ここで文悟が打てなければ青道の敗北が確定する。
「ふぅ……」
逆に文悟が打てば逆転の見込みが増えるだけに、前の回から交代して投げる成宮にも大きなプレッシャーが襲い掛かって来る。
「タイム」
この大一番に流れが切れることを承知の上で稲実の捕手である原田雅功はマウンドに向かった。
「何しに来たの、雅さん」
「お前がピンチにビビってないか確認しに来たんだよ」
「けっ、俺がそんな玉に見える?」
緊張はしているだろう。プレッシャーは感じているだろう。だが、成宮はそれらを受け止めて笑って見せたのだから女房役として原田も尊重する。
「石田は予選でもホームランを打ってるし、打率も高い。厳しいコースを突いて、最悪歩かせても構わん」
「俺は嫌なんだけど」
「最悪、だと言っただろう。それだけの危険を冒してでも攻めて来いと言ってるんだ」
「へいへい、分かったからそんなに怒んないでよ」
「怒ってはいない」
怒ってはいないが、御幸のリードで5番なのにヒットを一本も打てていないことと、今も打者として立つ文悟が放つ異様なプレッシャーに晒されていることで精神的にキているのかもしれない。
「雅さんのリードを信じる」
ハッとした。異様でしかない文悟の覚醒スピードと、逆転勝ちを期待している観客達に気圧されていた原田が成宮の言葉で平静を取り戻す。
「ストライク!」
打席に立つ文悟は振る気があるのかと思うほど脱力していた。
しかし、決して油断はしまいとストライクからボールへとなるフォークを要求する。
「あっ!?」
油断はしていなくても投球と打撃は別だと区別していた。今の覚醒状態にある文悟には両者の垣根などなかったとライト方向に打球が飛んで行くのを見て気づいても遅い。
「ライト!」
飛ぶかと思われた打球は意外に伸びなかったが落ちた場所が良かった
ギリギリでフェアゾーンに入り、2アウトだからリードを長めに取っていた結城があっという間に三塁を回った。
「バックホーム!」
逸らした場合のことを考えて成宮が本塁のカバーに入る。
ライトから受けたショートが中継するがタイミングは微妙。
入ってくるボールを受け取った原田とヘッドスライディングしてくる結城が重なった。
「――――――セーフ!」
本当に際どいタイミングだったが原田がタッチするよりも一瞬早く結城が本塁ベースを触った。
覆しようのないタイミングだったと原田も認めるしかなかった。
「9回で同点だ!」
またもや文悟が流れを引き寄せた。
変わらず2アウト一、二塁の状況。次の打者が続けば逆転はありうる。
「させねぇよ!」
しかし、そこに成宮が立ち塞がる。
失点されながらも崩れなかった成宮は1番打者を打ち取って流れを断ち切る。
「9回裏同点。俺達が勝つ為には点を与えず、点を取るしかない」
同点に追いついても不利なのは青道だった。この回で得点を与えず、延長戦に入ることでしか勝利の目はないのだから。
「行けるか、文悟?」
「腕が千切れても投げて見せるさ」
文悟の疲労の色が重い。
汗は滝のように流れ、打者として打って走ったから息も乱れたまま。
「さあ、抑えるぞ」
稲実は2番打者からの好打順。しかも一度文悟の投げるストレートを見られている。
「初球セーフティバント!?」
意表を突くこの作戦だったが、真ん中からやや低めと打者に映ったボールはど真ん中にホップして固定しているバットの上側を叩いた。
「浮いた!」
本来ならば転がす球がセーフティバント見て走ってきた内野を超すほどに浮いた。
(直接捕球は無理――!)
セカンドを守る小湊亮介は打球を追いながらそう判断した。
(打者が速い!?)
チラリと見た稲実の2番を任せられるだけあって足が速い。グラブで取りに行っていたら間に合わないと判断した小湊は地面で一度跳ねたボールを素手で掴む。
「どうだ!」
全身の筋肉が悲鳴を上げるほどの無理な姿勢で一塁の結城に向かって投げる。
「――――――セーフ! セーフ!」
小湊のファインプレーよりも稲実の2番打者の足が勝った。
「選手交代! 代走、神谷・カルロス・俊樹!」
文悟が登板してから初のランナーに、監督である国友広重が動いた。
「タイム」
シニア時代のカルロスのことを知悉している御幸はタイムを取ってマウンドに向かう。
「カルロスは足が速いけど打者優先で行こう。まだ球は走っている。1人ずつ抑えて行こう」
御幸にはありきたりな事しか言えずとも文悟はボールで応えた。
3番打者を気迫の投球で三振に切って落としている間に二塁に盗塁されたものの、今の文悟にまともに打たれるイメージは湧かない。
「次の4番は今日ホームランの分も含めて3打点を上げてる。どうせ一塁が空いてるんだ。歩かせるか?」
幾ら文悟がこの試合中にも爆発的な成長を遂げているにしても、やはり勝負するのは怖いと思わせる4番打者である。
「一也、大丈夫だ。絶対に勝つ」
そんな御幸の逃げを感じ取った文悟がメラメラと燃える目を向ける。
「稲実をねじ伏せろって言っただろ」
「…………分かった。しっかりと腕を振りきれよ!」
勝負は弱気になった方が敗ける。文悟に流れが来ている以上は乗る方が大切だと判断した御幸。
「うるあああああああああああああああああ!!」
稲実の4番打者はその自負と自身の全てを込めて雄叫びを上げる。
捕手である御幸ですらビリビリと感じる気迫と向き合う文悟が感じるのはどれほどのものか想像も出来ない。
「ねじ伏せる」
全力投球では足りない。もっと力をと望みながら、振り被った。
「カルロスが走る!」
振り被ってからは牽制は出来ないから走者は自動的にスタートできる。故に代走のカルロスは走った。
今は打者に集中していた文悟には、ただ力一杯に投げるだけ。
「っ!?」
投げられたボールは低すぎると思った。
それでも4番打者のやることは変わらない。
「セーフティバント!?」
まさかの4番がセーフティバントなど誰も考えていなかったからこそ反応が遅れた。2番打者のバントを参考に更に上側に構えられたバットがボールに接触する。
打球は三塁線を転がっていく。御幸が行くには遠く、サードである東は盗塁をしたカルロスのことを気にしていた。
(文悟は――)
全力で投げた影響で体が流れていて直ぐには対処できない。
「俺が行く!」
迷った御幸よりも早くチャージした東がボールを素手で掴み、一塁の結城に向けて投げる。
「アウト!」
スタートが遅れても東の早い判断のお蔭で4番打者はアウトになった。
ここでアウトを取ったことで殆どの者が気を抜いた。
盗塁で一早く3塁を踏んだカルロスは一度も足を止めること無く、ボールが一塁に向かっている間に本塁ベースに向かって走っているのに誰かが気づいた。
「バックホーム!」
結城が本塁に向かって投げ、カルロスが飛び込む。
「――――――――」
砂煙が起き、突っ込んだカルロスと防ごうとした御幸が重なっていた。
審判は見極めるように目を細め、やがて手を動かす。
「セーフ! セーフッ!!」
9回表の再現かのように繰り返されたプレーは、同じようにセーフだった。
同点で最終回の裏に攻撃側の得点が示す結果はただ一つ。
「サヨナラだ!」
8-7、青道のサヨナラ負けだった。