手には弓を 頭には冠を   作:鷹雪

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301のロイド

 地上よりはるかに上空。

 高高度と呼ばれる世界を飛ぶ輸送機の中で、パイロットは機内放送で「ポイントに接近」と冷静に告げ、同時に後部のハッチを開閉準備に取り掛かる。

 

 貨物室にはいかにもな迷彩服を身に着け、ゴーグルと布で顔を隠した兵士が。

 傍らに置いたスーツケースを確認してその時を待つ。

 腕時計で確認、現在午前3時18分。予定では、6時間後に目標地点へと到達することになっている――。

 

 輸送機はそのままフォールズエンド上空を通り過ぎて行ったが。

 そこでなにかが降下したという事実は、誰も知らなかった。

 

 

 ジョンのバンカーからジェシカが脱出して、数日が過ぎていた。

 ジェシカの傷は思ったよりも深かったらしく、この数日をスプレッドイーグルの2階にある客室のベットで大人しくしていた。

 同時に風邪もひいて、熱にうなされたので心配されたが。熱が引くと、患者らしく「眠い、だるい、痛い」を口にして元気になるのも時間のように思えた。

 

 この日もグレースは納屋で目を覚ますと、手近な家でシャワーを借り、最近は寝起きを共にするブーマーを連れてスプレッドイーグルへと向かった。

 

 レジスタンスは現在、本格的な反撃に向けて。プレッパー達の発掘と食料の確保に奔走している最中だ。

 

 このプレッパーというのは、近年において災害をはじめとした脅威によって社会が崩壊の危機に瀕したとき。これに対応できるように様々な資産や物資を、秘かに貯蔵している人々のことを指す。

 確信はなかったものの、ホープカウンティでは牙を隠していた頃のペギーに違和感を持つこのあたりの人の中に、そういった考えに賛同して準備していた人々が多くいることは知られていた。

 

 これにグレースやエド達も参加し、すでに今いる住人たちで3か月くらいは立て籠れる程度の物資を回収することに成功していた。

 あとはこれがすべて終わった時、自分たちがジョンに決戦を挑めるようになる状況であることを期待するしかない――。

 

 

 フォールズエンドに敷かれた大通りを横切ろうとしたグレースは、その中央のあたりで足を止めた。

 ブーマーはその理由が分からなかったが。グレースの周りを歩くことで、「どうしたの?」と疑問を投げかけてくる。

 

(人、よね?)

 

 今、フォールズエンドから北へとまっすぐ伸びるその道に人影があることはほとんどない。

 以前はペギーがこれみよがしにフォールズエンドの前で堂々と検問所を置こうとしたが。ジェシカがあっさりとそれを破壊して以来、ペギーも学んだのか戻ってくることはなかった。と、思っていたのだが……。

 

 そこにこちらへ向かってくる人影が、ある。

 

 

 グレースは素早くブーマーの尻を触ることで緊張を伝えつつ、走り出すと自分は近くの民家の屋根へとのぼっていく。

 屋根に横たわり、構えてはスコープを覗くと。そこに人影が迷彩服を着た男であることを確認したが。こんな時に限って、フォールズエンドを巡回しているはずのレジスタンスの警備の影はここにはいない。

 

(しょうがないわね。もしもの時は――)

 

 男が怪しいそぶりを見せるならすぐに終わらせられるようにと、注力を傾けることにする。

 むこうは黙々と歩き続けており、感情を全く顔に出そうとしない。まとう空気はプロだとわかるが、それにしてはあからさまな態度が気になる。

 

 そいつは他に怪しげなそぶりも見せなかったが、あと一歩でフォールズエンドへと入ろうと言うときに足を止めると。

 いきなりその場で服を脱ぎ始めた時はさすがにグレースも動揺を隠せなかった。それでも家の影に入っていたブーマーがとコトコと進み出て、男と距離を保ったままじっと観察を始めるのを見て。グレースは警戒は必要ないようだと、考えるようになった。

 

 それでも疑問符を頭の中に浮かべたまま、グレースは屋根から降りると。ようやくのことこの奇妙な客人の侵入に気づいたらしい警備が集まる中、兵士から立派なスーツに着替えたビジネスマンは、そこに立っていた。

 

 

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 

 

 起き抜けの乱れた髪。だぶだぶのTシャツにショートパンツ、化粧はナシ。おおよそ自分が女と呼ばれる生物であることを忘れた変なのが、「指名する客人が来た」との知らせにようやくベットから解放される自由を得ることができたとわずかに喜んでから、一気に落ち込んだ。

