手には弓を 頭には冠を   作:鷹雪
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HEAT

 地上でどれほどの惨劇が起きようとも、太陽は変わらず時とともに動いている中。

 新たな騒動の種はホープカウンティのはずれにある大トンネルの入り口へと集まろうとしていた。

 

 そこまで続く坂道を乱暴な運転の車列がいくつかみられる。

 気になるのはそこに2台の燃料をたっぷり詰め込んだタンクローリーがあるというところか。

 

 トンネル前までたどり着くと、殺気立った男たちが車から降りてくるなり怒鳴り始めた。

 

「急げ!急げ、もたもたしてると日が暮れちまうぞ!」

「捕虜は引きずり出せ!道に並べて、すぐに準備!」

「神を恐れぬ愚か者たちがこの地上から旅立ったと、ジェイコブは聞きたがっている!他に何がある?わかったらさっさと動け!」

 

 ペギー達――いや、エデンズ・ゲートの男たちはいつになく殺気立っている。

 これまでの道中でも、身動きするだけで車中で暴行を加えていたホワイトテイル自警団の捕虜たちをこれまた乱暴に車中から引きずり出し。道の恥にアルガードれるそばに跪かせて並ばせていく。

 

「ちょっと!殴らないで、彼は足を――」

「やかましい!」

 

 足首を撃ち抜かれて真っすぐ歩けない上、機敏に動けない捕虜でも容赦なく小突き回す男に囚われた女性は思わず声を上げるが、返事は怒りを伴ったこぶしで返され。怯えが彼女の口をふさいでしまう。

 

「貴様ら臆病者がのそのそと這いまわってくれたおかげで、ジェイコブはジョンやフェイスを助けられなかった。

 お前らをここでようやく血祭りにあげられて、俺達もようやく腹の虫がおさまろうってもんだ」

「……俺達が倒れても、レジスタンスはまだいる」

「へへっ、楽しみにしてたぜ。あいつらもすぐにお前らの後を追わせてやるさ」

 

 言うとこれ以上、話すことはないとばかりに銃床でなぐりつけ。倒れるとその襟首をつかんで”親切”にもひきずりあげていく。

 

――ホワイトテイル自警団、壊滅

 

 太陽が沈み、明日の夜明けとともにホープカウンティはそれを知るだろう。

 ジェイコブの勝利。そしてレジスタンスの終わりの始まりだ。

 

 ついにジョセフの”回収”は終局へと突入しようとしている!

 

 

――――――――――

 

 

 イーライの攻撃計画は残る5つの部隊によって、ジェイコブの最重要施設3か所への同時攻撃であった。

 これまでも厳しい消耗戦の中で残してきた戦力全てを絞り出し、これ以上はないというタイミングまで耐えての決行した大勝負であった。

 

 だが、ジェイコブはイーライの上を。先をいっていた。

 

 ジェイコブに負けじとその部下を尋問して集めた情報は時折、偽のものが与えられていた。そして当然だがイーライの部下を捕らえると、その頭の中をひっかきまわして知る限り全てを絞り出してきていた。

 エデンズ・ゲートは焦っていなかった。

 ジェイコブはかなり早い段階からレジスタンスに対して持久戦を選び――イーライの我慢が擦り切れる時をまんじりとせず、隙も見せずに待ち続けていたのだ。

 

 結果をいえば、ホワイトテイル・マウンテンでのレジスタンスはこの時点で敗北を避けることが難しかったのである。

 

 イーライの合図ではじまった攻撃作戦は序盤こそ調子よかったが。

 すでに用意されていたジェイコブの警備網は。計画のひとつにあるカウンターに入っただけで、イーライの仲間たちは動きを止められ、包囲されていってしまった。

 

 こうした事態の急変をイーライがリアルタイムで知ることができたのは、撤退時の予備兵力にと(若者と年寄りの多い)部隊を残していたからだが。それでも次々と降伏していく彼らを救出しろとは命令は出せなかった――。

 

 司令部で肩を落とし、ひしひしと敗北の無慈悲さに震えているしかなかったイーライとタミーであったが。

 今の彼らにはまだ彼女がいた。いてくれたのだ……。

 

 

 

