この素晴らしい天界に祝福を!   作:勾玉

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第10話 ターニングポイント

私は公園のベンチに一人で座っている。

 

日もそろそろ暮れようとしていた。

 

 

「・・・何をやっているのでしょうか、私は。」

 

 

偶然出会った過去のカズマの姿にときめいて声をかけようとしたら、

物凄い美人と仲良くする姿を見せつけられて、

カズマが大事にするジャージの来歴を知って、

やっとの思いで声をかけたら言葉が通じなくて、

挙げ句の果てにカズマの前から唐突に逃げてきてしまった。

 

 

「・・・はぁ。」

 

 

思えば過去のカズマに声をかける必要なんてないんだ。

 

このままタイムマシンで帰ってしまっても何も問題は無いのだから。

 

 

「・・・でも、あんなカッコ悪い逃げ帰りなんて許されないですよね。紅魔族的に。」

 

 

私がひとりであれこれ悩んでいると、

「×××××××××」

と、女性の声が聞こえ、ふと、顔を上げる。

 

 

カズマと一緒にいた美女だ。

 

カズマのジャージを着ている。

ぎゅっ、とまた胸が締め付けられる。

私はダクネスじゃないのでこんなNTRプレイは勘弁願いたい。

いや、彼女でも無いのにNTRもないか。

 

と、背中にカズマをおぶっていることに気がつく。

カズマは・・・寝ているのだろうか。

 

「その、カズマはどうしたのですか?」

 

あ、言葉が通じないのか・・・

 

そう思っていたが、

 

彼女はビックリした表情をして、

「あ、あなたエリスのところの子!?なんでここに!?」

なんと、私の知っている言語を発した。

 

私は突然のことに唖然となる。

 

その美女は、間違って転生させちゃった・・・?、とか訳の分からないことをぶつぶつと言っていたが、間もなく考えるのをやめたようで私に話しかけてきた。

「こんなところで、そんな魔法使いのコスプレなんかしてたら、頭のおかしい子と思われるわよ。」

「おい、ニホンにまで来たのに、その呼び方で私を呼ぶのはやめてもらおう。」

まさか、ここでもその通り名で呼ばれるとは思わなかった。真剣に自分のことについて考えてしまう。

 

「まぁいいわ。このヒキニートを横にしてあげたいのよ。少しベンチを空けてもらえないかしら。」

私は、慌てて立ち上がり、その美女に声をかける。

「カズマが・・・どうかしたのですか?」

 

彼女は気を失っているカズマをベンチに下ろしながら言う。

「カズマ?おぉ、そう言えば、この子、カズマって名前だったわね!」

・・・名前も知らない相手とあんなに仲良くしていたのだろうか。

 

「あの、貴方とカズマは・・・その・・・恋人か何かなのでしょうか・・・」

「へ?全然違うけど?」

彼女はほうけ顔になる。しらばくれているようにも見えない。

 

 

・・・・彼女とカズマは特別な関係という訳ではない。

そう思うとだんだん冷静になってくる。

 

そういえば、なぜカズマに通じなかった言葉が彼女には通じるのだろう。

 

思えば、この美女は、私と一緒に暮らす彼女によく似ている。

と、いうかヒキニートなんて言葉を使うのは彼女しかいない。

 

 

「・・・・アクア?」

 

「!!!!!!!!!!!!」

 

美女は、目玉が飛び出してしまうのでないかってほど驚き顔になりこちらを見た。

 

「あ、あ、アナタ何を言ってしまっているのですか?ワタクシがあんな清く気高くも麗しい水の女神様なんて、恐れ多いにもほどがありますわよ?」

 

絶対にアクアだ。

というかアクアがなぜここにいるのだろう。

 

私は問うてみる。

「アクアもタイムマシンでこの国に来たのですか?」

「は?タイムマシン?」

どうやらタイムマシンのことを知らないらしい。私のことも知らないようだし、目の前にいるアクアは過去のカズマと同じく過去のアクアなのだろう。アクアとカズマはニホンにいた頃から知り合いだったのか。

 

 

 

改めて、話を戻そう。

「私はいろいろ事情があってアクアのことを知っています。」

「ふーん・・・」

「それで、カズマなのですが、何かあったのですか?」

「この子、不良に殴られちゃって気を失っているのよ。一応回復魔法もかけたし、命に別状はないけど、どこかで寝かせてあげられないかと思って、この公園まで来たのよ。」

「そうなのですか。この頃はカズマもまだ弱かったのですね。・・・いや、今もそんなに強くはないですね。」

「へ?」

アクアの頭にクエスチョンマークが浮かぶ。

 

が、すぐハッとした表情になり私に話しだす。

「アナタ、この子の知り合いなんでしょ?悪いんだけれども、この子の面倒を見てあげてくれないかしら。大丈夫!この子、ヘタレだから身の安全は保証するわ。私、ちょっと上の人から呼び出し喰らっていて早く帰らなきゃならないのよね。」

