そして2週間が経過した。
「めぐみん!またあの変なモノのところに行くの!?ちょっとは休みなさいよ!あなた、あれの調査しだすと飲まず食わず眠らずで、必ず最後は倒れちゃうじゃない!いつも慌てて助けに行く私の身にもなりなさいよ!!そのためだけに生きてるの?ってほど毎日楽しそうに撃ってた爆裂魔法もめっきり撃たなくなったし、どう考えても根詰めすぎよ!!」
宿から出かけようとする私の背後、ゆんゆんが声を張り上げる。
「うるさいですよ、ゆんゆん。大丈夫です。やっと何かわかりそうなのです。」
嘘だ。
タイムマシンについて、結局何も分かっていない。
文献なんかも当たろうと思ったが、図書館もデストロイヤーに破壊されていて情報収集もままならない状況だ。
そもそも魔法の法則も無視、あんな規格外で複雑な構造のもの、紅魔の学校でも教えられていない。
「何かわかりそう、ってセリフは何度も聞いたわよ!!いいから、今日は爆裂魔法でも撃ちに行って気分転換でも・・・・」
「私は・・・・帰れるのでしょうか・・・・」
精神的な限界が近い気がする。
文脈を無視して、弱音が漏れる。
「めぐみん?」
カズマ達のことについて聞き込みをしたこともあったが、誰もがその存在を知らないと述べ、結局聞くのが怖くなり、今では一切聞き込みをしていない。
周りの人や環境に、自分が否定されているようで、だんだんと意志が削られていっている。
「ゆんゆんも私の行動や言動がおかしいと思っているのでしょう。周りのみんなもそう思っているはずです。」
「めぐみんの頭がおかしいっていうのはこの街のじょうしk・・・・痛っ!何するのよ!」
無礼なこの紅魔族のおっぱいを叩く。
世界が変わって何故その私への誹謗中傷は変わらないのか。
私は、はぁ、と息を吐き、日に日に心に積み重なっていく不安を吐露する。
「実は、もとの世界なんてもの、本当は無くて、仲間が私を待っている屋敷の夢を見ていただけで、今のこの状況こそが本当のあるべき姿なんじゃないか、と思い始める自分がいます。」
私は、受け入れようと思っているのだろうか?
「ゆんゆん・・・・私は今のこの現実を受け入れるべきなのでしょうか?」
ゆんゆんが私を呆然と眺め、
「私は、もとの世界なんて知らないし、なんとも言えないわよ。」
と、突き放すように返す。
その後、少し照れつつ、
「でも・・・・・」
少しためらいつつ、
「めぐみんは、周りが何と言おうと、自分の愛したもの、自分の信じたものを貫き通す子だってことは知っているわ。」
周りくどく、私の背中を押してくれた。
「今回も同じようにすればいいってだけじゃないの?」
「爆裂魔法なんてネタ魔法を使えるだけでアークウィザードを名乗っているめぐみんでしょ。」
「おい、私の究極魔法をネタ魔法などといったことを速やかに詫びてもらおうか。」
そして、ゆんゆんは顔を真っ赤にして、そっぽを向きつつ、
「でも・・・そんな自分の愛したものを、いつも目を輝かせながら話す・・・・そんなめぐみんのこと・・・・わわ、私・・・す、す・・・き、嫌じゃないわよ!」
と、恥ずかしいことを言う。
私は、そんな彼女の態度に、なんだか笑みがこぼれた。
その時だった。
ギルドの冒険者招集の鐘が響いたのは。
『冒険者の皆さんは、早急にギルドへ集合願います!繰り返します!冒険者の皆さん早急にギルドへ集合願います!ダスティネス家の方から大切なお話です!』
「なっ・・・いいシーンだったのにっ!」
ゆんゆんがガクっと肩を落とした。
そして、言葉を続ける。
「ダスティネス家って、そういえば今、囲っている騎士なんかを王都防衛のために派兵してたわよね。」
「ダスティネス家・・・・・」
ダスティネス家は、ダクネスの実家で確か国王の懐刀とか王国の盾とか呼ばれていたと思う。けれども王都防衛のための派兵など、私の知る歴史には無かったはずだ。
・・・・・・
正直、ダクネスに会うのが怖かった。
もちろん、私は、タイムマシンの調査でこの世界のダクネスを頼るという選択肢を真っ先に思いついた。
けれども・・・
もし・・・
