覚えていてもらうことが多いかも。
次回は明後日投稿予定。
上空1.000メートルといったところか。
気流は安定している、今はそれだけは有難い。
「なぁ、ジェシカ。お前はどう思うよ?」
いきなり話をふられた私は、しかし仲間のくだらない会話に加わるつもりはなかった。
「ボーナス休暇?
そりゃ、オカタイ紳士を見つけて。あんたらイギリス人が誇る大英博物館のエントランスでファックするわ。なんならイク時に”女王万歳”って叫んであげる」
「ははは、スゲー笑えるな。なら聞かせてくれよ、そいつが下手でお前がイケなかった時は?」
「そんなのもわからないの?自分の昔の彼女を思い出してみたら?」
「そりゃ、良かったって言ったさ。お前は当然、知らないよな」
「だったら電話番号を教えて。戻ったら全員に連絡して、厳しい真実をアンタに伝えてあげるから――」
「ヒドイ奴だな……なぁ、まだ機嫌悪いのか?まさか生理?」
「死ね――そうよね、わかってる。心配してくれてありがと」
皮膚の下が、不規則に骨と肉の間に何かが入り込むような不快感が部分として体のあちこちから感じる。
ようやくのこと自分の体に適合する新型のナノマシンを手に入れたのに。結局、実戦を控えたとたんに食べ過ぎたときの腹痛のように私を苦しめようとしてくる。
本当に忌々しい。
笑顔でからかいに来た彼は、ここで声を潜めると
「なぁ、本当に調子が悪いなら申し出たほうがいい。お前の気持ちはわかるけど、わかってるだろ。今回は規模のでかい不正規任務なんだぜ?
参加して、うっかりミスしたと後で上の奴らに思われたらお前のキャリアは終わりだぞ」
「私のキャリアの心配、あんたがしてくれるなんてね。泣けるわ」
「可愛げのない女のケツを思いきり蹴り上げる楽しさを教えてくれた相手だしな。色気がないから、システムにまで嫌われて軍を去りました、なんて悲しすぎるだろ」
「ありがとう……それで、ボーナス休暇だって?そんなもの、本気で出ると思ってるの?」
「おいおい、ヨーロッパの文化。建築物、料理。見どころはどこにでもある、興味くらいはあるだろ?」
「そんな学も金もないわよ、武器商人と組んで横流しもしてないからね。それに、あんたがなにを言っても女、ファックと繰り返し言ってるようにしか思えない」
「俺、これでも学のある男なんだぜ?」
笑顔を残して立ち去る彼――。
だが、私は結局彼に何をした?
装備に着替え、頭を抱えて苦しむ彼の襟首をつかんで橋の上に転がすと。その上にまたがって、手にした銃床を何度も――。
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「保安官?起きて」
それは悪夢であったはずだが、私はうなされることもなくグレースの声で瞬時にベットの上で飛び起きた。
シャワーに入りたかったが、店でメアリー達が待っていると言われては仕方がない。なにやら問題が起きたようだった。
スプレッドイーグル。店のカウンターには、夜の警護を終えた住人達が仕事上がりに飲んでいたが。ほかの客といえばいつものジェローム神父くらいで、メアリーと並んで2人とも困惑しているようだった。
「なにかあったって?」
「保安官、あんたの知り合いにバカはいる?」
「――言ってる意味が分からないけど、こっちに来たのは2週間前よ。友人はまだいなくて、募集中」
「なら、これは問題ってことになる。深刻かどうかはまだわからないがな。
実は保安官、先ほどから無線であなたのことを呼んでいる男がいるんだ」
「男?誰なの?」
「名前は言ってない。すぐに来いと、座標を指定してきた。これが罠かもしれない、私たちはそう考えている」
「罠じゃないと、思える理由は?」
「聞く限りだとそいつは大馬鹿野郎だとしか思えないからよ。笑えないわね」
グレースの意見を聞きたくて、彼女の顔を見つめた。
「私の意見?」
「ええ、どう思う?」
「底なしの馬鹿っていうのは同感。でも、もしかしたら本当になにか困っているのかもしれない」
「私が助けに行くと言ったら――」
「いくわ。準備はできてる、保安官」
撃てば響くような返事、やはり軍人はこうでなくては。
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エドとジェイクは失望していた。
せっかくレジスタンスに入ってやったというのに、実力だって少なからず自分たちも示したはず。
なのに保安官は、フォールズエンドで留守番を命じると。退屈な神父はライフルはそのまま持ったままでもいいが、と言うと。金槌と釘、それに木材を持たせて町の中を走り回らせただけだった。
これは違うだろう。
自分たちはペギーと戦いたかったのだ。それを直訴しようと思ったら、すでに夜明け前に加わったばかりの元軍人と犬を連れて出かけてしまったという。
ではどうしたらいい?
