手には弓を 頭には冠を   作:鷹雪
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次回投稿は10日を予定。


No Mither

 トラックに乗る男が2人、シャーキーとその従兄弟。

 つまりハーグ・ドラブマン・ジュニアとシャルルマーニュ・ヴィクトル・ボーショー4世は、世間様という視点からすればどちらも似た者同士。常識とか良識よりも、もっと危険でわくわくするようなものに重きを置く迷惑な奴ら。つまりどちらも考えナシのろくでなしに見られている。

 

 それがシャーキーには不満なのである。

 彼はこのサルを崇めると親父に嘆かれるような奴に比べたら、遥かにマシ。むしろ立派な常識人だといってもいいくらいだと思ってる。

 だが気が付くと、こうして並んで行動するのはまずい考えではなかったのかと。急に不安を抱き始めていた。

 

「なんだよ、不機嫌そうだな。シャーキー」

「お前の親父に相談をしに来た途端。お前と組んでお前の親父の話を聞けってやられたんだ。楽しいわけがない、当然だろ?」

「まぁ、そう言うなよ。親父はあれでも人間だ、年を食ってる。そのうち死ぬのも間違いない。

 それよりも。なぁ、元気だったか?本当に久しぶりじゃないか、シャーキー」

「そうだな。ずっと会いたいとは思わなかったからな、こんなことがなきゃ」

 

 グレースじゃないが、今になってダッチとジェスに対して怒りを覚える。その権利が自分にはあると思えてきた。

 ジェシカ保安官がいてレジスタンスを引っ張ってくれれば、このことだって自分じゃなく。彼女にやってもらえたに違いなかったのに。

 

「で、お前の親父は何を怒ってるんだ?」

「聞いてないのか?」

「教えてもくれないさ。お前がおかしな像の前でグズグズするから怒り出したんだからさ。その後も、お前と一緒に車に乗らなきゃ。いつものように癇癪おこして方向も確かめずにぶっぱなし始めたろうぜ」

「そうだな。だが、それが俺の親父だ。愛すべきドラブマンの証だ。わかってんだろ?」

(ああ、だからイカレてるんだよ。お前ら親子はさ)

 

 最後は黙ったが、別に口に出しても良かった。

 ぶっ飛んでいることを抜かせば、この息子は父親よりもずっと心が広いし、会話もできる。賢いとは言い難いが、馬鹿と呆れることもないから悪くは無い。

 ただ――全く理解できない部分がある。正気を疑いたくなる行動を見せる。

 

 つまりはこいつもドラブマンの血族ということが問題なのだ。

 

「で、俺たちはこれからなにをするんだ?」

「親父の車を取り返す。ペギーからな」

 

 ちょっと面白いと思ってしまった。すぐに後悔するとわかっていたはずなのに。

 

「へぇ、あの人が。なにがあった?」

「実はこれはそもそも原因は俺にあったんだ」

「なにっ!?」

 

 いきなり嫌な感じがする。

 

「俺は旅行から戻ってきたばかりだったんだ。知ってたか?」

「ああ、アジアだかなんだかに行ってたんだってな。異文化交流?とかなんとかだろ」

「それはキラットだな。本当に美しい場所だった。赤い近衛兵たちはかっこいい武器を持っていてな、俺もひとつかふたつ持ち帰りたかったものさ」

「そっちの話はいい。車の話をしろ」

「ああ、そうか――。

 戻ってきて俺は自分が変わったことを知ったが。周りも変わったことを知った。わかるだろ?ガキの頃の同級生なんかのことな、あいつらペギーに入ってた。

 そこで俺は考えた。”あいつらの仲間になることは別に悪いことじゃない”んじゃないかって」

「う、嘘だろ」

 

 思わずうめき声を上げそうになった。

 そこまでイカレていたとは思わなかった。あのジョセフに、自分を息子と呼ばれたいって?正気か?

 

「なんだよ?おかしい話か?」

「ああ、でもそれはいい。とにかく最後まで話せ。それが必要になった、とてつもなくな」

「それじゃ話すけど、ちゃんと俺は考えたんだ。真剣にってやつ、大真面目だ。

 だってそうだろ?あいつらは武器を持ってるし、楽しそうにつるんでるし。なにより女もたくさんいる。それも美人が!」

(フェイスだろ。その顔で面食いなんだよな、コイツ)

「野郎もいるけど、彼女たちもいる。なら、仲良くするのは全く悪いことじゃない。むしろ歓迎したいくらいだ、間違ってるか?」

「聞くなよ。先に進めろって」

「だからあいつらのところに行って言ったんだ。『よォ、俺も仲間に入れてくれよ』って。そしたら、いいぜっていう。その場で仲間にしてやるって」

「ああ、だろうな」

「そりゃ最高だって返したら、あいつらグチャグチャ言い出したんだよ。

 強い心を保つために酒はダメだ、酔っ払うのがいけない。アルコールは堕落させるもので、最悪なものだって。まったく同意できなかったが。それくらいは考えてもいいと思った」

(親父に似て大酒のみのくせにそんな言葉をよくも言えるよな)

「それに我慢できなきゃ、裏でこっそり飲めばいいだけだしな。全く問題はない」

「……はァ」

「でも今度は姦淫もダメだっていう。これはセックス禁止ってことだ。信じられるか!?

