手には弓を 頭には冠を   作:鷹雪
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STRIFE の 章
淀んだ吐息


 ヘリの中に流れる空気は重たかった。それも当然だろう。

 エデンズ・ゲートの総責任者、ファーザーと呼ばれている男の逮捕。

 信者たちの集まる集会でこんなことをすればなにひとつ事件が起きないと、ここに住んでいて考えない奴はいない。

 

『ホワイトホースから通信士、オーバー』

『どうぞ、アール』

『ナンシー、こちらは建物に接近中だ』

『了解よ。まだ遂行するつもりなの?本気?』

『ああ……残念ながら、まだ連邦保安官殿を説得している最中さ』

『そう――その人、私が居なくてよかったわね。こんな時間になるまで仕事をさせるなんて、面倒が起きたらすぐに知らせて頂戴。オーバー』

『ああ、通信終了』

 

 軽口でもって嘆いて見せたが、実際のところ。地元の保安官たちにとって、何も知らない奴がいきなりやってきて。自分の要求だけを押し通してこちらを従わせようとするやり方には、反感を持っていた。

 

 法律だから、秩序があるから、なるほど。

 不満はあるが、これでもだいぶ譲歩してやったのだ。

 なにもしらない正義の人をなんとか説き伏せる前は、真昼間に教団に乗り込むという計画を進めようとしていた。もちろんそんなことをしたら間違いなく、疑うまでもなく誰も生きてジョセフの前に立つことすら不可能だったはずだ。

 

『あんたら、あの連中のことをペギーと呼んでいるんだな。何故だ、理由わ?』

『ん?んん――プロジェクト・エデンズ・ゲート。頭文字を取って通称ペギーというわけさ。

 何年も前から存在していたが、その時は無害だった。それが今じゃ、大勢の信者を集めた集会では完全武装さ。最近は何があったかわからんが、やけにピリピリしていてな。臨戦態勢ってやつだよ』

『まさか……あんた達、あいつらが怖いのか?』

 

 ようやく理解したのか、この阿呆が。

 自分が手錠をはめる相手――敵の情報など気にしもてこなかったんだろうよ。

 実際の話、今やカウンティ―ホープは敵の手中に落ちたかもしれないという状況にあるといっても過言ではない。まだはっきりとはわからないものの、自分たちの職場にもペギーが混ざってきているのではないか。

 保安官が外部から、新人を……自分の後継者を求めた理由もこれがあったからだ。

 

 そして嫌がる部下の中で間違いないと信用できる者たちだけ。今はこのヘリに乗せてきている。

 これで行くまでは安全だろうが、問題は帰り道とそれからのことだ。悪いことが起きる気がして、不安でないわけがない。自分たちの無事を考えるだけならば、この忌々しい連邦保安官だけ放り出して帰ってしまいたい。

 もちろん、そんなことをすれば彼の命は無事では済まないし。そのつもりはないが――頭の片隅にちらつく、悪魔の囁きというやつだ。

 

 

 弱気というものは伝染するという話があるが。

 頑なだった連邦保安官も、ペギーの集会場の上をぐるりとヘリが旋回するとようやく自分の意見に揺らぎが出てきたようだ。恐怖が表情にあらわれたのだ。

 

 そりゃそうだろう。すでに深夜だというのに眼下にはかがり火があちこちにたかれ、家の間を武装したペギーたちがあちこちを歩き回って迷い込むネズミがいないか目を凝らして巡回している。

 あの中で1発でも銃が火を噴けば、たちまちにして――。

 

『フウー、心変わりしたなら。引き返すなら今だと思うがね』

『――政府の命令を、あんたは無視しろというのか?』

『違う……俺はただあんたにここの状況を理解してほしいだけだ。

 ジョセフ・シードとはこれまでにも何度か相手にしてたが。毎回、思うようにはいかなかった経験がある。

 だからここであんたが出て行って、全てが丸く収まるなんて考えられない。それなら、触らないほうがいいこともあるんじゃないか。そうだろう?』

『……ダメだ、着陸しろ。俺たちは法の番人として、するべきことをやるんだ』

 

 ヘリの中で吐き出されるため息がいくつも重なった。

 

 

