【完結】私は脳無、インブローリオ。ヴィラン連合の敵。   作:hige2902

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アンケートの協力ありがとうございます。一応一週間は付けときます。
ハメユーザーは通勤通学に読んでる感じみたいなので一万字ってどーなの? と思ってたから意外な結果でした。
完結後にパンケーキは一つにまとめるかもです。



第十話 パンケーキ 後編

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 Bパート 

 

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 海がぎらぎらと朝の太陽を反射していた。

 カモメだか何かよくわからない鳥と船の駆動音が波と共に運ばれてくる港は、漁仕事が終わった時間もあって人がまばらだ。桟橋では勝手に釣りをやっている人がちらほらいる。

 磯の香のする、のどかな場所だった。

 

 そんな中に一人、不審人物がこそこそと人目を忍んでいる。くたびれたシャツにスラックスはまあいいが、顔出しNGの動画配信者のようにサングラスとマスクをつけていた。職質されればリュックの中を確認される事間違いなし。

 

 朝練に向かう途中の女子学生がその姿に疑念の視線をやる。

 

「見るからに、怪しい姿、目に留まる」

「もしかして、ユーチューバー、かもしれな」

「燃ゆる栗、知りとて拾う、友が為」

 

 逆に目立つその風貌で、近くの倉庫群に向かった。

 安っぽい建築素材で作られた外壁は潮風で傷んでおり、老築化も激しい。そんな一角に、異色の黄色いテープが張り巡らされた場所がある。

 

 立ち入り禁止のテープを跨ぎ、焼け落ちて半壊した倉庫へ足を踏み入れ、サングラスとマスクを取って不審人物こと博士はぐるりと視線を巡らせた。

 火災に巻き込まれたせいで倉庫内の物品はほとんど姿を残していない。警察の調べでは大型ごみが放置されていたとかなんとか。

 元からここらの倉庫は使われていないせいもあって、特に建てなおすでも廃材が撤去されるでもない。

 

 かろうじて原型をとどめている程度のバスタブが数個あった。一般的な物よりも排水栓と入水口が多い。ジェットバスに見えるが、浴槽の種類は一つとして同じものは無いにも関わらず、穴はどれもが同じ位置にある。つまり意図的に開けられたものだ。そして、とりあえず動けばいいという思想の半端なエンジニアの仕事ではない。

 博士はあらためて、ここが工房だと仮定して廃倉庫全体を眺めた。

 

 エンジニアに限らず、人間には拭い難い癖というものがある。

 漫画家であれば画風だったり、小説家で言えばセリフ回しや無意識に多用する語句。車のクラッチを繋げるタイミング、バッティングフォーム、格闘打撃、プログラミング言語。その分野に明るい者が見れば、たちどころに癖から逆算して行為者を特定してしまうほど。

 

 残ったバスタブから全てが規則正しく並んでいると想定する。そこから伸びるパイプを、床の焼き付きから推測した機材やタンクを脳内でシミュレートした。すると一人の人間の癖に行きつく。

 特に排水のルート設計は匂い立つ。

 

 下水道でインブローリオと出会い、初めて脳無の存在を知った時からその面影が脳裏によぎったが、どうやらその勘は正しそうだ。

 

 その後、近くの港に戻り、海側から大きな排水溝へ侵入した。行く手を阻む鉄柵を、リュックから取り出したお手製の切断工具で破壊して進む。下水道台帳を確認しながら先ほどの廃倉庫があった付近に近づくと、明らかに下水に流れるべきではない粘質なナニカがへばりついている。その表面は溶岩のようにコポリと水泡作っては割れていた。

 

 博士はその辺りのめぼしい物質を、手当たり次第に試験管やらペットボトルや魚型の醤油差しに回収する。

 

「これだけあれば増やせるか」

 

 その帰り道に思考を巡らす。

 たしか廃倉庫が不審火で燃えたのは、インブローリオが逃げ出した日からたしか一週間ほどだ。十中八九、ヴィラン連合の仕業だろう。手違いで脳無が逃げ出したか持ち出されたとなれば騒ぎになりかねない。そうなる前に放火で証拠隠滅を図った。

 一週間。管理者がインブローリオが逃げ出した事を知るまでの間に、報告が無かった期間だ。脳無を造りだすほどの技術を持つわりに、組織形態としてはかなりずさんと考えられる。中間管理が存在していない可能性もある。

