手には弓を 頭には冠を   作:鷹雪
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DEATHの章
すれ違い


 バギーが車列が停止すると、ジェイコブ・シードに続いて彼の兵士たちがおりてくる。

 ホープカウンティの電波を遮る要所としてこのホワイトテイル・マウンテンの電波塔は厳重に守られていた。

 実際、消えていったレジスタンスの中にはやぶれかぶれになってここに総攻撃を仕掛けて散っていったこともあった。そだが電波塔の守備隊と巡回の機動部隊はそんなことを許しはしなかった――。

 

「ジェイコブ?」

「散会しろ、偵察の話が本当なら人はいないはずだ。

 それを確認したら状況の確認、急げ。長居はしたくないんでな」

「――わかりました。おい!始めるぞ」

 

 もっとも手薄な電波塔への攻撃からわずかに数時間。

 ジェイコブの兵たちはその間、翻弄され、相手の姿を確認することも出来ないまま。襲撃を許してしまう。

 

「やはり誰も残っていません、ここは無人です」

「そうか。奴はどうだ?手掛かりは?」

「特にはなにも。ですが――」

「なんだ?」

「ブラウンの奴がぶち殺されてました。どうも、拷問か何かをされたみたいで縛られてます」

「――知ってたんだな。イーライの入れ知恵か」

 

 ”ジャンキー”・ブラウンはこの電波塔を妨害装置に作り替えた。

 なのでなにかの面倒が起こらないようにと守備隊に入れておいたのだが。ホワイトテイル自警団はここの無力化の方法について計画を持っていたのだろう。ただ、それをこれまでは実行できる兵士がいなかったというだけか。

 

「装置は破壊されてすぐには元には戻せそうにないと」

「……この渓谷を数時間で移動しひとりで戦えるものなのか?」

「わかりません、ジェイコブ」

 

 あの女はこれほど危険な存在であったのか?

 

 背筋に冷たいものが流れた――自分は狼を、人の姿をした神狼を放ったはずではなかったか。

 だがその牙は依然と変わらぬ用心深さに加えて圧倒的な破滅を振りまいて見せた。「私の言葉を信じるのだ」、記憶の中のジョンがジェイコブに語る。

 自分は間違っていない。彼の言葉を疑ってはいない――だが、2週間の尋問に耐えた女に与える神の任務とはひとつしかないではないか。

 

――不安?おれは怯えている?まさか、まだ計画は始まったばかりだぞ!

 

 次にあの有名なダヴィンチの描いた「最後の晩餐」の構図と、ヨハネによる福音書の一節を思い出す。

 あの絵には裏切り者が12人の弟子として描かれていた。あの書には裏切り者について知っていたと残されている。

 

――俺はユダではない、奴にはならない

――俺はジョンの言葉を信じ。あの女にエデンの園へと導く道を歩かせているだけだ。疑ったわけではない。

 

「えっ、ジェイコブ?」

「いや、なんでもない。引き上げる前に持ち出せるものは積んでいく。俺がブラウンを見に行く間に済ませろ」

「わかりました」

 

 部下が忙しく物資をかき集める中を進み、ジェイコブは車庫の中へと入っていく。

 見ればわかる。

 襲撃のスピードに恐怖し、せめて技術者だけでも守ろうと数人がそこへブラウンを引きずり込んで迎え撃とうとした。相手の牙はそれでも容赦なく、すべてをなぎ倒し。そして哀れなブラウンは最後にして最悪の瞬間を股間を濡らしながら迎えたようだ。

 

 

 たしかに拷問されたようだ。

 手足ばかりか、両目をつぶされて目隠しをするように有刺鉄線がまかれている。

 あの女からの凄まじい怒りと報復を告げるメッセージか?

