手には弓を 頭には冠を   作:鷹雪
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いよいよラストスパートに向け動き始めるレジスタンス……。
次回投稿は未定のまま。


岬へむかへ

『我々は今、共に皆で試練にさらされている――ジョンは倒れた。フェイスも倒れた。そしてそれは今、俺達にすべてが向かってきている。

 彼らはこの国の愚かな政治屋共の言葉を信じないとうそぶきながら、ジョンの言葉を。神の言葉も信じないという。

 

 では聞こうじゃないか。

 お前たちは何を信じているのか、と。

 

 我々皆が信じられるはずだ。我らは神の子、かつてはそれこそが世界を知る最初の一歩であったはずなのだ!』

 

 状況が膠着を始めると流れる空気が弛緩してしまう。

 身動きが取れなくなるだけで、簡単に困難な目標をあきらめる。厭戦気分が麻薬のように広がり始めると、それを肉体からしゃぶりつくそうと薬物に溺れる者たちが出てくる。

 

 これが軍だ。アメリカだ。過去にもあって、このままでは未来までもそうなってしまう。

 それを避けるためには強いものが必要だ。欧州ではかつて神に剣を掲げる聖騎士達がいた。彼らは清廉潔白、神に人に愛を持ち、敵に容赦はしなかった――だがそんな彼らを、王達は凌辱し、全滅させてしまった。

 

 我々ならうまくやれる――ジェイコブはその考えをまだ捨てようとは思わない。

 

 停滞と言う苦痛の時をこえ、すぐそこに勝利の栄光が近づいてきている。

 それは彼の願望ではない。これは間違いのない、事実なのだ。

 

「ジョンの言葉を疑うか?俺のやり方を疑うか?

 なら、お前は神の家族ではない。すぐにもここを立ち去るといい、止めはしない。

 

 だが忘れるな!それは神に背を向ける事、エデンの門から目をそらすことだ。

 神の試練は簡単ではない。しかしお前たちの感じる苦痛の時間は終わりを告げる――約束しよう、数日のうちに我々はついにこのホワイトテイル・マウンテンにおけるこの弛緩した状況を、たった一撃で終わらせて見せる」

 

 部屋の中、テーブルに座るのはジェイコブの認めた神の兵が信じ切った眼を自分に向けてきている。

 彼らがジョンの聖騎士となるにはあと少し。ホワイトテイル自警団とやらを壊滅させ、女保安官に神の意志を理解させて跪かせることだ。

 

 戦場ではどんなやり方とて許される、簡単なことだ――。

 

 

―――――――――

 

 

 グレースがセンターを出てホランドバレーに帰った日。

 シャーキーは眉をひそめた。

 

「ホワイトテイル自警団が派手におっぱじめただぁ?」

 

 なんでもリーダのイーライはペギーの通信網をいきなり襲撃し、これをズタズタに引き裂いて見せたらしい。

 それが証拠に以前よりもカウンティホープ全体の通信状態がよくなり。外のニュースや、ホワイトテイル自警団のクソ退屈なDJによる放送が始まったのだとか――。

 

「宣伝か?にしちゃいきなりだな、なにがあった?」

 

 南から来たジェシカのレジスタンスとの合流も連携も断り、独自性を重視していたイーライの虚栄心がそうさせたとは思えないが。にしても、この膠着状態の中でそんな騒ぎを成功させたのはやはりポイントが高い――。

 考え込むシャーキーにジェスが「そんなことより――」といって詰め寄る。イーライが動いたんだからうちも何かやろう、この小娘は簡単にそんなことを又言っている。

 

(ジェシカの一件、こりたんじゃねーのかよ)

 

 繊細さがまるで無縁に思えたハーグが躁鬱の症状を見せ、火薬に手を伸ばした馬鹿をやらかさないようにと監視を彼女から頼まれているのに。自分の抱えた憎悪だけでペギーを殺せるとでも思ってるのか、簡単にぶっ殺しに行こうと口にする小娘はひたすらにウザい。

 頭を冷やせと殴りつけてやりたいが、あいにくとシャーキーはそこまでやりたくない。

 

「小娘ができないことをやりたがるなよ。わかってるだろ?

