次回投稿はいつも通り明日を予定してますが、明後日になるかもしれません。
暗闇が広がっている。計画は実行され、始まりは良かったはずなのに。
結果は無残。ジョン・シードの名はついに地に堕ちた。
圧倒的であったはずのリペレーターを失い。ついにジョンはレジスタンスに打てる手を失ってしまった。
そして恐怖は、いつの間にかジョンのそばに立って彼を静かに見下している。弱い自分、頼られない自分、ジョセフを失望させ。新しい家族たちも心の底では「あんたには期待していないから」と思っているに違いない。それは……それはジョン・シードであってはいけない!
この恐怖を消す方法はもはやひとつしかない。
思えばあの夜。
厳しく清められてもなおこちらに憎悪の視線をむけるのをやめようとしないあの女を。その目が恐怖に満たされるまで、しつこく清めてやろうとした自分は正しかったのではないか?
いや、そんなわけがない。それを汚す行為だと言って止めたジョセフの言葉には、きちんとした意味は確かにあった……はず。
ではなぜ、あの女はジョセフを否定する。
理解しようとしない?
神の言葉を教えられても無言を貫き。従え、導こうとすれば抵抗し。しつけようとすれば反撃してくる。
これでは意味がないし、自分はそうではないが。ジョセフの予言に疑いを持つ信者が出てきてしまうかも。ならば――攻撃だ。
我らの神の、
「おい!準備しろ、フォールズエンドに行く。今度こそ、これが最後だ……決着をつけてやるやるぞ」
愚かな羊たちよ。
我らの神の言葉が聞こえないというなら、聞き方から教えてやろう。
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ジップ・クプカは愛国者だ。
この最高で最強だったはずの国の現状に深く、憂いを持っている。
だからペギーがバカ騒ぎをはじめても、それにとりあわず。静かに国が対処に動く時を大人しく待っていた。それこそが正しい国民のふるまうべき態度というものだろうと、この愛国者は信じて思ったからだ。
だから彼はレジスタンスには参加しない。
だが状況は悪くなる一方で、国は驚くほど何もしてくれなかった。
思い悩んだ彼は、ある朝。神の声を聞いた、正しいと信じることを直ちになすのだ、と。
それはもうはっきりしたもので、今の問題は彼の脳裏にすでにしっかりと見定まれていたのだ。それはなんであったのか?
答えは食物連鎖とウォール街だ。
ペギーに参加していった隣人に売りつけられた火炎放射器を手にすると、衝動に従って外に飛び出すと車に飛び乗った。
愛国者は同時に動物愛護にも通じて居るべきだとクプカは考えている。
だから食物連鎖を正さなければならない。ペギーは世界が終わりを迎える、と喚き散らすがそれは違うのだ。奴らがどこかの工場から運び込んだ廃液を畜産物に与え、その畜産からでていく血や肉を人が摂取する。生命の鎖でつながれた美しい神の定めた
汚染され、毒された動物たちがこの命の輪廻の輪に入ることで、めぐりめぐって人は破壊されてしまう悲劇が起こる。
つまりペギーはおかしくなるし。
世界も破滅へと一直線というわけだ。この論理のどこにも破綻は、ない。
なんという悲劇だろうか?深い悲しみに支配され、運転中だというのに思わずジップの目に涙が浮かぶ。
そしてジップはそのまま泣きながら農場に車を止めると。そこにいた畜産と一緒に全てのペギーを焼き殺した。これで問題の片方は解決。この世界の半分は救われる。
次はウォール街の問題だ。