 

 それにしても、と独り言ちる。

 

「あのクソ野郎、ドクターとか名乗ってヴィラン連合に手を貸してんのか。どこまでもおれの敵って事だな、気に入らねー」

 

 

 

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「治ってよかった!」

 

 べにゅん、とラブラバが涙交じりで夜色の巨体、インブローリオに抱きつく。

 

「ごめんね心配かけて。それと助けてくれたんだって? ありがとう、ジェントルさんも」

「ははは、わが盟友であり相棒の友人なのだから当然だよ。あ、これお見舞いのフルーツ盛り合わせと、おすすめの紅茶。もう完治したのかね」

「わー、嬉しい。こういうの貰った事ないんだよねー。まだ本調子じゃないけど、とりあえず動けるから……で、この設備の説明は? ラブラバちゃんとジェントルさんが揃ったらするって言ってたけど」

 

 急にとげとげしい口調で博士を見やった。

 

「そうピリピリするな。とりあえず頂いた紅茶を用意するから」

「ではわたしが淹れよう」

「じゃあおれは果物切るか」

 

 いらだつインブローリオのプレッシャーを感じながら、一通りのお茶の準備が終わる。

 琥珀色の液体から、湯気と共に香ばしくも果実を思わせる匂いがたゆたった。素人でもわかるほど良い茶葉だ。フルーツも三時だったので丁度いい。

 いいかげんインブローリオが怖いので、前置きもそこそこに博士は口を開く。

 

 

 

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 こう見えておれは雄英のサポート科だった。よくある『将来的にヒーローのアイテム製作を通して社会貢献』とかがしたかったわけじゃない、単に興味があったから入学しただけだ。

 まあなかなか楽しかったよ。信じられないかもしれないが、そこらの国立大よりも設備が整っていた。勢いは衰えたとはいえまだヴィランが活発な時代だったから、国は雄英を起点にヒーロー基盤の底上げを目論んでいたんだろうな。

 クリーンルームには生涯賃金ほどの精密機械がずらりと並んでるし、スパコンも簡単に使えて、便利で広い実験施設では好きなだけヤバいアイテムを試射できた。

 

 事実だから言うが、おれにはエンジニアとしての、広義に言うところの、個性による自然干渉を処理する者の才能があった。そりゃーサポート科のオールマイトともてはやされたもんだ。

 

「盛ったろ」

 

 多少な。

 とにかく警察学校を襲撃する犯罪者がいないように、ヒーロー養成学校を襲うヴィランはいなかった。アイテムや貴重な資材を強奪されずに研究をするにはもってこいの場所だった。

 様々な分野の技術、開発者が外部講師として招かれ、雄英の設備で自身の研究を行いながら教鞭をとっていた。

 個性の発現により人類の進歩が30年は遅れたと言われているが、おれはそうは思わない。多少は停滞したとはいえ社会が安定すれば、後は個性を用いた研究開発手段により爆発的に技術は進む。そんな兆しがあそこにはあった。

 

 おれはいつものように、気に入らないヤツだがある分野のスペシャリストの授業を受けた。

 とある『カビ』の個性使いによって生み出された真菌を用いた再生医療に関する物だ。

 詳しい事は省くが、菌は宿主である人間の記憶や幻肢痛を設計図にして欠けた肉体を象って増殖する。ありえんと思うだろうが、神経と菌糸は複雑に結合して脳からの電気信号はそこで変換され、菌糸を移動する菌が神経に代わり身体を動かす。

 言いたいことはあるかもしれんが、そういう事で納得してくれ。

 

 そんな内容だったが、ヤツは決定的なナニカを隠していた。他の生徒を誤魔化せてもおれはそうはいかない。

 全ての生命は、その力に強弱はあるものの種の支配領域を広げるよう遺伝子設計されている。風に乗って飛ぶタンポポの綿毛、鳥に食べられてフンとして運ばれる木の実の種、脚や尾びれといった移動手段による子孫の運搬、ウィルスの咳やクシャミ、血液による感染拡大。

 

 もちろん菌もそうだ。キノコやカビだって胞子を飛ばす。

 じゃあその再生医療に用いる菌はどうやって種の支配領域を増やそうとするんだ? 宿主の近くに、都合よく再生医療を必要とする新たな寄生先の人間がいるのか? 

