手には弓を 頭には冠を   作:鷹雪

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他にまだ連載中なのに、いきなり新連載開始です。

クソ人生の向こう側でそれぞれ天国と地獄を見た男女の物語。
【ファークライ5】の物語に沿っていますがチョイチョイ【MGS4】が絡んできます。

それほどは長くないので、よろしければ最後までお付き合いくださるとうれしいです。


PROLOGUE
生生流転


 神々の手にある人間は腕白どもの手にある虫だ、気まぐれゆえに殺されるのだ

                                   (リア王 より)

 

 

 それは古いテレビの映像だった。

 

『ああ、こんなこと間違っている。ここはそんな場所じゃないんです。

 周りはみんな良い人ばかりだし、子供たちは――いつも笑っていて。たがいをきずつけるなんて、そんなこと……』

『ですが、事件は実際におこったのです。彼らは互いを憎み、銃を手に取って――大丈夫ですか?』

 

 モンタナで起きた銃撃事件について。

 当時の全国ネットワークに流された、インタビュー中に号泣して顔を覆い隠す地元の住人の姿。

 

 

 

 その日のモンタナは、いつもの「輝ける山脈の地」ではなく。「最後の最良の地」でもなくなってしまった。

 あれから10年?いや11年になるのか。

 思い出してみるとあれはひどい年で、前年にはアメリカの英雄。世界を救ったヒーローと呼ばれた男が、あろうことか”またもや”この国に弓を引く裏切り者となって。テロリストと呼ばれるのにふさわしい事件を起こした年だった。

 

 ここに住む人々の誰もが心を痛め、もちろん私もそのひとりであったが。とにかく皆が救われようと努力していた。

 そして私は神の声を聞いた――。

 

 己の野心を捨て、今こそ人々が持つ正しい勇気の支えになりなさい、と。

 

 それまでの私はずっと孤独だった。

 金も、コネもなく。ゼロから自分の栄達と権力だけを求めて生きていた。

 そんな私はその瞬間に生まれ変わったのだ。

 

 それからはこの州検事総長を、知事への踏み台にしか見ていない。口先だけの若造たちを叩き潰し、蹴り落してきた。

 選挙のたびに敗者となる彼らは怒りと屈辱を心の中にひた隠し。見栄えのする笑顔と、せめてのお慈悲にとばかりに私と会って握手することを求めてきた。

 

 一方で私の勝利には意味があり、その理由は私に指名を与えられた神がご存知である。

 ずっとそう思ってきた。

 

 だが、それもようやく終わりが来た――。

 

 

 年の暮れが迫る、12月。

 老齢にして苛烈で知られたモンタナ州検事総長である彼は、めずらしくその日は早めのランチをとることにした。

 予定通りであれば、この日もいきつけのダイナーで。乱れることのない白髪の爺さんが食べるとも思えないような、分厚いステーキにかぶりつくはずであったが。

 そこへと向かう通り道で1枚の観光用にと売られていた絵葉書を買い求めていた。

 

 あとは予定通り店につくと、席に座って見知った顔のウェイトレスに注文をし。

 それから胸ポケットから万年筆を取り出すと買ったばかりの絵葉書にさらさらと何事かを書き始める。

 

――親愛なるアーロン、保安官殿

 

 それだけ書くと、ペンの先はぴたりと止まる。

 老人の指先はクルクルと握るペン先を回転させて遊ぶが、その間に頭の中では書くべきことを整理していく。

 

 再びペンが動き出すと、まずは罵倒交じりに先日のゴルフは負けてやったのだ、とか。今年も自分が勝利した釣果を宣伝しつつ、来年も楽しみにしているよと続き。

 

 最後に重要な言葉を伝えておく。

 

『さて、そろそろお互い。冬の冷たい風が骨まで染みる、なんて話を法廷の前でするのも終わりに近いと思っているだろう。

 実際の話、どうやらそれがついに現実のものとなりそうだ。引退(リタイヤ)するよ、今度は本気だ。年明けにもうちの検事局はたいした騒ぎになるだろうと思う。

 

 保安官、俺はもう戦えない。

 若造に老兵なんて言われるたび、そいつの口を引っ叩いて黙らせてきた俺だが。今度は無理だ。

 そして打つ手もなくなってしまった。

 