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――すべてが唐突に始まっていた。

――深夜にもかかわらず、世界は真っ赤に燃え始めている。

――河川ぞいのどこかで誰かの悲鳴が聞こえた気がした。

――鼓動が大きな音を立てて時を刻み始めるのを感じると、精神のバランスも急激に失われていくのが分かった。

――暴走、勢いは力強く、コントロールは失われていく一方だ。

――周囲から出るあらゆる音が。なぜか自分の耳ではだれかの悲鳴だったり、怒号のように思え。

――感情が理由もなく燃え上がり、アドレナリンが噴出したことを理解した。

――怯えと恐怖が、すべてを押し流して。思考力はこの時点で無力となった。

――そして最悪なことに、周囲には自分と同じように苦しむ仲間たちがいて。彼らが今の自分を脅威とするのではないかと、なぜかそんなことを考えてしまう。

――もう止められない。止まる理由はない。

――振り上げたライフルを叩きつける。振り上げたライフルを叩きつける。

――そして銃口を離れたところにいる味方にむけ、銃爪を震える指が触れた。

 

 

 現実が苦痛と共に戻ってきた。

 体のあちこちから、自分の骨や肉が悲鳴が上げるのを感じた。

 とりあえず自分生きていた――なんで?どこから?

 

 脳裏にいくつかのシーンがフラッシュバックして、記憶を呼び覚ます。あの記憶ではない。数時間前の、昨夜の記憶だ。

 

 ペギーの教会でジョセフ・シードを逮捕、保安官たちと集落を出ようとした。

 だが出来なかった。半狂乱となった信者達が追いかけてきて。飛び立とうとしたヘリに飛びつき、恐ろしいことに回転するローターへと男女構わずに突っ込んでいく。

 祈りの混じった悲鳴の合唱が頭から離れない。機械に引き裂かれた血肉がバラまかれ、操縦席の前が真っ赤な血で汚れる。

 制御を失い、ヘリは墜落。私は1度は逃げることができたが。合流した連邦保安官と共に再度、今度はこのホープカウンティからの脱出を試みたが――。

 

 体を起こそうとすると自分に自由がないことが分かった。

 意識のない私をコンクリートの冷たい床の上に転がし、ベットの足元に両手が拘束しされていた。

 周囲を見回すと、部屋の中には気配を感じさせずに立つ老人がじっとこちらを見つめて立っている。いつからそこにいたんだ?

 

「目を覚ましたんだな」

「……」

「覚えているか?」

「……」

「俺があんたを助けた。昨夜のことだ、あんたと相棒の乗った車は橋の上からクラッチ・ニクソンのスタントみたいに飛んでたな」

 

 彼は元軍人?それとも民兵なのか?

 迷彩服を着こなし。言葉もそうだが、上背のある私をひとりで運んだということは老齢でも足腰のほうはしっかりしているというわけか。

 

「ラジオはずっとわめいてばかりだ。どういうことかわかるか?これが、どういうことか?」

 

 彼はずっと黙っているこちらにいらだっているようだった。

 

「道路はすべて閉鎖された。

 電話線は切られ、電波は入ってこない。要するに、おしまいだ。

 ラジオ――奴らはずっと言っている。【崩壊】だとさ、誰かが自分たちの預言の通り表れて。それで世界は終わると思ってやがる。こうなることをずっと……待っていやがったんだ。この後に待っているのは聖戦なんだとよ」

 

 一瞬、アーロン保安官がヘリからの連絡に「……ホワイトホースより」と言い。

 続いて墜落したヘリの外で、信者に囲まれたジョン・シードが「白い馬が訪れた!」と叫ぶ後ろ姿が閃いた。なんでこれを今、思い出した?

 

「お前、見つかればタダじゃ済まんぞ――たぶんだが、お前を奴らに引き渡すことが。一番賢いのだろうな」

 

 私を試しているのか?

 

「クソッ……俺はまた、なんだってこんなことを!?」

 

 老兵は視線を外して嘆きつつ、天を仰いで見せた。

 そしてポケットからナイフを取り出し。

 

「その服は脱げ、保安官。あいつらに見つかってもらっては困るからな、燃やさないと」

 

 そう言うと老人はやっとのこと私の拘束を解いてくれた――。

 

 

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 土色のツナギのズボンと、赤茶色のTシャツに着替えると。

 彼はさっそく私を無線機や地図などが置かれた別の部屋へと呼び入れた。どうやらここは地下に作られたシェルターかバンカーのようなものらしいとわかってきたが。

 さすがに置いてある服に女性のものがそろっていることを期待するのは無理だったようだ。誰かの汗のにおいがする気が――いや、何でもない。

 