 ジェイコブの機動部隊がパトロールしていて、知らせがあればすぐに殺到してきちまう」

「全員ぶっ殺してやるよ」

「お前の弓でか?それが出来ればいいが、あいつらはジェイコブが鍛えてるから冗談じゃなくキツイぞ。お前が生き残れたとしても、お前と一緒に言った奴らも生き残れると断言できるのか?」

「じゃ、ひとりでやるよ!」

「お前――勝手に死にたいならそれでいいけどな。

 ジェシカが捕らえられたのは誰が何をやったのか、お前はもう一度頭を冷やして思い出してこい」

「……」

 

 自分は優しい紳士でいられた……と思う。

 本当はのどまでせりあがっていた。「お前のせいでジェシカが囚われたのが、こんな状況になった原因だろう」と。

 

「それよりもお前にはやってもらうことがある。あと何人かもな」

「なんだよ」

「ハークの奴をつけてやるから、ちょっとホワイトテイル自警団の元お仲間のところに行って詳しい話をできるだけ多く聞き出してこい」

「ハーク?使い物になるの、アレ?」

 

 疑惑の横眼がさす先には、神狼の檻の前で背中を向け。猿神を祭る祭壇に無心に祈りをささげているクマのような男。

 怪しげな祈りの言葉にお香の匂いがキクのか神狼たちは落ち着かなくして不安がっている。

 

「バズーカぶっ放せばスカッとして元に戻るかもしれん」

「あんたは来ないの?」

「俺は留守番役を引き受けてる」

「……ようするにアンタさ、やっかいな小娘とウザいクマ男を揃って追い出したいってわけだ」

「それは違うぞ、ジェス。ウザい小娘と厄介な爆弾野郎を揃えて役に立ってみろと言ってるんだ。期待に応えろ、若者よ」

 

 ジェスは鼻で笑う。

 

 

 

 久しぶりに狼とセンターの手伝い以外ができるとハークも喜びついてきたが。

 車ではなくジェスについて自分も山道を歩くと知ると、30分ほど歩いただけで嫌になったのか。途端に以前の調子が彼に戻ってきたようだ。

 

「なぁ、それで誰に会うつもりなんだ?」

「……誰でもいいでしょ」

「そいつはきっとお前のイイ男だよな?久しぶりに会うんじゃないか?気をきかせてオレ――」

「そんなんじゃない。っていうか、そんなのいないよ!」

「なんだよ――どんな学生生活を過ごしてるんだ」

「どんなって、そりゃ。普通だよ」

「普通にセックス?」

「は?馬鹿じゃないの」

「おいおい、そんな調子で大丈夫か?餓鬼は大人になる全てを学校では学ぶものだぞ?」

「勉強をね」

「違う!勉強と、他人との付き合い方とか。異性との色々な”つきあい”方とかだ。それを知らないまま大人になるつもりだったのか?嘆かわしい話だな、アメリカに希望はない」

「そんなのテレビに毒された馬鹿な連中の話でしょ」

「なんだ、ジェス。もしかして落ちこぼれだったんだな、俺やシャーキーの頃は――」

 

 まったくシャーキーの野郎、とんだ大馬鹿野郎をこっちにおしつけにきたものだ。

 あれがこのハークに武器と火薬をしこたま持たせたのも、さっさと騒ぎを起こしてそのなかにほうりこんでしまえということなのだろうか。

 

「それよりあんた……本当にあたしと来るつもりがあるの?」

「なんだ。見られるのは恥ずかしいのか?」

「――真面目に聞いてるんだよ。なんか歩けそうに見えないからさ」

「あ?そうだな。まぁ、大丈夫だと思うぞ。まだ若いし、スタミナは十分だ」

「戻るなら今、ここで決めたら?」

「お前は?」

「あたしは行くよ。どうせ狼の世話や手伝いやらされるだけなんてつまらないし、ひと暴れしてくるつもりよ」

「おっ、なんだ暴れるのか?それなら――そういえばシャーキーの奴やけに爆薬を俺に押し付けてきてたよな。これってつまり、そういうことなのか?」

「どうかな、そういうことかもね」

 

 知ったことか。

 だいだいドラブマンの暴走はあのシャーキーが押さえるしかないんだ。あたしにできることなんてなにもない。

 

「よし!なら俺達でちょっとばかし暴れようぜ。ジェス」

「だからそういってるでしょ」

 

