そしてそろそろ辛くなってきたので、読者様からの反応を募集しております。推薦、感想どちらでも構いません。よろしくお願いします。
唯だ善人のみ能く尽言を受く
ジョンが死んで2日。
ホランドバレーはそれでも急速にかつての姿を取り戻そうとしている。
奪われた果樹園や農地、牧場に逃げ伸びていた住人達は戻ってきたが。そこにあった人や食べ物、動物たちの多くは奪われ。もう帰ってくることはない……。
レジスタンスに参加した人も、最後までまんじりとして動かずに嵐が収まるまで沈黙してきた人々も。
今は悲しみをこらえ、怒りと憎悪をエデンズ・ゲートにむけることで互いに沈黙を貫いている。
私はと言えば、襲ってくる疲れにこの2日間は動けず。ひたすら寝てはおきてを繰り返した。
考えてみればエデンズ・ゲートが騒ぎを起こしてからのこの1か月余り。なまった体でいきなりリハビリなしで軍隊時代に戻ったようなやり方を無理に押し通してきたのだ。そのしわよせだろうか、ホッとしただけで一気にひどい有様となった。
メアリーは「そういうトシなのよ」といって笑い飛ばしてくれたが。正直な話、かつての自分であればと思うとかなりへこむ出来事であった。
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ということで、なんとか動けるお湯になった本日。
この貴重な時間を私は、新しいことに挑戦することにした。メアリーに借りた釣り用具を新しく手に入れたド派手なジープに詰め込むと、エンジンをかける。
釣り場につくと私はさっそく目当ての人物がそこにいるのを確認した。
メアリーから、彼がここにいることは聞かされて知っていたが――いなかったらホランドバレーの水辺を探し回るところだった。
「ハイ、今日はどんな感じ?」
「これはこれは。このカウンティ―ホープの英雄、現代のジャンヌ・ダルクとなった保安官様じゃないか。どうしてここに?」
「今日は休みなのよ。それで――思いついたの。今こそあなたの勧めに従うべきかもって」
「ついに釣りを始めるか。そりゃ、いい」
彼の名前はコヨーテ・ネルソン。
ホープカウンティで生まれ育った、プロの釣り師だそうだ。
彼と出会ったのはだいぶ前、あのダッチのバンカーから何の保証もなく飛び出した直後の話になる。レンジャーステーションから抜け出たペギーが水辺を捜索していたとこえろを私は襲った。
その時、すぐそばで暢気に夜釣りをしていたのが彼である。
肩で荒い息を吐き、興奮冷めやらぬ私を前にして平然とした顔で「俺は釣りが好きだ、愛している。これからくたばるとしても、それは武器を手にして兵士としてではなく。俺はただ、釣り糸を垂れて幸せな気持ちのままで死にたいのさ」随分とのんきで独善的な奴だと思ったが。強烈な印象として記憶に刻むには十分な出会いだった。
なによりそれを口にする彼の表情はあまりにも真剣なので、私もそれ以上は何も口にしないことにしたのだ。
「フォールズエンドの夜以来か――本当に久しぶりだ」
「あなたが力を貸してくれたおかげで、あそこで食料不足に悩む必要はなくなった。それに、あなたの希望通り。魚を無理に乱獲しないようにも気を付けているわ」
「そりゃ、よかった」
「スプレッドイーグルでは新たに魚料理が充実してるって評判なの。また顔を出してあげて」
「ああ――それで食料の件、本当に解決したのかい?」
「いいえ」
ジョンが死んで、私はすぐにレジスタンスを引き連れてジョンのバンカーへと勇ましく乗り込んでいった。
そこで捕われていた人々とトンプソン保安官助手を救出したが。トンプソンはジョンが死んだことを聞くと激高し、ペギーを皆殺しにすると叫んではバンカーの機能を狂わせ。止めるのも聞かずにバンカーを火の海へと沈めてしまったのだ。
ジョンに苦しめられた彼女の気持ちは理解できたが。それはあまりにも短絡的、軽率な行動だったと言うしかない。
おかげでジョン達の手でバンカーに運び込まれていた物資のほとんどは失われ。
ホランドバレーの人々の中にはそんなことをしでかしたトンプソンに対して批判的な目を向けていた。
今のところ農場と作物、そしてメアリーや神父のおかげで彼らは口を閉じてはいるが――。
まだ情緒が安定しないトンプソンに、エデンズ・ゲートに引き続き対処しろと要求するのは良い考えとは思えなかったが。自分の名代ということにしてやらせている。
そんな彼女をレジスタンスの活動に参加させて、味方に背後から撃たれるような状況に置かせたくはなかったのだ。
釣り師としてのデビューは、正午までに大物一匹と引き換えにメアリーから借りた糸とルアーを多く失ってしまった。
ルアーは彼女の自作と言っていたが、失った一つにどれだけ時間をかけたのか聞いていないことが。このまま戻るわけにはいかないんじゃないかと、私を焦らせた。
「無残なものね。メアリーにどうやって謝ったらいいのか」