「保安官に、もう一度俺達が役に立つってところをみせるしかない」
「賛成。意義なーし」
「それじゃ、どうする?」
「ペギーをぶっ殺す」
「馬鹿。それが普通にできるなら、別に最初から悩んだりはしねーよ」
朝食のシカ肉の照り焼きをつつきながら、互いに案を出しあう。
「実はひとつ、あるにはある」
「なに?」
「ホラ、言ってただろ。レジスタンスには問題があるって。人、武器、食料ってさ」
「金は?」
「金?金なんて話してない。聞いてなかったのかよバカ。
とにかく――あの保安官にペギーの生首をいくつ積み上げたって認めちゃくれないさ。だって、向こうだって同じくらい。ひとりだけでそれをやっちまうんだろうしさ。俺たちはそこでは勝負しない」
「でもよ、人も食料も。増やせるもんじゃないし。武器だって――」
「いや、あるさ」
「どこに?」
「それは――」
言いかけたところで、エドは慌てて口を閉ざす。
席の隣に合流したばかりのナディアがコーヒーを手に座ったのだ。
「えっと、やぁ。おはよう、美人さん」
「おはよう」
「なっ、なにかな?」
「わからない?まだ朝だっていうのに、さっそくいたずら計画で盛り上がろうとしているバカを、注意しに来たってことが」
「俺達、今の環境に不満があるんでね。どうやって改善してもらうか、真面目に考えてるだけさ」
「このカウンティ―ホープの現状に不満がないなんて、正気を失ったペギーくらいのものよ。なんたって、あいつらの天国みたいなものなんだしね」
「ああ、そうだな。それじゃ、コーヒーのおかわりはカウンターでよろしく。俺達、いたずら計画の続きがあるんで」
ナディアはそれを聞いて呆れた顔をした。
「まだあきらめてないの?」「あきらめがいいなら、ここにはいないさ」「わかったわ――それじゃ、聞かせて頂戴」
「君も?」
驚くが、彼女は肩をすくめるだけで気にしていないようだ。ならば仕方がない――。
「デス・ウィッシュさ。
あれをオーナーと交渉してレジスタンスに提供してもらえるよう、俺達でやる」
「デス、なんですって?」
「デス・ウィッシュさ」
「それってコミック・ヒーローの名前?マーベル?それともDCの?」
ナディアの言葉に、今度は男たちの顔が信じられないという表情になる。
「車の名前さ。本当に知らないのか?」
「悪いけど。ガスを食べて、エンジンがうなり声をあげて動くものの違いが私にはわからないのよ。デカくて、自分に都合がよけりゃそれでいいの」
「女はこれだから……」
「ちょっと!ショットガンで男の腹をぶち抜くのは、最近の私のトレンドなんだけど?」
「デス・ウィッシュは武装車両のことさ。誰が見てもイカシたペイントと巨大なM60マシンガンが搭載されているんだよ」
「それって――悪くないかも」
「でもあれって、マーレのイカレ親父のものだろ。どうするんだ?まさか盗むわけじゃないだろうな?」
「馬鹿ね。そんなこと今やったら、殺されたって文句言えないんだから」
「もっと簡単さ、ただ話せばいいのさ」
「……本気で言ってるのか?」
「ああ。でも――」
そういうとエドが顔をしかめる。
確かに思うとおりに話が進めば名案といえるだろうが、相手がこちらと話してくれない、という可能性は何パーセントくらいあるのだろうか?
