手には弓を 頭には冠を   作:鷹雪
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投稿時間を間違えていたので、12時間遅れてます。
イーライが倒れ、ジェイコブも倒れ。しかしまだ終わりはなく・・・。

次回は週明けに投稿予定。


End of the Game

 ホープカウンティを再び狂気の炎が襲った。

 だがそれは前回のものとはまったく別物――。

 

 

 レジスタンスが崩壊した。

 信じられない話だが、ジェシカの放送はなにかの力を持っていたらしい。

 

 それまでは解放、取り戻した財産を守る、あの時の日常へともどっていく。

 これを合言葉にレジスタンスと解放された地区の人々は歯を食いしばって立て直しに四苦八苦していたのに。

 

 いきなりにすべてが変化していた。

 

 老若男女を問わず、彼らはそれまでの仕事を放りだす。

 そしてスプレッドイーグルへ、教会へ、街角へと行って。そこに集まりだしている人々と頭を突き出して何事かをヒソヒソと相談し始めた。

 

 その予兆をメアリーもジェローム神父も、あのアデレードさえ気が付かずに見逃した。

 

 翌日の朝、ホープカウンティの景色は異様だった。

 狩猟期の訪れとともに街に現れるハンターのように、レジスタンスであった人もそうでなかった人も。それぞれで小さなグループを作り、街の外へと消えて行ってしまったのだ。

 

 ホープカウンティの町、牧場、工場の作業場から人の姿が消えた。

 

 冷静な人々がこの異常事態を把握できたのはその日の夕刻。

 どこからか戻ってきた人々は意気揚々と酒場に繰り出し。その日の互いの”戦果”をどうだとばかりに自慢し始めたからだ。

 

 最初は苦笑いで客の相手をしていたメアリーだったが。

 店からあふれるほどの人々。それが口にする異常な暴力の数々を聞かされると、次第にその顔が真っ青なものへと変わっていく。

 

 ペギー達の暴力に嫌悪を抱いていたはずの人々が狂っていた。

 ジェシカ保安官、英雄の言葉で――あれほど憎んだ暴力に狂ってしまっていた。

 

 酒を口にする前によっているような皆の姿に呆然とするしかなかった。

 

 ジェローム神父は必死で止めようとしたが、人々は「またな、神父」といって取りあわなくなった。

 アデレードはいくつかの牧場や工場のためにしていたすべての約束をすっぽかされた。事情を聴きたくとも、肝心の相手が捕まらない。連絡がない。

 ドラブマン・シニアは自分の選挙活動をあきらめずにひとりで続けていたが。

 彼が必要とした人々の多くは夜の酒保くらいにしかなく。彼らはシニアの言葉を聞いても感心もしなければ、まともに聞くつもりもなく。彼らの酒の肴がわりにからかわれるので、癇癪を起こすと自分の砦へと引きこもってしまう。

 

 レジスタンスは崩壊した。

 小さな集団が次々と泡のように生まれ、拡散して散っていってしまう。もう、誰もそれを制御することは出来ない。

 

 

―――――――――

 

 

 この時期のジェシカを。

 ホワイトテイル自警団を、シャーキーやグレースたちについて言えることはほとんどない。

 ジェシカの宣言通り。ジェイコブのバンカーを潰してもその手を緩めず。約束通り、野山に隠れたペギー達を狩っていく。

 

 そしてすでに敗北がさけられないものとなったエデンズ・ゲートの信者たち。ホープカウンティの山野に隠れたペギーの多くは、身軽には動けない。もしくは家族連れが多かった。

 悲劇はいきなり彼らを襲い、死に、倒れていく――それはどこかの戦場で見られる日常ではあった。

 

 

 山の中でキャンプを見ても、いきなり獲物を探せとは誰も言わない。

 彼らはまず上を……森の木々の先に目を向ける。

 

 ここにまだ獲物がいるなら、そこにつるされたペギーの親とまだ小さな子供たちが並んでいないはずだから。同じように花も動かし、頭上から小便とクソの匂いがしないのかも確かめておきたい。

 

 追い詰められていくペギー達は、一層強くファーザーへの祈りを口にするが。

 力を失たファーザーは慰めることもなく。狂人たちの群れからも救いもしない。

 

 

 足を撃たれ、身動きの取れなくなった妊婦は必死に力のない声で慈悲を求めたが。

 ハンターの女がまずは彼女を殴り。続いて男たちが蹴飛ばしていく。それぞれがこいつに母を、こいつに妹を、こいつらに家族を奪われたと復讐を口にして。

 

 また、諦めて投降しようとした親子は、囲まれたまま森の中を歩き続け。グリズリーの巣穴のそばまで連れていかれるとそこで足を撃ち抜き捨てられた――。

 ハンターたちは背中を見せるとすぐにもその場を立ち去ろうとし。動けなくなった親子は――親は自分たちのこの先に待っている最後を思い、半狂乱になってわめき散らす。

 怒鳴りつけ、縋り、罵り、鳴き声を上げ。だが足を止めて戻ってくる人の姿はない。

 

