手には弓を 頭には冠を   作:鷹雪
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続きは週明けに投稿予定。


フォールズエンド

 屋根の上に立つ男の恐怖に震えていた。

 しゃがみ込み、腰が引けて、泣きだしそうになっている。

 

 無理もないだろう。

 突如として周囲で獣の吠える声がしたかと思うと、仲間が何者かと争う声や物音、銃声に怒号に悲鳴があがるが。同時に徐々に仲間の気配が減っていくのがなんとなくわかってしまう。

 

 ワンワン、ワンワンッ!

 

 ついに屋根に立つ自分に向かって、地上から吠えられると。男は不気味な相手の片割れをようやく確認した。

 

「――えっ?犬っころ、一匹だけなのか」

 

 思わず安心して気が抜けてしまい、屋根の上にまで来れないあの獣を撃ってやろうか?などと考える。

 それがいけなかった。

 何かに足をすくわれたような気がすると、すとんとその場で屋根の上に尻もちをついてしまう。

 

「うおっ、痛っ!」

 

 倉庫の中から屋根へと通じる窓枠に、誰かが半身を乗り出していることをこの時知った。

 それは襲撃者の残りの方。片手で男の足をすくうと、もうひとつに握ったリボルバーを平然と男の頭に突き付けてきた。

 

「こ、降参するよっ」

 

 とっさに慈悲を求めて声を上げたのは褒められる態度であったろうが。

 相手は非情にも、まったく気にすることなく――。

 

 

▲▲▲▲▲▲▲▲

 

 

 エドとジェイクが、彼らの感性で言わしてもらえば”決して男らしからぬ”車に乗って倉庫に乗り入れると。しばしポカンと、大口を開けることになる。

 いまやどこもペギーの王国となってしまったこのカウンティ―ホープで。まっとうな住人たちが、倉庫に転がるペギー達の死体を陽気な笑顔で片付けている。

 

「なにこれ?俺ら、クスリでもキメてハイになってる?」

「馬鹿野郎、寝ぼけるんじゃねーよ」

「でも――こんなこと、ありえないんじゃね?」

 

 だが事実だ。そしてそれをやったと思われる本人が、いつの間にか犬を従えて2人の元まで近寄ってきた。

 

「――合図はちゃんとわかったみたいだね」

「もうバッチシ、保安官」

「注文の品、届けに来たぜ。一応、銃弾で穴は開いてない」

「だな、ひっかき傷についちゃ。不可抗力だっったってことで」

 

 ジェシカは珍しく笑みを浮かべてそれに応じる。

 

「まァ、いいわ。私じゃここまで持ってくることはできなかったわけだしね」

「で、その間に一仕事終えたってわけ?」

「――ええ、そうなるわね」

「うひひ、マジでイカシてるな。それ」

「でもこのままでは、意味がなくなる。ここにいるペギーが排除されたと相手に気づかれてしまうわ。その前に、次の手を打っておかないと」

「それなら、すぐにやろうぜ」

「俺たちにご命令を、保安官殿」

 

 まるで今夜はバーで飲まないか、くらいの気軽さで。声をかけてくる若者たちに、ジェシカは戸惑いを覚える。

 確かに、ここに来て2週間と少し。それも日常に追われて、この場所の土地勘など自分にどれほどあるのか、わかったものではないが。敵はそうではないし、やはり人手があったほうがなにかとやりやすい――。

 

「危険なんだよ?」

「アンタのパーティに参加するって、もう言ったはずだけど」

「いいからさ。次の計画を聞かせてくれよ」

「わかった。それならいうけど――日暮れまでに、フォールズエンドに行って。あそこを奪還する」

「今からか!?もう昼過ぎで、ここから先にもペギーはたっぷりいるっていうのに?」

「うーむ、それはさすがに厳しい」

「だから2人の知恵が欲しい。どうやったら、この3人でそこまで近づくことができるのか」

「俺達だけ?ここの連中は、保安官?」

 

 私は首を横に振って否定する。

 この倉庫で囚われ、解放した人たちを連れていくことはできない。

 

「駄目よ。大勢で動けば気づかれるし。ここは取り返したばかりだもの、守ってもらわないと」

「なるほどな――」

 

 すでに時計は午後2時を回っている。今から日暮れまでの数時間、それで距離を稼ぎ。攻撃も成功させなくてはいけない。

 

「俺らに町を取り返すなんてこと、残り数時間で出来るのかよ?」

「馬鹿っ、俺らが戦争なんてわかるわけがないだろう。保安官が言ってるのは、俺らでフォールズエンドまでペギーに知られないように近づくこと、だよな?保安官」

「そう、それもできるだけ早くに。強行突破ではなくて、静かに日のあるうちにそうできると最高だね」

「うわァー」

 

 やはり、難しいのか?