 例の事件、ついに司法省の注意を引いたんだが。FBI(連邦捜査局)DEA(麻薬取締局)ATF(火器・爆発物取締局)がちっとも動かないと(もちろんそうなるように苦心した悪い奴がだれか、なんていうなよ。悪党の片割れめ)不満に思ったようでな。

 9月から入ってきた余所者に調査を命じていたことがわかったよ。なんとかしたかったが、なんともできなかった。

 本人とも直接話して理解を求めたが、爺さんの話に興味はないとさ。なかなかの野心家のようで、やっかいな老人に邪魔されたとでも思っているんだろうな。

 

 とにかくもう、止められない。

 

 年が明けたら3月、そのあたりで俺は消えるよ。家族は喜んでる、やっと終わってくれるとな。

 だからそれまでにホープカウンティから、こっちに出てこれないか?

 

 最後にひとつ、あんたのために置き土産をしていくつもりだ。そうだ、お前さんが生意気な注文していたやつだよ。

 随分とふざけた要求だとあの時は思ったものだが、世間は広いな。あとは、会ったときにでも話そうや』

 

 そこまで一気に書き上げると、丁度良いタイミングで厨房から焼けた肉の塊が、良い匂いを振りまいて運ばれてきた。

 

 

 食事を終えてコーヒーを楽しみつつ、視線は自然とダイナーに垂れ流されているテレビのニュースへと注目する。

 世界情勢について、我が国は。今のアメリカは良い話題は少ない。

 

 このモンタナからしてそうだ。

 

 この10年、モンタナにはびこる悪は許さないと。

 FBIやDEA、ATFらと組んで徹底的に麻薬と武器については取り締まってきた。それに意味があったのだという自負はある。

 一方で――失望もあった。

 

 それがあのカウンティ・ホープにそびえたつ大樹。

 プロジェクト・エデンズ・ゲート、ジョセフ・シードが率いるカルト集団。

 

 疑いはずっと前からあったものだったが、確信を持った時にはもうほとんど全てが手遅れになっていた。

 あの場所で青々と茂る大木は、今やこのモンタナ州全域をも飲み込まんとその根っこをよそにまでのばそうとしている。

 近年ではこのモンタナで事件が起きると、警察はまず犯人があの場所に逃走していないかどうかを気にしている。

 

 ハイウェイパトロールはすでにあのあたりについてはお手上げだとして。見て見ぬふりをしている。

 警察にも以前は骨のあるのが何人かいたものだが。そんな連中にはなぜか、悲劇が次々と起こっていき。牙を抜かれるか、しっぽを丸めるかするようになってしまった。もう、誰もあの町のことを気にしていない。

 

 地元である周辺地域ですらこうなのだ。

 あの町で正義と法を守る保安官なんて、たまったものではないだろう。

 

 一昨年まで「俺があんたより先に引退(リタイヤ)するさ」といっていたあの保安官は、ついに引退をまた1年先延ばしにすることを決めた。

 その勇気と使命感には称賛を送りたいが、しかし状況は最悪へと転がり始めていた。このままでは奴も、引退する前に”悲劇”に襲われて、なんてことになりかねない。

 

――友よ、”彼女”がそんなお前にとって守護天使となればいいのだが

 

 老人は店を出ると、すぐにハガキを送り出すことにした

 モンタナの冬の冷えは厳しいが、老人達は自分の戦場へと戻っていく。そこにとどまれるのはあとわずかだ。

 自分が立ち去れば春が訪れるだろうが、次の冬を迎えられるかどうかはもうわからない――。

 

 

 

==========

 

 

 L.A,のホテルの一室で――。

 相手から視線を逸らすと、そこにはシーツの乱れたダブルベットがあった。

 ここで先ほどまで何があったのか、どんな行為がおこなわれたのか一目瞭然のそれを見て。

 

 私は激怒した。

 悲しみよりも、はるかにそれは大きく、圧倒的だった。

 

 だからうるんだ瞳で再び相手の顔をそこに映すと――。

 殺すつもりで、本当に久しぶりに本気で1発。そいつの顔を殴りつけてやった。

 

 

 そうして私は私の第2の人生に終わりをつげた。

 

 

 まァ、とにかく。運がいいのか悪いのか相手は別に死にはしなかった。

 情事を交わした直後の女に浮気がばれ、なぐり殺された――とはならなかった。

 おかげで私は犯罪者にならずに済んだものの、正直どうでもよくなっていたと思う。数時間前までは、そいつこそ自分の人生であり。愛であり、婚約者であったはずなのだが。

 