「あんた、手首が強すぎるんだよ。だから――よし、ちょっと待ってろ」
そういうとコヨーテは近くにあった彼のテントの中から新しい
「これはあんたにやる。俺はもう使わないものだしな」
「いいの?なんか、高いものだったら期待されていると勘違いするかもよ」
「確かに高い品だが、気にしなくていいさ。その代わりにちゃんと使ってやってくれ」
「ありがとう。嬉しいわ」
「それと――ああ、なんか新車を買ったのか?チラッと見たが、随分と楽しそうな車が止まっているのを見たぞ。あれ、アンタの乗ってきたやつだろ」
「ああ、あの
「フォールズエンドでみた車とは違ったようだ――」
「正解。あれはジョンの倉庫にあった奴。あいつのおかげで私は財産のすべてを失ってしまったのよ。今はあのアホみたいに派手な車と、このあなたにもらったばかりの釣竿だけ」
エデンズ・ゲートは私から同僚を奪っただけでは足りなかったようで。働く職場と叔父から受け継いだ自宅も焼き。ジョンはフォールズエンドを占拠したあの朝に、これみよがしに車庫で眠らせていた私の愛車をガソリンまみれにして火をかけていた。
それを知ったのバンカーから戻った後のこと。もし行く前に知っていたら、トンプソンに代わってきっと私がバンカーを火の海に沈めてやったに違いない。
もともとはいくつかのバッグに収まる程度のものでしかなかった全財産だが。
日本車とはいえ頑丈さとかわいらしさのある愛車と、譲られたものが火の中で朽ちてしまったと知らされるのはやはりキツかったんだろう。ひっくり返ってしまったのも、それが影響を与えなかったとは思えない。
メアリーたちは気を使ったのか。
ありがたいことにジョンの車庫から一台をまわしてくれると言ってくれた。
なんでもホープカウンティでは伝説のスタントマンとやらが使っていた特別なものとかなんとか――。
「それより聞かせてよ。確か、あなたフォールズエンドを出ていくときに話していたじゃない。『しばらくは別のところに行ってみようと思うんだ』って」
「ああ」
「どこで釣ってたの?」
「ヘンベインリバーだ、あそこで4日ほど。あんたがちょうどジョンの野郎と決着をつけようとしていた時の話さ」
興味が出てきた。
「教えてくれない?どんなのが釣れるの?」
「興味はないだろう。なんせ素人のアンタに聞かせても――」
「なんで?それでもプロの釣り師なの?」
「山があって谷があり、そして川底は思った以上に深い。いい場所だよ、秋には油のたっぷりのった魚に会える」
「なるほどね」
「だが――あんたが興味を持つような不愉快なこともあった。あんたが興味があるのは、本当はこっちなんだろう?」
「……」
なにかあるのか?
コヨーテはこちらに顔を向けないまま、ぼそりとつぶやく。
「あそこに向かうんだな。あのフェイス・シードと対決しようと言うのか、ジェシカ保安官」
「――もう、行くって向こうにも伝えてもらってる。
このホランドバレーは小さくはないけれど、ペギーの活動の中心はヘンベインリバーだったと聞いてるわ。それにホープカウンティの半分を手に入れるためにもあそこは必要なのよ」
「そうか」
「でも、情報がね。あんまりないの」
ホランドバレーの解放が成功し、ダッチはようやく重い口を開いてすべてを話してくれた。
ジョセフの長男、ジェイコブは組織の防衛を担当していると言うだけあって。北部のレジスタンスはすでにさんざんな目にあわされているというし。長女、フェイスの元で活動しているレジスタンスは、エデンズゲートから身を守るだけで必死になっているのだ、という。
つまり状況はどちらも悪い方向に向かっているということか。
なるほど、それも納得ができる話だった。
ジョン・シードとの決着がつく直前。武器の供給と連携の模索のため、ジェシカが送り込んだエドとジェイクだったが。
彼らは向こうのレジスタンスを接触後、なぜかこちらに連絡を入れてこないのである。ダッチが言うには向こうに残ってレジスタンスの活動に協力していると言うが、それでも情報も伝えず接触を断つ理由がわからない。
そのせいで、ジェシカ自身もヘンベインリバーへと向かうのに不安を感じている。
「あの時は噂でも、なかなか抵抗をやめないアンタに怒り狂ったジョンがそろそろ限界だろう、そんな風に思っていた。だから俺はそれに巻き込まれる前に、ここからしばらくは立ち去ろうとね」
「情報通なのね。でもあなたを巻き込んだりはしなかったわよ?」
「まぁ、そうだろうがね。とにかく移動した方がいい、そういう理由を俺は欲しがっていたんだと思う」
コヨーテは言った。
楽しんだのは最初の3日間だけだった、と。
「4日目に何があったの?」
「保安官、あんたが信じてくれるといいが。おれはな、釣り師をやめて天使になりかけたのさ」
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天使?