 歩きであっても、うまくいけば夜にはフォールズエンドにたどり着けると思う。なにかあっても、明日の朝までには到着できる。

 しかし、それではレイレイの農園とこの倉庫の異変が相手に知られ。攻撃もされるだろうし、私の動きも知られてダッチのところまで手が伸びていくかもしれない。それだけは避けたかった。

 

 本当はもっと時間の余裕があれば、ダッチから聞かされた元軍人というグレースらにも接触を持ちたかったが。これ以上の戦力の増強は、期待することはできない――。

 

 私は私の車の窓枠に寄りかかりながら、車内で何か方法はないかと首をひねる彼らに再び声をかける。

 

「どう?なにかないかしら?」

「うーん、うーん」

「無理そうなら。仕方ないわね、私がひとりで歩いていくしかないけど」

「……あっ、なんか思いついちゃったかも」

「えっ?マジか、なんでお前冴えてるんだよ。俺が何も考えてないみたいになっちゃうだろっ」

「知るかよ、間抜け。へへへ、名案を思い付いた。保安官」

 

 どこまでも軽い彼らだが、それが本当に名案であればいいのだが。

 

「それなら――出てきて、それを見せてもらおうかな。楽しみよ」

 

 名案が披露されると、私はあきれて言葉を失ったが。エドとジェイクはまた楽しいおしゃべりを再開させた。

 

「お前、バカだろう?」

「なんだよ。名案だろ?」

「いや、バカだよ。大馬鹿、なに考えたらそんな馬鹿なことを思いつくんだ?」

「今日の俺は冴えてるんだよ!お前だってそういっただろ?」

「いや、勘違いだった。お前、バカ」

「お前こそどうなんだよ、ウスノロ。なにか思いついたか?俺はもう、保安官に――ああ、保安官?」

 

 私は彼らの会話には参加せずに、車の後部に回って荷物をあさっている。

 手にするのは長方体のケース。中から取り出したのは、骨とう品と呼ぶにふさわしいウィンチェスター銃だ。叔父が残してくれた家に放置されていた、ハンティング用のものだと思われたが。最低限の手を入れて、使えるようにはしておいてあった。

 

「あんたのライフルかい?保安官」

「西部劇だ!ウォウ、ウォー……」

「それ、やめろって」

「やっぱり真昼の決闘よね?クリントみたいなヒーローがいたら、私も保安官の権利で。ベットルームまでついてくるように命じるわ」

「ワイルドだね、保安官」

「それって『バンディダス』みたいなやつか?」

「え?」

「馬鹿、それは女盗賊の西部劇だろ。保安官は保安官さ――セクシーでゴージャスな方の」

「それってどんなのだ?」

「好きに想像してて、子供達」

 

 声だけ明るく軽口をたたきつつも、ライフル弾を装填させ。構えては古びたウィンチェスターには不似合いな光学スコープをのぞき込む。

 とりあえず一度、ハンティングでウサギと鹿を相手に試し撃ちは終えているものの。まさかこいつで人狩りをすることになるとは、本気で考えてはいなかった。

 

「どうだい?」

「準備はできてる――それじゃ、さっそく2人とも。作戦を確認するわね」

 

 倉庫から車道まで出ていくと、そこでエドは再び名案を最初から繰り返した。

 

「この車道な。こいつはこのままずっと南下して進むと、そのままフォールズエンドまで続いている。つまり一直線ってことだ」

「それなら速い」

「そう!だから、最短で近づくというならここを使うのが一番」

「だけど、ペギーはそこかしこで検問敷いてるぞ?見つかりまくるし、騒がれないわけがねぇ」

「ならペギーの振りをすればいい。実に簡単な話だろ?」

 