 

「――ご苦労だったな、ブラウン」

 

 いきなりジェイコブはそういうと、表情のなかった顔が破顔する。

 動かないブラウンの服の棟ポケットに指を突っ込み、そこからライターを取り出した。”祝福”狂いだったブラウンは酒もたばこも嫌っていた。多幸感がうすれるとかなんとか言っていた。

 

 ライターにはオイルは入っていなかったが、一枚の折りたたまれた紙が――。

 

 

――――――――――

 

 

 

 メリルに叩き込まれた技術の中には、当然エアボーンに関するものもあった。

 別に得意になりなさいと入ってないわ、新兵。空輸にあまりいい思い出のない私の強がりにメリルはそう言ってからかっていた――。

 

 山肌を2時間かけて進み、最初の電波塔へ。

 ホワイトテイル自警団はこれらの防衛体制をかなり把握していたが、殺到してくるジェイコブの機動部隊の対処が難しいことからイーライは攻撃をあきらめる、としていた。

 最初ジェシカもその話を聞いた時、頭の片隅にグレースら友人たちの力を借りようかと少し考えてしまったが。それは甘えだと、すぐに頭の中から追い出す。

 

――ルートはある、いくらだって作れる

 

 そして見つけた。

 一本の空にある道。

 

 ウィングスーツで飛べば、世界が自分の下を滑り落ちていく。

 重力から解放された感覚が自分を惑わせようとするが、それはさせてはならない。

 地上からわずかに4メートルほどの高さ、木々のてっぺんからみたらほんの数十センチ。風に乗りながら顔を上げた先にはイメージ通り、そこにあるべきゴールの岩肌が見えてくる。

 

 くるり。

 

 

 飛ぶのをやめ、膝を抱えて丸々とそれまであった浮力が消える。次の瞬間には大きく手足を広げてはばたくようにすると、風の壁にぶつかってスピードがわずかに落ちる。パラシュートの紐を引いた――。

 

 

『……だがそれは誤りだ。選ばれなかった者、それを受け入れない者たちはただの子供でしかない。彼らの哀れな歓喜の声が山のどこかからこだまして聞こえた。

 ホワイトテイル自警団は兵士ではない。イーライは兵士ではない、ただの詐欺師だ。そしてただの臆病者だ。

 彼らは彼のいう脅威とやらに怯えているが。それが変わる日は来ない。

 強者にはなれない、弱者のままだ。狩られる側なのだ……』

 

 ラジオから聞こえてくるジェイコブの怒りの言葉が入ってくる。

 バンカー内ではこの攻撃の成功に沸き立ち、何を言ってやがるんだと笑っていた。

 

 私はなぜか心が空っぽになってしまっている。

 あの瞬間には満たされていたはずなのに、何も今は感じることができない。

 

「保安官、よくやってくれたな」

「イーライ」

「あのタミーもついに「仲良くなれるかも」って言いだしたぞ。久しぶりに笑わせてもらったよ」

「どうかしら。そんなに素直に自分の意見を変える女性には見えないわ」

「それは――正しいかも。でも自分の言葉には責任をとれる奴だ。あんたもそれを知って、信じてほしい」

「わかった」

 

 イーライはうなずいて離れようとして、戻ってきた。

 

「ウィーティーから少し話を聞いているかもしれないが。俺たちは今、大規模な反攻作戦を計画しているんだ」

「そうなの――」

「あらかじめ言っておくが、そいつにはあんたを加えるつもりはない。気に入らないか?」

「気を使わなくてもいいのよ。ここでの自分の立場はちゃんと理解しているつもり」

「すまないな、保安官」

「それよりもその計画とやらをペラペラ私にしゃべる前に、退散したら?でないとこっちが先に攻撃仕掛けようっていたずらを考えてしまいそう」

「はっはっは、そりゃ本気のようだ。確かにそれだと楽だが――俺たちの出番を奪われたくはないな」

 

 イーライは笑って再び立ち去る――。

 

 私にはもうわかってしまっていた。

 イーライの言う反攻作戦は事実上の最後の作戦になるかもしれないということを。

 

 ホワイトテイル自警団はこれまで良く耐え、厳しいサバイバルの中を生き抜いてきた。

 弱さを見せず、感情に流されず。だがいつの日か、ペギーのこの悪夢を終わらせる一撃を繰り出さんと必死にやってきたのだ。

 

 だが限界が近い。

 ジェシカに渡す武器すら困窮し、全貌は明かされてはいないが。バンカー内の空気には迫る破滅への不安におびえるものが混じってしまっている。

 勝てないアメリカ軍では嗅ぎなれてしまう匂いだ――。

 

 そしてこういう時、戦況を一変させる方法はひとつしかない。

 

――暗殺よ

 

 ええ、わかってる。

 この手に握る刃が、あの男の首にまで届くだろうか?