国民から吸い上げた金でマネーゲームを楽しんでいるあのグローバリスト共は、女の上にまたぐようにして金の延べ棒でマスをかく変態共だ、間違いない。
つまりホープカウンティの歴史にうずもれたとされる閉鎖された金鉱山は、実は政府の命令で今も動いているということがわかった。なぜならあのペギーがそこでもなにやら人を送ってゴソゴソとなにかをやっているのだから、あそこでやることなんてひとつしかない。
ジップ・クプカの頬には涙のあとがまだ残っていたが、その足でまっすぐ鉱山へと向かう。そしてまた、そこにいたペギーを焼き殺した。
だが今回は用意した爆破装置もしかけて、ここを吹き飛ばすことにする。
彼は愛国者なのだ。敵に有利にさせるものをその場に残して立ち去ったりはしない。その準備はちゃんと用意してある。
なのにここで誤算が起きた。ペギーを燃やしたことで立ち昇る煙に気が付き、飛行機とヘリがここに様子を見に殺到してきてしまったのだ。
空から見下ろすペギー達の顔色はすぐに変わる。そして、仲間の死体の中で空を見上げるジップ・クプカも当然見つかった。嵐のような攻撃が始まった。
乗ってきた車は炎上し、ジップ・クプカは逃げる手段を失って鉱山の穴の奥へと走りこむしか方法はなかった――。
穴の奥、闇の中で追い詰められた彼は目を閉じる。
この任務を終えたら世界を救った男として人々から称賛を受け、バラ色の引退生活を送るつもりであった。しかしここまで来るまでに大きな犠牲を払ってきたことも知っている。
豚さん、牛さん、犬さん、猫さん、鳩さん、そしてスカンク(なぜか農場に突入してきて、燃え上がる大火の中に飛び込んでいってしまった。それを止めることはできなかった)。ペギーと共に焼け死んだ彼らの犠牲は忘れないし、彼らが英雄であることはだれが見ても明らかなことだ。その魂に報いなければ――。
燃料切れの火炎放射器を静かに置いた。この運命の日に、相棒としてよく自分に尽くしてくれた。
そしてすでに準備は整っている。ポケットから起動スイッチを取り出し、両手で固く握りしめる。この鉱山のあらゆる場所に爆薬蓮で仕掛け終わっていた。
あとは火をつければいい――。
それで仕事は終わる。
ジップ・クブカの予定に帰りの切符が必要なかったというだけのこと。それは神も知っておられたのだろう。
背筋を伸ばすとスッキリした顔で、手の中のものを改めて見たが――何でもないことのように思えた。だから、押した。
鉱山は突如として火に包まれた。彼が望んだように、文字通り吹き飛んだのだ。
ヘリはうっかり近づきすぎて、炎と衝撃に耐えきれず日常へと墜落する。飛行機はそれを見て、慌てて距離をとりどこかへとこの惨状を報告をはじめる。
ジップ・クスカは、きっとこの結果を喜んだであろう。
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大きな転換点を迎え、いよいよジョン・シードとの対決を考えられるようになったが。
困ったことにレジスタンスの間には妙な浮かれ気分が見て取れて、それが不安を感じさせていた。その上、スプレッドイーグルからはこの際、今年は開催が絶望的と考えていた祭り――テスティ・フェスティを開きたいのだと提案されてしまった。これになんと、あのジェローム神父さえも同意しているのだそうだ。
私は苦笑いでその場を切り抜け、憤然として友人のところにビールを手にして向かうと愚痴を……いや、不満をぶちまけてやった。
だが、返事は意外なものだった。
「いいんじゃないの?」
「グレース、本気でいってる!?