ダクネスに、私のことなんて知らないと言われたら・・・
私はどうすれば・・・
「ほら、めぐみん、私たちも冒険者だし、ギルドに行かないと!もしかしたら、あのちっちゃいデストロイヤーのことも何かわかるかもしれないわよ!」
「で、でも・・・・・」
「いいから!」
躊躇する私の腕をゆんゆんが引く形で、ギルドに向かった。
■■■
ギルドには冒険者が集まっており、中心に、彼女がいた。
そう、ダクネスだ。
ゆんゆんがそれを見て言う。
「あ、あのクルセイダーの人、見たことある。ダスティネス家の人だったんだ。そう言えば、ここ最近、めっきり姿を見て無かったわね。」
「彼女はダクネスです。ダスティネス家の一人娘です。」
「え?ダクネスって、めぐみんがパーティーだって言ってた人!?ダスティネス家の人と一緒のパーティーだったの!?」
ゆんゆんは、マジで?という顔をする。
「よかったじゃない、めぐみん!ダクネスさんにも話を聞いてみるべきよ!ちっちゃいデストロイヤーの件も協力してくれるかも!」
・・・気軽に言ってくれますね。
「みんな、よく聞いてくれ。」
冒険者がある程度集まったことを確認してダクネスが話し始めた。
ダクネスが冒険者に告げた内容に冒険者一同はとても苦い顔をしている。
当然だろう。
王都が魔王軍によって陥落したという内容だったのだ。
どうやら王都も、デストロイヤーの進行で大きな被害を受けており、復旧のさなか、ベルディアやハンスといった幹部を含む魔王軍の総攻撃を受けたらしい。
ダクネスは、数ヵ月前、デストロイヤーに蹂躙された王都からの要請で騎士たちと王都の守りに付いていたとのことだった。
だが、魔王軍の総攻撃を受けて王都は陥落。
第一王女アイリスを逃がすために、その盾となって魔王軍の王女追跡を防いだダクネスは、魔王軍がアクセルの街へ侵攻しようとしていると情報を得てこの街に戻ってきたそうだ。
アイリスは大丈夫だろうか。あの子はとても強いのでちょっとやそっとじゃやられないとは思うが・・・・
「と、いうことで、この先、アクセルの街にも魔王軍の進行があると思われる。街の防衛は騎士達と冒険者達との協力が不可欠だろう。住民の避難に関しては・・・・」
ダクネスの話は続いた。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
「冒険者たちにおいては、街の復旧のさなかで本当にすまないと思っている。ダスティネス家の私財を投げ打ち、特権を失ってでもその働きには報いるつもりだ。何卒、力を貸してくれ。」
ダクネスは頭を下げて話を終え、散会する冒険者達を見送った後、その場を立ち去ろうとする。
それを見てゆんゆんが私の背中を押す。
「ほら!めぐみん!声をかけるなら今よ!」
「で、でも・・・」
ダクネスは王都防衛の失敗からか、かなり憔悴しているようだ。
今、声をかけるべきじゃないのではないか。
それに、声をかけたら、何かが変わってしまいそうな気がする。
あぁ、逃げ出したい。
声をかけるだけで、泣きそうになる。
・・・でも、今のタイミングを逃したら、この絶望的な世界で今後ダクネスに会える保障はない。
私は決死の覚悟で、その場を立ちさろうとするダクネスを引き止める。
「あ・・・あの!」
「ん?」
ダクネスがこちらを振り返った。
私は、震える声でダクネスに声をかける。
「だ、ダクネス・・・」
どうしたのだ?めぐみん。
ダクネスは優しい声と表情で私の名前を呼びかける。
いつもなら、そうだった。
「すまないが、どちら様だろう?」
「・・・・・・・」
ダクネスが私のことを知らない。
私の中で何かが崩れていく。
駄目だ。
止まらない。
「うぐっ・・・うぅーーー・・・うっ・・・・だ・・・だくね・・す・・・だくねしゅ・・・っ・・・・」
「お、おい、どうした!?」
ダクネスはうろたえ、その場に崩れ落ちそうになった私を支えてくれた。
それから私はダクネスにすがるように泣いた。
なんだか泣いてばっかりだ。目からクリエイトウォーターだ。
ダクネスは、自分も疲れ切っていたにもかかわらず私のこの身をずっと支えてくれた。