でもカタカナにしにくいのでそのまま書きました。だってこれ「ヴ」とかそんな風にしか書けないのだもの……。
次回の投稿は23日を予定。
Voeux
狼
(メタルギアソリッド)
ジョセフ・シードが、自分たちがせっかく手にしたものの半分を失ったことを――我が子と呼んだ家族2人が死んだことを。
どのように感じ、嘆き悲しんだのか。それを伝えてくれるものは残されていない
ただ、彼は2人の死になにがしかの思いを語ったとされる言い伝えなら、ある。その最後は意外にも祈りでも、許しの言葉ではなく。呪詛にしか思えないものだったという。
――我らを傷つけた者は。同じく自身も傷つき、その痛みに苦しむことになるだろう。
――我らの信仰を笑う者は。同じく自身も嘲笑され、偽りの英雄を演じる己に気づくことはないだろう。
それは明らかに、特定の人物に向けて放たれた言葉のナイフ。
ジェシカ・ワイアット――この奇妙な内戦の中で、彼女もまたジョセフと同じくもう後戻りできないところまで来ていた。
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ヘンベインリバーが解放されて4日。
ホープカウンティはこの時期には珍しく、連日小雨が降り続けた。
山に、谷に、降り注ぐ水は血や死臭といったものを洗い流し。川はわずかに増水し、濁った激しい流れを生みだす。
わずかな間の休息。
レジスタンスもエデンズ・ゲートも、今は一休み。
人々は久しぶりの沈黙するホープカウンティにならい。屋根の下からあまり外に出ることはなく、静かに時が過ぎるにまかせる。
死と苦痛の記憶はまだ生々しいが、こうした時間がすべてを過去へと押し流してくれるのだろう。それがいつか、すべて消えると信じて。
そうして雨は去った。
再びあの照り付ける太陽と透き通るような青い空が戻ってくる。
今日は無人の道路をシャーキー、ニック・ライ、グレースらが乗った車が、ダッチのバンカー目指して走っていた。だが待ってほしい、車内の空気はなぜか最悪。
特にグレースは殺気立っているようで、重い空気をまとわせるだけにとどまらず。目には時折、はっきりと感じられる怒りの炎がちらちらと見え隠れさせている。
「――なぁ、確認なんだけどよ」
グレースという危険物に衝撃を与えないように。
そんな慎重さをみせるシャーキーは、それでも耐えられないとばかりに口を開いた。
「ダッチの爺さんはあれでも爺ィなんだ……なんか違うな?いや、違わない。
とにかく、お互いに冷静に話し合わないとよ。
俺、これって結構重要なことだと思うんだよな。なぁ、そう思うだろ?」
「……」
「怒ってるよな?
ああ、もちろん俺だって怒ってるぜ。そりゃそうだよな、当然さ。でもよ、俺たちは大人なんだから――」
「シャーキー」
「ああ、なんだよ。グレース?」
「誰も助言は求めてない。黙ってくれない」
「ああ、うん」
運転席のシャーキーは体を縮めつつ、失敗したと呟き。続いて助手席で無言を貫くニックに助けを求めるが。サングラスをかけたニックはそれに気が付かないふりをしてごまかしている。
(俺にだって無理だよ、わかるだろ?)
ニックの沈黙は、シャーキーへのこんな返答の代わりだった。
愛妻家の彼にはわかっていた。怒っている女性は時に、男という種が近くにいることすら嫌うほど怒ることがあるということを。
そういう時は、自分たちは空気のようにしてなくてはならないということを。
事実、シャーキーの言葉に不快感を口にしたのに、後部座席に座るグレースの顔は。
ひどく凶悪なもののまま、窓の外をにらみつけ。愛用のライフルをしっかりと抱えて離さないでいる。
まさに危険な状態だ。
レンジャーステーションで車を降りると。
グレース、ニックと先導し、最後尾に不安そうなシャーキーがついた。
ダッチの住むバンカーはこの近くにある。ステーションに顔を出すこともせず、グレースはバンカーの中に入っていくなり、そこにいるはずの主の名前を怒鳴り始めたのである。
「ダッチ!どこにいるのよ、出てきなさい。このクソ爺ィ!」
「……なんだ、騒々しい?む、お前達か。どうした、今日はいきなり――」
(バッカ、爺さん。なんで出てくる)(せめてもうちょっと冷静になるまで、出てこないでもらいたかったなぁ)
早くも逃げ腰になっている男たちの感想は明かされることはなかったが、グレースにはきっとどうでもよかったことと思っただろう。
「しらじらしいっ!どういうつもりっ!?」
「おい、あんまり熱くなるなって。冷静に言わなきゃ、ダッチの爺さんだって困ってるだろ?」
人づきあい悪く、口下手なグレースは本当に怒っているせいか。感情が走り過ぎていて、興奮状態になりかけていた。
このままヒートアップされても困るわけで、仕方なくニックが代わりに口を開いた。
「あんたに聞きたいことがあるんだよ、爺さん」
「なんだ?随分と殺気立っているようだが」
「ジェシカさ。ジェシカ・ワイアット保安官、彼女が消えた」
「……」
