手には弓を 頭には冠を   作:鷹雪
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DAY3

 翌朝、シャベルは雑貨屋に並んでいた簡易式の短いタイプにして、ペギーから回収した投げナイフに手りゅう弾。これにリボルバーと、ウィンチェスター銃に弓矢を揃えて私は出発した。

 

 フォールズエンドを抑えたことで、このホランドバレーでようやくのこと動き始めたレジスタンスだが。

 武器、人、食料と。とにかく足りないものがあまりにも多すぎる――。

 それでも町ではジェローム神父が防衛と通信を担当し、物資の管理などはメアリーが見てくれている。ないからできません、とは言えない状況なのだ。

 

 そして町を離れると、奇怪で不快なペギーたちによる銃と暴力の世界がある。

 

 ホランドバレーでは珍しくもない幾つかの農場を横切ると、そのたびにおぞましい景色が目に飛び込んでくるだろう。

 農場に放り出されたままの、なぜ自分が殺されなければわからない。そんな哀れな人々の亡骸が放置され、その死肉を求めて獣が集まり。むさぼられるのを見た。

 抵抗できないように立木に目隠しで縛り上げたうえで、肉塊になるまで生きたままズタズタになるのを良しとする。人間射的に興じて楽しそうに笑っている信者たちの姿もあった。

 

 そうしたものを横目に通り過ぎる時、私の心は。

 愛するものを踏みにじられる怒り、助けられないという苦しさ。それがすっかりくすぶることも忘れて消え去ってしまったと思った炎を。静かではあるが、再び息を吹き返して。この役立たずの体を少しで動かせと、声をあげている。

 

 私は怒りを感じている。

 警察だからではない、保安官であるからでもない。自由を愛する、この国を愛する。ただのひとりのアメリカ人として奴らに激怒するべきなのだ。

 

 

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 

 

 それまでもカウンティ―ホープではのどかな大自然を背景に、いつもどこかから銃声が聞こえてきてはいたが。

 それが自分の目指す方向の先だとわかると、にわかに焦りが生まれ。慌ててブーマーの背を軽くたたきつつ、速足で木々の間を抜けて教会目指して突き進む。

 

「――何が起きてるのよ」

 

 地図によればもう少し先に行くと教会前の大通りに出るであろうというあたりに来ると。木々の間からのぞいた私は、驚くような光景を目にしていた。

 そこでは攻める側と守る側で、戦争をやっていたのだ。

 

 教会を軍事砦とでも解釈しているのか、ペギー達は車を並べて乗りつけると。次々に教会を目指して突入しようと試み。

 防衛する側は、教会の屋根の上に陣を張り。そこから下に向かって誰も近づかせまいと、必死に撃ち続けて抵抗をやめようとしない。

 とはいえ、すでに勝利は決しようとしている。教会はここから見てもわかるが、下の入り口を破壊されており。それはつまり建物の下の階にペギーが入り込んでいるのは明らかだということ。

 

 駆けつけるのが遅かったか?

 このまま何も見なかったことにして、離れていくべきだろうか?

 態度を決めかねていると。2人、強引に屋根にのぼっていったペギーが誰かに撃たれて転がり落ちるのを見た。まだまだ、抵抗をやめる気はないらしい。

 

(あんな場所に閉じこもるなんて――なにか守りたいものでもあるっていうの?)

 

 とにかく助けなくてはいけないだろう。あんなものを見せられては、退却するという選択肢はもう選べない。

 そうなると、問題は車道で列をなす車の陰にまだ待機しているペギー達だろう。

 

 

 

 しぶとく3日目の朝を乗り切りたかったが、殲滅を狙っての数回の襲撃を撃退し。教会の屋根の上ではそろそろ限界が近づいているのを思い知らされていた。

 

「バーグ!?クソったれ、バーグ。この野郎」

「ナディア、どうしたの?」

「グレース!バーグがやられた、もう薬もないよ!」

「――本当にクソッタレね」

 

 可哀そうだが、死体となってもこちらの役に立ってもらわないと困る。

 青年の体を土嚢の山の向こう側に転がし、壁を少しだけ補強することになる。

 

 グレース・アームストロングはそれでも諦めるつもりはなかった。

 

 しかし昨日は9人いたのに、今では3人――嫌、2人にまで味方は減ってしまっている。

 自分は優秀な狙撃手である、と自負はあるが。だからと言ってできることには限界があるのもわかっていた。

 

(退却か、全滅か。降伏?それもあるのかしらね)

 

 彼女のライフルはこれまでも多くのペギーの命を奪うことができたが、その銃口を巧みにかわしたペギー達によって。仲間の数はここまで削られてきてしまった。

 奴らはグレースの狙撃に恐怖する反応は見せるものの、時間がたつとまたそれを忘れたかのように突撃を繰り返してくる。まるで死なないゾンビの兵隊を相手にしている気分だった。

 

 元の位置に戻ると、となりに仲間の血で真っ赤になった両手のナディアが這って近づいてきた。

 今はこの若いカウガールと2人、そして彼女にはグレースしか頼れる人はいない。

 

「なに?」

「グレース、これが最後の弾よ」

「――最悪ね」

「ちょっと待ってて、下に取りに行ってみるから」

「駄目よ!それであいつらに4人も捕まったんだから。あなたも同じことになる」

 

 グレースがここへ不謹慎にも持ち込んだ弾薬はまだまだ残ってはいるのだが。それは教会の――下の階に置いてあった。

 すでにそこには何度か侵入もされていて、屋根から降りたとわかれば。またペギー達は数にものを言わせて押し寄せてくるだろう。

 

――もう終わりなのだろうか?判断を間違えてしまったのかしら?