どういう意味だ?まったくわからない。
「???」
「本当は俺にも何が起きたのかわからないんだ――わかっているのは、気がつくと俺はいつの間にかエデンズ・ゲートの集会みたいなものに参加して、ジョセフの野郎の話をただじっと聞いていた。
反論も口にしなかったし、立ち上がってそこから立ち去る気にもならなかった。奴は俺や周りの連中に自分の話を理解するべきだと主張して、俺はそれはできないと答えていた」
「なにも?信者になったの?」
「違うと信じたいね。夢の世界で起きたことでもいい。だが、あれが事実だとしたら、俺にはショックだな」
「そうなると――私もあそこに行けばそうなると。あなたは考えているのね」
なんとなく、コヨーテの伝えたかったことが分かった気がした。
だけど、それはとても信じられない。
「俺がここでアンタにこの話を笑ってできるのは、あそこにいるレジスタンスの連中のおかげだ。
彼らが山道の途中で、ズボンを脱いだ状態の俺が、ひとりその場で黙々とジャンプしていたのを見つけてくれたらしい。あまりに異様な姿だったのですぐに気が付いたそうだよ、彼らのおかげで。まだ俺は正気なふりができる」
「――そうなる理由、わからないの?」
「そんな好奇心は残っていなかった。彼らから新しいズボンをもらったら、荷物をまとめてこっちに戻ってきたよ。怖かった」
「怖い?」
「そうだ。理由は説明できない、だがそう感じたのは事実だ。
ジェシカ保安官、忠告する。ヘンベインリバーは危険だ。近づくのさえ、な」
私は少し考えこむ。
彼がじかに体験したことの意味を私も理解していないせいだろうが。彼がそれを恐れる理由がまだよくわからない。だが、この情報は重要なものであるという気もする。
「質問を変えてもいい?続けても?」
「なんだ?」
「仮に――仮に、の話ね。私があそこに向かうとしたら、あなたはどこに行けばいいと思う?」
「どういう意味だ?」
「まだ決めてないけど、私はホープカウンティ刑務所にいるっていうレジスタンスと合流しようって思ってた。でも、それは良い考えではないんじゃないかって思っている自分がいるのよ」
「なるほど、ここで釣り糸を垂らしている理由がそれか」
「だから聞かせて。あそこを恐れたあなたが、もし私だったら。ヘンベインリバーを解放するのにどこから始めるべきだと思う」
コヨーテがこちらの問いかけに答えるのに多少の沈黙する時間が必要だった。
「――保安官、俺ならまずはホープカウンティ刑務所になんていかないだろうな」
「そう」
「俺は……そうだな、俺があんたなら。ヒーローとしてあそこに行かなくちゃならないとなったら――」
コヨーテが答えを口にすると、私の意図に
結局、一日かけて戦果は2匹の大物と自分用の釣竿となり。夕暮れにコヨーテを連れてフォールズエンドへと帰っていった。
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別の日、私は今度はグレースと再びトラックに乗ってニック&サンズ航空にやってきた。
あのロイドが次の荷物を送ってやると、こちらに一方的に通告してきたからだ。この取引は私から言い出したものだが、拒否できないのがつらい話で――。
念のためニックに晴れた空に上がってもらったら、30分ほどすると『保安官、マジで輸送機がこっちにやってきてるぞ』との連絡が入ってきた。
グレースとブーマーの前で、私の顔は自然と暗いものとなる。
「ジェシカ、力を抜きなさい。緊張しているの?」
「気合いを入れたデートの前ってこんな感じだったなって思い出してるのよ」
「あら、保安官でもそんな経験があったの?」
「知らなかったでしょ?私もよ」
滑走路に降りてくる古ぼけた輸送機は、しかしあの世界の紛争地域へと鼻歌交じりに出入りを繰り返すことを家業としていた男のものだ。あの拝金主義の男が、廃業してからもずっと使っているとは思えない。きっとわざとそれを思い出させるように新しくわざわざ用意してきたのだろう。
ということは、外側から見ただけではそれとはわからぬ仕掛けが搭載されているに違いない。