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ブーマーとグレースを連れて到着したその場所には、たったひとりの男が立っていただけであった。
近づくとそいつは馴れ馴れしくこちらの名前を正確に当て、自分のことをCIAのエージェント、ウィリス・ハントリーだと名乗った。
「もっと近くに、早くしろ」
「あんた、夕べからずっとここで待ってたの?」
「もちろんその通りだ。俺くらいに腕っこきになると、この程度は平穏な日常となんら変わらない。とにかくお前たちは俺の話をまず聞け。
あんたらのことは知っている。
もちろんラングレーは以前からここでエデンズゲートが騒ぎの準備をしていることもわかっていた。俺は経験豊かであることを買われ、上からの命令でこの件の全てを取り仕切っている」
「政府が?あなた、本物のCIAなの?」
グレースは疑っているようだ。
私も同じように、こちらのことを知っていることに驚きを感じていた。
「なんだ?疑っているのか?どうして?」
「この惨状に、政府からなんのリアクションもないのがその理由。当然でしょ」
「ヘッ、お嬢さんたちはどうやら本気で思っているみたいだな。ここはエデンズゲートの地獄、もう1秒だっていたくないってか」
「ペギー以外に、こんな状況になったことを喜んでいるのはいないわ」
「なら、俺のストーリーを聞いてもらおう。
俺はこの業界では25年以上のベテランだが。いつだって地獄だった。
小麦のパンはグルテンが入っていて危険とはいえ、コメを喜んで食うやつらの同類にはなりたくなかった。
だが俺は愛国者だ。
そんなところでラリっていても、困っていたカリフォルニアから来たお間抜け君たちを助けた結果。俺は自分の世界を変えることに成功した」
「えっ、なにっ?」
「まだ話は終わってないぞ!?
それからはロシア、中東、そして今度はこのモンタナときた!
ロシアは最高だった。骨まで凍えるような夜でも、最高のコニャックとプリプリのケツをしたお姉ちゃんたちが温めてくれるんだ。だからこそ、その後に中東ってのはガッカリさせられたぜ。
あそこにも美人はいるが、コメを食う。
またコメかと思うとうんざりしたが。より最悪だったのは、そこではトイレは穴を掘っただけってのが衝撃だ。
あの頃の連中は、グローバルなスタイルには損切りがどうしても必要だと小鳥のようにうるさく囀るもので。汚れ仕事を俺のような優秀なエージェントにやらせたがって仕方なかったのさ」
「保安官、彼。何を言ってるの?」
「グレース、こっちの話を聞くつもりはないみたい。最後まで言わせてあげよ」
「そうだ!さすが軍人だな、人の話は最後まで聞くべきだ。
ところで俺は優秀だと言ったよな?――もちろん、俺はそれを華麗に処理してやったね。もう、だれにも文句は言わせないようなやり方でな。
家庭崩壊の末、哀れな独裁者の愛息子なんていう、運命の皮肉をたっぷりを口にほおばって噛みしめているくせに。それを理解できない間抜けに協力させてやった。
パパを知りたいか?それならいうことを聞け。
ママを知りたいか?なら俺の言うとおりにしろ。
まったく実に素直なもので、感動的であったと自分の頭をなでてほめてやりたい。実際に褒めてやったしな。
ははは、俺が奴なら。
大喜びで義理のパパの胸に飛び込んでいってニコニコと笑っていたのに、ホント。親の歪んだ愛ってやつは、時に子供に残酷な結末しかない選択肢を残すんだよな」
そろそろこの会話にも飽きてきた。
「それで、ラングレーのエージェントが何の用?」
「いいか?
お祈りが好きな奴らが発狂しているこんな時でも、世界はいつだって危機に瀕している。そいつを黙って眺めたら、なんて選択肢はないんだ。そもそもデジタル世代はトラブルが人々の目に入る前にスピード解決することが求められている。
これを今のラングレーの小僧どもに言わせると、これからは共有経済が必要ということらしい。俺のやり方も当然、それに合わせていくしかない。
つまり、おまえがやってくれるなら。今度は俺がお前のためにやってやる」
「それ、口説き文句だとしたら。これまでで一番最低のものになるわね」
「同感」
冷めたこちらの反応に、ウィリスは少し慌てたようだ。
「いや、うん。間違ってはいないはず、だ。
トルコ風サウナならわかるか?おまえがおれをやってくれるなら、今度は俺がお前をやってやる……やっぱりなんか違うよな」
「知らないわよ。先に進めて」
「よし――話はこうだ。
俺は久しぶりの大型休暇で、若い感性を取り戻そうとアメリカの州すべてを回る途中だった。大物からの直接、緊急連絡を受け。慌ててこのモンタナへ。今思うと、パーティは始まる寸前だったのが良かった。入り込むのに何の苦労も必要なかったからな」
「まだ話が見えないわね」
「ジョン・シードは知ってるな?
