手には弓を 頭には冠を   作:鷹雪
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主人公は再び幻覚に苦しみながらの囚人生活をスタート。さらなる洗脳の妙技を味わうことに。
次回は15日投稿予定。


神の愛を知れ

 それで、とグレースが言うと。ジェスは体をこわばらせ固くした。

 ホワイトテイル自警団のリーダー、イーライとの会談は最初から雲行きが怪しいものとなっていた。

 

「話は聞いた。それだけだ」

「今こそ手を組むべきとは思わない?ジョンもフェイスも、もういない。ジェイコブだってきっと今なら倒せる」

「そうかもな。だが、それでも俺の考えは変わらない」

「……わからないわね。どうしてそこまで頑ななの?なにか理由がある?」

「その新人保安官とやらの噂は聞いてる。ダッチも盛んに売り込んできたよ、彼女と手を組めばジョセフはやれるって」

「そう間違った申し出には聞こえないけど?」

「いいや、大間違いだ。ジェイコブはそんなに甘くない。ジョセフにはまだ手が届かない。

 奴は何よりも弱さを嫌う。奴に敵対すれば、そこを必ず見つけて、突いてくる。このホワイトテイル・マウンテンには俺と同じ考えの奴は多くいたが。今も生きているのは、俺だけだ。皆それに気が付けなかったからな」

「今はジェシカ保安官もいるわ」

「だが、彼女はジェイコブの捕まったのだろう?なら、生きちゃいられないさ。ジョンやフェイスを殺ったんだからな」

 

 平行線だった。

 いや、突破口はあったのかもしれないが。グレースにはそれを見つけることができなかった。

 人づきあいが苦手だ、などと口にしていた自分の無力さが嫌になる。

 

「それじゃ、どうするの?これでお別れ?バイバイ、健闘を祈るって?」

「――情報はできる限り知らせてやる。何かを一緒にやるつもりはないが、何かをするからと言って邪魔をするつもりもない。俺達は同じ目的に動いているのは確かだ。それでも、手を組むつもりはない」

「わかった。仕方がないわね」

「ああ。それとジェス」

「なに?イーライ」

「お前、コックを倒したって聞いたぞ」

 

 イーライがコックの名前を告げると、ジェスの顔が暗くなる。執着していたかつての怨敵、だがもう過去の話だ。彼女の彼岸はかなったが、心は晴れることはなかった。

 

「よかったな、と言っておく。俺はお前にはもっと慎重になってもらいたいと思っていた」

「でもしなかったよ。だからコックを殺れたんだ」

「そうみたいだな。でも、ジェイコブはまったく気にしていないだろう。犠牲も出た。お前はそれを忘れてはいけない」

「……」

「それにお前はうちを抜けると言ったが、俺達のいる場所は知っているだろう。なにかあったら、来ればいいさ」

「ありがとう、イーライ」

「このホープカウンティをペギーに。ジョセフになんかの好きにはさせない。仲良しはできないが、俺達は敵にはならないよ」

 

 会談はこうして幕を下ろした。

 森の中へと消えていくイーライたちの背中を見送りながら。グレースは静かにため息をついた。

 

「グレース?」

「少し見通しが甘かったわね。ホワイトテイル・マウンテンはまだ嵐の中にいるってことを忘れてた。

 イーライにジェシカを奪われて、弱っている私たちが頼ってきたように見られたのかもしれない。よく考えたら最悪のタイミングだったわね」

「そんなこと!?」

「いいえ、リーダーと言うのはそういうものよ。こちらはこちらで、戦えるってことを証明しないとイーライも信用してくれないわ。

 だから彼の判断は正しい、逆に私たちは甘すぎたわ」

「どうすればいい?」

「さぁ、どうしたらいい?今は空っぽ、なにをするにしても情報が必要で。この失敗から学ばないと」

 

 とりあえずやりあえずそういうことなら、ジェシカのやり方で始めるしかないだろう。

 バロン製作所から救出したレジスタンスをまとめあげ、しばらくはアリーナのアデレードに任せておくのがいいかもしれない。ホランドバレーとヘンベインリバーには、ジェシカが構築した輸送ルートと物資がある。そして大量の武器も。

 それを有効に使って、ここの争いに食い込んでいくしかない。だがそれだけでは多分、足りない。

 

「次にイーライと話をする時のために、まずはジェイコブを怒らせないとね」

「怒らせればいいの?それだけ?」

「ジェイコブは弱さを嫌うと教えてくれたのはあなたよ?