 後ろを向いて歩いていたが、方針が新しく書き換えられたことで前に向き直る。

 あとはもう知ったこっちゃない。ついてこられなきゃ、置いて進むだけだ。ひとりで帰るくらいはできるだろう。

 

 

――――――――――

 

 

 ジェシカはイーライの元に行く。「読んでるって聞いたけど」と話すと、その通りだと彼は言った。

 

「実は俺たちは近く、ようやくジェイコブの奴に一発くらわせようと考えてる」

「そうなの」

「ああ……悪いが保安官。この計画にはあんたは含まれることはない、それを伝えておきたかった」

「……」

「気分を、悪くさせてしまったよな。すまない」

「いえ――いいのよ。そうじゃないわ。

 ただ、またあなたに迷惑をかけたんじゃないかと思って」

「迷惑だって?」

 

 私は「だって」とそこまで言うと口ごもってしまう。

 ここに運ばれた当初、自分がどう見られているのかはもう知ってしまっている。ちょっとばかり暴れたくらいで、いきなり皆に受け入れられたなんて考える方が不思議というものだ。

 

 それよりもまた、私の知らないところでイーライにかばわれたのかもとも負った方が気分が重い。

 

「あんたはもう仲間だ。皆ちゃんとわかってる、あんたもそうだろ?」

「どうかしら――正直わからないわ」

「ジェシカ保安官」

「嘘よ、冗談。ごめんなさい、イーライ。少し調子に乗ってるみたいね、私」

「通信係とならんであの砂嵐に手を焼いてきた俺に言わせてもらえば、それくらいの権利はあんたには当然あるさ。もっとも、そのおかげでウィーティーの退屈なラジオを流す羽目になるとは思わなかったが」

「楽しそうよね、あの子」

「俺の我慢が限界をこえるまでは好きにさせてやるさ。『もうしゃべるな、お前は黙ってレコードを聞かせろ』って怒鳴りつけてやる日が今から楽しみだ」

「理解のない上司で若者は苦労するのね」

「へっ、あのおしゃべりに耐えているだけ俺は優しくて理解がある方だと思うがね」

 

 お互いが向き合ってヒソヒソしながら笑った。

 わざわざ秘密の作戦をあえて漏らすことになっても、私に知らせてくれたのは彼の誠実さを示すものなのだろう。ならば私はそれに素直に受け入れるしかない。

 

「2つ質問があるわ」

「なんだ?」

「ひとつは、その大作戦が終わるまではつまり……私には引っ込んでいろってこと?動くなって?」

「まさか!?そんなことは言わないさ」

「そうなの?」

「まさかもう休暇が必要、そんなことはいわないよな。保安官」

「そうは言ってないわ」

「だが……確かにそうだな。あんたの言う通りだ。困ったな」

「それで2つめ。もしよかったらあなたが私の次の目標を決めてもらえないかしら。それなら、そちらの邪魔はしないと思うの」

「うん――ちょっと考えさせてくれ」

 

 イーライはそう言うと指を顎に当てて考え始めた。

 

「そんな悩むほどのこと?」

「いや、そうじゃなくて……ひとつ、あんたならひょっとしてってやつがあるにはある」

「へぇ」

 

 特に意識はしていなかったはずだが、自然にこぼれた笑みが物騒に見えたようだ。イーライは慌てはじめる。

 

「いや、やってほしいという話じゃないぞ。保安官、そこは危険な場所なんでな。本当は……」

「どこ?」

「俺の話。聞いてるのか?普通なら俺達でも手を出さないような場所って言ってる」

「だからどこ?」

「ハァ――グランド・ビュー・ホテルだ。本当にヤバいところなんだぞ?」

 

 なるほど、そんな場所だから次の攻撃地点にはならないが。残しておきたくもない、と。

 それならば私にぴったりだ。

 

「どうも俺の警告はかえってアンタを煽ってしまったみたいだな。失敗だった――」

「どうして?とても楽しみにしてるのに」

「なぁ、無理そうなら本当に手を引いてくれると約束してくれジェシカ保安官」

「わかった。約束するわ、馬鹿はしないって」

「――俺に後悔させないでくれよ」

「心配しないで、情報を頂戴」

 

 イーライは首を振ると、ホテルについて話し始める。

 