 ジェイクのほうは鼻を鳴らす。

 

「だけどよ。コスプレしてんのバレたら終わりだぜ?ペギーは今も保安官を探してるって、ダッチの爺さんも言ってたろ?危険だ」

「だから気合を入れて奴らに化けないといけない――。

 今、車道を大っぴらに使ってるのはペギーだけだ。あいつらここを使って、あちこちに人や物資を運びこんでる。うまく演じれば、検問でもそれほど調べられたりはしないはずだ」

「でもなァ」

「俺の考えはこう。物資を運ぶコンテナごとトラックをいただく。もちろん運転手のペギーの服も込みでな。

 コンテナの中の物資は倉庫に引き取ってもらって、かわりに保安官の車をそこにぶち込む。2人はそれに乗ってもらう」

「ブッ、運転席は棺桶も同じじゃねーか」

「嫌、それならペギーにバレたとしても。ハッチを開けるアイツらにつかまらずにそのまま車で逃走すればいい。それで2人は助かることができる」

「……頭おかしーぞ、お前」

 

 エドは考えた自分が運転手を引き受けるとすでに表明していた。

 死ぬならまず、自分が最初――。バカみたいな計画だが、しかし本気であることは十二分につたわっている。

 車道わきで片膝をつく私の隣に、ブーマーは区たりと体を寝そべってこちらを見続けている。どうやらこの短時間の間で、こちらを自分のボスだと考えてくれているのだと、私は理解した。

 彼の頭を人名でしながらも、白昼の車道を走るトラックがこちらに向かってくるのを私は確認していた。

 

 立ち上がって、はっきりと宣言する。

 

「状況をひっくり返さないといけないのよ。たとえ無茶であっても、それが大きな得るものであるなら。覚悟を決めないとね」

 

 スコープを覗き込みながら、同時に口の中で「1秒、2秒、3秒」とカウントしていく。

 3発を発射して、14秒。

 良くはないが、結果はそれほど悪くもなかったようだ。

 

 自分たちの隣を徐々に失速しながら進むコンテナトラックは。しばらくすると停止し。

 駆け寄った若者2人がそこに見たのは、運転席に座ったまま体と頭部に一発ずつ銃弾を受けたペギーがひとり。そこで絶命していた。

 

 

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 

 

 山間部を貫く車道を走る一台のコンテナトラックは、道を遮る検問所を2つ、3つ通り過ぎると。

 フォールズエンドへとつながる十字路を通り過ぎたあたりで、不自然なほど速度を落とし。徐行運転へと移行していく。最終的には路肩に車を止めると降りてきて、周囲に何もないことを確認した。

 

 そして顔に施されたメイクを服の袖で拭いつつも、コンテナの扉を開くように装置を動かした。

 中からは予定通り、膝の上にブーマーを置いたジェシカらが乗っていて。無事にひどい計画は最高の結果となったことを喜び合った。

 

 とはいえ、これはまだ道の半ばである――。

 

「良くないわね」

 

 言いながらフォールズエンドを双眼鏡でのぞいたジェシカは、若者たちにもそれで確認する世にジェスチャーしつつ渡す。

 

「町の人たちは通りに出されて、膝をつかされているわ」

「まさか、処刑!?」

「違うでしょうね。たぶん、何かを探している」

「まだ食い物が残ってないか、調べてるってことか?」

「もしくは私ね。匿っているのがいないか、確かめているんでしょうよ」

 

 ここから見る限りペギーは4人、だがもう数人はいるはずだ。

 

「保安官、どうする?」

「――あなた達、あそこに並ぶ家の屋根。気づかれずに登れると思う?」

「へっ、ここらのガキは皆。文字を学ぶ前に、まずは屋根の上に立ってしかられるもんさ。余裕だよ」

「まかせてくれ、保安官」

「そう。なら、道に沿って右沿いの家の屋根に。別れて待機していて」

「あんたは?」

「道の左側を犬とお散歩するのよ、当然でしょ」

「撃ったらだめなのか?」

 

 2人にはペギーから奪ったARライフルを渡していた。

 

