沈黙していたジョン・シードが動きだした。
彼の兄は約束よりもさらに数日遅らせたが、装甲車両リペレーターを弟の元へ届けた。準備を終えたジョンはさっそく作戦を発動させた。
ホランドバレーには未だにフォールズエンドやレジスタンスにかかわりたくないとする家族がいた。
ジョンは信者を使って彼らを駆り立ててフォールズエンドへと向かわせ。同時にフォールズエンドから外へと出ていこうとするレジスタンスをリピーターを使って封じ込めにかかったのだ。
そもそもにしてレジスタンスと言っても脅威なのはジェシカを含めた数人だけで。
武器はなく、食料に乏しいことは誰でも知っていた。
そこでフォールズエンドに傷ついた人々を流し込み。増えていくけが人、不平と恐れを隠そうともしない住人達と減っていく物資に恐怖させ。
次に起こるのは裏切り――そうやって内側から崩壊させようと狙っての行動であった。
実際、この計画は効果的であったことは認めなくてはならない。
食料を求めて狩りと釣りに出ることがかなわず、教会には苦しむ人々の声であふれ。
レジスタンスと言っても、彼らが手にするのは骨とう品としか呼びようのない銃器を握っているだけ。なんとか使えそうなのはデス・ウィッシュと呼ばれる武装車両のみ。火力がまるで足りていない――。
ここでいきなりメアリーが言い出した。この苦難から逆転する方法、反撃の手段について。
ペギーが徐々に危険な存在となろうとした時。ジョン・シードを最初から信じて居なかったメアリーの父は、ある日なにかの理由があって、娘に「ジョンと対決する」と言い残して姿を消してしまった。
人々は彼はペギーに殺されたのだろうと噂したが、死体がでることはなかった。そのせいで自分たちもなにもできないのだと、ため息をついてアーロン保安官もあきらめるしかないと言ったらしい。そんな父を殺され、残された財産を抱えて悲しさに耐えねばならなかったメアリーにさらなる仕打ちがなされる。
ある日突然ジョンが店先をわざとらしくゆっくりと横切って見せたのだそうだ。
彼女はそれを知らなかったが、その直後。彼女の父が愛した装甲車両ウィドウ・メーカーが何者かに盗まれてしまった――メアリーはずっと絶望していたという。
「でもね。あいつらがこの騒ぎを起こす少し前。ジョンがまだウィドウ・メーカーを持っているって噂が流れたの」
「それってお父様がペギー共を追い散らすのに使ってた。あのモンスタートラックでしょ?」
「父はあれで物分かりの悪いペギーを追い回して散らしてた。あいつらには忌々しい車だったでしょうね」
どうやらスプレッドイーグルの名物は料理と酒だけではなかったらしい。
グレースの言い方から、ジェシカは期待できるかもしれないと考え始める。
「でも、それをなんでジョンがまだ持っていると?」
「このニック様にはその理由はわかるぜ。ジョンはあれで意外にガキっぽいのさ。車、飛行機、ヘリに船。そういったものが好きなんだろうな。俺のカタリナを奴らは奪ったが、それでもちゃんと整備はされていたんだ。ペギーにもまともな整備ができる奴がいるってことだよ。
そんなジョンが、ウィドウ・メーカーみたいな最高にイケてるモンスタートラックを手にしたら。それを破壊するなんて思えない。今なら特にそう思うぜ」
エド達にフォールズエンドの中央でデス・ウィッシュで存在をアピールさせ。住人を落ち着かせる一方。
ジェシカたちはひそかにリペレーターと信者たちの検問を突破し、ウィドウ・メーカーの奪還に向かう。この包囲網を、モンスタートラック同士の直接対決で打ち破ろうと言うのである。
レジスタンスの反撃はそれから2日後の昼に開始された。
封じ込め3日目に向かって、元気に今日もフォールズエンドを中心に円を描くように走り続けるリペレーターの真横からジェシカとグレースが奪還したばかりのウィドウ・メーカーで攻撃を仕掛ける。
この騒ぎを聞きつけ、フォールズエンドからは数台のバギーを引き連れたデス・ウィッシュも出撃。混乱するペギーの検問所を次々に襲撃し、これを蹂躙していく。
リペレーターとウィドウ・メーカーの対決は2時間にも及ぶ激戦となったが。
最後は駆けつけてきた上空のニックの飛行機と、デス・ウィッシュが率いるレジスタンス部隊に囲まれ。積んでいた火薬に引火したのか、燃え始めたリペレーターは徐々に速度を落としていくと。ついにホランドバレー中に響くほどの大爆発をおこして決着がついた。
ジョン・シードはまたしても敗北した。
そして悠々とフォールズエンドへと凱旋するレジスタンスたちは、傷だらけになってもなお勝者の威厳が損なわれることはない勇壮なるウィドウ・メーカーを先頭に人々はその帰還を大いに喜んだ。