 これで終わり。

 私はまたもや、敗北してしまったのだ。

 この世界は狂っているんじゃなかろうか?それとも、ただ私は間抜けなだけで。それが理由でみじめな人生を歩き続けるサダメにあるのだろうか。

 

 もし神が目の前にいらっしゃるなら。

 その穴という穴に銃口を突っ込んでから、ぜひこの間抜けな女に回答をいただきたいものだ――。

 

 

 そんな負け犬人生を歩く私の名はジェシカ。

 ジェシカ・ワイアット。それが今の名前だ。

 

 この体の4分の1にだけ先住民族、チーリー族の血が流れているが。

 自分は決して美人とは思ってない。でも射貫くようなきつめの視線が、なにやらフェロモンとやらを分泌するらしく。31歳になるまで、ろくでもない男たちと付き合ってきた。

 いや、異性の話はやめよう。

 

 

 私のキャリアの話――これも、たいしたものはないか。

 だって負け犬のキャリアだもの。

 

 愛国心があって、男に負けないくらいには自分はタフだと思っていた。

 だから陸軍へと志願した。まだ10代の子供の決断だった。

 

 それからなんやかやがあって、栄光のL.A.のSWATへ。

 だがそれも終わり――まさか男でやめるなんて、さすがにこの町に来るまで自分でもそんなこと考えもしなかったな。

 

 

 気が付くと、新年は初まっていて。

 自分はまた決断した、これで3度目。

 日本製の小型SUVにスポーツバック2つ。これが今の私の全財産。そんな私の未来への不安、それはとても大きいとしか言えないが、それでも決めたのだ。

 

 

――あの、奇妙なスカウトに誘いに乗って。

 

 

 それはあのクソ野郎と別れてしばらくのこと。

 

 そいつはドラマに出てくる政府のエージェントみたいに。絵にかいたサングラスと黒服の男で、自分はただのメッセンジャーであると言っていた。

 

「ミズ、新しい生活を考えておられるなら。モンタナはどうですか?」

「――モンタナって、あのモンタナのこと?」

「ええ、そうです。あなたにとってもつながりの深い――そうそう、叔父上の遺産が残された土地のことです」

 

 男の言葉に、私は少し顔をしかめた。

 昨年のはじめ、叔父がガンで長い闘病生活の末に亡くなっていた。

 彼はなぜか私のことを気にしていて、自分の邸宅を実の子ではなく私に残すと遺言を残していた。あの時の私はL.A.で結婚生活を始めるつもりでいたから、従妹と何度か話し合っていたのだが。

 困ったことに向こうも叔父の意思を尊重したいと言って譲らず、土地の権利はなかなか決着がつかないまま放り出されていたままだった。

 

「自分の財産を他人に調べられるのは好きじゃないわね」

「気にしてはいけません。そのおかげであなたは私の誘いを受けるかどうか。選ぶ権利を手にすることができたのですから」

「フン。尻尾をふって喜びなさいって?」

「まじめな話なのですよ、ミズ。あなたはご自分の人生を、どうとらえているのかわかりませんが――」

「負け犬の人生よ。キャリアは見れたものじゃないわ、でしょ?」

「――らしいですな。あなた自身はそう考えているのは知っています。

 ですが、それがこの場合は重要でしてね。ひとつ、考えてみちゃいただけませんか?」

 

 私は鼻で笑う。笑うしかなかった。

 

「なによ?モンタナじゃ人手不足なの?たかが保安官助手に、軍とSWAT崩れを選んでくるなんて――」

「それなんですが、少し訂正させてください」

「へぇ、どこ?」

「保安官助手、というところですよ。こちらが欲しいのは今の老齢の保安官の後継者です」

「――どういうこと?」

「今の保安官の希望なんだそうですよ。自分の次は、タフで、腕に自信があって、粘り強く住人達と付き合える……地元の人たちをちゃんと面倒見れる人物が必要だとか」

「そんなの、田舎でも何人かくらいは他にいるでしょ?」

「ええ、ですが現地の状況からか。外部の人間で、という単語がこれに加わってましてね。それがあなただと我々は考えたのです」

 

 近い将来は女保安官の地位が約束されているってことか。

 