「理由はわからない。
一昨日は、俺とキムの出産に協力してくれた。俺の娘の名付け親になってくれる約束をして別れた。それが彼女を見た最後だってことはわかってる。あんたはどうだ?」
若き父親となったばかりの男の問いに、老人はなぜか答えられない。
「あのよぅ、ジェシカが消えたって騒ぎになってるって。アーロンに言われて俺もあわててこっちに来たんだ。
アデレードさんがいうには、保安官はあれからヘンベインリバーには戻ってないって。あんな状態の彼女がフォールズエンドから消えたら、やばいしさ――」
「メアリーが言ってた。スプレッドイーグルに無線でしつこくジェシカを出せと要求していたそうじゃない。なんか知っているんじゃないの!?」
車内と違い、今は背中に担いでいるライフルだが。
グレースがそれにいつ手を伸ばしやしないかと、妙な緊張感を感じ始めていた。このままダッチが無言を貫くか、まさかとぼけたりはしないと思いたいが。
そんなことになったら――。
「……その答えは、イエスだ」
「ぬけぬけとっ、このクソ爺っ!」
グレースは怒りの声と共に飛びかかろうとするのを、シャーキーとニックは慌てて――なぜかシャーキーは腰にしがみつくようにして、彼の下心が見えた気もするが――制止させた。
「彼女には時間が必要だったのよ!それなのに、あんたっ」
「相談したいことがあったんだ。頼みたいことがあった」
「それは私かニックが聞くと言ったのに!なんで彼女にっ!?」
「そうだ!それほどの緊急事態だったんだ!だから、なんだ!?」
「こっちがまるでなにもない、そう言ってるなら殺してやるわよ!モウロク爺ィ!」
「一体何なんだっ!?」
一応の事実の確認が取れ、納得するニック達はここでようやく仲裁に入った。
「グレース、冷静になれ……それとダッチ爺さん、確認するぜ。あんた、ジェシカをあそこに。ホワイトテイル・マウンテンのジェイコブのところに送り込んだ、出間違いはないんだな?」
「ああ、当然だろう」
「マジかよ、爺さん。そりゃ最悪なことやっちまったなぁ」
「そりゃどういう意味だ?シャーキー、ニック、それにグレースも。いったい何のことを話している?」
困惑しっぱなしの老人に、グレースは吐き捨てるように答えた。
「ジェシカの事よ!」
「???」
「あのな、爺さん。アンタに伝えてなかったのは、はっきりとした結果が出てなかったからだ。それに彼女の状態を無線で知らせるわけにもいかなかった。あれはあいつらだって聞いているかもしれないんだろ?知られちゃまずい情報は知らせられねえ。
だからスプレッドイーグルはあんたがいくら出せと言っても、ジェシカ保安官を出さなかったんだよ」
「彼女の状態だと?別に――おかしなところはなかったぞ?」
この時、ようやく冷静になれたのだろう。
グレースは自分を止める男たちの手を振り払うと、それを残念そうに思っている表情のシャーキーが答える。
「そりゃまたヒドく節穴な目をしていたんだな、爺さん。
あのジェシカがどうやってフェイスに立ち向かっていったのか。アンタが本当に自分で言うほどの状況の把握ってやつができていたら。そんな呆れた答えが出てくるはずがないんだけどな」
「彼女はもう戦えない!
いいえ、少なくともしばらくは――落ち着くまで様子を見る必要があった。そうしなくてはいけなかったのに」
「教えてやるよ、爺さん。
ペギーの”祝福”だよ。あのフェイスが、信じられないくらい馬鹿みたいにそいつを生産して土地を汚していたんだ。保安官は短期間でもそこに飛び込んでいったんだ。
俺達がヘンベインリバーから慌ててフォールズエンドに彼女を移動させたのもそれが理由さ――。彼女、あの雨の中にフェイスがいるって叫んでよ。飛び出して行って、誰もいない草原で滅茶苦茶にショットガンをぶっ放してたんだぜ」
「……まさか!?あの保安官がか?」
「ああ、本当だ。
トレイシーとアーロン保安官が慌てて彼女を連れ戻して、すぐに俺が呼び出された。
あっちのドクターの話じゃあよ、しばらくはフォールズエンドで様子を見たほうがいいって。少なくともヘンベインリバーには置いておいちゃまずいってさ。
あっちはまだ、取り戻したばかりの農園に素材となる花の処分が始まったばかりでさ。今の彼女の状態じゃ、そのうちそいつの匂いだけでブッ飛ぶようになってもおかしくないって言いだしたからさ」
「中毒症状がでていた、と?」
「少なくともフェイスがまだ生きてるって騒いでたのは間違いないぜ」
「なんてことだ――」
ダッチは自らの失敗を認めるしかなかった。
彼に彼の、言い分は確かにあった。だがそれは、ジェシカの状態を知らなかったからできることだった。
ようやく自分が取り返しのつかないことをしでかしてしまったのでは、と気が付き。狼狽する老人を、若者たちは困惑とあきらめをもって見ているしかなかった。
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君はガイ・マーベルを知っているだろうか?