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リペレーターの撃退はホランドバレーの空気を一変させるに十分だった。
フォールズエンドにはあの日々と変わらぬ平穏が戻り始め。ここに追い立てられていた人々も、再び立ち去りはしたが。その時に自分たちもレジスタンスに加わると伝えてきている人は増えているらしい。
ジョンに奪われたものはいまだ多く取り返せてはいないものの、「変化はこのホランドバレーから」と希望を口にする人々が増えてきている――。
一方で、私は私で秘密の計画を実行に移していた。
朝食を終えると、店に残るグレースに目配せを残してブーマーと共に町の外へと出ていく――。
元ドレビンのロイドに持ち掛けた銃の不正取引、密輸、密売。それが現実のものとなったのか、確かめる時がついにきた。
ここからではホープカウンティの外の動きはほとんどわからないが。この戦争で勝つにはとにかく武器が必要で、私はそのために手を汚すことになるが、それでもやらなくては勝利は得ることは不可能なのは間違いない。
とはいえ、ロイドの気が変わればすべてはご破算となってしまうわけだが……。
私は自分が目にするものが信じられず、小さくうめき声をあげた。
大きな牧場の広がる草原の中。ぽっかりと円形に地面がむき出しになっている部分に、まるで誰かが配達してきて積み上げていったかのような物資の山と”我々の顔に笑顔を”と書かれた誕生日か何かに使われそうな派手な明るい色の風前などの装飾がそこに施されていた。
「落ち着いて、私。おちつこう、ブーマー」
ブーマーは何のことだ?という風に首をかしげてこちらを見上げている。動揺しないか、そりゃそうだよね。頼もしいヤツ。
笑顔、と書かれた文字のそばに置かれたタブレットを手に取ると静かに電源を入れた。
『ジェシカ、おめでとう。我々が立ち上げるチームの誕生をまずは喜ぼう。
君のような人は大金を手にすることはなかなかにストレスであることは理解しているよ。だからひとつだけこの悪い友人から忠告しよう。善人である君の良心が、次第に大きくなっていく利益の額におびえたとしても、それはしばらくの間だけだ。
そうだな。100万を超えたくらいからきっと動揺はしなくなる。わかるんだ、誰でもそうなるからね』
法の番人が銃の密売組織のボスとなった日ね、そりゃ確かにめでたいでしょうよ。
『君の話を聞いて、さっそく君の一族の長老方と面会してきたよ。君の申し出に一族は感謝し、家族のつながりが強かったことを喜んでいるそうだ』
思わず鼻で笑う。
国に、歴史に、学者にも見捨てられた哀れな先住民族が生活する方法なんて非合法のそれでしかないが。怒りと憎悪から、彼らは白人たちとの武器取引には足元を見る。だから、売り上げは良くない。見て見ぬふりのできない、知りたくなかった現実のひとつだった。
『このタブレットは手元に残しておいてくれ。こいつはなかなかに高性能なんだ、どこでも手に入るものじゃない。
我々の条件と、利益を得るシステムについては別にファイルがある。目を通してほしい。ああ、安心してくれていいよ。この契約には弁護士は目を通していない、私がちゃんと対等になるように心を砕いて作らせてもらった。文句があればまた別の時に』
「ええ、そうする」
『最後に君は嫌かもしれないが、私のビジネスの流儀でね。”現在”の生産状況を君にもしっかり見せておこうと思った。嫌だろうが、その生意気な目をそらさずにちゃんと見てもらいたいね。それじゃ――』
ロイドと彼のオフィスの映像が消えると、手振れがひどい映像へと変わった。
すぐにわかった。懐かしい一族の住まうトレーラーハウス、かつての友人たちに家族。もう15年近く帰った記憶はないのに、まだそこにしっかりと残されている。
そして見たくもなかった最悪の現実も。
老婆から孫まで、トレーラーハウスの下に穴を掘って作った工場で、工作機器を使って違法に武器や弾薬を生産している。
彼らはその違法な作業を歌いながら、笑いながらおこなっている。
彼らとのつながりを絶ち、血のつながりを忘れ、故郷に背を向けでもしなければ今の私のようにはなれない。悲しいが非情でもそれは事実だったのに――。
私はタブレットの電源を落とすと、無線機に「グレース?迎えをお願い」と通信を送る。
きっと後悔するだろうと確信はあった。それでも――今日はもう何も考えたくないし、動きたくない。