 こんなことを納得できるわけがない。あいつらのなかには美人がどれだけいる?俺は皆と仲良くしたい。なんなら全員とセックスしたい。

 神は愛を語るもんだろ?フリーセックス、自由恋愛。それこそがあいつらの言う信仰ってもんだろ?」

「まったく笑えないが。お前に同意できる部分があるのに気が付いちまった、自分が悲しいよ」

「俺も悲しくなった。そして怒った、奴らの前で思いっきりな」

「殺したのか?そいつら」

「いや、まさか。シャーキー、俺は野蛮人じゃない。れっきとした文明人だ。

 ただそいつらにそんなクソみたいなことが聞けるかって言って、逃げてきた。追いかけてくるから、そうするしかなかった」

「……で?親父さんの車の話はいつ出てくるんだよ」

「もう出てる。親父の車に乗ってあいつらのところに行ったんだ。

 戻ってくるときは走って逃げなきゃならなかったから、車はあいつらのところに置いてきた」

「そうくるのかー。お前と話すと楽しいなー、涙が出てきそう」

 

 やはり従兄弟はドラブマンだった。

 

「それよりもシャーキー、あんたが親父に話があるってなんだったんだ?」

「ジェシカって新人保安官について話したかったんだ」

「おお、噂の強くておっかない美人だな!アメリカに誕生したジャンヌ・ダルクらしいな」

「美人ってことはないが、凄い女ってのは間違いない。誰にもできなかったが、ジョンにフェイス。なんだかんだあったけど、あの人が倒したんだ」

「そりゃ凄いな。俺も是非会ってみたい」

「――それができない。ジェイコブに捕まった」

「おおっ」

「なんとか助け出したいんだが。正攻法じゃ難しい、だから伯父さんに頼んで力を貸してもらおうと思った。思っちまったんだよなぁ……」

「親父が?今の親父はやめたほうがいい、シャーキー。

 この騒ぎが始まる前から、いきなり議員になるんだって言い出した。なにか始めようとしている。俺の話を全く聞こうとしないし、正直に言うと親父とは最近だとあんまりうまくやっていけてないんだ。ボケたのかな、お前から見てどう思う?」

 

 そりゃそうだろう、シャーキーは思ったが今回も口には出さなかった。

 

 あの叔父は他人から見れば横暴な名士のクソ野郎としか見られないが、シャーキーにはわかる。

 アデレードとの離婚で、自分の愛した女にボロカスにされてあの傲慢な野蛮人は、実は弱っていたのだ。弱くなると人は素直になれば、自分の過去の間違いを正せると思うことがある。幻想だ、そんなわけがない。

 

 あのクソ親父は、本当は妻を心の底から愛していたということなのかもしれない。。

 それ自体は喜ばしいことだ。もしかしたら、憎みあう2人の関係が少なくとも良い方向に話が転がった可能性はここまでならあったはずだ。

 

 そんなわずかな希望を台無しにしたのが2人の息子でなければ――。

 

 酒におぼれて弱った彼は、自分の前に残った息子に初めて心を開いた。

 息子はずっと父親との交流を望んでいたから、彼の言葉を聞いてなにかしようと考えた。

 考えるべきではなかったのに、だってそいつはドラブマンの血を引いているのだ。まともな答えが出るはずがない。

 

 このジュニアは思いついた名案をそのまますぐに実行した。

 愛する女への深い悲しみと過去の間違いに対して許しをひたすらに請う”離婚直後の元夫の言葉”。それをあろうことかチラシに混ぜ、カウンティ―ホープにばらまいてしまったのだ。男のプライドも何もかも、全てをぶち壊す行為だった。

 

 女にボロボロにされた挙句、それに情けなくも慈悲を求め縋り付いたと他人に思われてよろこぶ男はいない。実際、シニアは激怒し、アデレードは大喜びして若い燕の尻を公然と追い始めたのもそのあたりからだ。

 シャーキーの両親はシニアが息子を殺すかもと恐れ、シャーキーに力になるように求めた。事情を聴いたシャーキーは、その日の夜に従兄弟を連れて飲みに行き。夢があるならそこに向かって一直線ですぐに動くべきだ、と焚き付けた。

 

 それで問題は解決。

 翌日にはモンタナからジュニアは消え、旅行に行きやがったとシニアはまた怒ったが。

 周囲はそのまま怒りが静まるまで帰ってくるなと祈っていた。まぁ、もう今は帰ってきてしまったわけだけど。

 

「ま、とにかくだ。ペギーがこんな騒ぎを起こしているときに、お前が戻ってきてくれたのはいい兆候だ……兆候だと、思う。思いたい」

「なんだよ、おかしな繰り返しを入れるなぁ」

「このトラブルもきっと問題ない。ジェイコブも取り返されれば頭にくるだろ?」

「ああ、そんなことか。それなら心配はいらない。

 見なかったのか?親父の奴、迫撃砲を出してきてさ。近くの山道にペギーの車が見えると、そいつでよく吹き飛ばしているんだぜ。これが結構ノーコンでさー」

「わかった、もういい。さっさと終わらせよう」

 

 ホワイトテイルマウンテンに来て、これ以上最悪な話を耳にしたくなかった。

 今は誰かを無性に殺したい、それもできればペギーを!