 

 あのクソッタレのCIAは、確かに自分で口にするだけあって有能ではあったらしい。

 メッセージが来れば当然、相手からはこのような形で接触が来るのは想像できたことであった。

 

 スプレッドイーグルのドアを抜けて彼を見ると、まずは大きくひとつ深呼吸をする。これでなんとか吐き気を抑えることができた。

 

「――久しぶりだな、ジェシカ元曹長」

「……驚いた。本当にここに来てくれるとは思わなかったです。大尉殿」

 

 相手の男は――私の上司の一人だった彼はフッと口元に笑みを浮かべる。

 

「そんなわけがないだろう。君の名前でメッセージが来れば、彼が無視しないことはわかっていたはずだ」

「どうでしょう。それほど自信はありませんでした」

「君は賢い女性だった。まぁ、とぼけるのはいいさ。それと私も、元大尉だよ。お互いに軍を離れての再会というわけだ」

「そうですね――今は、あいつのところで?」

 

 好奇心に負け、思わず探るようなことを聞いてしまった。

 後でこれはきっと後悔するのは間違いないが、彼はなんてこともないようにあっさりと答えてくれた。

 

「今はどこの戦場も金が落ちてはいないのさ、ジェシカ。私でも傭兵としてやっていくには、コネがなによりも重要になる」

「家族のために?」

「ああ――息子と娘の学費がどうにも大変でね。稼ぎが悪いと、彼らのために学校という名のブラックホールに放り込むドル札が足りなくなる」

 

 そこまで話すと、私はメアリーに店内から余計な人払いを頼んだ。それが終わるまでの間、互いにテーブルに向き合ったまま沈黙する。

 すべてを追い出すと「席に座って頂戴、なにかもってくるから」と言われ、メアリーもなんとなく空気を読んでくれていることが分かった。

 

「それじゃ、飲み物。軽い食事やなんかもできるけど――」

「ちょっと、メアリー。なんで向こうはビールで、こっちはジョッキでミルクなわけ?」

「まだ朝だよ、保安官。それにあんたは病み上がり、それで我慢するの」

「仕事の前に食事はとらないことにしている。ありがとう」

「それじゃ、こっちも食事はあとでいい」

「了解」

 

 メアリーがそう言い残して店の奥へと姿を消す。

 

 クリス・リー。

 現役時代も口数の少ない優秀な兵士だった彼は。あれから年を重ねて、さらにいい男に磨きをかけているようだ。

 私と違って東洋の血を引く彼は、私の上司だった時も愛妻家で知られていた。どうやら立場は変わっても、そこは変わらなかったらしい。

 

「繰り返すけど、本当に来てくれるとは思わなかったんです。あのメッセージ――」

「んん。あれはひどいものだったな。なぜ、あんなのをよこした?」

「……問題がありましたか?トラブルでも?」

 

 クソCIAだと名乗った怪しい奴だったが、律儀に約束を守ったのかと見直していたのに。早計だっただろうか?

 

「知らないようだな、ジェシカ。あれはCIAが抱えている殺し屋のひとりだぞ」

「っ!?」

「そんなのが国連にノコノコ現れたんだ。騒ぎになるのも当然とは思わないか?」

 

 そういえばあいつ。

 自分はロシアだかアジアでなにかやったとか吹いていた気がするが。あれって全部実話だったということか……。

 

「すいません。あんなのにでも頼まないといけないくらい、追い詰められていたので。身元は確認してませんでした」

「ロイド――つまり今の俺のボスは、私の警備チームに囲まれた奴の口からお前の名前が出て。興味を持ったようだ、話を聞いてもいいと」

「……よかった」

「だがこちらは警備責任者として事情を知っておきたい。あいつをよこした理由を。お前の口から聞かせてもらわねばならない」

「もちろんです」

 

 私はそこで、自称CIAエージェントとかかわった一部始終を簡単に話した。

 クリスは途中で、何回か質問を入れて詳しく聞きたがり。私はそのすべてを知る限り正確に答えた。

 

「なるほど、それなら理解する。

 だが、ひどいことをしてくれたな。どうせそいつも、騒ぎになるとわかって。わざとお前の願いをかなえてやったんだろう。まったく人騒がせな……」

「本当に申し訳ないと思っています。あまり信用もできそうになかったので、話半分で賭けみたいなものでした」

「ああ、だろうな――ここの状況は理解した。

 話をする前に、昔の知り合いであるお前に忠告しておこう。何を考えてロイドを呼ぼうとしたのかわからないが、かつての貸し借りの話だけではなにも得るものはないぞ。わかっているか?」