 ジェスとハークがセンターに思ったよりも元気に(?)戻ってくると、レジスタンスの皆は安堵し、その無事を喜んだ。

 グレースは何も言わずにジェスを抱きしめ。シャーキーは顔に青あざを作って――おそらくは2人のことでグレースにでも殴られたのだろう――喜ぶ人々の中でひとり、仏頂面をしながら喜んでいた。

 

「シャーキー!?どうした、相棒。その顔は?」

「うるせーよ、お前ら。なんでペギーにホイホイ捕まったんだよ」

「あ?知ってたのか」「知ってたか、じぇねーよ。噂で流れてきたんだ、ペギーの女と子供をさらった馬鹿が捕まったみたいだってな」

 

 シャーキーのこの言葉で、ジェスはなんでこうなったのか理由を離さなくていいのだと知った。

 

 思ったような成果どころか、ますます混迷を見せる自分たちのレジスタンスに頭を悩ませて戻ってきたグレースだったが。真っ青になったシャーキーから最悪な報告を聞かされると、さすがに我慢できずにその顔にひとつ大きなあざをこさえてしまった。

 

「――痛ぇ」

「当然よ。あの子とハークだけで外に行かせたなんて、何を考えてるの!?」

「君が戻ってくる前に情報を集めようと思っただけなんだ、グレース」

「そうかしら。死ねばいいと思って送り出したと言ってみれば?」

「ハークはそれでいいかもしれないが。さすがにジェスもって俺がそんなこと考えたと本当に思ってるのか?そりゃ、ひどいだろ。落ち込むぜ」

 

 殴られた箇所をさすりながらだったが、シャーキーの表情はさらに暗いものとなっていく。

 まぁ、さすがにグレースもシャーキーがそこまでクズだとは考えていないが。まだ考えに幼さが残る子供と、何をしでかすかわからないような奴に好きにさせていいと送り出したことはどうにも怒りが収まらない。

 

「あの子たち、殺されてないといいけど――」

「それは大丈夫だと思うぜ?あれでもハークは自分が大人だって理解しているはずだしな。ちゃんとジェスの面倒を見ていたはずさ」

 

 慰めなのか、本気なのかわからない。

 だが、確かにそれを期待するしかないだろう。そもそも救出だって本当にできるのか、わからないのだから――。

 

 そんなことを思っていただけに、本当にひょっこりと戻ってきたことに驚いているのだ。

 

「とにかくよかったわ――大きな怪我はないわよね?すぐに検査を受けてもらわないと」

「ううん。それよりグレース。大変な……」

「おお!そうだ、それより皆聞いてくれよ!俺達は凄いニュースを持ち帰ったんだぜ」

「あ?ペギーに可愛がられて寝ぼけたまま戻ってきたのかよ、ドラヴマン」

「へっへっへっ、驚くなよ?なんと俺達は――」

 

 ハークにこのままむざむざおいしいところを取られてなるものか。気がせいたかジェスは素早く口を挟んだ」

 

「あたしら保安官に会ったんだ!無事だったよ」

『っ!?』

 

 そこにいた全ての人が息をのみ、緊張が走った。

 まさか生きていた!?本当に!?

 

 ではなんで戻ってこない?

 

――――――――――

 

 

 トンネルに人々が消えていくと、それに合わせたかのように森の中から人影が道路へと降りてきた。

 ただひとつだけ残された部隊とジェシカである――。

 

「どうする保安官?」

「そうね――」

 

 言いながら私は車道を見回す。

 乗り捨てられた複数の車、そしてタンクローリー。なんでこんなものをここに持ってきた?

 今のホープカウンティでは燃料は貴重であるはずなのに。

 

「誰かガムテープはある?」

「ああ、えっと。持ってるよ」

 

 まだ少年の幼さのある若者が声を上げる。

 私はうなずくと背嚢からダイナマイトを数本取り出して彼に渡した。

 

「あなたに頼むわ。これをひとまとめにして。

 私たちが中に入ったら、すぐにこの辺の車を何台か動かせるようにして待機するの」

「り、了解」

「突入するんだな?数は不利だぞ?」

 

 心配そうに言ってくるのは白髪が目立つひげの豊かな男。不安なんだろうか、自分がこれから起こるであろう救出劇にどれだけ戦えるのか、と。

 

「聞いて、計画はシンプルよ。

 中に入ったら私の後ろへ。左右に広がるように、ついてきてくれればいいわ。救出したら、アナタたちが先頭に立ってきた道を戻る。あの若いのが車を用意してくれているはずだから、それに乗って退却して」