着陸してエンジンが止まる。
タラップに立っていたのは――迷彩服を着たクリス・リーだ。
「ジェシカ曹長、おめでとう。どうやら君は輝かしい勝利をまずは手にしたと聞いた」
「ありがとうございます――あなたもさすがですね。その様子だと本当にこのホープカウンティを抜け出してまた戻ってきた」
「ロイドの警備担当を任されるにはこれくらいのことは必要な技術なんだ。おかげで――」
「学費を払える、でしたね」
「良きパパを演じられ、留守がちであることを不満に思う妻の口を閉じさせてくれる。夫婦円満の秘訣だよ」
言いながら彼は、パイロットに何かをささやかれ。連れていたもう一人の大男に合図して、商品を機内から運び出すように指示する。私はそれを聞いて、グレースに合図しそれを手伝うように頼む。
続いて彼は「少し歩いて話そう」、そういうと私を連れて人のいないニックの滑走路の上を並んで歩きだした。
「ロイドは今、仲間を連れて別の件で欧州へ飛んでいる。だから私が来た」
「別にかまいません。彼の性格は知っています、私を挑発したくないからそもそも来るつもりもなかったのでしょう?」
「――私のボスもそう言っていた。君たちはつきあってたのか?」
私は鼻で笑う。
お互いがお互いのスキルを認め、尊敬はしていたが。同時にお互い軽蔑しあってもいた。
今思うと、あの時の立場はお互い好きではなかったから。あのような捻じれて複雑な関係が構築されてしまったのかもしれない。
「まさか、ロイドは私のことを何と言いましたか?」
「不愉快で馬鹿ではないが、タフで哀れな戦士だと……怒るか?」
「その必要もありません。ずっとそういう関係でした。私も似たようなことを本人に言ってましたから」
「奇妙な腐れ縁になってしまった、と。珍しく困惑していた」
「私もです。迷惑だが捨てることも出来ない知り合い、それが彼でした」
そのせいで感情を抜きにして、お互いに色々な困難な出来事を協力して乗りこえ、やっていた。
皮肉な話だが、ロイドの力がなければ私の軍でのキャリアはもっと前に終了していたはずだった。それは間違いなく事実なのだ。
「そろそろ真面目な話に戻ろう。君はこの場所で起きている出来事に次にどうするつもりだ?」
「攻撃あるのみ、ですよ。ホープカウンティはまだ3分の2がむこうのものです。本番はこれから」
「その認識は正しいだろう。具体的にはどうする?」
「ヘンベインリバーを。そこを手にすれだけで南部は解放されますし、元の敵の活動の中心はあそこであったとも聞きます。不利な状況を揺らすには十分だと考えます。それに北部はかなり危険であるとの情報がありますので、今は危険を冒せません」
「具体的には?」
「乗り込みます。ただし、私ひとりで。すでに仲間は送っていますから、彼らと合流するだけです」
リーはうなづくとそこで隣を歩く私の顔をちらと見てきた。
「――かつての自分の姿を取り戻そうとしているな。曹長」
「はい。でも、まだまだです」
「そうだな、君はもっとできた兵士だった。
軍から離れて辛かったと聞いている、君は――本当に運がなかったからな。君を愛した上司たちや同僚も残念に思っていた、それは理解しているだろう?」
「……彼らの期待には結局答えられませんでした。今では、後悔だけがあります」
「なら覚えておくんだ。君は、君で選んで軍人ではなく警察組織に。保安官になったということを。もはや軍人には戻れないんだ、と」
彼が何を言おうとしているのか、よくわからなかった。
「何が言いたいのです?」
「君は望んだわけではないだろうが。それでも随分と幸せな道を歩いていることを忘れるな、ということさ」
「新たに非合法の武器売買に手を染める私でも、ですか?」
「何事にも”外側”というものがある、と言っている。
君だって多少は学んだはずだ。かつてはこのアメリカを救い、世界も救った偉大な男でも
だが、そこから学ぶんだ。
犯罪者となっても、君はまだ保安官でいることはできるということを」
「――正義のために?」
「君自身のために、だよ。