そんな……嘘でしょ。今はジョンと戦ってるのよ?そんな中で祭りをやるって?」
「――ジェシカ、それはきっと私たちが軍人だった時があって。戦場ってものを知っているからってだけなのよ。そう思わない?」
「どうだか」
「そう?でも軍隊式に怒鳴りつけて彼らの士気は上がると本当に思っている?保証してあげる、そんなことをしたら皆あなたに怯えるようになるだけよ」
「……」
「それに私も賛成よ。士気も上がるだろうけど、頭も切り替えられる。あなただって、ずっとジョンと戦ってきたんだもの。ここらへんで息抜きをしておきなさいな。まだ先は長いのよ?ジョンを倒しても、それでエデンズ・ゲートが倒せるわけじゃないんだから」
その時のグレースの忠告は、私にはひどく道理の通ったもののように思えた。
そして――実際に祭りは最高だったと言っておく。
私はここに来てから初めて前後不覚に陥るほど浴びるように酒を飲み。特別な料理として出された牛の睾丸を、大笑いしながらぺろりと平らげ。空になった瓶を振り回しては「新しいのを持ってこい」と叫び続けた、と思う。
これで翌朝、ベットの上で互いに裸の男女が――男は是非、
翌朝。
泥にぬかるむ豚のケージの中で、彼らに「ここから早く出て行ってくれ」とばかりに臭くて汚れた鼻をあちこちに押し付けられての目覚めた。
ああ、地獄だったんだな。私の日常が無事に帰ってきてくれた。豚には感謝しよう、いつかロースハムにして食べてあげる。
今日も良い天気だ――。
私は近くの空になった住居に入り、水とお湯が出るのを確かめると汚れた服と体を何とかしようと洗濯とシャワーをはじめた。
タオルにバスローブまで借りて、屋外に服を干すと。なにやら自分もひさしぶりに太陽を浴びたくなってバスローブのまま寝椅子を持ち出してきて横になった。
ホランドバレーの朝は不気味に静かで、広がる農地に人も車も影ひとつ見ることはない。
(こんなところ、うっかりペギーに見つかったらぶち殺されるわね)
フォールズエンドから300メートルと離れていないこのあたりでは、もうしばらくペギーの姿を見たという話は聞かない。
例え見たとしても、それがあのペギーには悪名高い女保安官が武器も持たずに無防備をさらしているとはきっと思わないだろう。
恥ずかしい話だが、この時の私もまたうっかり気を抜いてしまっていたのである。
この時、洗濯物なんて放っておいて。家の中に残っていた服を着てさっさとフォールズエンドへと戻っていれば、話はもっと違ったものとなったのかもしれない。
すでにこの時、緩み切っていたフォールズエンドにジョンは乗り込んできていた。
私と同様に気の抜けきっていた街の住人たちはそれに抵抗もできず、あっさりと捕まってしまったのだ。それに気が付かず、私は午前中をのんびりとうたた寝をして過ごしてしまった。
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午後、ようやく私は事態に気が付いた。
あろうことかジョン・シード自身からの個人あての通信を聞いて、ようやく知ったのだ。フォールズエンドはいつの間にかペギーの手に落ちてしまっていた。
私は怒りを感じる――。
フォールズエンドに人影がなくなっている。そのかわりに教会からは、明るく楽し気な歌が繰り返しそこから流されている。
私はその入り口に立つと、大きく息を吐いた。
丸腰で町の教会までこい――なるほど、オッケー。
仲間の反論を封じて私はすぐに向かうと決断を下した。
ジョンは感情的な男だ。待たせたというだけでも、捕まった住人たちの無事は保証できない。
私は頭の後ろに手をやると、指で160メートルほど先からこちらの様子をうかがっているであろうブーマーとグレースに情報を伝えておく――。
(今から中に入る。後はヨロシク)
意を決して扉をくぐると、待ち構えていたペギー達に手荒く歓迎され。私はあっという間に教会の床に叩き伏せられた。
グレースはスコープ越しにそれを確認した。
兵力差は2人と一匹に対して大勢ときている。状況は最悪の一歩手前で、野球に例えればサヨナラ・ホームランしかないってところか。
そしてアフガンの戦場で、グレースはたびたびその経験を味わってきた――。おかげでジェシカが殴り倒され、引きずられてジョンの前へと連れていかれる姿も冷静に見ることができた。
(教会の裏に2人を確認、か)
こんな状況になることは望んでいなかったが、皮肉にも祭りに参加したジェシカは泥酔してフォールズエンドに戻らず。祭りに参加しなかったグレースは、ブーマーを連れての巡回を終えて戻ったところで異変に気が付いた。
この場合、間が悪かったのだと慰めるべきか。それともまだ逆転できると運がよかったと喜ぶべきか。
耳に着けたイヤホンからは、教会の中で今まさにペギーとジョンによって嬲られているジェシカのくぐもった声が入ってきている。
「頑張ってよ、ジェシカ。必ず助けるから――」
最初のポイントから移動。町の西側から侵入し、スプレッドイーグルの屋上から教会の中を狙撃する。
ブーマーが先導して足早に、それでも静かに迂回しながらの接近を試みるが。その間にも教会の中では悪いことは次々と起こっていくようだ。
『――お前に傲慢と書き込んでやるだけだ。問題はないだろ、保安官』
(ふざけるな。問題ないわけがないだろう!?)