「なんだか怪しい話に聞こえる。たしかに無職の元軍人には悪くない申し出だけどね。だいたい、現地の状況ってのは――」

「繰り返しますが!――いいですか、我々は有能な人物を求めてます。はっきりと断言してあげましょう。そう!あなたのキャリアはひどいものです。軍ではまっとうに評価されず、SWATではそれを引きずってくすぶっていた。

 卑劣な男に騙され、婚約も解消したばかりだと聞いてます。

 ですが、そんなあなただからこそ可能ではないか。そう考えた人がいます。その人はあなたに町の未来をかけたいと思ってます」

「未来?」

「ええ、そうですよ。

 モンタナ州はカウンティホープ。そこがあなたの仕事場です。

 そこでは保安官として必要なことを学び、必要なことを実行してください。こちらが求めているのは、ただそれだけなのです」

 

 どこからどう聞いても、それは怪しい話に違いなかった。

 だが、私はそうだ。何かを解決して、前に進みたいのだと思っていたところだった。

 何かに絶望して、自分の人生を考えられなくなったと銃口を口にくわえるのは。軍人だった時代だけで飽きた。

 

「――よくわからないけど、気に入ったわ」

「引き受けてくださいますか?」

「わかってたみたいだけど。私、丁度この町をどうやって離れようか考えているところだったのよ」

「そのようで」

「叔父のこともあるし。あなたの話に乗るのが手っ取り早い解決になりそう」

 

 冬は終わり、春は始まったばかり。

 辞表は受理され、すべてを処分し。私はこれから車でじっくりとカウンティ―ホープを目指しての車の旅がまっていた。

 

 

==========

 

 

 うららかな春の木漏れ日の中を保安官事務所へ向かって歩きながら、アーロン保安官は思った。

 

(本当に辞めていってしまったんだな)

 

 3月末、法曹界の独裁者にしてヒヒ爺と影口をたたかれていた友人は。彼の宣言通り、戦場どころか現実から背を背けて立ち去って行ってしまった。

 彼が最後に残した言葉は、お前は引き時を見余ってしまったんだ、と。

 日々、身の危険を感じ続けている今の自分がバカだと彼は言いたかったのだろう。それは、わかる。

 

 だが、自分はこの田舎町の保安官なのだ。

 愛するこの場所に住む人々を見捨てることはできなかった。自分を信じてついてくる部下たちを見捨てられなかった。

 

 そんな彼だが、今日は大切な日となる。

 友人が残してくれた最後の援護。新人が自分のところへとやってくることになっている。

 

 

 資料によれば、とにかく若干の不安定な要素はあるが。これ以上はない良い物件とのことだった。

 たしかにタフではあるらしい。軍の記録にも優秀な兵士である、と。評価欄には必ず記載されていた。SWATでも勤務評価に悪いものは見当たらない。

 その上、本人は早々に田舎でリタイヤ生活のつもりで保安官を引き受けると了承してくれたのだというから、これが事実なら最高に間違いはない。

 

 部屋に招き入れた彼女は、写真で見たそのままに見えた。

 美人、とは思えないが。血に混じったオリエンタルな雰囲気と。キツイ目つきに宿る、強い意志が印象的な。180センチ近い大柄な女性であった。

 正直、まだ20代前半だと言っても信じてしまいそうだ。

 

 ひとしきりの会話を終えると、さっそく本題に入っていく。

 

「それで、伯父さんとやらの住処はどうだったのかな?」

「なんとかなりそうです。荷物の整理と家屋の修理が必要ですが」

「ボチボチやってくれ。困ったことがあったら聞く。それじゃ、まずはこれを受け取ってくれ――」

 

 彼女の表情がこわばるのが分かって、すこし小気味がよい。

 

「これ、保安官バッジなんですが――?」

「そうだ。聞いたんだろ?この椅子に次に座る奴を探していた。あんたがそうだ」

「ええ、でも――」

「ならさっさとバッジも渡してしまったほうがいい。なに、俺がここからいなくなる前のご褒美くらいに考えてくれ。俺があんたに用意できるのは、こんなものくらいしかないからな」

 

 真意を悟られぬよう、明るい調子で伝える。

 

 これは保険だ。

 この老いた保安官の身体に何かが起こったとしても、彼女がいれば少なくともしばらくはなんとかなるはずだ。

 

「次に聞くが、武器のことだ」

「はい?」

「銃だよ。見たところ今日は持ってきていないようだが――あるんだよな?」

 

 彼女の顔が曇った。

 

「イランに視察に行けと言われたわけでもありませんし。ここで着任後に、と思ってましたが」

「参ったな、まさかとは思ったが……」

「マズかった、のですか?」

 

 やれやれ、やっぱり彼女は新人ということか。

 元軍人、元SWAT隊員がまさか自分を守る銃を何も持たないとは!