「ジェイコブは騒ぎが始まる前から、そのホテルに興味を持っていた。その理由は今のあそこを見ればわかる……本当にひどい場所だ」

「なにがあるの?」

「あいつらが言うところの捕虜収容所って奴さ」

「そう――」

「実は、あんたはずっとジェイコブの屋敷に捕らわれていたと言っていたよな?」

「そうよ。移動はなかった」

「でも俺達は実のところ、あんたがジェイコブに捕らわれていた時。一定時間、そこに運ばれていたはずだと考えているんだ。理由?簡単さ、ジェイコブの授業を受けたんだろ?あれはホテルで開かれるんだ」

「……本当に?」

 

 それが本当ならば私は何度か車に放り込まれて移動していたことになる。

 だが記憶では私はずっと同じ檻の中に閉じ込められていたはず。

 

「混乱するか?だろうな、だから今までは内緒にしてたんだ。

 あそこにあんたを行かせるつもりもなかったんでな、このまま黙っておきたかったんだが」

「頭の中をひっかきまわされた――そういうことなのね」

「今はもう、思い出さなくちゃならないって過去でもないんだ。そんなクソッタレなことに囚われて、戻ってまた戦っている今のアンタを台無しにはしないでくれ。アンタは俺の希望なんだ」

「それってジェイコブの頭を吹き飛ばすのは俺に譲れって意味?」

「ハハハ、そりゃ。そいつは自分の番だと思ったら、ためらうことなく引き金を引いた方がいいな。そんなチャンスが俺達にあればいいんだが」

「――ジェイコブは出てこない、でしょ?」

「そうだ、保安官。あいつは自分の立場を理解している。だから前線には立たないのさ。離れた場所から状況を見て、命令だけを下す。あいつは俺を臆病者と笑うが、俺に言わせてもらうならあいつは自分のことを言っているようなものさ」

「言い返してはいないみたいね」

「言い返してアイツが古の結党のやり方でこっちの前に立ってくれるなら、やるけどね……無駄だ。あいつは自分の戦場には感情を持ち込まない。だから俺はアイツにいつも手が届かない」

 

 私にもそれは理解できる。

 そしてイーライのこの決戦にかける意気込みの強さも――。

 

「”臆病者”のイーライが決戦に挑むのね」

「これまではずっと耐えてきたんだ。情報を集めて、チャンスをうかがっていた。

 あんたが通信塔をペギーから奪ったことでチャンスが来た」

「……ジェイコブは予想しているかも。不安はない?」

「それもわかってる。だけど手はないんだ、ジョンもフェイスも倒れたが、ジョセフの兵士はジェイコブの奴が作り出しているんだ。あいつをどうにかしないとそのうちに新しいジョンとフェイスが戻ってくるだろう」

「――そうかもしれないわね」

 

 ジョセフの家族は皆、血のつながりはない。

 私の知るフェイスの前にも別のフェイスがいたと聞かされているし、それなら同じことが繰り返されないとは限らない。

 

「ホテルのこと、約束。忘れないでくれよな?」

「わかったわ。大事な勝負の前に、しくじるなってことよね?」

「まぁ、そういうことだよ。だから念を押してる、何度でも」

「わかったわよ、イーライ。ジェイコブの首に手をかけるのはあなたに譲るわ、邪魔はしない」

 

 私は笑い、両手を上げる。

 本当は心の底ではイーライを説得し、レジスタンスとして合同で決戦とやらに挑むべきだと囁くものがあるが。イーライはジェイコブと違って戦場に自分の感情を持ち込んでしまっている――そしてそれを本人も自覚はしている。

 彼は自分のやり方を変えることは出来ないのだろう。これまでじっと耐えてきた、それが理由になってしまったから。

 

(それでジェイコブに勝てると?)

 

 私の中の悪いものの笑い声を耳をふさぐようにして聞かないふりをする。

 イーライはホワイトテイル・マウンテンの英雄だ。彼ならきっとやってくれるはず、私はそう信じることにした。




(設定・人物紹介)
・俺やシャーキーの頃
 彼らの学生時代、ひとりは恋に生き。ひとりは愛に生きた。そして女性たちは2人からできるだけ遠くに離れることで避難は完了した。生まれた空白地帯には、女の体に飢えたヤロー共がなだれ込み混乱が生じた。

 悲しいことに数多くの武勇伝が誕生したが、彼らが自分で思うほど異性とのロマンスはまったくなかった。


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