 

 

――――――――

 

 

 ホランドバレーにはラリー研究所を自称する研究者がいた。

 彼はエデンズ・ゲートの騒ぎの初期から、まったく外科医の騒ぎに興味を持たず。ジョンの部下たちに襲われたときは、神父の助けを得て。結局また自分の家へ――研究所に戻ってきていた。

 

 彼は科学にすべてをささげた人なので、ジョンの言うような神には全く興味はなかったが。

 ホランドバレーの惨状を見て彼なりになんだか危機感をつのらせてしまったようだ。

 

 その日から没頭し続け、あろうことか非合法の薬を使って覚醒し続けた結果。彼が名付けたダイナミック・レーザーコンデンサーを完成させる。

 当然だがホランドバレーは彼のこの偉業を知りもしなかったし。そもそも彼は変人で、自分で言っているような天才ではないと思われていたので誰も気にしていなかった。

 

 これが彼の暴走をだれも止めない理由となる。

 ある日、コンデンサーに必要となる電気量を発電所から盗む計画を実行し。ホランドバレーは停電によって麻痺した。

 

 レジスタンスが出動し、ようやく何が起きたか理解するのだが。

 ラリー研究所には署長のラリーパーマーの姿はどこにもなく。それ以降、彼の姿を見た者はいない――そして皆、やっぱり彼のことは忘れた。今は変人の無事なんて気にしていられる状況ではないのだ。

 

 

 グレースが久しぶりにホランドバレーまで戻ってきたことには理由がある。

 ジェシカのレジスタンスに生まれた不和をいい加減何とかしたいが。皆が言うように自分がそれをできるとは思えなかったので、それに代わる代案をようやく思いつけたから。

 

(ニック、ニック・ライならどうだろうか?)

 

 就寝時間、体を横たえた瞬間に飛び出してきた名前が名案と思って思わず声を上げてしまい。部屋にシャーキーの突入を許してしまったが――。

 

 ニックの家は本人も自慢していたが、ホープカウンティの生まれるころからこの土地に移り住んできた一族だ。まだ年齢は若い方だが、彼の言葉ならいくらドラブマンであっても無視することは出来ないはず。

 しかも彼は性格のよい男で知られ、胆力もある。

 今は娘が生まれたばかりだし、手掛かりはないし燃料も無駄にしたくないからとジェシカの捜索からは離れてもらっていたが。協力を頼めば力になってくれるかもしれない。

 

 

 久しぶりのフォールズエンドはもうすっかり昔のあの頃に戻っているように見えた。

 グレースはそれを複雑な思いで見つめながら、スプレッドイーグルのドアをくぐった。

 

「グレース?ちょっと、グレースじゃない!?」

「ひさしぶりね、メアリー」

「こっちきて顔を見せてよ。あとハグも」

「なによ、ふふ。半月もたってないわよ」

 

 笑いながら店主のメアリーと抱き合う。

 

「あっちの様子はどうなの?」

「ジェイコブは厄介ね。傷口に手を突っ込んでもっと開かせたいとこっちが思っても、主要な道路をしっかりと押さえているから難しいわ。それに――」

「ええ、そっちはわかる。男どものことでしょ」

「あとは――」

「ドラヴマンと元、ドラヴマン夫人ね。ええ、あれも困ったものよね」

「今日はそれを解決したくてね。知恵を借りに来たの」

 

 メアリーの眉間にしわが寄る。

 すでに「こっちになんとかしろといわれても無理よ」と表情が訴えてきているが、そ知らぬふりで話を切り出していく。こんな時、口下手な自分は勢いが必要だからためらわなくていいのがいい。

 相手のことなんて気にしていたら黙ってしまうのだから――。

 

「ニック・ライにでてきてもらったらどうだろうと考えたの。どう思う?」

「ニック?彼が何で?」

「ライ家はここの古くからの馴染みだし。彼はドラブマンよりも若いけどしっかりしている。

 ちょうど子供が生まれたこともあって今は下がってもらってるけど、彼なら――」

「うーん」

「……自分ではいいアイデアだと思ったのだけれど。どうかしら?」

 

 メアリーの反応が思ったよりも悪かったことにグレースは焦りを感じるが。話してしまった以上はこのまま推し進めなければならない。

 

「いえ、悪くはないと思うわ」

「本当に?よかった、あなた暗い顔するから反対されるんじゃないかって……」

「でもニックからは返事はもらえないわよ」

「――考えてもらえないってこと?」

「ああ、ええと。そういう意味じゃないのよ。えっとね、ちょっとした問題があってね」

 

 込み入った事情があるのよ、メアリーの言葉はトラブルをにおわせていた。

 

 

 最近に起きたホランドバレーの停電と、その原因を作ったラリー研究所の所長の行方不明まで聞かされるとグレースはそこでメアリー言葉を遮った。電気泥棒で迷惑かけた変人の話が、ラリーと一体どんな関係にあるというのか?