 だからこそ自分の弱さを思い知らされるのは、きっとこたえるはず。それもイーライとは違うやり方であればなおいいわね」

 

 そんな都合のいいものがあれば、だけど。

 だが、答えはあまりにも近くにあったらしい。ジェスは考えがあるんだ、と言ったのだ。

 

「ジェイコブを怒らせるだけなら、アタシでも思いつくことがあるよ」

「ええ、それがあるなら助かるわ」

「ペギーの”神狼”を使うんだ」

「あの狼を?どうやって?」

「実は、地元の人間はかなり前からジェイコブが神狼を作っていることに気が付いていて、それに対処させようと動いていたんだ。モンタナ大学から狼の専門家を連れてきて、研究させようとしていたんだ」

「問題が?」

「研究できるような環境を提供していたんだけど、ペギーがいろいろと邪魔してきて。それを取り上げてしまったんだ。

 もめ事に巻き込まれたくないスタッフ達はほとんど帰ってしまったけれど。まだひとりだけ教授がまだ残ってる。彼女なら、研究ができるようにすると申し出れば、喜ぶよ。

 それで解決できるかどうかはわからないけれども……」

「それよ!さっそく動きましょう」

 

 道は歩くものだが、それにはまず方角を決めなくちゃならない。

 このレジスタンスの方角はたった今、定まったのだ。

 

 

―――――――――――

 

 

 メリル・シルバーバーグは私のあこがれだった。

 彼女の軍歴を眺めた時、そのあまりにドラマチックなシンデレラ・ストーリーに胸をときめかせられ。嫉妬も覚えずにはいられないけど。

 

 私と違い、メリルの軍でのスタートは輝いていた。

 新兵でありながらその高いポテンシャルからすぐに特殊部隊FOX HOUNDへの入隊テストを受ける。

 確かな実力と結果が認められ、入隊。しかし彼女が実際に配属されたその日、部隊のリーダー。リキッド・スネークはシャドー・モセス諸島の任務にかこつけ、アメリカに反旗を翻した。

 

 いきなりの実戦。それも敵中にひとり残されるという状況。

 だが、その中で彼女は新兵とは思えぬ活躍を見せた。すくなくともこの事件を世の中に知らしめたあの『シャドー・モセスの真実』でも、そうふれられていた。

 米国はこの事態にかつてこの部隊に所属し、同じくこの部隊を創設した。世界を恐怖に叩き落したビッグボスの暗殺を成功させたソリッド・スネークを強制召喚した。

 事件は解決、メリルは伝説の英雄ソリッド・スネークと共に隊に戻った。

 

 英雄もメリルの才能を認め、自らの手で再訓練を施す。

 メリルは英雄に多くを与えられたと感謝していたが、彼はメリルがさらに近づくことで与えられるものを受け取ることを拒否したようだ。

 彼女はソリッド・スネークの話をするのが好きだったが。彼にまだ未練があるのは明らかだった。

 

 だがそんな彼女にも陰る時代もあった。

 メリルの訓練が終わるとソリッド・スネークは姿を消し。ジョンソン大統領は失踪。

 ソリッド・スネークはその後。ハドソン川にて、タンカーに偽装した海兵隊をなぜか襲撃。部隊は全滅、指揮官の大佐は水中に沈められ世界を救った英雄はテロリストに堕ちた。彼が倒した、BIGGBOSSと同じ運命をたどったのだ。

 

 FOX HOUNDはこうして消滅したが、メリルは部隊の残した最高の遺産として値札が吊り下げられた。

 CIA、陸軍、DEA、FTA、そして民間軍人会社。

 彼女の伝説と技術は、誰もが欲しがっていた――。

 

 それでも彼女は軍に残った。そここそが自分の居場所と定めていたのだろう。私もその時はそう思っていた。

 だから出会うことができた。私は彼女を知り、彼女も私を知った――。

 

 ああ、なんで私たちのその関係は崩れ去ってしまったのだろう?