 

(俺はいつから殺人鬼になったんだ?まったく――)

 

 

―――――――――――

 

 

 ジェスとグレース、川を渡ると再び森林の中を進んでいく。

 

「ジェス、質問いいかな?」

「なんだい?」

「イーライは知ってるけど、彼がやってることは知らないの。教えて頂戴」

「あの人は前からずっとペギーは危険だって言い続けてた。それでホワイトテイルを――ホワイトテイル自警団を作った」

「ダッチの話だと用心深すぎるのも、問題だっていってたわ」

「それはイーライが他のレジスタンスと距離をとってるから。ジェイコブを相手に戦うなら、余計な問題を持ち込む奴を味方にはしないって。

 実際のところ。彼の言う通り、叔父さんと話した連中はみんなジェイコブに捕まったし」

「用心深いのね。会えるかしら?」

「会うことはできるよ。話もできる。でも招かれることはないと思う」

「会談は無駄ってこと?」

「そうは言わないけど――」

 

 なにかあるんだろうか。

 だが、グレースはここで話題を変えることにした。

 

「そういえば、元気がないわね。少し懲りたの?」

「どうかな。わからないよ」

「前にあった時は世話にはならないって、フラれたわ」

「……コックを追ってた。もうすぐだって、だから邪魔された気がして。ごめんなさい」

 

 ジェシカの事をやはり気にしているのだろう。

 ダッチも言っていたが、優しい娘なのだ。自分に似て人づきあいが苦手なところが放っておけない。

 

「こんな時だけど、興味があるの。ジェス、あなたこの戦争が終わったらなにかしようと考えているの?」

「……そんなことは考えられない。ペギーを皆殺しにするまでは、終わらないわけだしね」

 

 また声が固くなる。

 憎むべき相手が死んだが、憎み続けずにはいられなくて今度はペギーにその憎悪をむけている。怒りがないならなにもできないと、恐れているのだろう。

 

「ジョンもフェイスも倒れた。

 今はジェイコブはジェシカを捕らえているけど、きっと彼女に倒される。そうすればもうジョセフしかいない。ペギーが終わるのは間違いないわ」

「すごい自信だね。あの人、ジェイコブに殺されるとは思わないの?」

「死体を見るまでは、ね。それくらい彼女は凄かったわ。

 私のいた戦場で、あんな兵士は見たことがない。だからきっと大丈夫よ」

「それはわかる」

 

 感情を見せずにただ淡々と、機械のように人を破壊していくジェシカに震えた。恐ろしいと思った。

 あれが兵士と言うやつなのだろうか。自分のように怒りや憎悪がなくても、人はあんなに簡単に自分と同じ人を殺せるのだ。いや、あの女性は殺す人なのだ。

 

「あなたには才能があると思う、ジェス」

「なんのこと?」

「軍に興味はない?あなたならきっと良い兵士になれると思うの」

「フン、軍の規律とかあるんだろ?そんなの、御免だからさ」

「――すぐに結論を出す必要はないわ。考えておきなさい」

 

 きっとそうしたほうがいい。

 時間とは残酷なものだ。怒りや憎しみは流れる時間の中で擦り切れてしまう。

 でもそれがないと、もう自分とは呼べない。すると別の”敵”を探し、憎悪し、攻撃を始めるしかなくなる。

 そのうち全部がちぐはぐになって、どうしようもなくなってしまう。

 

 だから制御するしかない。

 この娘にはそれが必要なのだ。ペギーが消えた後のホープカウンティで生きていくためには。

 

 

―――――――――――

 

 

 この日、思い返すにホワイトテイル・マウンテンに変化が始まった。

 誰も気が付くことはなかったが、たぶん間違いはない。

 

 シャーキーはハーグ・ジュニアと共にペギーを襲撃。

 ハーグ家の車を持ち帰るついでに、追ってきた巡回部隊を蹴散らした。

 

 ダッチの話を全く聞こうとしなかったホワイトテイル自警団は。

 ついにグレースと会うことを決め。リーダーのイーライは合流場所に向けて隠れ家を出る。

 

 そしてそれまでは常にホワイトテイル・マウンテンに目を向け続けていたジェイコブは。

 手もとに転がり込んできたジェシカに意識が行き。それらの動きにまったく気にとめなかったのだ。



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