「さて、準備はいいのか?なら、自己紹介からやり直そうじゃないか。

 俺はダッチ。みんながそう呼ぶ。

 今夜の騒ぎの最初から知っているよ。そいつは俺の友人がそう望んだからなんだが、今は状況が混乱している――まぁ、よくはなさそうだ」

 

 そういうと壁に貼られた地図を指さした。

 レッドライトの下にあるカウンティホープのそれには、4枚の写真が縫い付けられ。そのどれもが昨夜の集会場で見た顔のように思える。

 

「情報によるとあんたのお仲間はみんな生きている。今のところは。

 ヘリが墜落したことを思うと、よかったと喜ぶべきなんだろうし。救出してもやりたいが、無理だ。すでに別々にされ、ジョセフの家族達に引き渡されてしまった」

「――どこにいるのかもわからないの?」

「取り戻すつもりか?……俺もそう考えた。だがな、こりゃどう考えても簡単なことじゃないぞ。

 問題は俺たちに助けはないということだ。誰もここの状況を把握していないし、気づいたとしても。その時はおそらく手遅れになっていると思う」

 

 確かにそうかもしれない。

 昨夜も結局、州境まで行って体勢を立て直し。州兵を引き連れて戻るしかない、連邦保安官とそう考えた。

 だが実際は道路の封鎖をいくつか突破しただけで、どうにもならなくなってしまい――。

 

「で、考えたんだ。俺たちにやれることはなんだ?

 奴らに従わない連中をまとめ上げて、大きな力にするしかない。奴らへのレジスタンス(反乱軍)を結成するんだ。多分、これしかないと思う」

「――本気?」

「ああ。間違っているか?」

「ペギーは聖戦を待っていた、あんたがさっき言ったことじゃない。それをこっちからわざわざ用意して、願いをかなえてやるというの?」

「そうだな。他に名案があるなら、いつでも受け付けとるよ。お嬢さん」

 

 彼は私の反対に怒りはしなかったが、なにやら意味ありげな。それでいて悲しそうな顔をしていた。

 そうか――つまりは、腹をくくるしかないのだ。それを私に求めてきている。

 

「レジスタンスのリーダーに女の保安官を選ぶなんて。ちょっとドラマチック過ぎやしない?」

「そうだな。だが、やるしかないんだ。この老いぼれができるのは、そんなあんたを励まして支えてやることくらい」

「まずは、2人だけ」

「ああ、ここから巻き返していくしかない。保安官殿」

 

 方針は、決まった!

 

 

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 レジスタンス(反乱軍)の最大の問題がさっそくあらわにされた。

 武器がないのである。

 アーロン保安官の銃の話は冗談でもなんでもなかった。騒ぎが始まると同時にバンカーに隠れるような老人でも、そこにうなるような武器や弾薬は置いていないのだと苦笑した。わずか十数年前までは、この国は自由と銃の国だったのに。それがどうしてこうなってしまったんだ?

 

 

 それでもありがたいことにダッチが私物のガバメントを――それも旧型のシステム採用前の貴重な品を。無料でゆずってくれたが、これだけでは当然だがまったくたりない。

 そう口にすると、今度はどこからかひっくり返してきて。私に複合弓(コンポジットボウ)を使えないか、と聞いてきた。

 

「なんでこんなものを?」

「息子の嫁の、私物だったものだよ。孫娘にもやらせたいと言っていたが、いまのあの子らの環境じゃ。なかなか難しいらしくてなァ」

「使えるの?」

「ハンティング用に使えないかと俺も少しいじっていたから大丈夫なはずだ」

 

 何度か、構えて見せたりして。自分で調子を確かめる。

 なるほど、あとは私にグリーン・アロー(コミック・ヒーロー)のような才能があればこれも十分な武器になるだろう。

 

「よし、まずは地図を確認してくれ。この周辺の地形を頭に叩き込むんだ」

「あいつらはここにも?」

「もちろん、いる。島の中央にあるレンジャーステーションを根城に、島のそこかしこを歩き回っているはずだ」

「そいつらを排除するのね」

「外のことは気にしなくていい。今日は水沿いを濃霧が覆っていてここから出ていくのは危険だからな。

 ステーションにいた連中なんかも、まだここに残されているはずだ。救助できたらここに来るように言ってくれ。わしから話して、彼らにもレジスタンスに加わってもらえるよう説得する」