 

 

 まどろみから目を覚ますと、私は暗い部屋の中にいた。

 この感じはわかっていた。最近、よく無理矢理に味あわされたいくつかの経験に似ていたから。

 ジェスの敵討ちが終わるタイミングでペギーが列をなしてあらわれたのを見て、私はこれが罠だとすぐに理解した。

 

 ジェイコブは私を捕らえようとしている。

 ジョンがしたように。

 フェイスがしたように。

 

 距離をとれば隙もできるかと思ったが、彼らが私に使った銃弾はジョンが使ったそれ。

 非殺傷用で、彼らの特別の処置が施された弾丸。私から立ち去っていった幻覚たちが戻ってきていた。天使のように輝く笑顔のフェイスたちの歌声と姿が見える。

 ジェスはなんとか逃がすことができたが、私はすぐに動けなくなった。

 

 意識は戻ってきたものの。

 体に力も入らず、自分が寝椅子のようなものに横になっていることだけはわかる。

 

「……新人、なんてことだ。許してくれ……許してくれ、ここに。こんなところにお前は来るべきじゃなかったんだよ」

 

 それが誰かはわからなかったが。

 前に立つそいつは私を知っていて、同時に私を椅子に手早く拘束してしまった。

 

「では、はじめるぞ」

 

 誰かの声がすると、いきなりそれまでなにもかもがあいまいだった私の回復が果たされた。

 意識がはっきりと戻ってきて。拘束されてしまったが、今度は自分でそれを振りほどこうともがくことができるようになった。

 

 ここは映写室なのか?

 壁のスクリーンに、狼が映し出される。どうやらこれからお勉強会でも始めるらしい、ナショナル・ジオグラフィックに負けない知的で情緒的なものであればいいのだけれど。

 

「この世界はあまりにも脆く、壊れやすい……それを我々は忘れるわけにはいかない。そう、5年前。あの日の話だ、もう忘れてしまったやつもいるが。そんな都合のいい話は許されないことを知るべきだ」

 

 スクリーンに映る狼が切り替わり始める。

 

「あの日、世界はそれをただ見つめることしかできなかった。たった1日、たったひとりの誰かの意思で。世界に張り巡らされたテクノロジーはマヒさせられた。その結果、今ある戦争は消えた。そこにあったのに、誰かの都合だけでなかったことにさせられた。誰かの『No』が、そんな到底不可能と思っていた現実を実現させたのだ」

 

 視界に男が入ってきた。

 明細の入ったズボン、話し方。これが話に聞く、エデンズ・ゲートの警備担当のジェイコブ・シードか。

 

「俺はそれを戦場で見ていた。だれもがそうしたように、な。

 俺達は――いや、我々は勘違いをしていたと気が付かされたんだ。

 かつて我々には力があった。この国の人々の幸せを守るために立ちふさがる敵をなぎ倒し、その間違いは力でもって教えてやってきた。それが強大な俺達のアメリカだった」

 

 ガンズ・オブ・パトリオット事件。

 秘密結社、アウターヘブンが世界に見せつけたデモンストレーション。戦場と経済を、わずかの時間だが完璧に制御してみせた。

 ジェイコブはその中にいたと?目の前にあった昨日までの厳しい戦場を誰かに取り上げられ、そこで何かを見てしまったのだろうか。

 

「あの瞬間、アメリカは強さを失った。俺達は英雄ではなくなってしまった。そして気が付く、もうこの場所に強さはどこにもないのだ。新しい英雄たちは誰も見つけられず、失ってしまったのだ、と」

 

 狼が獲物にむしゃぶりつく写真が出た。

 喉元にかみつく姿は、続いて抵抗をやめた獲物の首を噛み砕く様子へと続く。

 