「はい」

 

 昔の馴染み、それだけでなにかを期待できる相手ではないと教えてくれているのだ。

 彼がそんなことをわざわざ教えてくれる理由も、なんとなく想像できる。あの事件の後、部隊の仲間の多くが苦しみ。助けを求めてあたりかまわず縋り付いていた、そういう噂は耳にしていた。実際、ロスのSWATで気の抜けた私に会いに来た”元同僚”は何人もいたし。私も彼らを助けようとはしなかった。

 

「かつての武器洗浄人(ドレビン)は、ドレビンズと名を変え。今はほとんどがまっとうな運輸業で稼いでいる。もう、あの頃のような無茶はやっていない」

「……」

ここ(モンタナ州)の状況についてはロイドも調べた。ある程度は予想してもいるから、彼がことさら君から情報を知りたがることはないだろう。

 ここはちょっとした内戦(Civil War)がはじまって暑くなる一方。そして今、お前は敗北する側に立っている。

 だからお前に与えられたチャンスはこの1度だけだ。私はお前を助けない。でも時間が必要なら、少しは待てるぞ」

「大丈夫です。準備はできています」

「……わかった」

 

 そこまで話すと、クリスは持ってきたスーツケースを床から机の上へと移動させ。静かにその封印を解除する。

 

 

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 

 

 ホランドバレーとホワイトテイルマウンテンの間にあるシルバーレイクの孤島にむけ。

 ジョン・シードはホランドバレーで回収した物資を積んだ船団を率いて向かっていた。

 

 兄であるジェイコブ・シードは兄妹のなかでは唯一、抵抗者たちの存在を許さないとして。ファーザー(ジョセフ・シード)より託されたエデンズゲートの仕事よりも、人狩りに精を出していることは知っていた。

 そのせいで物資の回収が進まず、このように兄弟に助けを求めてきていることも――。

 

 

 島に着くと、そこではすでに兄と兄の部下たちが空舟を用意して物資を待ち構えていた。

 

「きっちりと快く渡してやれ。涎を垂らしているのがいても、ガッツくなと言ってな」

 

 兄が自分を頼ったという事実が、ジョンのこの数日の間で最高に機嫌をよくさせていた。

 ジェシカとレジスタンス、フォールズエンドの存在にはカリカリさせられてはいたものの。それ以外ということでは、ジョンは実に多くのことをエデンズ・ゲートにもたらすことに成功していた。

 

 潤沢な物資。

 罪を告白して、我ら家族に加わるべき無知な人々。

 そしてこの王国で力になるであろう、住人たちが隠し持っていた武器や兵器の数々。

 

 ジョンはそれを用意したが。ジェイコブは違う、彼は消費するだけだ。

 そんな兄に挨拶してやろうと姿を探すと、岸に転がる大岩に座って美しい湖を見つめているジェイコブを見つけた。

 

「よォ、兄さん。あんたの要望通り、ちゃんと食べられるものを持ってきてやったぞ」

「そうか、ありがとな。”お嬢ちゃん”」

「っ!?」

 

 同じ家族、とはいっても血のつながりなど当たり前だがあるわけがない。

 それでも兄と呼ぶのは、父と呼ぶジョセフに救われ。互いに同じく信仰を持つという、つながりへの尊重すればこそだ。であるなら、こちらに倣ってむこうにもそれを……家族への尊重というやつを求めたいと思うのは当然のことだろう。

 

 だがこのジェイコブは口では自分も同じ気持ちであるとジョンに同意する日もあれば。今日のように途端にマッチョを気取って偉ぶりだすという悪癖を持っている。理解はしていても、それを納得する理由は自分にはなかった。

 

「お嬢ちゃんか――それを口にするのはやめてくれと、何度も話し合ったと思ったんだがな。兄さん」

「――ああ、そうだったかもな」

「それだけか?……わかったよ、そういうことなら次に飢えたときは。フェイスがファーザーにでも頼めばいい。ああ、無理だったなぁ?