 

 戦場で誰かの命を預かることはあったが、それはひとりの兵士としてのものだった。

 部隊がどうとか、的確な状況判断とか。そういうのは別の誰かがやってくれていた気がする。

 

 そんなことを考えながらスコープを除くグレースは、たまたま見てしまう。

 車道に並ぶ車の陰に潜むペギー達が、いきなり慌てたような表情で立ち上がろうとしている姿を。

 続いてそこから爆発とともに炎が立ち上ると。車線に一本の火の柱が生まれ、次々と車が破片をまき散らしながらあちこちに飛び上がった!

 

 教会を包囲するペギー達の動きに乱れが生まれた。

 

「ナディア!今がチャンスよ、撃ち尽くして!」

 

 言いながらグレースも、忙しく銃口をあちこちに向けては発射する。

 突然起こった爆発に驚いたペギー達は、ついうっかり教会を有利に攻めているという自分たちの立場を忘れ。隠れていたその場から頭を出して背後を振り返っていたのだ――。

 

 気が付くと戦いは終わっていた。

 大勢いたペギーはいつの間にか姿がなく――つまり全滅し、屋上にいたナディアとグレースはそれをやってのけておきながら、茫然として受け入れることが難しい。

 

「ど、どういうことなの?グレース?」

「――どうやらが新しいプレイヤー(登場人物)が到着したみたいね」

 

 

 奥の林の中から教会に向かって歩いてくる、犬を連れた人の姿を確認していた。

 あれが何かをしたから、この勝利は生まれたのだ。興味にひかれて、グレースはライフルを構えなおすとスコープを覗き見た。

 

 犬を連れたのは大柄な女で、背中にシャベルとショットガンを持ち。手には弓が握られている。

 そしてグレースは理解してしまった。

 あの女性からは自分と同じ匂い。血煙に咽る、地獄のような戦場を歩いてきた兵士。それが放つ、隠しようもない戦場のにおいがここからでもスコープ越しにはっきりと感じることができた――気がした。

 

 まぁ、なんであれだ。

 今のは不利な状況だったのは間違いない。ならばこの騎兵隊(援軍)の到着は、素直に喜んでおくべきだろう。

 

 

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「ジェシカよ。ここの保安官でもあるわ、まだ新人だけど」

「私はグレース。こっちはナディア。ナディア・アンブローズ、このあたりのレンジャーチームに所属してるわ」

「よろしく」

「その――わからないから聞くんだけど、あなたがやったのよね?」

「?」

「いきなりあいつらの背後で爆発が起こって。こっちも驚いたけど、おかげでチャンスをもらったわ」

 

 ああ、といってジェシカは軽く笑って見せると。

 自分の持つ弓矢の一本をぬいて、これを見るようにと差し出してきた。

 

「自称、平和な爆弾愛好家ってのがフォールズエンドにいてね。そいつがここに来る前に、お守り代わりにと渡されたのよ」

「鏃がヘンね」

「ダイナマイトほどの威力はないけど、ちょっとした爆弾になるらしいと聞いていた。で、そいつの試し撃ちをしてみたってわけ」

「それって。凄く――」

「言わないで、わかってるから。映画のヒーローじゃないんだから。第一、こっちは女であんなに筋肉もない」

 

 80年代のヒーロー・ムービーのポスターは。スプレッドイーグルにおかれたアーケードマシンにも確か貼られていた。

 状況をゆっくり理解できるようになると、今度はグレースの後ろにいるナディアが「どうする?」と視線で問いかけてきた。

 

「それで保安官。私たちを助けてくれたのは、何かやらせたいことがあるからでしょう?」

「――随分とストレートに聞いてくるのね?」

「ごめんなさい。あまり人と楽しく会話することができないタチなのよ」

「そう……ならこちらもはっきり言うと。その通りよ」

「なら、その話をする前に。もう一度だけ私たちを助けてみてはくれないかしら?」

「もう一度?」

 

 ジェシカが驚くと、その理由をグレースとナディアが交互に語りだした。

 

 そもそも教会に立てこもる羽目になったのは、以前よりペギーが変質的にしつこく墓地に眠る英霊たちの墓を破壊するように求めていたことにあった。

 グレースたちは必死にそれをやめさせようとして、教会がペギーの手に落ちてもなお。触れさせることを許さずに、まもってきた。

 