『ムハンマドが山にこないなら、山を持ってくればいい』
(ジョセフの受け売り?全然面白くないわよ)
自分では冷静なつもりだが、実はそうでもなかったらしい。屋根に上る際、ライフルが滑って地面に危うく落としそうになった。
心配そうに地面から見上げるブーマーには大丈夫、離れてろとジェスチャーで指示を送ると。屋上を這いな、再び構えてはスコープを覗いた。
「嘘でしょ……」
教会の中ではジョンがナイフで生きた”ニック・ライの肌”をはぎ取って嬉々としてそれを窓にむかってかざしているところだった。
あの可愛らしい坊ちゃんの頭をこれからきれいにぶっ壊してやる――直前の動揺が、本来なら動くことのないグレースの心にさざ波をうみだしてしまった。
それでも銃声は一発。
すべてを逆転させるのに十分な、一発ではあった。
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「レーザーポインター?……外だっ、狙撃してくるぞ!」
ペギーの警告と同時に私も動く。
目の前のジェローム神父の手にある聖書――その中から彼がいつもそこに隠しているリボルバーを差し出すのを取り出し、ジョンに。同じく教会の窓ガラスも砕け、外からライフル弾もまたジョンをめがけて飛びこんでくる。
どちらの
だが確かにジョン・シードの呼吸が乱れ。苦痛が漏れ聞こえた。
そこからはもう、大混乱が始まった。
教会の中でレジスタンスとペギーの争いが始まり、仲間に支えられたジョンは慌てて車に放り込まれるとフォールズエンドから逃げ出していく。
私はそれに気が付かず、ジョンの頭をぶち抜くのを邪魔した女の顔を腫れ上がるほど殴りつけてはブスにし、二度と動かないようにと丁寧に顔面を破壊することに夢中になっていた。そこに「保安官、ジョンが逃げた!」誰かの声で、ようやく理性を失うほどの興奮から覚めることができた。
混乱を放り出して教会をでると、メアリーとニックが武装車両に乗り込んでこちらへと手招きをした。
「保安官、こいつを持って行ってくれ!」
言いながら走り寄る雑貨屋の店主から、ショットガンが飛び出すバッグを受け取り。
私は銃座へと駆け上る。乱暴にエンジンが獰猛に吠えて走り出す。
「ジョンは奴の牧場へ向かったはずだ。そこで決着をつけろ!」
背後に遠くなっていくジェローム神父の声を置いて、続くようにバギーに乗ったグレースと自分の足で走って追うブーマーと続く。
ジョンはこの追跡に気が付いて慌てたのだろうか。ペギーの増援を次々とこちらの前に送り込もうとするが、怒り狂った私たちを止めれる力は彼らにはなかった。
ホランドバレーを移動する戦闘音が響き、破壊された車両とペギーの死体が生み出されていく。だが、止まらない。止まれない。
ジョン・シードの首元めがけて突き進むだけだ。
ペギーの集まる、あのシード農場へと乗り込んでもこの勢いは止まらない。
80年代のアクションムービーのように、私たちの前で動くものが目に入るとそこに容赦なくM60をむけた。それがなんであれ、引き裂かれ、砕け散っていく。
だがそれはジョンではない。
助手席に座るニックが突然顔色を変え、運転席のメアリーに怒鳴った。
「エンジン音だ――クソっ、メアリーここじゃない。ジョンは飛行機で脱出しようとしているんだ。滑走路だよ!」
「怒鳴らないでよ!」
車が滑走路に侵入しようとすると、その目の前を横切って空へと昇っていく戦闘機。
ここまできて「どうしよう」、「逃げられた」なんて言葉を口にするわけにはいかない。
「ニック!」
「わかってる、保安官!」
2人で車を飛び出し、農場の車庫の扉の開閉ボタンを押せば。
そこからゆっくり現れるのは複座敷の戦闘機――ペギーの”回収”によって奪われた誰かの機体――私は銃座に飛び込み、ニックは操縦席に滑り込む。
「追いつけるわよね?ホープカウンティで1番を口にするのに無理とか言ったら殺すわよ!?」
「安心しろ、空でアイツに大きな顔をさせるものかよ」