カズマがヘタレなのは私も身をもって知っている。

「ほら、早くベンチに腰掛けて!」

といって、アクアは私の返事を待たずに促す。

 

まぁ、私としてもカズマのことが心配だから面倒を見るはやぶさかでない。

 

私がベンチに腰掛けると、アクアは私の膝を枕にするようにカズマを寝かせた。

「あと、これも渡しておいてあげて。」

といって、持っていた袋を私に差し出し、着ていたジャージを脱いでたたみ、これも私に寄越す。

 

アクアはそそくさとその場を立ち去ろうとしていたが、私はどうしても気になることがあったので聞いてみる。

「アクア、ちょっと聞きたいことがあるのですが。」

「ん?何?」

「この男のこと、どう思っているのですか?」

私はアクアに問う。アクアはぽかーんという表情を浮かべる。

 

私は少し緊張して答えを待つ。

 

 

 

「一緒にいて居心地のいい子ね。」

 

 

私の胸が少しだけキュッとなる。

けれども、これまでの痛みとは違ったなんだか心地よい痛みだった。

 

 

 

・・・私にはダクネスのようにNTR趣味は無いのだが・・・

 

 

「あ、その格好、目立ちすぎるからちゃんとした服を着たほうがいいわよ。」

確かにニホンではゆんゆんのように浮いているが、これは私の一張羅なのだ。

 

私は頬を膨らます。

 

 

「それじゃあね。」

アクアは手をひらひらとさせてその場を去っていった。

 

 

■■■

 

 

なぜ、太ももを枕にしてるのに太もも枕でなく膝枕というのだろう。

 

どうでもよいことを考えつつ、私は太ももの上の気を失っているカズマを見下ろす。

 

やっぱり少し幼い。

 

初めてあった時のカズマの顔に近い。

 

 

私はカズマの髪を少し撫でる。

 

「・・・カズマ」

 

彼の名前を読んでみる。

 

自然と顔がにやけてしまう。

 

 

・・・そういえば、アクアから受け取ったこの袋の中のものは何なのでしょう。

 

ベンチの上にジャージとともに置かれたそれが袋の口越しに中のものが目に入る。

 

『この素晴らしい世界に祝福を!』

 

ニホンの言葉で読めないが、おそらくカズマの大切なものなのだろう。

 

 

 

■■■

 

 

 

「っつ・・・」

 

と、カズマのまぶたがゆっくりと開かれる。

 

まずい、カズマの無防備な顔に見惚れて彼にかける言葉を考えていなかった。

私は途端に焦り始める。

 

 

カズマが私の顔を見上げ・・・目が合った。

 

 

鼓動が高鳴る。

 

 

カズマは口を開く。

 

 

「××××××××××××××××××××」

 

「・・・・・・・・」

 

 

まぁ、そうですよね。

 

 

カズマは、頭を起こして周りをキョロキョロと見て、××××、と続ける。

 

アクアを探しているのだろうか。

 

「彼女は、呼ばれたとかで帰りましたよ。これはカズマのものなのでしょう。これを預かっています。」

といって私はアクアから預かっていたジャージと袋を差し出した。

 

カズマはこれを受け取って、×××、と言葉を告げる。

おそらく、ありがとう、と言っているのだろう。多分。

 

 

「そうだ、カズマ・・・・」

私は、言葉が通じないにもかかわらず聞いてしまう。

「ニホンでの暮らしは楽しいですか?どうして私たちのいる国に来たのですか?こっちの国に大事な人がいるのではないのですか?」

 

私の問いにカズマは応える。

「××××××××××××」

 

会話は全く噛み合っていないだろう。

 

 

カズマと話がしたい。

 

そう思うと、途端に元の世界に焦がれる。

 

そういえば、ニホンで結構な時間を過ごしてしまったが、元の世界はどうなっているのだろうか。

 

 

「カズマ、私は貴方のもとに帰りますね。」

 

そう言って、カズマに笑いかけ、私は立ち上がる。

 

「×××××××××」

とカズマは言う。

 

「カズマ、何を言っているのか、わかりませんよ。」

私は苦笑する。

 

 

 

少し歩いて、ある思いが湧いてくる。彼の心に私と会った記憶を刻んでおきたい。

 

私のことを覚えてもらえるように、インパクトのある去り方で・・・

 

私は羽織っていたマントをバサッと翻し、ポーズを決めてセリフを吐く。

 

「我が名はめぐみん!!!アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者!!」

 

カズマが唖然とした表情で私を見ている。

 

 

「カズマ、未来で待ってます。」

 

私は、そう言って三角帽子で目元を隠し、横顔でフッと笑いかける。

 

そして、タイムマシンのもとへと駆け出した。

 

 

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