ハリウッドの異端児。B級作品のカリスマにして、天才。
それが彼だ。
彼という存在を言い表すのに、才能をたたえる必要もないほどそれがすべてであると断言できる。時代に選ばれないはずのない存在。
そのガイが、ホープカウンティで新作「ブラッド・ドラゴン3-ザ・クエスト・フォー・ピース」の撮影に入っているのも知っているだろうか?
その事実に興奮を感じない奴は、とんだ不感症野郎だと言わざるを得ない。
彼は常に撮影現場で、そのイメージを爆発させ。もてあますエネルギーでもってスタッフに理不尽に怒鳴り散らすことで、彼らに愛想をつかされ。
それでも尽きることはない情熱に感じ入るに違いない。
そんな彼の最新情報をSNSが最後に知らせたのはいつの事か。
チェックしていないのか?
どんなクソ楽しくて驚きの作品が作られているのか、楽しみですらない?
それならそれで全く構わない。
あいつはただのクレイジー変態というだけだし、ムカつくアホってことだけ覚えておけばいい。
実際、あいつがなにをやろうとしているかなんて。出来上がった作品を見てもちっとも理解できたためしがない。派手な爆発、刺激的なバイオレンス。そして外見は生物学におけるメスに分類される体には、たわわなオッパイとボリュームのある尻に力強く打ち付けられる男のケツ。語っていて、これほどむなしく感じることはないね。
ガイには確かに才能はあるのかもしれない。
だが、それが真に正しく評価されることはない。だってここまで話せば、わざわざ口に出さなくても君にだってわかるだろう?
スプレッドイーグルでそう語る若い男は、そんなことを口にしながら、自身のカメラの準備を終えて席に座りなおす。構えたカメラのフレームにメアリーを捕らえると、ライティングにもきっちりと再び確認する。
「――始めるの?どうやったらいい?」
「そうだね。まずは、ここについて。思ったことを、そのまま口にして。
スタートはそこから、次に今のこの混乱について。
ホープカウンティに起きている悲劇。誰もが抱えている怒りとか、悲しさとか。別に感情的になってくれとは言わないけど。当事者である君の口から、ここで起きている事件について感じたままを口にして。
こっちはそれをただこのカメラに収めたいだけ」
「ふふふ、なんか難しそう」
「そんなことはないさ、メアリー。
なんならその地ビールを一口やって、勢いをつけて。君が始めるのを、こっちはじっとここで待っているだけだから」
男は外の世界から――あのハリウッドからわざわざこのホープカウンティへとやってきた。
アメリカの中で分断され、見捨てられたホープカウンティについて知りたい。知らせたいのだと、そう言った。
この男にもし問題があるとするなら、それはジェシカの怪しい商売相手の手引きでここに来たということか。
彼は昨日、この町に来る前に神父とライ&サンズ航空のCEOにインタビューした映像を収めた。どちらも苦しそうに顔をゆがめ、血を吐くようにして。ここでおこってしまった悲劇についてそれぞれの立場で口にした。そしてそこには希望も――あった。
「始めるわ。勝手にやって、いいんでしょ?」
「ああ、もちろん」
「それじゃ……ここの事。ホープカウンティ」
「いいね。続けて」
彼女が父から受けついた店の中を見回した。
思い出はあまりに多く、そしてどれもが大切で愛おしいものばかりだった。そしてそこには父がいた。
メアリーの顔から、険しさが消える。
父の思い出を語りだす娘の姿となった彼女はゆっくりと口を開いた。
「私はここで育ったわ。そう、生まれてからずっと。
最初のキスも、この店の裏で。どこかのカウボーイとね……危うく父に知られるところだったな。バレたら、きっと大変だったでしょうけど」
「……」
「父は家族と、この店を愛していた。
ここは田舎だし、経営は大変だったけど――ここに来る人たちが、笑いながら。気楽に過ごせる場所にするのが役目だって。そう信じていた。
ええ、あいつらが来るまでは」
まぶしい昼の太陽の光が差し込んでいるはずなのに。
メアリーの顔に影が見えてくる。
「皆を助けよう、それがあいつらの最初の言葉だった。でも父は彼を絶対に信じてはいけないと言っていた」
後にプロジェクト・エデンズ・ゲートの悪名が事実であったと証明することになる映像はこの時に作られたと思われる。
わずかな笑顔、苦痛を伴う過去、見捨てられたという不安、まだ先の見えない未来への恐怖。それらを感じる中で見せる、彼等のナマの証言には誠実さしか感じることはないだろう。