奴は、政府から手に入れた情報をここに持ち込んだことがわかっている。
ラングレーに求められたのは、そいつでジョンが火遊びをする前に回収しろということ。そして出来ればボーナスも必要になる」
「ジョンが政府に?なんなの?」
ウィリスはこちらに彼のSUVに乗るように求めると、動き出してから続きを語りだした。
「アンタたちがジョンの火遊びについて興味を持つ必要はない。これから俺達、愛国者たちによってそれはおこりえないのだとわかっているからだ」
「愛国者ですって!?」「そうさ!肌の色は関係ない。白かろうが黒かろうが、なんなら黄色でも緑でもいい。それでもあのフレーズを聞けば、自然と尊重できる姿勢がとれる。それこそがアメリカ人の証じゃないのかい?」
とにかく話をまとめよう。
「それじゃ、あんたのトラブルを解決してやれば。私たちに協力するってことね?」
「それはもう言ったろ?あとは俺の指示に従う、ただそれだけ返事をすればいい」
やれやれ
本当に、やれやれとしか言葉が出ない――。
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ニック&サンズ航空に武装した信者たちを襲ったのはこの日の午後のことだった。
フォールズエンドの反乱から、彼の動きはひどく緩慢になっている。
まるでそこにあるものを”あえて見ない”ようにするかのように、信者の採取と物資の回収に力を一層注ぎ込んでいるように周りには見えた。
そして、ニックである。
彼は気さくで、優しく、そしてタフで知られた男だ。
シード家の農園のそばであることは、これまでは不愉快な現実のひとつでしかなかったが。今ではそんなこと、考えたくもない。
子供を腹に抱えた妻のそばにつき。ペギーの目に留まらないようにと息をひそめていたが、ついにあいつらが自分の資産を回収に現れたと知ると。その耐え難い苦痛から、ライフルを手にして自宅から飛行場へと飛び出していく。
スプリングフィールドM14ライフル、骨とう品だが確かなものだ。
政府が銃への個人認証システムを搭載させることを進めるのを逆に利用し、こいつは骨董品だと自宅の壁に飾って残してきた。それがこの時にあって役に立つ。
だが、ジョンのペギーは数があまりにも多すぎた。銃を持って怒れるニックが駆け付けたと知っても、彼らは平然として銃を彼に向けてきた。
激しい銃撃戦が始まっても。ペギーは悠々と会社から資産の回収を進めた。
そしてそれが終わっても、今度は抵抗するのに必死なニックを、そのまま置いておこうとは考えなかったようだ。
包囲を狭めて、一気に押しつぶしてしまおうとより激しい攻撃が加えられる。その時だった――。
アメリカの国家をギターサウンドと共に、ド派手な彩色が施されたトラックが滑走路に突入してきた。
それに乗るのはエドにジェイク、そしてナディアである。
デス・ウィッシュ――ガチガチの保守派で知られるアーロンは、レジスタンスの誕生に喜び。彼らの申し出を受けて、あっさりと自分の所有するデス・ウィッシュを提供すると申し出てくれた。
問題は、それはちょうど車検を受けさせるために修理に出していたということ。
結局3人はオーナーの許可を得て、ペギーの占拠する工場からデス・ウィッシュを盗み出してここにきたのである。
騎兵隊の到着は、ニックに降りかかる悲劇の予感を見事に吹き飛ばしてくれた。
デス・ウィッシュに搭載されたM60は。残忍な破壊力を十二分に発揮して、倉庫に包囲網を狭めているペギーの背後から突き崩そうとしたが。実際に起こったのは、包囲を突き破って、ニックが身をかがめた倉庫の中を穴だらけにしてしまった。
ペギーは慌てて逃走に移り、ニック&サンズ航空にようやく静寂が戻ってきた――かに見えた。
「チクショウ、持っていかれちまった!」
ニックはかろうじて手にした勝利にも、心の底から嘆いては自分の帽子を地面にたたきつけた。