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40分後、トラックに乗ったグレースは。そこに積み上げられた派手な装飾が施されたモノと、それに肩を落として腰かけているジェシカ達の姿を見て。口笛を吹きながら車から降りてきた。
「やったじゃない、ジェシカ保安官。あなたはついに奇跡を本当に起こしてくれたようね」
「どうだろう?嬉しくもないし、後悔もしてるかも――」
「駄目よ!あなたはやるべきことをしただけ、これでようやくペギー共と戦争を始めることができる」
「わかってるわ。そのためにやったことだもの」
「本当にわかってるの?私たち、このモンタナで、レジスタンスで、現代のアラモ砦をやらなくてもよくなったの。それがわかって私は逆に気分がいいわ」
「そうね。ありがと、グレース」
そう、確かにこれで準備を始められる。
これまで一方的に殴られ続けて居たレジスタンスは、ついに声を上げてハッキリと主張することができるようになる。
グレースは素早く箱の中に並べられた武器を確認していく。
「弾薬もあるのね。それはニックのところに置かせてもらって、先に武器からフォールズエンドに運び込んでしまったほうが早い」
「わかった。ニックと連絡を取るわ」
「それで、どんな可愛い顔をしているのかしら――あら、TEC-9ね。それにこっちはスコーピオか」
「ギャングご用達の武器よ。売れ残ってたんじゃないかな」
「コンクリートジャングルが、予定を変更してモンタナのジャングルへ。ようこそ、お嬢さんたち坊やたちにすぐに合わせてあげるわ」
サブマシンガンはピストル弾を使用するので、攻撃力に不安を残すものの。
護身用という意味で考えるなら、十分な殺傷力をもっている強い武器ではあるだろう。
「こっちはショットガンね。ストックレスタイプか、ぺネリ?違うわね。最新のものと、そうじゃないタイプがあるのね」
「ええ、今回はこれが一番多かったわ」
「狩猟にも使えるし、悪いことはないわよ。ジェシカ」
「――その隣も見て頂戴。私はそっちからひとつもらうわ」
「あらあら、我らの愛しのスプリングフィールドね?M1Aとは、喜ばせてくれるじゃない?」
「男どもに混じって『可愛いよ、レミ』って囁きながら手入れをしたのが懐かしいわ――嘘、悪夢よね」
「あら、私は嫌いじゃなかったわよ?その元ネタも分からなかったし」
「それは幸せね。私が映画好きであることの不幸ね。それに同期でハマっちゃって、本当にその彼女でマスかいたやつもいて。ドン引き」
「おやおや――」
軍隊時代の話は下品で馬鹿なものがそろっているという、それはいい例か。
「これだけ10丁か。まぁ、文句を言える立場ではないし。贅沢は言ってられないわよね」
「売れ行きがいいなら、次回にはAKMも用意できるそうよ。どう思う?」
「……どうかな、難しいわね。誰でも知るヒット商品なのは認めるけど、簡単に使いこなせる武器でもないし」
「そうよね――まぁ、すぐに答えを出さなくてもいいわ。とりあえずさっさと載せて、移動させちゃいましょう」
「了解、保安官」
私たちが額に汗してトラックに武器を積んでいる中。
草原の中をブーマーは空を見上げて、なにかにむかって飛び跳ね続けていた。
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フォールズエンドの雑貨屋の店先に男たちが殺到した。
これまでは減少していく品物で、棚に新しい商品が補充されることはなかったのに。新たに作られたコーナーに並べられた銃器は、光り輝く新品であった。
その上つけられた価格は適正なもの、武器に飢えていた住人たちがそれを見逃すはずもなかった。
私はグレースと店主に全てを任せて、スプレッドイーグルに向かい。無線機の前にどっかりと座る。
「ダッチ、ダッチ?聞こえる、返事をして」
『……ああ、聞こえとるよ。しかしなんだ、またジョンの尻を蹴り上げたって知らせか?あんな嬉しい話なら、いつだって大歓迎だ』
「悪いけど何もないわ」
『そうか、そりゃ残念だ。それなら、何の用だ?』
「まじめな話」『ほう』
確かに落ち込みはしたが、グレースの言う通り。武器の供給に目途が立ったことで、エデンズ・ゲートへの対応が変わる。
まずはジョン・シードに集中するべきなのだろうが。話はこのホランドバレーだけで終わるわけでもないので、ここできちんと現在の状況について最新の情報が必要だと感じたのだ。
「正直に答えてほしいの。ダッチ、ホランドバレー以外は今。どうなっているの?」
『――やれやれ、教えてもいいが。あまり明るい話題にはなりゃせんぞ』