「それはいいけど――私からも注文があるの」

「おう」

「保安官事務所、どうなっているのか知りたいの。次に、私の車。たぶん、ナントカいうバーの前にある駐車場のどこかにまだ残っていると思うのだけれど。回収してほしいのよ」

「それは厳しいぞ、期待はするな」

「そうかもね。それじゃ」

 

 私は立ち上がると、入り口わきにあったシャベルもついでにと手にして。森の中へと紛れ込んでいく――。

 

 

 

 軍隊というのは異物を嫌う。

 男達は、自分たちの中に女が混じるのを本能的に嫌っている――それも自分よりも技術に優れた兵士である女を特に。

 

 だから女は自然と団結して、事に当たることを学んでいく。

 ”同類”がいるのを感じ取ると自然とそれに近づいて繋がりを持ち、取り込んでいく。

 

「あなたは幸運よ」

 

 私の師匠(マスター)となり。まだ若かった私のあこがれだった彼女はよく口癖のようにそう言った。

 彼女は私とはなにもかもが違う女性だった。若くして優秀な兵士と評価され。そのまま特殊部隊へと進み、新人でいながら最悪の不正規任務から生きて帰ってきた猛者。

 

「もっとも、その頃はまだまだ甘ちゃんでね。厳しく鍛えなおされたわ……」

 

 私以外にも彼女の教えを受けた同性の兵士たちはいたが。

 常々その話をするときの彼女の様子から、お相手は昔の忘れられない男じゃないかと噂はされていた。 

 

「心を静めなさい、ジェシカ。

 スニーキング・ミッションにおいて。考えすぎたり、感情を波立てるのは大声で叫ぶのと一緒よ?」

「……自然の声を聴け、みたいな?」

 

 思わず嫌った、一族の老人たちの文化とやらにまぜて聞かされた単語が思わず自分の口から飛び出していた。

 彼女は破顔すると、なにそれと言ってカラカラと笑う。

 

「先住民の知恵?でも悪くないわ、あなたはもっと静かにならなくちゃだめよ」

 

 そう、森に紛れて生きる。獣の中に混ざれるように――。

 

 

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 レンジャーステーションを占拠していた信者たちは、弛緩しきっていた。

 自分たちが【回収】のためにと意気揚々と乗り込んできたとき。ここに詰めていた男たちはまだのんきに眠りこけてくれていたので。あっさり縛り上げ、隣の部屋に転がして終わってしまったからだ。

 あまりに調子よく終わってしまい、このあたりで早朝歩き回っている不幸な誰かがいないか探してくると言って。不満を抱えた数名は肩を怒らせて濃霧の中へと入って行ってしまった。

 

「あいつら、バカだヨな。霧が晴れるまで、まってからでいいのによ」

「言うなって。肩透かしで、こんなにあっさりと終るなんて思わなかったからさ」

 

 まるでどこかの週末世界の山賊よろしく。

 彼らの手には新品のライフルやショットガンが握られ。コートの下には弾薬ベルトをアクセサリーのようにして身に着けていた。

 

「はァー、退屈だよな」

「そういうなって。なんなら、奥の奴らを引っ張り出してきて俺達の手で浄化してやるさ」

 

 神の教えに身をゆだねる――その証拠に他人の手で水中に沈める行為をかれらは浄化と呼んでいた。

 

「水辺まで連れていくのか?薬もないぞ」

「別にいい、退屈しのぎなんだ。こいつを使う」

 

 ニヤリと笑うそいつは、地面に転がっている汚れたバケツを踏みつけた。

 

「こいつに水を汲んできて――足りない分は水道水でいいだろ」

「へへへ、そりゃ面白いかもな」

 

 それではさっそくと、そいつの足元に駆け寄ってバケツを拾い上げ「ちょっと準備してくらァ」と言いながら立ち上がったが。そこで男の動きが止まった。

 

 いつの間にか目の前にいる男の首に、真横から貫く矢が”生えて”いたのだ。

 

「えっ、それって?」

「……ヒュー、ヒュー」

「てっ、敵襲だ!」

 

 真っ青な顔で必死に呼吸をしつつ、傷口からの出血を抑えようとしながら崩れ落ちる仲間のことは忘れ。手にしたショットガンを威勢よくポンプアクションを作動させてみせた。

 どこからだ?どこから来る?