「飛行機は持っていかれた!俺の大事な、最後の希望だったのに。ペギーの野郎っ」
「ああ、えっと――」
「頼むよ、あんたら。助けてくれ、あれがないと。俺は彼女と子供をここから外に連れていけない。このままじゃ、このままじゃ――」
「いやァ、でもよォ」
「俺は自分ではいけない。妻と子供をここに置いて、自分のものを取り戻しに行くなんてこと。でも――ああっ、チクショウ!」
自分と自分の家族のために。
危険なペギーのシード牧場へ行ってくれ、それは自分の家族のために死んでくれというのと同義でもある。
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夜中に聞かされた呼び出しは、どうも思った以上に重要なものであったかもしれないと考えるようにジェシカたちはなっていた。
わけのわからないまま戦闘が終わると、それまでこちらとは一定の距離を測って離れていたはずのエージェント・ウィリスは。目の前で上機嫌で、この通信もままならないはずのホープカウンティの中で交信している。
「……ええ、そうです大統領。その――本当ですか?私を、そんな大役に!?」
私は足元のブーマーをなでてやると。周囲を警戒して戻ってきたグレースは、ここはもう大丈夫だと目線で報告を伝えてきた。
「終わったわね。ペギーを叩き潰したのは満足だけど、いい気分じゃないわね」
「まぁね、正直であることで損をした気がする」
「そうなの?」
「もうすぐそれもわかるわ」
話していると、ウィリスは通信を切ってこちらに近づいてきた。
「本当に光栄なことさ。
まぁ、聞いてくれ。俺はついさっき、ここでおきていることが笑えるくらい大きな事件を任された。悪いが、急いでそっちへ向かわなくちゃならないらしい」
「面白いことを言うのね。ホープカウンティをペギーは道も川も、空でさえも封鎖しているのよ。どうやってここから出て行くつもり?」
「それこそが、俺が優秀であるという証拠さ。言ったろ、ここで起こっていることなんて大したものじゃないとね」
「つまり、愛国者のよしみで手伝ってやった私たちは。バカを見るってオチにしたいわけね」
「おいおい、もっと言い方があるだろう。俺ならそんなひどい言い方はしない。
そう。昔々、俺のばあちゃんが言っていたことが――」
「グレース!」
私が呼ぶとグレースはライフルを即座に構え、目の前のCIAエージェントの額にぴったりと緑のレーザーを合わせて見せた。
「おいおい、おいおい、おいおい!
落ち着こうじゃないか。何をやりたいんだ、哀れな俺に。何を求めようとしている?」
「ここでのトラブルを、政府がどうにかしてくれることよ。あなたの言葉が本当であるなら、それって簡単じゃなかったの?」
「もちろん!
だがな、大統領はマスコミのネガティブな印象操作のおかげで難しいかじ取りをやっている最中だ。そんな御人に、モンタナの山奥で宗教家を弾圧させるなんて、あまりにも恥知らずと公僕のあんたは思わないのか?」
「国のため、あんたのラングレーのためにやってやったわ。今度は”私たち”の番のはずだったけど?契約内容の変更は聞かされてないわね」
「だからって銃で脅迫?それはスマートじゃないだろう?」
グレースの視線は鋭くなる中、私は静かにため息をつく。
態度の不愉快さはさておき、この男。
どうやら本物のCIAのエージェントのようだが、かの組織に許された活動は国外に限っているのは常識だ。それがこんなところでスパイミッションを行っているということは、不正規の任務。
つまりこいつは最初から、この場所で起こっていることを政府に知らせて何とかしようなどという考えは持っていなかったことになる。
「質問するわ」
「俺に拒否権は与えられてるのか?」
「本当にここから出ていけるの?ハッタリじゃなく、真面目な話よ」
「俺がさっきまでお前たちの前で何をしていたのか見ただろ?外部と連絡を、それもホワイトハウスと直接話していたんだぞ?