閉鎖されたこの空間はこれからもっと状況は悪くなっていくことが予想される。戦場はひどくなる一方で、同時に人々の中に狂気住み着き始める」
「なにか、私に忠告でもしたいのですか?」
「怒っているな?冷静になれ、気分を静めろ」
「ロイドの奴、なにを言って来いとあなたをここへよこしたのです?」
柄にもないことをしやがって。
だが、ここで怒っても相手は彼ではないのだ。怒る意味すらない、それがまた腹を立てたくなる。
クリスはそんなこちらを見て苦笑する。
「……本当に鋭いな。ああ、そうだ。
ロイドは君がこのホープカウンティを血で染め上げてしまうだろうと予言した。彼は君が正しい判断を下したせいで、大きな間違いを犯すだろう、とね」
「そんなことにはなりいません!」
「本当か?なら、この戦いの終わりを君はちゃんと考えていると?」
思わずかっとなって怒鳴りつけてしまったが、続く問いかけに私は言葉に詰まった。確かに、未だ戦闘は始まったばかりだ。状況を読むのは難しく、だからこそ終わりはまだ先にあってわからない。
だがそれでもいつかは終わりは来るのだ。
「君が率いるレジスタンスはしょせんはぜい弱な組織であり、集団だ。君が今の力関係を逆転させれば、彼らは簡単に復讐を口にして報復に出るだろう。君はその時、どうするのか考えがあるのか?」
「――そうですね。考えておかないと、マズいですよね」
「君は今、非常に危険な立場にいる。レジスタンスの英雄、指揮官、兵士、希望の象徴。だから敵も君を狙うはずだ。
どんな状況に陥ったとしても、この戦いが終わるまでの道のりはちゃんと考えておきたまえ」
「忠告、感謝します」
「いいさ――」
軽くこちらの肩を叩く彼は、軍にいた時からそうして私を導いてくれた恩人のひとりであった。ロイドがそうであったように、私達もまた軍を離れてもこの関係は変わっていない。
そう口にすると、彼はそろそろ戻って商品の説明をしようと言った。
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隣の席で操縦者が「高高度に達しました」と報告にうなづくと、クリスははるか下に広がるモンタナ州をみやる。
(いいさ――か)
あの時、続く言葉を栗栖は必死に飲み込むことで黙っていた。
ロイドもジェシカも、実は非常に似たタイプだと思う。だが、あのガンズ・オブ・ザ・パトリオット事件からお互いが過ごしてきた立場も経験も違いすぎた。
今もなお、明敏さで世界と対峙するロイドに見えたものがクリスにもわかる。ジェシカはあそこで生み出される狂気を
クリスの目には今もなお、ジェシカの姿は戦場の中にいるようにしか見えなかった――。
商品説明とやらを終えると、クリスは再び空へと飛び去って行ってしまった。
どうやら彼は私のことを心配して、ロイドに頼んでまたここにやってきてくれたのだとそれで気が付いた。
――君は幸せ者だ
彼の言いたいことは、今の私にはわかる。
ガンズ・オブ・ザ・パトリオット事件は多くの軍人の生き方までも変えた。
私のように軍から追い出されても、警察に滑り込めたのはラッキーだ。
兵士としての実力とコネがあれば、褒められた職場ではないが大尉のように特別なポジションで高額の稼ぎを手にすることはできる。ただしそれは危険との隣りあわせ。
他任から見れば、軍にいた時代。私のことを上司におべっかをつかう実戦では使えないクソ女と嫌っていた同僚は、軍をやめてから傭兵で失敗し。南米の麻薬カルテルが運営するテロリスト要請キャンプの教官にまで落ちぶれた。
軍を出て、誰にも必要とされなくなった男にとってそこは最後の場所であったようだが。数年前、ボリビアに政府が送り込んだCIAと秘密部隊によってそれが明らかにされた。といっても、カルテルメンバーと一緒にいたアメリカ人の死体の身元を照合した結果でわかったことらしいが。
――この戦争の終わりをちゃんと考えておくんだ
確かにそうだった。
しかしまだ、それには早い。
だけど私はついにこの時、ヘンベインリバーへとむかうべきだという確信を持つことができた。