「覚悟はしているわ」
『……』
「ダッチ?」
『わかったよ。ほかならぬレジスタンスの英雄。我らのジャンヌ・ダルクが必要だと言うなら、爺さんは教えるさ』
――ダッチの話は、確かに愉快なものではなかった。
残念だがレジスタンスは次第に身動きが取れなくなってきている。
もちろん、お前さんのいるホワイトバレーは別にしてな。ダッチはそう、切り出してきた。
ヘンベインリバー、あそこは長女のフェイスが指示を出していると言われている。
あいつは”祝福”と呼んでいるエデンズ・ゲート内だけで使われている薬物の製造と流通。そして特定の信者にそれを用いた説得を――ようするに洗脳を施していると魔女だ。
あそこは以前からエデンズ・ゲートが土地や農園を積極的に買い上げてきた場所でな。
お前さんも新人とはいっても、保安官なら耳にしたことがあったはずだ。あの辺は危険なので近づくな、とな。
あくまでも噂だが、ジョセフは多くをフェイスとと共に過ごしていると言われている。
ほれ、あのジョセフの銅像。あれを管理しているのも彼女だ。ただ、2人共この騒ぎが始まってからあまり人前には姿を見せなくなっている。隠れているのだろうと思っていたが、どうやらそうではないらしい。
どうやらジョセフはひとりで行動しているようだな。
子供たちを自分から進んで離しているようだ。ジョンのところじゃ話は聞かないのかもしれないが、ほかの場所ではあちこちに神出鬼没で現れ。自分の言葉を語って聞かせているのが確認されているよ。
ジョセフの子供たち――。
おかしな話だよな、彼らはジョセフの本当のこともではないし。そもそもフェイスは、あれは彼女の本名ですらない。
ま、それを言うなら兄弟の方も似たようなものか……。
とにかく、ヘンベインリバーのフェイスはジョンにも負けない意欲を見せて活動を続けている。
問題はあそこにはお前さんのような存在がいないってことだ。おかげでレジスタンスは追い詰められる一方でな。
それでも骨のある連中は集まって、ホープカウンティ刑務所に立てこもろうとしているよ。彼らなりに努力しているのはわかるが、とにかく抵抗するので精一杯というのが現実だ。
そして次がホワイトテイル・マウンテンだな――。
このホープカウンティを構成する3つのエリアの北部全部をさすこの場所は。今は地獄になりかわろうとしているよ。
当初からレジスタンスの活動をゆるさなかったジェイコブ・シードは、お前さんが破壊したあのリペレーターを使って叩き潰して回ったんだ。元軍人という話だが、確かに容赦ない。
それもあるんだろうが、あそこのレジスタンスは細かく分断されている。
いくつかの抵抗組織があるのはわかっているが。それぞれが単独で動き、連携は期待できないらしい。そもそも、こちらの呼びかけに答えてくれるのもひとつだけ。あとはだんまり、自分たちのことだけで精一杯ということなんだろうな。
ああ、実は――お前さんに内緒にしていたわけじゃないが。
この爺ィの身内がな、あそこにいるんだ。レジスタンスに参加して一緒に戦ってくれるとあいつは言っとる、頑張ってるよ――。
ん?ああ、リペレーターを失った影響か。
それなんだが、どうやらジェイコブは周囲に弟の現状を心配してあれを南に送ったのだ、と話しているらしい。だがそれを素直に信じる気にはならんね。
あいつは元兵士ということもあるが、誰よりも執着心が強いことで知られている。
自分の気に入っていた道具を、偽りの家族への愛のために譲ってやった、なんて美談は似合わない――。
それでだな。
俺が思うに、あいつはリペレーターでは自分のところのレジスタンスに効果が出なくなってきたと感じて別の手を用意したんじゃないかと思っている。
というものもな、あのジェイコブはあそこでファーザーの言う”神の軍隊”なんてものを作ろうとしているという噂があったんだ。他に隠している武器があったとしても、何の不思議もない。
ジェイコブ・シードという男は……まるで狂った独裁者のふるまいだよ。
とにかく好戦的で、反論がどこからともなく聞こえてくるとすぐにそれを武器を手にして叩き潰しにかかる。
それとこれは最新情報だが、ついに北部から南部へ移動しようとする人々を出さないよう。中央に厳しい境界線を構築させたらしい、と聞いた。
その影響だろうな。まだましな南にいかせてやるとかなんとかやっていた、逃がし屋のようなことをしていた連中が全員消えた。
何が起こったのかはわからないが。おそらくジェイコブに捕まったのか、逃げ出したんだろうという噂だ。これは、まだはっきりとはわからない。
これでいいか、保安官?