 

 家屋の窓ガラスが割れる音がして、素早い獣が飛び出してくるのが視界の端で捉えたのは運がよかった。

 しかしそいつはそれ以上、こちらに駆け寄ることはせずに。手にしたそれを――シャベルの先端を向けて投げつけてきた。

 

――あっ、ヤベッ

 

 わずかな戸惑いが、体を強張らせるのを感じ。

 哀れなペギーは飛来する物体を自分が避けることができないことを瞬時に悟った。

 

 そして実際にそれは男の頭部へと見事に突き立って見せる。

 

 

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 エド・エリスにとってそれは雷鳴のようなものだった。

 

 ペギーの警告に続いて破壊音、そして銃声と悲鳴が続き。そしていきなり静かになった。

 同じく背中越しに床に転がってた同僚のジェイク・スタウトは、あろうことかここで「俺、チビリそう」とか嫌なことをつぶやいたが。エドにできたのは、もらしたらお前をぶっ殺すと小声で口にすることだけだった。

 

 それが閉じ込められたドアを蹴破って入ってきたのが、女だとわかったら。

 まァ、そいつは結構な大柄ということもあって。床に転がる男にしてみりゃ、まさに援軍に現れた戦乙女の足元にすがりついているような。ちょっとおかしい感覚を持つ羽目になって――自分にもそういう性癖ってあるもんだな、と納得もした。

 

「保安官のジェシカよ、無事よね?怪我はなさそうだし」

「あ、ああ。本当に助かったよ、保安官?あんた、新人だったよな?」

 

 俺たちの拘束を解くと、彼女は冷静なままついてきてと言って外に転がるペギー共の死体からテキパキはぎとる姿にさっそくドン引いてしまう。

 いやいやちょっとマテ。多分、この状況に俺たちの頭がついていけなくて、驚いていたんだろうな。

 

 それによく見たら彼女、大昔の馬鹿映画よろしく。

 背中や腰にある弓矢と拳銃だけで、ここにいるペギー共を料理してしまったとわかると。俺たち、もう彼女の大ファンになったね。無限大に尊敬できた。

 この彼女なら、ベトナムでロシア人どもを血祭りにあげることだって軽くやってくれそうだしさ。

 

 ああ、本当にスゲーよな。クレイジー、クール。ほかに何が必要だって?

 

「それで、保安官。アンタ、これからどうするんだ?」

 

 ホカホカの戦利品を俺たちに持たせる彼女に、俺らができたのはそう問うことぐらい。

 いや、実際には膝でもついてさ。「女神よ、俺たちにご命令を」とか聞くほうがよっぽど正しいんじゃないかってくらいで。誰かの命令が必要だったんだよ。この時は、どうしたらいいのかさっぱりわからなかったし。計画なんてあるわけもない。

 

「戦うわ、助けは期待できないから」

「戦う!?戦争って意味か?」

「その辺は好きに考えて。とにかくレジスタンスを結成して、あいつらと一緒になってお祈りするのはごめんだ。そうわかるように教えてやるのよ」

 

 力強くそう言い切ってみせた。

 この女性、思ったよりも美人じゃなかったが。それでも俺達、この時ばかりは彼女の鋭い視線と気迫にゾクリとさせるものがあったと認めなくちゃならない。そんなことを言ってくれる人が、さっそくこのホープカウンティにいるってのは感激だったね。

 

 ああ、それでペギーな。

 もちろんあいつら、ぶっ殺してやるさ。そう、冗談じゃないってんだ。

 




(設定・人物紹介)
・保安官
アーロンやジェシカも保安官だが、他にも保安官は存在する。
連邦保安官の役割は、彼らとは違うのだ。


・クラッチ・ニクソン
ホープカウンティにいくつもの記録を残した1960年代から70年に活躍したという「米国史上、もっとも偉大なスタントマン」らしい。
だが、そんな人々に称えられる彼の記録は。この後、たったひとりのヤベー女保安官によって鼻歌交じりに何度も再現され、その記録もぶち抜かれてしまう。
誰だ、こんな奴を連れてきてしまうなんて!?


・この国は自由と銃の国
現実には広まらなかったが、個人認証搭載の銃器の流通が主流となった世界。
皮肉なことにシステムのおかげで銃による暴力犯罪と死者数は低下している。ちなみにいちいち説明しませんが、ホープカウンティに出てくる銃はほとんどすべてが不正規の銃という設定。


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