 そのうち巣穴の奥底から動く気配がする――。

 

 森の中で少年たちは出会った。

 同じ学年であり、名前も知っていて、話したことさえあった。

 

 だが彼らの片方はペギーがするべき衣服を身にまとい。片方は暑かろうに長袖のジャケットを着て、さらに背中にはまだ扱うには難しいであろう22口径のライフルを背負っていた。

 

 挨拶の代わりに出たのは警告だった。

 相手を指さすと「父さん、いたよ!ここにいた!ペギーだ」と叫び!その言葉に息をのむと、背中を向けて脱兎のごとく駆け出す。

 草木の中を頭を低くして突き進む少年は、家族を思って考える(このまま戻るわけにはいかない。僕が家族を守らなくては)と。

 

 彼はペギーだったが、勇気があった。

 

 ペギーの両親は食事の時間になってもキャンプに戻ってこない息子を心配し。危険な森の中へと探しに出かけた。サボって水辺で遊んでいればと思ったが、川に姿は見えなかった。

 その代わりに森の中をしばらく歩くと、上を見上げることで愛する息子の姿をそこに見た。

 折ってきた大人たちに殴り殺され、腹を裂かれて内臓をはみ出させた息子のからだが吊り下げられていたのだ。

 

 両親は声を押し殺し涙を流して彼を下ろそうと気に近づいた――そこに罠が置かれていたとも考えず。

 翌日にハンターたちはここへ戻ってきた。

 哀れな子の遺体の下で、無力な一昼夜を過ごし。魂の抜け落ちた夫婦を見つけると「うまいこと”えさ”に引っかかってくれたな」と笑い、頭に2発撃ちこむことで許してやった。

 

 

 武器を持つすべての人が復讐の権利を持っていた。

 そして報復心は彼らの理性を奪うだけではなく、怪物にまで成長させてしまった。

 

 彼らは朝に集まり、夕べに集まった。

 連日を借自分たちがしていることは当然だと確認しあっていた。

 そして1日が過ぎるたびに、狂気は悪化し。人々は暴力に退屈していった。

 

 「俺は美人とデートした」といって、ペギーではあったが美しかったであろう死者のとなりで笑顔を見せる写真を見せて回ってた。

 昨日逃した獲物は、今日俺達が代わりにつるしてやったぞと伝えると。「なんだよ、俺を差し置いて」といって悔しがって見せた。

 

 最後にやってきた車の荷台から後ろ手に拘束されたペギーが突き落とされる。

 運転席を降りた若者は、親父を殺したその顔を皆に見せてやるぜと叫ぶと。キャンプのそばに立つ木の枝に縄を通し、首にかけた。

 それを止める人はなく、人々は口笛に歌を歌い。ついには吊り上げられると窒息していくペギーに向けて憎悪と侮辱の言葉を投げつけてやった。

 

 

 自分はペギーに奪われた、そう思った多くがこうして手を血で汚した。

 なんの迷いも持たずに銃を構えては引き金を引き。刃物を手にすれば振り上げて、力の限り振り下ろし。縄を首にかけて罪人としてつるし上げた。

 

 これが”正義”だった。

 

 

――――――――――

 

 

 トレイシーは空気が変わったことを察すると、すぐにアーロンの元へ相談に行った。

 ジェシカの言葉を聞いてから、熱に浮かされたようにクーガーズの中にもペギーへの復讐を――暴力への飢えを訴える声がでることを予想していたのだ。

 

 だが――できればそれはさせたくない。

 ジェシカ保安官か言っていることはわかるが、あの言葉を受け入れると。ヴァージルのいたクーガーズとしての団結を失うのではないかと恐れたからだ。

 

 アーロンもそれは理解していた。

 

「すぐにアイツら全員を集めろ。だれにも逆らわせずにな、お前が言えばみんな聞く」

「なにを言えばいい?アタシ……聞いてもらえるのかわからない」

「野山を武器を担いで追っかける暇はない、それでいい」

「それだけ?本当に?」

「そうだな――トレイシー、この刑務所。そろそろ犯罪者共に返せるようにしてくれないとな」

「ああ、まぁ、そうだよね」

「大丈夫だ、自信を持て」

「――あのさ、ジェシカ保安官はなんであんなこと……」

「ふぅん、今は放っておけばいい。どうせ長くはない」

「そうなの?」

「きっとな」

 

 疲れたよ、またその言葉を口にするアーロンだが。彼には何かわかっていたようだ。

 

 トレイシーはさっそく仲間を集めた。

 さっそく愚図るやつもいたが、引きずってでもつれてきた。

 そこからの数日間、ひたすら怒鳴り続けた。刑務所を修理し、物資が足りなくて困っている人々に配達して回らせた。おかげでクーガーズはこの騒ぎから距離をとることができた。

 

、嫌な話はホープカウンティのあちこちからここまで流れてきた。

 ペギー狩りを始めた人々は暴走している、と。それでもペギーの奴らにはざまぁとしか思えない、と。

 トレイシーは何も考えないことにした。

 

 

 この騒ぎはきっとすぐ、終わると願いつつ。

 

 

 ジョセフ・シードはジェイコブの死の知らせから嘆いて悲しまない時はなかったという話だ。

 自らの子供たちとよぶ信仰でつながる家族達は、ホープカウンティの森の中で獣のように住人たちによって狩りつくされようとしていた。

 なのに彼は無力で、なにもできない――自分は神の言葉を間違えて解釈していたのか!?