 ところが回収が始まると、強引に爆発物など取り出してきたので。

 激怒したグレースたち英霊の家族たちは、武器と弾薬を持ち寄って逆に教会を占拠してやったのであるが。それだけではない、と彼女たちはいうのだ。

 

「実は4人、仲間が捕まってしまったのだけれど。彼らはまだ生きているはず」

「はず?はず、というのはどういう意味?」

「今朝の攻撃が始まる前に、ペギーが交渉――降伏するように求めてきたんだけど。その時仲間を連れていて、これから自分たちの仲間にすると宣言していたのよ」

「?」

「えっとね。彼らを水辺に連れて行って、そこで窒息するまで鎮める儀式をするの」

「それって洗礼のこと?教会も普通にやることでしょ」

「ええ。でもペギーのやるそれは、拷問や殺人も同然よ。実際にそれで殺された人がいるって知られているわ」

「わかった。それで、それがどうしたの?」

「奴らは彼らを連れて教会の裏に消えたわ。多分、川辺に降りて行ったんだと思う。わからないけど、まだ儀式を続けているかもしれない。それなら急いで助けてあげないと!」

 

 はっきりとはわからなかったが、とにかく助けがいるならすぐにいこう。

 彼女らにそう伝えて、後に続く。私は自分の想像力の足りなさを、それで呪いたくなることになる。

 

 

 想像を超えたものを見たとき、そこに驚きはあっても多少なりとも感動のようなものがあると思うのだが。

 私が目にした光景は、ただただ不快にして嫌悪にまみれた現実であった。

 

「ひどいわね」

「いたわ、あれよ」

 

 崖の上から見下ろすと、そこで行われていることすべてが確認することができた。

 拘束されたままの2人が地面の上に転がされ。口々に「やめろ」や「クソ野郎」と騒いでいるが、そのたびに銃を向けている見張りがそれぞれの体に暴行を加えている。

 

 だがそれだって可愛いものだ。

 水辺では一人の男を数人がかりで抑え込み、強引に水の中へと顔を突っ込んでいて。それを前に恍惚とした表情で、手にした書物の一説と思しき言葉を繰り返す奴がいる。

 

「ひとりいない?グレース、一人足りないよ。3人しかいない」

「いるわ、見つけた。ナディア、駄目だったみたい。水の中に沈んでいるわ――」

 

 何かを抑えるように口にするグレースの言葉は苦く、私は反応する。

 

「終わらせるわ。あんなものね」

「そうね」

「グレースはここからお願い。できるでしょ?」

「ええ、任せて」

「岸にいるのを片付けてくるわ。川の中にいるのは、最後にしましょう」

「わかったわ」

「準備ができたら、合図する。あの気分よく歌ってるバカから、終わらせて」

 

 グレースの返事を待たず、ブーマーと一緒に私は小走りで崖沿いを駆け下りていった。

 

 

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 

 

 レジスタンスは新たな戦力を手に入れた。

 ありがたいことに、グレースは彼女のシューティングレンジから引き揚げていた私物の銃をレジスタンスに提供してもよいと申し出てもくれた。

 

 そして話してみるとわかったのだが、グレースはニック・ライとは知り合いだという。

 ならば、この後もブーマーのように私に付き合ってもらおうということで私たちの意見は一致した。

 

 洗礼とは名ばかりの拷問に苦しんで弱った3人を連れてフォールズエンドまで戻れるだろうか、という不安はあったが。彼らは気丈にも、助けを借りずに自分の足で歩けると言い。実際にそうして町に戻ることができた。

 彼らもレジスタンスへの参加を口にしてくれたが。しばらくは体を休め、傷を癒してもらわなくてはいけないだろう。

 

『よくやったな、保安官。あんたはまたひとつ、苦しむ人々を助けてくれたんだ』

「でもまだ足りない、ダッチ。まだまだよ」

『ああ、そうだな』

 

 電波塔も神父たちの手で調整され、ダッチとの無線での会話は以前よりもしっかりとした声でかわせるようになっていた。

 レジスタンスは依然として厳しい状況の中で、なんとか3日目を終えようとしていた――。




(設定・人物紹介)
・グレース・アームストロング
ホランドバレーで会うことができる、軍人一家の娘で、優秀な狙撃手。
カウンティホープで射撃場を経営しており、営業の張り紙がそこかしこの掲示板に貼られているのを確認することができる。

ちなみに”優秀”ではあるはずなのだが、隠密を良しとする狙撃手のくせして。ライフルにレーザーポインターを装着することをやめられない性格の人。
スネークなら「なめてるのか?」って怒りだすこと間違いなし。


・ナディア・アンブローズ
オリジナルのキャラクター。
彼女は牧場ではカウガールをやっていた。敬虔なキリスト教徒の一家に生まれたが、ジョセフ・シードの言葉には惑わされはしなかった。


・ヒーロー・ムービーのポスター
原題は「FirstBlood2」であるが、日本だと違う題名にされていた。


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