エンジンが始動し、滑走路へと入り徐々にスピードを上げる中。
シード牧場には後続のレジスタンスたちが到着し、メアリーとグレースが先頭に立ち。この屋敷は本格的な戦闘へと投入していく――。
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あの世界大戦であったであろう、空を舞う2機の戦闘機による
私とニックの雄たけびの中、ジョンは墜落する飛行機を脱出した。なんて奴だ、まだ死なないのか。
「ックショウ、なんてしぶとい奴なんだ!?」
「――行ってくるわ、ニック」
「え、保安官?」
無感情にそれだけ口にすると、私もキャノピーを開いて大空へと飛び出していく。
ニックが何か言ったが、その声は私にまで届くことはなかった。
『兄弟よ、姉妹たちよ、恐れるな。なにも、心配は――ぐふっ。いらないのだから。ファーザーはこの時のために、そなえてこられた。神の声を理解しない無知な奴らからバンカーを守れ。俺も、ウゥッ、合流するだろう。共にこの壊れてしまった世界の”崩壊”の時を見守ろう』
「ジョン・シード!!」
落下を続ける私は一直線にジョンに向かうと。空中でパラシュートを開いていた相手に、そのまま体当たりを敢行した。
勝負は決した。
地上に降りる前に突き飛ばされ。泥水の上を這っては、私に蹴り上げられたジョンは傷口を抑えながら苦痛にうめいた。
可愛い声だ。クソ野郎をこの手で直接痛めつけることができて、実に気分がいい。なのにこいつの口はまだよくまわる。
「なぜ、お前はファーザーを受け入れない?……無知なのか?無神経なのか?
あの人の計画は万全だった、今のお前達に味方はいない。それなのに、なぜお前は抵抗を続けている?」
「この身体に刻んだタトゥーは私の誇りよ。それを、断りもなくやってくれたわよねぇ」
はだける襟元に、左の乳房の上に傲慢の黒文字が入れられている。あの教会でこのジョンの手で刻まれたもの。
それは私が望んだものでは決してない。理性が焼けきれそうだ。
「皆、あの人はイカレテいると口にする。だが考えろ、彼が正しかったらと。世界は危機に瀕している……政治もメディアも、支配することしか考えない。奴らがなぜ信じられる?」
「それならジョセフを信じるアンタは、なぜこんな状況に立たされてる?その理由は考えた?」
言いながら蹴りをもう一発。だが、今度はそれにジョンは耐えた。
そしてこちらの問いには答えず、ニヤリと笑ってみせる。
「ジェシカ……ワイアット保安官。お前に――神の御加護があらんことを」
キレた。
もう語ることは何もなかった。理性を吹き飛ばすこの怒りに身を任せればいい。もう一度、今度こそ自分の意思で。
私はジョンの上に馬乗りになると、全身の体重をかけてその首を締めあげていった――。
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ダッチは知らずに自分が震えていることを自覚した。
「ジョンが……ジョン・シードが死んだ?本当なのか」
『ええ、そうよ。ジョンは死んだ。シードの家の一角は崩れたわ。今日、ホランドバレーはペギーの手から解放されたの』
「そんなことが。おかしなことだが、正直驚いているよ」
『ええ、そうかもね。先週までの私だったら、あなたと同じ気持ちになったと思うわ。
ジョンを殺した後。ジェシカがレジスタンスを引き連れてバンカーを襲撃したわ。半分ほど逃げ出してたみたいだけど、それでもかなり激しい抵抗はあったみたい。
それでも私たちは勝った。
ペギーに、ジョンに捕われた人々と一緒に。そうそう、あのトンプソン保安官も救出されたわ。これが最新の情報、さっきバンカーを吹き飛ばしたら凱旋するって連絡があったのよ』
「まさかエデンズ・ゲートに勝てる日が来るなんてな。いや、嬉しいよ。胸がいっぱいで――何を言ったらいい?」
『素直に喜んで、ダッチ。今は私たちにそれが必要なのよ、連絡終了』
ダッチも無線機を置くと、壁に貼られたホープカウンティの地図の前に立った。