「わかった。あんたは?」

「息は先頭に立って。帰りは殿をやるわ。もちろん生きていれば、ね」

 

 クスリ、と笑うが。どうも受けは良くなかったようだ。

 むしろ顔を一層引きつらせたのもいる。これは失敗だったか――。

 

「それじゃ、行くわ。ついてきて」

 

 AUGライフルを構えると、私は見向きもせずにトンネルの中へと向かいあう。

 危険な任務だ、トンネルの奥からは殺気立った男たちの怒号が聞こえてくる。あの様子ではすぐにでも私刑を始めかねないだろう――。

 

「おい、そろそろアレが必要だろ!ちょっと見てくる」

 

 ペギーの声だ。

 真っ暗な闇の中、前方でなにかを動くのを感じる。

 私は大きく、だが静かに息を吸い上げ。吐き出す、その瞬間はもうすぐだ。

 

 

 ダイナマイトを束にするのを終えると、トンネルから誰かの怒鳴り声を合図に銃声が始まった。

 少年は「あんだよ、早すぎるよ」と手に握った塊を近くの車のボンネットの上に置くと。その隣の車の運転席に乗り込んだ。運がいい、鍵が付きっぱなし。エンジンをすぐに始動させる。

 2台目はカギはない。でも運転席の周りを探したらすぐに見つかった。これもいける!

 

 3台目に飛び込んだところで、トンネルの出口に人影が見えた。

 

「走れ、走れっ!」

「こいつ、コイツのカギがないんだ!」

「2台ある。それでなんとかする、急げ!」

「保安官は!?ダイナマイトも!」

「置いてけ、彼女はすぐ来る……きっとな」

 

 少年は見た。

 トンネルの奥でもうもうと煙が上がってる。銃声もやまない、彼女は戦っている。僕らのために――。

 

 

 トンネルの内部はわからなかったのでほとんど運任せだったが、どうやら私は運が良かったようだ。

 信者たちはどうやら処刑ショーの準備に夢中になっていて。人質はひとまとまりにし、見張りは少なく済んだ。とはいえさすがに奪取しようとすれば気付かれもする。

 

 見方を逃がしつつ、トンネル内にスモークグレネードをばら撒く。

 ジェイコブの訓練を受けたと言っても、トンネルの闇と白い煙に巻かれた視界不良の戦闘にはやはり恐怖があるようだ。

 これは助かる――私は素早く後退する。

 

 トンネルを出ると、山はすっかり夕闇の中にあった。

 エンジン音とタイヤを明一杯振り回しているのだろう、怪しい運転でカーブを切っていく2台を見送る。

 

 私は近くの車のワイパーに乗せられて置いて行かれたダイナマイトを手にすると、止まっているタンクローリーのそばへと近づく。恐らく、信じられないことだが。エデンズ・ゲートは捕虜を生きたまま焼くつもりだったことは間違いない。

 

 バルブをひねり、独特の異臭のする液体を一面にまき散らす。

 あと数十秒、自分もこれ以上ここにいたら生きては帰れないだろう。トンネル内では怒号がこちらの出口に徐々に近づいてきている。

 私はダイナマイトの導火線に火をつけ、再びボンネットの上に乗せた。

 

 それから10秒、ペギー達はようやく姿を見せるが。ジェシカの姿はなく、ただ近くの木々の小枝が震え。小さな物音はさらに小さくなっていく。

 次の5秒はあっという間で――。

 

 

――――――――――

 

 

 指揮官と言うものはなんであれ、不愉快な報告も聞かねばならないことがあると知っている。

 だが知っている、というだけで。その不快さに耐えれるかどうかは、わからない。それくらいでいいのだ、ジェイコブはそういう考えだ。

 

 だからホワイトテイル自警団が特に何をするでもなく、勝手に出てきて、勝手に捕まってくれたと聞かされた時は久しぶりにスカッとした気分になることができた。

 普段なら無表情であることの多い彼が、その間だけは珍しい笑顔を見せたりもしていた。

 

 しかしジェシカによってホテルが襲撃され、彼の自慢の警備網がズタズタにされたと聞かされるとそうはいかなくなる。

 だがそれだって怒りはこらえることができた――最後の報告を聞かされるまでは。

 