「町の人を傷つけないためにも、一気にあいつらを殲滅しないといけない。ええ、そうよ。急ぐのはダメ」

「――ほらな、早いと女に嫌われる」

「馬鹿いってんな、アホ」

「2人は最後の突撃要員よ。私は町の反対側から減らしていく」

「また、全部食っちまいました。なんてことにはならないよな、保安官」

「そんな映画みたいにうまくいくならいいわね。ファンには後でサインをかいてあげるわ」

 

 そう返すと、2人の尻を続けてポンと叩いて合図する。

 エドとジェイクは並んで草むらに分け入りながら、最後の馬鹿話を交わした。

 

「カッコいいな、女保安官。俺、惚れちゃいそう」

「言ってろよ。どうせ相手にもされないさ」

「なんだよ、わかんないだろ」

 

 最悪な状況は今も全く変わっていないが。

 それでもこのカウンティ―ホープにはまだ希望があるように思える。なぜって、あの守護天使がいれば。ペギーのクソッタレな神なんて恐れることはないのだから。

 

 

 それからしばらくして太陽が姿を隠した夜のフォールズエンドは。

 ようやく銃声と争いの音は去り、代わりに家の明かりと共に人々の喜びの声がそこかしこから湧き上がっていた――。

 

 

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 

 

「なんだと?」

 

 髭があってもなお、童顔の面影が残るジョン・シードの顔は茫然としたように見えた。

 だが彼に報告するペギーは生きた心地はしない。

 

 シード家のこどもたちがエキセントリックなふるまいを見せることは知られている。

 感情は秋空の雨雲のようにコロコロと表情を変え。いつ、なにが目の前に現れるのか理解できることはない。

 

「もういちど、報告してもらえないか?なにが、どうしたって?」

「……はい。フォールズエンドが、反旗を――」

 

 いきなりジョンはそばにあった机にとりつくと、唸り声と共にそれを派手にひっくり返して見せた。

 湧き上がる怒りを抑えることができないでいるのだ。

 

「そうか――フォールズエンド。あそこは確かクソッタレの神父と、飲み屋のアバズレがのこっていたんだったな?あいつらなのか?」

「――いえ、違うようです」

「違う?どういうことかな」

「まだはっきりとしたことはわかりませんが。どうやら……」

「なんだ?報告は素早くしろ」

「はい。その――どうも逃げていたと思われた最後の保安官が。仲間を引き連れて、現れたと」

「保安官?新人とか言われていた、女?」

「そのようで――」

 

 最後の言葉を口にする前に、信者はそれを飲み込んだ。

 一瞬だが、ジョンが自分に襲い掛かってくるんじゃないかと思い。恐怖を感じたからだ。

 しかし、そんなことにはならなかった。

 

「無線。無線だ」

「はっ?」

「無線を用意しろ。フォールズエンドの住人たちに、メッセージを送りたい」

「奪還するための部隊を送り込まないのですか?」

「無線、わかったな?」

「わかりました……」

 

 部下に言われるまでもなく、ジョンの心は怒りと憎悪の炎で燃え上がっていた。

 当然、すぐにだって反乱の目を叩き潰すべく。信者を送り込んで、今度こそ徹底的にやってやらねばと思いはする。

 だが――それはできないのだ。

 

 すべては神の、ファーザーであるジョセフの言葉。

 そしてこの騒ぎにあの夜に見た保安官が関わっているというなら――むしろそれは、僥倖というべきなのだろう。それを今は自分に言い聞かせて、理解させなくてはならない。

 

 エデンの門へと、たどり着くために。

 

 

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 

 

 『乾杯!』

 

 さっそく再開の準備を始めるスプレッドイーグルのカウンターで、オーナーのメアリー・メイ・フェアグレイブ、そしてジェローム神父と共に私はビール瓶をあおる。輝かしい勝利の美酒というわけだ。

 かなり、パンチのきいた味が体の隅々まで染みていく。

 

 深夜23時と15分。

 私にとって人生で2番目に最悪の一日はようやく穏やかに終わりを迎えてくれそうだった。

 なんどか危険な目にもあったが、思うに最悪の日は正気ではないまま終わったのだから。これはそれにくらべれば、随分と救いもあるし、悪くない。

 