 

「ルーキー、お前さんの前の職場じゃそんなことはなかったんだろうが。今、巷じゃ銃の規制法が叫ばれ。頼もしかったわれらのライフル協会も内紛から分裂し、力を失っている。

 そのせいだとここでは断言しないが、アメリカ国内での銃の流通も場所によっては難しいことがある」

「ええ、それは知ってます。まさかこのモンタナが?」

「そうだ、ここもな、新人。もっとも難しい部類に頭を突っ込んでいる土地だよ。

 現知事からして銃の規制に賛成してるし、許可証のない武器の所持取り締まりは前任の州検事総長様が嬉々として行った定例イベントだ。分断される前のライフル協会は元気にそれを非難もしていたが、もうそれもまったくなくなってしまった。

 とにかく安全な観光業を望む人々も多くてな。まともな銃を新しく手にするのは難しい」

「……」

「こいつも結局は、軍と政府の気まぐれがひきおこしてくれたことなんだがな――」

「SOPシステムですね」

「ああ、そんなような名前だったかもな。ナノテクノロジーを用いた米軍の超人兵士計画から飛び出した。一つの完成形、だったか」

 

 SOPシステム――愛国者の息子たち、のシステム。

 すべての兵士をコントロールすることで、数値化し。最終的には戦場のコントロールさえ可能にすると思えるほど理想的な軍の新技術。

 

 2010年代に突入と同時に、大国の正規軍に次々と研究・導入されていったこの技術は。

 当然のように民間にまで下りてくると。麻薬ディーラーやテロリストなど犯罪者の手にも入るようになっていた。

 

 政府はもちろんこうなることをきちんと想定しており。

 制定した大統領への批判から死に体となっていたはずの愛国法に追加項目が施され。DEAやATFは国内で銃が使用されたというデータを求めて飛び回り、犯罪にかかわりあると疑いがあると直ちに銃を理由に裁判所へと訴えた。

 

 そのせいだろうか、不正規の武器の流通は徐々に寸断され。回収も進み。

 かつてから言われた銃社会のアメリカは。管理された銃のあふれる社会へと、変わっていってしまった。

 

「保安官でも、正規の手順を踏むと今からだと3か月はかかるぞ」

「……」

「参ったな。どうにかならんか?」

「――叔父の家に、古い銃があったと思いますが」

「それでいい!使えるようにするんだ」

「ええ、はい」

 

 彼女の顔が曇る。まさか観光業で知られる田舎町でそれほど銃が必要であるとは考えてなかったのだろう。

 仕方なく、保安官は少しだけ理由を聞かせることにした。

 

「実はな、少し面倒なことが起こるかもしれない」

「銃が必要な?」

「わからんよ。だがな、ハチの巣をつつくようなことだってことはわかってる。新人、その時はあんたにも付き合ってもらうつもりだ。だから今、あんたに銃が必要というのは、つまりはそういうことだ」

「わかりました」

 

 とりあえず納得してくれたらしい。

 あとは――連邦保安官がついに忠告を無視して乗り込んでくるのがいつになるのか、というだけだ。

 

 

 準備は整っていたが、アーロン保安官の予想は大きくそれた。

 裁判所の令状を手にした、得意げな顔の司法省の手先は――それからわずか2週間後に保安官事務所に乗り込んできたからである。




(設定・人物紹介)
・ジェシカ・ワイアット
この物語の主人公、性別は女。
先住民族の血を8分の1くらい持っていて、身長はメリルより少し高い。
細かい彼女の過去は、本編で語られていく模様。


・州検事総長
ケビンという名前があるのだが、混乱しないでもらうためにあえて無名となっている。
オリジナル・キャラクター。


・アーロン保安官
長年、ホープカウンティで保安官を務めてきた。
自分がジョセフ・シードの脅威をもう抑えきれていないことを理解する一方で。彼を恐れない人物を後継者に求めていた。

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