ようするに、だ。ホランドバレーはお前さんがいるんで、多少はマシなことになってはいるが。他は残念ながら、ペギーに好き勝手にやられ放題になっているよ。まだ希望は捨ててはいないが、難しい状況であることに変わりはない――。
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エドとジェイクも、当然のように店で新しい武器を買い求めた。
これまでいろいろと役に立ってはくれたが、ペギー共のライフルなんて正直お断りしたくてたまらないと思っていたんだ。
エドは最新のレールシステムが搭載されたほうのショットガンを、ジェイクはスコーピオを選んだ。
ARライフルとショットガンは下取りにして、追加したオプションの費用の捻出として。これまでこっそり殺したペギー達の遺品や小銭も大放出。
田舎町の若いアンちゃんたちは、今じゃ手にした新品の銃を構えたりしてすっかりプロの兵士にでもなった気分を味わう。
「よォ、グレース。見てくれよ、俺たちの新しい相棒をさっ」
「イケてる?惚れちゃうだろ?」
「――ハイハイ、坊やたちおもちゃの自慢はもういいかしら?それなら大人に戻って、ちょっとついてきて。ジェシカ”ママ”が呼んでるのよ」
「ちぇっ」「了解」
やっぱり実際の戦場を知っている滅茶苦茶ヤバイ女性陣には、この程度の変化はハシャイデいるように見られるのだろうか。
スプレッドイーグルではジェシカは無線機から離れ、静かにビールの瓶を煽っている。
グレースが楽しい相棒たちを連れてくる間にも、考えをまとめなくてはならない――。
ダッチの新しい情報で、ジェシカの脳裏に浮かぶホープカウンティにも変化が生まれようとしていた。
今日、新しい武器がフォールズエンドに届けられたからだ。
ジョンはそろそろ打つ手を失い、彼自身があの夜のように前線に出てくるのも近いように思えてならない。例えそうではなかったとしても、明日からレジスタンスは本格的にホランドバレーに戦闘を仕掛けることになる。
あの男がどれだけ我慢強いのか試すことになるが、結果はもう明らかと言ってもいいだろう。
ここまでなんとか耐えしのいでやってくることができた。
だからこそ、これからの反撃の狼煙をホランドバレーだけではなく。ホープカウンティ全部に感じさせなくては。争いの火種は業火にまで育てる必要がある。
今は頼れる仲間はまだ少ない。
身重の妻のいるニックや、確かな軍歴のある狙撃手のグレース、ジェローム神父をここから動かすわけにはいかない。
なので自然、あの愉快な若者たちに役割は回されていくことになった。
エドとジェイクはジェシカの密命を受け、大喜びで車に飛び乗ると進路を東に向け。夕暮れ時のホランドバレーを走っていく。
目指すはヘンベインリバー、ホープカウンティ刑務所に立てこもろうとしているというレジスタンスへ。彼らにしっかりと伝えなくてはならない。希望は決して立たれたわけではなく、そしてそれはもう目の前まで来ているということを。
(設定・人物紹介)
・リペレ―ター
原作でもクエスト「リペレ―ター」で登場する武装装甲車両。
追いかけると面倒だが。待ち伏せすると、意外とヤワイという。