なら、俺が優秀であることはほとんど証明されてることになる」
「なるほど」
ダッチにレジスタンスの結成などと言われ。
アーロン保安官にこの地の治安について聞かされて。
だからこの数日、どうやって不利な状況を覆そうか。自分なりに方法を考えていた。
「エージェント・ウィリス、妥協してあげもいいわ」
「保安官!?」
「私はここの外にいる人にメッセージを送りたいの。301のロイドよ、それをやってくれるなら私は文句はない」
「ロイドね。どこのロイドがさっぱりわからないな。
知っているか?そういえば俺のむかつく上司にロイドってのが確かにいたよ。だが、あいつは根性なしだった。
仕事をバリバリやっていたが、おかげで女房を部下に寝取られてね。奴がやったのは女房と部下の頭に、新しい穴をこさえることではなくて。自分の銃を口にくわえることだった。
しかしそのおかげで、女房は愛する間男と一緒になり。哀れなロイドの子供たちはそいつをパパと――」
「返事にあんたの小話は必要ないわ。当然、YESよね?」
「無理だな。どこの誰とわからなければ、こちらも暇では――」
「元
ウィリスのサングラスが跳ね上がる。
「ドレビンだって?なるほどね――あんたは確か、陸軍の特務部隊にいたんだったよな」
私は眉一つ動かさず、いきなり腰のリボルバーを抜き放つ。
次、無駄口をたたいたら本気でここで始末しようとこの瞬間に心に決めた。
「おいおい!悪かった、ちょっとしゃべり過ぎたよな?」
「メッセージよ!ついでにサービスでここの状況を伝えて、急いでいるって伝えて」
「あんたの昔の男か?だとしたら随分と趣味が悪いんだな――って、わかった。そのくらいなら問題ないだろう」
「よかった。それじゃ、次は彼女よ」
言いながら私は顎でまだ構えを解かないグレースを示す。
「契約について語ったのはあんただ。報酬を欲張りすぎるもんじゃないぞ、保安官」
「黙りなさい。ここでペギーと一緒に転がして、大切な証拠とやらと一緒に焼いてやってもいいのよ?それに、私の分とも言ったわ。なら、次は彼女の分も聞くべきなのよ」
「そうか!まったく、アメリカの女は慎みってやつを――」
「ねぇ、こいつの頭を吹き飛ばしてもいいかしら。保安官?」
「いや、お嬢さんの頼みなら。男として可能な限り善処しよう、短気なのは良くないぞ」
「それなら、私はこれでいいわ」
そういいながらようやく構えを解いたグレースは、一歩前に出るとウィリスの鼻目掛けて本気で殴りつけて見せた。
くぐもった悲鳴と共にあふれる鼻血を押さえてその場に崩れ落ちると。賢いブーマーは倒れたウィリスのそばまで行って小便を見事にひっかける。
「本当に賢い子。ブーマー、あんたは最高よ」
「それじゃ保安官。さっさとこちらも予定を進めましょ、随分と時間を無駄にしてしまったわ」
まだ動けぬCIAエージェントをその場に放って、私たちは4輪バギーに2人乗りする。
「それじゃ、ニックだっけ?彼の家に行ってみましょうか」
「了解よ、保安官」
飛び出していく4輪バギーの後をブーマーが走ってついていく。
このまま素直にはフォールズエンドには帰れなかった。ふざけた男とかかわったことで、やはり外からの救助は期待できないのだとハッキリした。
だが、正直に言えばあの男にはこのまま外に出ていくことも。こちらの要求通りにメッセージを届けることも、しなかったとしてもそれで構わないという気もするのだ。
ロイドと私は、いつも生き残るためにとお互いが言い訳をしてやっていた過去があった。そのすべての決断に最悪のものはひとつもなかったが。悩ましい、良くない結果は必ずついてきては苦しめられた。
私が彼と再び話すというのは、つまりはそういうことなのだ。
(設定・人物紹介)
・M60
重量10キロをこえる軽機関銃である。
すでに半世紀をこえて使われているが、今でも立派に現役をやっている。
・エージェント・ウィリス
CIAの人間らしい。実はファークライ3以降にずっと登場している、ふざけたオッサン。
恐らくだが工作担当官をやっていると思われる。
・カリフォルニアから来た~
さぁ、ファークライ3をプレイしてみよう!
・家庭崩壊
さぁ、ファークライ4をプレイしてみよう!
・ジョンの火遊び
ジョン・シードが「どこかの政府」から頼まれていろいろしてやった中に、報酬としてそれが入っていました。
ちなみに今も海の向こうでたびたび取り上げられる「ロシア疑惑」を証明する証拠であると、原作ではほのめかしていた。
・デス・ウィッシュ
カッコいい武装車両。
・ニック・ライ
ライ&サン航空の経営者にしてパイロット。
出産まじかの妻のキムを抱え、財産を捨ててホープカウンティから逃げ出すかどうか悩んで動けなかった人。