「そして誰もが迷い続けている。真の英雄の復活を、あの時にあったはずの力が戻る日を。

 だがどうだ?なにもない。

 かつてこの国の指導者は、まず軍で愛国心を示し。政治家となってからも勝利できるものがえらばれていた。ところが今は奴らは恥も外聞も捨てた。そしてあろうことか、ウォール街のビジネスマンこそ強さの象徴だと言い放ちやがった!銃を手に取ったこともない、血と泥土の混じった戦場に立つ勇気すらない男に!」

 

 現政府を、そういえばジョセフもフェイスの世界で非難していたな――。

 

「戦場では傷ついて血を流しても、生き残るために戦う。それが強さだった、新兵の誰もがそう思ったはずだ。そうやって彼らは英雄になっていく。

 しかし政治家は今になって違うことを言い出した――金が愛国心の図るものさしだとな。貧困しか知らず、愚かで、それでも自分のすべてをかけて国を愛してもそれは無価値で。

 高い服、有名な学校での教育、学歴。そして手にした札束の山があって、ようやく愛国者であると認められる。それがこの自由の国での価値だと」

 

 スクリーンに向かっていたジェイコブが振り向き、部屋の中に私と同じく寝かされたすべての囚人の顔を見回した。

 

「力を失い、真の英雄も失った。

 弱く、脆く、そして醜い弱者が強者を従わせ。それが正しいことだとだましている。それがこの国だ。どうしようもない。

 我々は再び、英雄を取り戻さねばならない。力は、そこから手にしていくしかないのだ」

 

 奴の目が、私に向けられるとそこで止まる。

 

「かつて英雄とは神を示していた。

 神は言葉を残し、我々を導いた。長い時を――それは歴史が証明している。

 歴史は語っている。神は大勢の優れたもののために、集団の中にある弱者を間引いてきたと。なのに人はそれをテクノロジーとやらでひっくり返すという幻想を見るばかりか、正しいやり方さえ歪め。ついに世界は崩壊の時へと向かってしまった」

 

 私に向かってくる、ゆっくりと。

 だが私はそれに抵抗できない――。

 

「強さを忘れたように。この歪みも人々は理解できない。あまりにも愚かだ。

 そしてツケが回ってきた……時代が変わるのだ。少数のために、大多数が間引かれる時代が来たのだ。そしてその時代に我々はどこよりも、だれよりも早く適応する。エデンズ・ゲートのために、愚かな大勢は間引かねばならなくなったから」

 

 寝言を言うな、そう吐き捨ててやりたかったが口は動かなかった。

 私はコイツに操られているのか?

 もう、すでに?

 

「世界の大国たち――そうだ、アメリカだけじゃない。

 その全ては混乱の中で何もできないまま崩れ落ちるしかないが。我々エデンズ・ゲートには備えがある。

 我々が群れを間引くのだ。

 それによって神は復活され、英雄は我々の前へと戻ってくる」

 

 私の鼻先10数センチに奴の顔があった。

 なのに私には何もできることがない――。

 

「では授業を始めるぞ。賢くなれよ」

 

 ただそれだけの言葉だったが。

 そういってジェイコブが退室していく中、映像はいつしか人狼とよばれるそれに代わり。彼らの駆りの様子へと変更され、同時に部屋の中で拘束されていたすべての人間に苦痛が走った。

 私にも当然だがそれがあった。

 そして私は理解できないまま、苦痛に耐えきることができずに自分ではわからなかったが悲鳴を上げていた。




(設定・人物紹介)
・私たちのその関係は崩れ~
これはジェシカの都合のいい思考に他ならない。

メリルや同じような立場の人々はきっと努力したのである。だが、かつての彼女はそれを決して認めなかった。

・戦場に立つ勇気すらない男
えー、ジェイコブ・シードの考えです。繰り返します、ジェイコブとかいう頭のカワイソウな元軍人の考えです。

ちなみに現実の方の大統領は、幼いころ素行不良で陸軍幼年学校に通ったらしいよ(フォロー)


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