そして残される――。
彼らの未来に待ち受ける最大の悲劇に気が付かぬまま、目の前の”敵”への憎しみを、ひたすらにたんたんと。
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思うに、ジョセフ・シードなる預言者に予言の力があるのかどうかは別にして。
彼が言うこの”回収”に、本当に意味があったのかと考えると疑問が残る。
その理由として、彼がホープカウンティを完全に掌握した後におこなったやり方がまず挙げられるだろう。
ジョセフはあろうことか、それまで成功していた教団の運営システムにわざわざメスを入れた。
ホープカウンティの3つのエリアを彼の子供たちに”分けて与えた”のである。彼は自分の王国を作る最終段階に、それぞれの土地に自分の名代たる存在を派遣したということになる。
ここにまず大きな間違いが存在している。
彼の子供達――ジョン、フェイス、ジェイコブはプロジェクト・エデンズ・ゲートの組織の潤滑油として才能を発揮はしていたものの。それは別にジェイコブの代わりも務まるようなものでは決してなかったはずだ。
しかし、王が土地を収める存在に求める能力とはまさにその部分であり。
彼らの子供たちの誰もが、そういった適性を持っていないのは明らかであった……。
――幼さと不安定さから、暴力的になるジョン
――ジョセフの意思で。人物から別人が”演じている”だけのフェイス
――ジョセフのために”神の兵”なるものを揃えようとした帰還兵、ジェイコブ
ジョセフに肥沃な大地を与えられた彼らが、ジョセフを習うなら何をそこでしでかすのか。中国のことわざにもあるだろう『子、政をなすに、いずくんぞ殺を用いん』と。
だが、このジェイコブ・シードという男は――。
時間は大きく戻り、フェイスによる最後の反攻作戦が行われる直前。
ジェイコブ・シードは、部下から悲鳴のようなヘンベインリバーから送り込まれ続ける”祝福”の貯蔵に関する新しい指示を与えていた。彼女は明らかに規定を無視し、暴走を続けている。
(フェイスは追い詰められている。彼女も、弱かったか)
ホワイトテイル・マウンテンでは自宅として使っている屋敷の一室から窓のを外に視線を泳がせながら、ジェイコブは静かに結論を出した。
噂の新人保安官がフェイスの元へと向かったとの情報が入ってから、ジョンよりも早く。彼女の足元はガラガラと崩れ落ちて行ってしまったようだ。
思えば半狂乱になって、エデンズ・ゲートの力に疑問を持ち。こちらに問い合わせてきたのも、ふがいない自分の姿を見たくないという逃避行動だったのやもしれない。
「仕方がないのかもな。フェイスはジョセフの――フェイスなのだから」
ジョセフの予言がなかったとしても。”あのフェイス”がこの先、何年もジョセフ・シードのフェイスであったという確信は全くなかったし。彼女のこれからに奮起を期待するのは、このジェイコブ・シードの役目でもない。
(フェイスはどうせ倒れるな。新人保安官だったか……馴れてきているんだな、この狩りのやり方に。奴の頭の中がフェイスでいっぱいになっている今こそ、先手を打っておくべきだろう)
ジェイコブ・シードは神の戦士を自認している。
それにふさわしくあるために、常に設定された戦場で後手にまわることを嫌う。この身は勝利が運命づけられているのだから、当然のことと言えるだろう。
だからエモノであり、敗者でもある敵には常に罠を仕掛けて待つべきなのだ。
ジェシカ・ワイアット。狩られるものの正しい役目、もうすぐそれをお前は知ることになるだろう。
(設定・人物紹介)
・狼衆ければ~
元は淮南子という中国の哲学書、から。でもメタルギア世代には可愛らしい女性(少女成分多め)レポーターの言葉でしかないのだ。
・ガイ・マーベル
昨今のハリウッドにおける監督の青田買いを皮肉ったようなキャラクター。
原作に登場、周りがおかしくなっているにも関わらずに撮影を強行し。壊滅的な性格でスタッフを苛立たせている。
彼の作品はDLCとしてBOXセットで鑑賞(?)することが可能。興味があればガイ・マーベル・ユニバースの深淵を見てみるといいだろう、どれも素晴らしい……うん、その、それだ。
・若い男
彼には名前も役目もあるが、あえてここではぼかしている。職業、ドキュメンタリー映画監督。そしてオリジナルキャラクター。