「さて、喜んでばかりもいられないだろう。保安官」

「そうよね。あんたには感謝してもしきれないけど。まだ安心はできない」

 

 私は2人の意見に黙ってうなずく。

 

「明日からのこと。なによりも、当面の計画について話しておかないと」

「派手に大暴れして、飛行機まで墜落させてしまった。エデンズゲートは、ここを奪われたことを当然知っている」

「保安官もいるし。当然だけど、ここをレジスタンスの拠点として使ってくれてかまわないよ」

「威勢が良いのは構わないが。そうなると警備も必要になるだろう。彼らの攻撃に対処できるような」

「連れてきた2人を使って。彼らなら役に立つ」

 

 エドとジェイクは、ちょうど家々を回っていて。それが終わればここにも戻ってくることになっている。

 私はといえば、もう正直今日は動きたくない。

 

「だが問題は、山積み」

「どんな?」

「まずは食料でしょうね。ほとんど持っていかれたし、うちの料理人が腕が良いと言っても限界があるわ」

「それについてだが。このあたりなら鹿や魚がある。いきなり飢えて動けなくなるということはないだろう」

「それでも、それだけじゃ――」

「そうだな」

 

 エデンズゲートは回収などとのたまい、略奪を繰り返している。

 持って行ったものは返してもらわなければならないが。とりあえずは後回しでいいだろう。

 

「ほかには?」

「無線機の問題だろうな。ダッチと連絡を密に取りたいが、破壊された無線機の修理はできても。それだけだ」

「近くに電波塔があるじゃない。あれ、使えない?」

「そんなものが?」

「ある。だがペギーはそこにも人をやっているし、どうすればいいのかは技術者の知恵も必要だな。うん、これについても要検討といったところか」

「保安官からは、なにかあるか?」

「そうね。じつは――」

 

 ダッチから聞いた、この方面から聞いた弱い電波についての情報を求めた。

 

「確かに教会なら、グレース・アームストロングで間違いないだろう。そこは彼女の家族が眠る墓があったはずだ」

「彼女はレジスタンスに参加してくれると思う?」

「大丈夫だろう。彼女もペギーにはさんざん悩まされていた。こんなことになって、さすがに激怒しているだろう」

「あたしはこっちの、助けを求めているよくわからない奴に心当たりがあるわ」

「本当か?」

「ええ、これって多分。ニックだと思うの」

「ニック?ニック・ライか、ライ&サンズ航空の」

「でも助けを求めていたっっていうのが気になるわ。たしか彼の奥さん、そろそろ出産が近いって話で――」

「……まずいな」

 

 泣き叫ぶ妊婦にとびかかっていく信者たちの姿が容易に想像できてしまい、暗い空気が流れる。

 奴らはすでにブーマーの家族だった親子を容赦なく殺している。

 

「とりあえず明日は、ブーマーを連れてグレースって人に会いに行こうと思う」

「ニックはどうするんだ、保安官?」

「……悪いけど、こっちも余裕はない。会いに行くとしても順番があるわ」

「そうだな。全てを助けることはできない」

 

 店の中の片隅では、丸まったブーマーがすでにウトウトと眠っている。

 私も若者たちが戻ったらすぐに横になろう。

 

 ジョン・シードはメッセージを送ってきた。

 こちらのことを、私のことを知っていると。

 あれはきっと宣戦布告のつもりなのだろう。こちらはまだまだ弱く、希望の灯ははかないが。決してこのままあいつらなんかに吹き消されるわけにはいかないのだ。




(設定・人物紹介)
・ジョン・シード
ジョセフを父とする一家の次男坊。当然だが血のつながりはない。
牧場や農地が広がるホランドバレーで指揮をとっている。


・スプレッドイーグル
フォールズエンドの酒場。ここに来るとだいたいこの店に訳もなく入りたくなる。


・ジェローム神父
てっきり某侯爵様の名前が脳裏をよぎる名前。
エデン図・ゲートの暴走を許し、好き勝手にさせてしまったと後悔しているらしい。その反動なのだろうか、リボルバーを片手にたびたびハジケル姿を目にする。事件のせいだと思いたいが、まるでどこかの警官並みに引き金が軽くなってしまったようだ。


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