 フェイスはファーザーに全てを話すから、あんたが嫌いな真面目で義理堅い弟を顎で使ってやるのが一番だってわけだ」

 

 この場では自分が上だという認識からいつになく攻撃的な口調をジョンは続け。

 ジェイコブの表情はまったくかわらないが、そんなヒステリックな反応を示す弟に。わずかに態度を軟化させる。

 

「やめろ。そうじゃない」

「やめろって?そいつはお断りだねぇ。

 だが、ファーザーは!喜ばれるだろう、俺たちが実に兄弟らしく。こうしてお互いが助け合いながら、顔を突き合わせて。互いに憎まれ口をたたきあうのを見れば、喜ばれるだろうってことだよなぁ?」

「もうやめろ!!」

 

 にわかに殺気立つと、ジョンの前にナイフを握ったまま立ちあがるジェイコブに。

 ジョンは恐れも見せず、引かずに正面からまっすぐ見上げてむかいあった。

 

「アンタにビビると思ったら大間違いだ、兄さん!アンタは今回、ここに俺の尻の穴をきれいになめ上げたご褒美をもらいに来てるんだ。ここまで言えば立場は理解できると思うが、あんたの脳みそはまだちゃんと動いていると思うのかい?」

「良く回る口だ」

「そしてあんたのナイフはよく切れるって話になるのかな。まぁ、どうでもいいがね。

 あんたは何といっても元軍人様だ。俺を殺し、ファーザーに縋って神の教えに従って弟を殺してしまったんですとでもやってみたらどうだ。その下手な演技でだれが騙されるのか、とても楽しみでしょうがないけどな」

「俺に、殺されるのが怖くないと?弟よ」

「ああ、怖くないね!おれは命を懸けている、この偉大な計画を完遂するために。ファーザーのためにやるべきことをやっている!あんたとは違う!」

 

 ジェイコブの目はさらに危険な輝きを見せはしたが、反対に口元から広がる笑みに悪意はなかった。

 

「できる弟を持って俺は嬉しいよ」

「……」

「ジョン。俺を助けてくれたお前には感謝している。ちょっとからかっただけだ、深刻になるな」

「ああ」

「だが、そんな賢いお前が偉く面倒なことになっているという話を聞いた」

「それはっ!?」

「逃げ出した保安官に何度も出し抜かれて、手も足も出ないという噂だ。どうなんだ?」

「――回収は進んでいる」「そうか?」「ああ!遅れはあるが、別に慌てるようなことはない!」

 

 笑みを浮かべた、危険な兄の手が伸びてきてジョンの肩口をつかむ。

 痛みを与えてやろうということだろうが、ジョンも笑みを浮かべたまま。眉も動かさず、悲鳴も上げずに兄の顔を見返してやった。

 しかしどうも様子が違う。どうやらわざとこうして2人だけで話すように、状況を持っていきたかったとでもいうのだろうか?

 

「なぜ、ファーザー(ジョセフ・シード)の御意志に逆らう羊共に牧草を荒らすのを許す?」

「――俺だって不満はあるさ。だが、それだってファーザーの御意志でもあるのだ。無視はできないんだ」

「それはお前の間違いだ。ファーザーはそのようなことをお前に求めたことはないはずだ」

「俺が間違っているわけがないだろう!」

「いいや、間違っている。大勢の中に紛れ込んだからというだけで、そのすべての群れにまで慈悲を与えよと誰が言ったんだ?」

「そうは言うが――」

 

 せっかくとらえた相手はすでにこの手の中から飛び出してレジスタンスの中に紛れ込んでしまったのだ。

 

 ジョセフの息子、という期待をされているのに。その彼に失望されるような結果にはしたくなかった。

 それを考えるとあのフォールズエンドに手を出すことは、あまりにもリスクを背負いすぎている気がする。そう思っていたが、ジェイコブには違うものが見えているということか。

 

「この兄に、今日のお前への借りを返させてほしい」

「どうやって?」

「リペレーターを送る。数日はまだ必要だろうがな」

「あれを?いいのか!?」

「もちろんだ、弟よ。それを使って愚かな羊共に奴らの本当の役割を思い出させてやれ」

「確かに。それが使えるなら――」

「仕事も大切だが、お前も狩りを始めろ。

 狩場に追い込むだけでもいい。貴様を悩ませるものは、隠していた弱い本性をあらわにするはずだ」

「確かに、その通りかもしれない」

 

 ジェイコブが本気でこちらにリペレーターを――あの兵器(武装装甲車両)を渡してくれると言うならば。

 たしかにフォールズエンドは獲物がひしめく狩場となるのは明らかだ。あとは狩人を送り出して、徐々に弱らせながら残らず回収するだけで終わる。なにせ人も、食料も、そしてなにより武器もあそこにはないのだから。