 

「ああ、そうね。でもこれを説明しないと――」

「メアリー。わかったわよ、それで停電ね。わかった、それでニックは?」

「だからこの後の話で彼のことにつながるの」

「はぁ……わかったわ、続けて」

 

 カウンターに身を乗り出し、地ビールに手を伸ばして勝手にふたを開ける。長話と言うのはどうにも苦手だ。

 素面じゃとても聞いてられない。

 

「こんなふざけた規模で電気泥棒した理由は何だって話になったの。で、どうせ変人は逃げてるんだろうって」

「うんうん」

「だからニックの力も借りようとして、彼の家に神父たちが相談に行ったのよ」

「ようやく本題ね。それで?」

「誰もいなかったのよ。ニックの家族、全員」

「???」

「彼らも行方不明になっちゃったの」

「子供、娘は?まだ生まれたばかりでしょ!?」

「だからいなかったのよ。てっきりどこか安全な場所に移動したのかも、っていうけど。彼の大切なカタリナは滑走路に置かれたままだって。

 しかもすぐに飛び出せるようにした状態にしてあったっていうの」

「そ、それって緊急事態じゃない!」

 

 まさかの展開に驚きと困惑でおかしくなりそうだ。

 

「そうよ!だから時間を作って今、探し回ってるわよ」

「犬、そうよ。ジェシカのブーマーがいるでしょ?」

 

 メアリーはため息をつく。

 

「いないわ。まるで時間を合わせたみたいにうちの家の前でのんびりしていたのに、停電の火から姿を消してしまったわ。トンプソン保安官助手が探し回ってるけど、以前のパンプキン農園にも戻ってなかったって」

「嘘でしょ――」

 

 文字通り、グレースはショックのあまり頭を抱えてカウンターに突っ伏した。

 

「まさかそんなことになってるなんて、大事件じゃないの。メアリー」

「事件性がないから大事にできないってね。でも、その通りよ」

「うゥ」

「どうする?このあとでニックの家を見に行ってみる?争った跡もないし、事件性もないって保安官も判断したけど。あなたから見たら何かあるかもよ」

 

 予定が見事に打ち砕かれてしまい。このままではただホワイトテイル・マウンテンへと頭を垂れて帰るだけになる。

 グレースはうなり声をあげつつも一本を飲み干してから立ち上がった――。

 

 ライ&サンズ航空は聞かされた通り無人だった。

 新しい家族を迎えたばかりの、そして幸せだった家族の生活がそこから感じられるだけで。特に不自然なものは見当たらない。

 

(ニック、どうしたっていうの?トラブルではなく無事でいてくれればいいのだけれど)

 

 続いてブーマーの前の主人が暮らしていたパンプキン農園に向かった。

 流れたちの後は洗い流されてはいたが。ドアが外され、窓もないその家からは幸せな時間がすでに過去のモノであったことを伝え。ペギーの蛮行にグレースの心に熱い怒りを改めて抱かせる。

 

(ブーマー……)

 

 ジェシカに頼まれ、メアリーに託したあの賢い犬は何を考えたのだろうか?

 今も無事かわからぬジェシカのみを察知し、自分が何とかしようと飛び出して行ってしまったのだろうか?

 

 久しぶりのホランドバレーへの帰還はこうして大失敗に終わってしまったが、グレースの心には思った以上に重いものを抱えて前線に戻る羽目になってしまった。




(設定・人物紹介)
・ニック・ライ
DLC「ロスト・オン・マーズ」は発表当初、内容が不明のままにされていた。
筆者も当然それがなにかはわかってなかったが、面白ネタとしてニック一家、火星で覆バレのエピソードを作った。そして書き上げた後、ようやくUBIは内容を公表したのだった。

当初の予定では火星人に子供と離れ離れにされ。人面犬にされてしまった妻と一緒に生首にされたラリー博も加わり大暴れするニックのラリッたエピソードがここで入る予定だった。

映画マーズアタックのリスペクトのつもりだったけど・・・残念。


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