ホープカウンティの南西部、ホランドバレー。そこに貼られていたジョンの写真にマジックで罰を入れ。家屋に貼られたペギーのマークをはずし、消していく。
その作業をしながら、徐々に老人の顔には笑みが広がっていった。
祭りに続く連夜の騒ぎでも、この喜びを抑えることはできなかった。
スプレッドイーグルでは再び酒が振舞われ、ジェシカは英雄として。顔を合わせに来た人々から賞賛を受けていた。
それを一通り聞いた後、手に2本のビールを下げてジェシカは教会に向かう。
騒ぎによってドアが吹き飛ばされ、来るものを拒むことのなくなった神の家の階段にはグレースが座っていた。この人間嫌いの相棒は、祝賀パーティでもそれをきらってこんなところに逃げてきていたのだ。
ジェシカは彼女にビールを手渡し、その隣に自分も腰を下ろす。
「やっぱり賑やかなのは嫌いなのね」
「笑えない話をするとね――時々、今のホープカウンティがあの
「へぇ」
「あそこで味方の男たちの馬鹿に付き合うのは、退屈しのぎだと当時はずっと自分に言い聞かせていたんだけどね。戦場から帰ってきたらわかってしまったのよ。戦場で、このライフルで、奪った命の数を柱にナイフで傷つけることがどれほど愛しいことだったのかって」
「それはヤバい。重症ね――」
「ほんとにね。今からでも傷痍軍人手当の申請でもしようかしら」
「いい弁護士が必要よ。きっとね」
「……あなたはどうなの?戦場を懐かしいとは、考えたことがない?」
人づきあいが苦手なグレースと違い、ジェシカは聞かれれば自分が軍人であったことは認めるが。それを進んで他人に聞かせることも、聞かれることも嬉しくは思っていないことは薄々感じてはいた。仲間と敵の血が流れる戦場を知らないわけではない。
だがなによりもあれほど深く愛した軍での屈辱は、決して忘れられるものではなくなってしまった。
「自分を特別な存在にしたかったわ」
「英雄になりたいってこと?」
「誰かの称賛は必要ない。そんなものはあとからついてくるものだって知ってたから。
だけど自分が特別であることは証明するしかなかった。そのために軍を選んで、戦場も選べるようにしたかった」
「……なかなか野心的だったのね」
「というよりも、野心の塊だったわ。あそこで私を助けてくれた人たちは、みんな私のことを特別だと言ってくれた。でも私はそれを証明することは結局一度もできなかった」
「一度も?」
「ええ、そんな感じよ。評価にふさわしい実績を積めなかったんだから。褒められて調子にのっている度し難い女、ってことね。大それた野心なんか持った代償よ」
今でもそんな過去の自分を笑うにも顔のどこかが引きつりを覚える。納得などできない、あんなもの……。
とにかく結論は出た。そしてそれから自分は落ちっぱなしだった。
それでもだいぶマシだったとは思う。あのクリス・リーですら傭兵では金のために元ドレビンの元にいる。自分も戦場に縛られたくて、軍人でいたいと願って。戦場生活者として小金で誰かの代理戦争に命を懸けていてもおかしくはなかったのだ。
「フッ、女が2人して暗いわよね。こんな日なのに」
「それじゃ、違う話をしましょうか――次はどうする、ジェシカ?」
「――わからない」
「本当に?アナタ嘘が下手なのね、保安官」
ホランドバレーはもう心配はいらないだろう。
だが、ホープカウンティはまだなにもかわっていないのだ。
(設定・人物紹介)
・ジップ・クプカ
原作のクエストで登場。
なかなかに愉快な人だったので、役割を変えて登場させてみた。
・テスティ・フェスティ
牛の睾丸祭り、らしい。こちらも原作のクエスト。
料理に使う睾丸を用意してくれという、なかなか狂ったものだった。
・チャーリー・ハナム
実在するハリウッドで活躍するイギリス人の役者。
日本ではパシフィック・リムの主人公で知られている。ひげ面がなかなかイケメン。
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