 病院ならいるかもしれん。だがすぐに頭打ちになるだろう。いくら個性で生み出された菌とはいえ、どこか不自然だ。

 

 アヤシイ! と考えたおれは知的好奇心の赴くままにその外部講師の研究室に忍び込み、キーボードを取り換えた。これはおれの自信作で、スマホのバイブのような設定された振動を与えると押下されたキーが再現される物理キーロガーだ。なかなか使いどころがなかったが、ようやく日の目を浴びて嬉しかった。

 

 PINコードを抜いたのでさっそく盗み見する。どうも修復された部位は異常発達し、筋力や耐久力が増大するようだった。そしてヤバい事に菌は宿主の脳まで移動し、思考判断を司る前頭葉野の働きを鈍らせる。

 つまりメチャクチャ強くてキレやすい人間の出来上がりだ。

 

 菌は再生医療が必要な宿主を補完するが、性格は極めて短気になり修復した部位は強化されているので、新たに再生医療を必要とする宿主を物理的に生み出す。そうやって種の支配領域を広げていくわけだ。

 

 これこそ生命の神秘だと感動した。あんな微細な生き物が、人間の裏をかき暴力性を利用して増えていこうとしているなんて。

 

 で、もちろん菌はこのままでは使い物にならない。少なくとも脳を侵す性質を取り除かないといけない。

 だがヤツが行っていた研究はその逆で、より性質を尖らせ、強靭な肉体を持った命令に忠実な生物兵器を生み出す事だった。

 つまり脳無だな。

 死亡直後だと寄生するけど脳への侵入が無いからこの方向で続けるって実験結果見て、わーヤバいんじゃないのこれ、と思ったおれはPCの記憶領域をまるまるコピーしてじっくり調べた結果、ヒーローや警察に訴えてもおれが消されるのは間違いないという結論に至った。ヤツは表と裏の多方面に渡ってパイプがあって、暴露は無駄に終わるしその計画を破綻させる事は出来ない。

 

 なら、元々ヤツが気に入らなかったし、最大限の嫌がらせをして計画を延長させてやろうと思いついた。

 

 

 

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「それでインブロちゃんを回復させる手段を知っていたのね。というか、その菌がヒーローに使われたらマズいんじゃ……脳を侵すんでしょ?」

「どうだろ、菌自体は弱いし水虫みたいなもんだから毎日風呂に入ってれば大丈夫だと思う。あの黒い泥で培養環境を整えないと爆発的に増えないし。でまあ、おれが知る泥は二十年近く前のもので不完全だったから効果も薄くて、現行のを取りに港まで行った。出歩きたくなかったが……わかってくれたか?」

 

「……聞きたいことがある。菌が宿主の記憶や幻肢痛を元に象るなら、どうしてわたしの肉体はこんな」

「当時おれが盗み見たロードマップじゃあ、菌の自然飛散の制御、宿主の傀儡化、象りの制御、前頭葉野の侵食制御があった。死んだあんたの身体に、電気信号で作られた幻肢痛を与えて戦闘用の肉体を象られたんじゃないか。その工程の後で、あんたは目覚めた。現行株がどの程度か詳しくはわからんが、そんな感じだと思う」

 

 そっか、としゅんとしてインブローリオは呟いた。

「悪かったな、その、疑って……ごめん。ていうかわたし一回死んでるってこと? こわ~」

「製造工程が変わってなきゃたぶんそう。生き返る理屈は、死の前の投薬か菌の働きかもとしか言えない。おれを疑うのも当然だ、気にするなよ。後の祭りだからってちゃんと伝えてなかったこっちが悪い。退学処分になったとか、あんま言いたくなかったし」

「そっか、じゃあお互いさまって事で。それで、その外部講師がドクターって事で間違いないのか? 手掛かりは? 家族とかいなかったのか」

 

「養子が一人いた」

「そいつはいまどこに」

「目の前」

「おまえそれ早く言えよ!」

 

「最初に会った時にドクターの人となりを聞いたろ? けどあんたは見た事なかったから確証はなかった。誰かが個性研究を引き継ぐなんて、相性の問題もあって界隈じゃよくある話だし。そりゃ素性は知ってるから色々と探ってみたが、成果無しだ。たぶんだけど名前も変わってる」

「そんな人の名前がコロッと変わる事なんてあるかー?」

「事情によってはあるみたいだ。ヤツに限ってはあり得る。外的要因かもしれん。どのみち勘当されてから会ってないから、顔を見てもわからんかも」

 