 

 あの日の試練は確かに神の言葉だと確信があった。

 空から堕ちても、自分は傷ひとつなく。神の導きはこれだと思った。

 そして家族とそれが始まったことを喜び、共に力強くありきだそうとしただけなのに!

 

 向こう側に”彼女”もあらわれた。最初は頼りない小さいものだと思っていたが、それは力をつけるとみるみるうちにすべてを破壊していこうとするものだとわかった。

 

 これは子供たちへの試練である――はずだった。神は彼女との対話が必要だと。

 彼らはこの試練をこえることで新たな世界を手に入れる、そう思っていた。

 

 機会はなんども作ることができた。

 それほど今の自分たちは圧倒的であり。邪魔することなどできない存在であった。

 

 誤算は”彼女”は言葉に耳を貸さず、ただ破壊だけをもたらせたことだろうか。

 全員がベストを尽くしているのに、なにかが全てをおかしくしていくのを見守った。

 

 その結果がこれなのか。

 試練には誰も耐えられなかった。信者たちは人ではなく獣扱いされている。

 

 こうなった原因を、罪びとを許してはならない。苦しませるだけでは足りない。殺すだけでも全く足りない。もっと多くを、さらに多くを。

 そうだ、”彼女”は貪欲で強欲だ。強大な悪となってプロジェクト・エデンズ・ゲートを消滅させなくては満足できないのだろう。神の威厳を凌辱しつくそうというのだろう。

 

 ならば自分のやるべきことはわかっている。

 もはや言葉に力はない。意思だけが、行動だけが必要だ。

 

 つらいことだが、神はなにも語ろうとしなくなっている。

 子供たちが試練に倒れていくのに、その悲しみを慰めさえしてくれなくなっている。

 だが――もしかして自分は神を失望させた?罪人たちに力を与えてしまった?

 

 そう、間違っていたのだ!”彼女”はただ、神の庭に入り込む悪い蛇ではなかったのだ。もっとおぞましい、もっと恐ろしい。

 見えてきた。そう、その正体は見えた。もう間違えない――。

 

「私の家族を奪い、私にまた奪わせるために君はいるんだな。神はそれを望まれている?」

 

 ジョンも、フェイスも、ジェイコブも死んだ。

 だが”彼女”は他の家族たちも手にかけている。なぜ私のところに来ない?そうじゃない、その時が来るのを待っているのだ。

 

 全ては神の定めた計画に従っている。

 プロジェクト・エデンズ・ゲートはなお、健在なのだ!

 

――――――――――

 

 

 朝、目が覚めると自分がまだウルフズ・デンのバンカーにいるのだと確認する。

 あれから数日、”すべてを終わりにするため”に必要だと思うことをやってきた。

 腹立たしいことにこうなってもまだ、ホープカウンティの外からはなにもない――。

 

――もう十分じゃないか、保安官

 

 そうだろうか?わからないが――その時はいつかは来るのはわかってる。

 ならばそれは今なのかもしれない。潮時なんだ。

 

 

 私はその日、ホワイトテイル自警団の皆をはじめてバンカーから見送った。

 彼らはもう私がいなくとも、やめられなくなっている――楽しんでいる。

 

 

 私は部屋に戻ると、グレースらの名前で届けられた保安官の服を着た。

 自警団の皆がのこしてくれたテクニカルに乗り込み、カウンティホープ刑務所を目指す。

 トレイシーに迎えられ、裏庭にいるというアーロンの元まで案内してもらった。

 

「アーロン」

「来たか、新人」

「迎えに来ました。一緒に行ってください」

「――もういいのか?」

「はい、準備は出来ました。ジョセフ・シード、逮捕します」

 

 アーロンは少しの間、黙って私の顔を見ていたが。うなずくと、わかったと小さな声で返事をする。

 

「トレイシー、悪いがジェローム神父に無線で預けたトンプソンたちを迎えに行くと伝えてくれ」

「ああ、そりゃいいけどさ」

「身支度をしてくるよ。20分だけくれ」

「待ちます」

「スマンな、新人」

 

 なにか言いたげなトレイシーと、アーロンが立ち去る。

 私は刑務所の中庭になる長椅子に腰かけ、机にもたれかかった。

 

 ついに今日、この戦争は終わる。



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