 

 

 そうなると、急に姉のフェイスのことが気になり始めた。

 ジェイコブとジョンが組んで何かを行えば、その意味するところも考えずにあのフェイスならばファーザー(ジェイコブ・シード)に見たまま、感じたままを伝えてしまうだろう。

 そうはならないよう、向こうの気を引いておく必要があるのか――。

 

 島を出ると、すぐにジョンは部下を呼んで用を誰かに任せたいといった。

 

「フェイスのところへ使いにいってくれ。

 うちでも例の廃液の処分をてつだってもいい、と言うだけでいい。いきなり大量に持ってこられても迷惑だから、良識的な分だけ引き受ける、と。あとは互いに、手探りしながら話を詰めることになるだろう」

「他にありますか?」

「ああ――フェイスはきっといきなり持って行けと押し付けてくるだろうが。それはなんとしても持って帰るな」

「フェイス様が、それを拒否されたらどうしますか?」

「その時は構わないが、ちゃんと主張はして来い。こちらも仕事はあるから、人は避けないとでも理由を言えばいい。後で断る口実にする、返事は急がないがそこだけは忘れるな?」

「わかりました、ジョン」

 

 ボートの一団から一隻が離れていく――。

 

 船に座るジョンの目は、すでにホランドバレーへとむけられていた。

 戻ったらさっそく準備が必要になる。レジスタンスと保安官を同時に弱らせ、一気に殲滅する計画だ。これに成功すれば、悩みはすべて吹き飛び。仕事が進めばエデンズ・ゲートにもたらす栄光は兄弟の中でも群を抜く結果になるのは間違いない。

 まったく、良い兄を持てたと今日くらいは感謝しないとな。

 

 

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 

 

 クリスはスーツケースからさらに小さな通信装置を複数取り出すと、巻物のように丸められたシート状のディスプレイを机の上に広げ。ボタンを押して電源を入れる。

 たったそれだけで封鎖されたモンタナ州とNYの距離は見事にゼロとなり、私はロイドと直接対面を果たすことができた。

 

「いきなりの呼び出しなのに。この面会に感謝しているわ、ロイド」

「――まさかあんたから呼び出されるとは。ジェシカ、保安官殿」

 

 昔の、あれでもまだ誇るべき自分の姿を知っている相手に言われては自嘲の笑みが広がるのを私は隠せない。

 

「ええ、そう。今は保安官をやってる、笑えるでしょ?」

「どうだろう。だが栄光のSWAT部隊で腐ってた君なら、確かに驚く決断をしたとは思う」

 

 さっそくちくりとつついて、こちらを揺らしにかかってきている。

 以前は逆の立場で、こっちがたっぷりロイドをいじり倒していた。このくらいの復讐なら気にしてもしょうがない。

 

「隠しても無駄だろうから白状するけど、こっちはトラブルだらけで。正直、どうにもいかなくて困っているの」

「だから、このロイドを?」

「ええ――あなた以外に頼める人はいないと思ったわ」

「ふふふ、悪いが今は裏家業はやっていない。そもそも、銃の認証システムは。正規軍がSOPを欠陥だと決めつけたせいで、もはや下火だよ。今の戦場で、認証システムをまだ使ってるのは金を持っている政府軍だの金持ちの金を持っている側だけだよ。あのころのような旨味はもう、ない」

「そうなんだ」

「で、そんな元ドレビンに。君は何を頼もうと言うのかな?」

 

 視線は外さなかったが、自然に大きく一度だけ深呼吸を入れた。

 

「銃。あふれるほどたくさんの銃が必要なの」

 

 元ドレビン――いや、かつての武器商人は鼻で笑う。




(設定・人物紹介)
・クリス・リー
オリジナルキャラクター。
ジェシカの上官の一人だった傭兵、という設定。

・プレッパー
意外に有名な話ではあるが、かの国の国民は「今後数十年以内に世界は終わる」というのをしんじているとか、いないとか。


・ドレビン
武器商人の形態のひとつとしてメタルギアソリッド4に登場した。

彼らは厳密には愛国者のシステムによって誕生した存在であり。システムを採用する軍隊を相手にして商売をしていた。

メタルギアソリッド4以降は愛国者からも自由となり、解放されたが――この物語はそんな彼らのその後のIFのひとつでもある。

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