 妙な親近感を覚えたジェントルがおずおずと尋ねる。

 

「なぜ勘当されたか聞いていい?」

「ああ、菌の計画を延期させてやろうと思って」

 と博士は神妙な顔で三人を見渡す。

「粉塵爆発って知ってるか?」

 

 インブローリオとラブラバは首を振る。

 

「そうか、男はなぜかだいたい知ってるんだが……ちなみにおれはルパン三世の映画で知った」

「あ、わたしはARMS」

 

 そっちかー、と二人は謎の意気投合を見せる。

 

「まーとにかくおれは何も知らない無垢な学生を演じて、ヤツの工房を手伝った。研究って結構大変で長時間に及ぶから工房で寝泊まりする事も珍しくないんだが、そこでおれはヤツが寝てる間に実験用のコンロを用意し、ホットケーキミックスの封を開けた。あとはわかるだろ? 大事に培養していた菌や泥もろとも精密機器やラップトップを爆破に巻き込んだ」

「え、それ大丈夫だったの?」

 

 若干引き気味なジェントルの問いに、博士は笑い話を思い出すようにニヤニヤする。

「死にかけたがリカバリーガールって養護教論がいたからなんとかなった。長時間の研究補佐により疲労で手が滑ってホットケーキミックスをぶちまけてしまった事故だったから故意じゃないし、退学処分で済んでよかったよ。学校内の出来事だから内々に処理されて、あいつプライド高いから、養子の不祥事を有耶無耶にするしかなくて、損害も全部、わははは」

 

 ついに博士は笑い涙を拭いだす。技術者に通じるものがあるのだろう、なぜかラブラバも含み笑い。

 

「で、当時の校長に再発防止策を求められたんだけど詳しく公表したくないから、それ以降、サポート科の棟じゃあパンケーキを作ることを禁ずるって謎の張り紙が全部の扉に」

 

 ついに二人は噴き出して大笑いしだす。

 インブローリオとジェントルはいまいちついていけない。

 

「あー、悪い。ついな、いつ思い出しても笑えるもんで。まあそんなとこかな、おれの過去といえば。他に聞きたいことは?」

「わたしの身体を元に戻せるか」

 

 ふむん、と博士は顎に手をやってインブローリオを見やる。

 

「仮説だという事を念頭に置いてほしい。元の身体は人工的な幻肢痛で書き換えられているから非可逆的に消失している。その意味では元の身体には物理的に戻れない。だが、いったん脳幹と肉体を切り離し、こんどはあんたの記憶で再び脳無の肉体を構築できれば元の身体に戻る。それを元の、と表現すればだが」

「……今からでも出来る?」

「理論上では。ただ、先に言ったように神経系と菌糸は複雑に結合している、少しでもミスると脳死の可能性がある。死ねば菌は脳へ侵入せず記憶を読まない。だからあらかじめ設計した肉体の人工的な幻肢痛を電気信号にして流す必要がある。だがあんたの元の身体の記録は無い。思い出を頼りに電気信号を作るか、脳への侵入を許す形になる」

 

 そして、と博士は慎重に続けた。

 

「そして姉を奪還する力を失うだろう」

 

 そっか、と彼女は天井を仰いだ。

 

「あのさあ……今まで答えが怖くて聞けなかった事があるんだけど」

「ああ。おれも答えるのが怖くてじぶんからは言えなかった」

 

 鉛のような空気の中で、インブローリオが重い口を開く。

 

「そもそも姉は取り戻せるのか?」

「現代生命学、倫理学上の()()()()()は」

 

 妙な浮遊感が四人を襲った。エレベーターの上昇と下降の感覚が同時に起こるような、落下しながら上昇していくような。

 数秒に満たないその現象は、明らかな異変をもたらした。まず外からの日常生活音が消えた。窓のブラインドからそっと覗いてみる。樹上で子鳥が鳴いていた。

 

「何が起こったんだろ」

「個性でぶっ飛ばされたのか、建物ごと……つまり早急に外に出る必要がある」

「なるほど、そうみたいね」

 

 さっさとドアに向かう博士とラブラバに、残された二人はついて行く。

 

「ちょっと様子見たら?」

「敵意ある個性で呼び出し食らったんだから、ヤル気って事だ。アジトごと攻撃されたら貴重な学術書や精密機器がダメになるじゃん」

「まあ確かに、しかしほんとにどこだ? すごい森の中だけど」

 