 夜、彼の住む屋敷のテラスから。闇に沈んだ山々の一角が赤々と燃え上がっているさまを見てやろうとしたが、できなかった。てっきり部下はのんびりと仕上げをやっているものだと思ってた。そうではなかった。

 

 どうやらバックアップだか残されたイーライの部隊の襲撃を受け、捕らえた捕虜はすべて奪われ。それどころかトンネル前を火の海にされ、ひと煙はトンネルの中にまで入ってきたせいで数名が命を落としたとの報告を聞かされたのだ。

 

 これには我慢できない。

 こんなことがあり得るなんて、ありえない。

 ジェイコブはまずうなり声をあげ、続いて怒りの咆哮と共に感情のままに確認もしないまま引き抜いた銃の弾が切れるまで引き金を引きまくった。

 

 ホワイトテイル自警団は、エデンズ・ゲートに敗北した。

 確かに敗北したが、全滅はしなかった。

 

 彼らの英雄、イーライはいまだ健在であり。彼の元には少なくない彼の兵士が戻っていってしまった。またもエデンズ・ゲートは完全な勝利を手にすることは出来なかったのだ。

 

 

 グレースが皆から離れ、奥に引き込むのを見ると。シャーキーはその後を追った。

 この数日、2人の間にはじつに嵐のような激しい感情の揺らぎがあったが。その原因となった2人が戻ってきたことで、なんとか修復したいという思いがあった。

 

「なぁ――」

「……なによ?」

「あの2人も戻ってきたことだしさ。そろそろ俺達も、なんとかなるべきだって思わないか?」

「どうかしら」

「そのつもりはないならそう言ってくれるだけでいいんだ。俺も、別に無理ならしょうがないってだけの――」

「わかった。もういいわよ」

「え?」

「もういいわ。あなたの言う通り、2人は戻ってきたし。怪我もないみたいだしね」

 

 シャーキーの顔が和らぎ、肩の力が抜けた。

 

「それじゃ――もうひとつ、あいつらの言ってることはどう思う?」

「どう思うって?」

「保安官、ジェシカ保安官のことさ。本当かな?」

「幻覚を見て助かったかって事?それはないわよ、ハークはともかく……」

「いや、マジな話さ」

「私は信じるわ。

 彼女たちは確かにジェシカに会ってる。話したことも、納得できたわ」

「俺は――よくわかんねぇんだよ。そこがさ」

 

 シャーキーの言葉にわずかに苛立ちが見える。

 

「ペギーをぶっ飛ばす。ああ、それだけのために今までやってきたさ。

 でもアイツらが言うことには、保安官はジョセフは逮捕するって言ってるらしいじゃねぇか」

「らしいわね」

「俺は納得できねぇよ。全然、まったくだ」

 

 なるほど、そういうことか。

 

「シャーキー、あのね。ジェシカはずっとジェシカだったわ、これまでもずっと保安官だった」

「……」

「皆は戦争だと騒いでたわね。でも彼女は――」

「違ったって事かよ。あんなに殺して回ってたんだぜ?」

「どういえばいいのかしらね。彼女――いえ、私もそうなんだろうけど。私たちは兵士なの、戦場に立つことにためらいは全くないわ。恐怖はない。

 でもだからって別に殺人鬼ではないし。殺すことが好きだってわけでもない。ただ、人を破壊するように行動するってだけなのよ」

「それが何の関係があるっていうんだよ」

「ジェシカはこの争いの終わり方を決めたのよ。ジョセフを逮捕する、ってね。

 すべてが終われば、またホープカウンティに日常が戻ってくるわ。でも、完全ではもうあり得ない。私たちはあの日から隣人同士で憎みあって、攻撃をしあってきた。

 

 そのことを説明しろと言われと他人に言われたら、本当に皆が説明できると思う?」

「さぁ、どうだろうな」

「だから彼女は決めたんでしょ。ジョセフを捕らえる、保安官としてって。私達も準備が必要ね」

「……私達?それって俺もってことか?」

「ええ、そうよ」

 

 ライフルを手に取る、分解を始める。

 

「彼女は終わらせるつもりなのよ、どんな手段を使っても。このクソッタレな騒ぎをね」

「――ああ、そういう意味で本気になったってことか」

「だから彼女はもうここには戻らないわ、シャーキー。でも彼女から次、攻撃命令が来たら」

 

 ホープカウンティは正しく、本物の戦争を見ることができるはずだ。



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