 雑居ビルから少しだけ離れて周囲を見渡すが、人工物らしきものは見当たらない。うっそうとした木々がさざめいている。

 

「大変よジェントル、GPSが機能しないわ!」

「外部との連絡も途絶か」

「それは困る、国内だといいが。何かしらのジャミングなら、まずはおれとラブラバさんでなんとか打ち消」

 

 言いさした博士が固まる。豊かな自然の中で、不自然に黒い像が鎮座している。

 胡坐をかいている人型だが頭部は多面体で、内部の脳がうっすらと見える。頂点の数がゆっくりと増減し、不気味に形を変えていた。

 身体は歪に発達しており、体表は親指ほどの正六角形に覆われている。

 

 気付いたインブローリオが博士たちを庇うように前に出る。

 すると多面体に、石を水面に落としたような波紋が走り、同時に高い金属音のような声が響く。

 

「ヤット来たか。待ちクたびれた」

 そのままぬるりと立ち上がる。

「オまえがインブローリオだな。裏切り者の脳無、インブローリオ」

 

「は? 学生を襲ってキャッキャッしてるようなヤツらの仲間にするのやめてくんない?」

 イキってみたものの、まだ体調は万全ではない。油断せずに構えた。

 脳無が笑うと、多面体も小刻みに波紋で揺らぐ。

「おれは選ばれた。保須でヒーローに負けた脳無どもとは違う。あんなものは出来損ないだ。楽しみだ、おまえの許しを請う姿が」

 

 博士が後ずさりながらインカムを起動する。

『わかってると思うが、自由意志らしきものがある』

「今までとは違うって事ね、用心する」

『おれはラブラバさんとジャミングを何とかするから、それまでは専守防衛で。ジェントルさんが補助に回ってくれる』

「オッケー、でもわたし一人でいい。さすがに脳無相手だと」

 

 インブローリオの横を脳無が抜ける。速い! と瞠目しつつ振り返る。

 脳無は突風と共にジェントルを過ぎ去り、多面体の鏡面は雑居ビルに戻ろうとする博士とラブラバを反射していた。純粋な速力と質量はそれだけで脅威となりえる。

 グロい事になる! と博士は身をこわばらせた。が、多面体は不可視の膜に阻まれ跳ね返された。その反動は距離を大きく取らせる。脳無は不可解な現象に慎重になった。

 

 

 

 ―――

 

 エンディング 

 

 ―――

 

 

 

 ジェントルはぼうっと自然を眺めていた。いや速すぎだろ、と。

 その脳無の規格外な凶悪さは、命のやり取りをしたことが無くても肌で感じ取れた。

 危うくラブラバが、盟友が死ぬところだった。わたしに動画作成の弟子入りを申し出てくれた、相棒の良き友人の仲間が。

 そうか、殺されるのか。

 手足が震えて心臓が危機に高鳴るのを他人の身体のように認識する。

 

 切り替えなければ、と彼はぼやけていた焦点を脳無に合わせる。

 ぽつりとこぼすように言った。

 

「ゴールド ティップス インペリアルという幻の紅茶がある……」

 

 そしていつものように、緊張に震える心身をリセットするすべを行う。五年以上も続けてきたルーチンワークは血肉となって馴染んでいる。

 

「諸君!!」

 と誰に言うでもなく声を張った。

「これより始まる怪傑浪漫、目眩めからず見届けよ」

 

 脳無がその突飛な行動に、怪訝さを込めて言い放つ。

「なにがしたい、おまえも裏切り者の脳無の一味なのか? 何者だ」

 

 ジャケットの胸ポケットから手袋を取り出して指を通しながら答える。

 

「わたしは救世たる義賊の紳士、ジェントル・クリミナル。飲もう、インブローリオさん、その伝説の紅茶を。この仕事の終わりに」

 




ヒロアカもの宣伝!

【完結】偶像の象り
もしも爆豪が無個性で緑谷が『グリセリン』と『酸化汗』個性で、二人の境遇が逆だったら、のお話。

【完結】吉良吉影のヒーローアカデミア
吉良吉影が普通科で平穏に暮らそうとする話です。かわいい葉隠ちゃん。

個性永久借奪措置
エター。塚内とMt.レディを通して警察とヒーローの話を書きたかったけど全然ハネなかった。残念。
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