私の降りた先は比較的大きな街、一般的に都会と評される場所だろう。
これくらいの規模ならエリスが満足するパットを手に入れることができそうだ。
今の私の外見は、腰まである艷やかな黒い髪に吸い込まれそうな黒い瞳、街中を数歩歩けばモデルにスカウトされそうな美女といえるだろう。
服装はカジュアルを意識したノースリーブ。
周囲を行く男どもがチラチラ私の姿態を伺っている。まったく。
本人は、全然気にしてませんよ、ってつもりなんだろうけれども、私の曇りなき眼の前で隠し通せる訳が無い。
まぁ、悪い気はしないのだけれども。
「さて、お店を探しましょうか!」
時刻は昼前。
天界のような荘厳さとはかけ離れ、街は活気にあふれている。
その雰囲気に包まれ、私も少なからずワクワクしている。
私もパット女神のようにたまに下界に降りてこようかしら。
きょろきょろ周りを見ながら歩く。
と、そこで、とあるのぼりが目に止まった。
『爆裂ラーメンひょいざぶろー』
「ラーメン・・・?そうよ!ラーメンよ!」
私は、下界のラーメンなるものを一度食べてみたいと思っていたのだ。
ちょうどお腹も空いている。
このチャンスを逃す手は無い。
そう思い、私は意気揚々とラーメン屋に入る。
■■■
「へいらっしゃい!一名様ご案内でーす!」
少々混雑した店内、私はカウンター席に案内された。
店内は狭く、男性客の割合が多かった。
「メニューをどうぞ」
「あら、ありがとう。」
そういって渡されたメニューには様々なラーメンの種類が書かれていた。うーん、何が美味しいのかしら?あ、アルコールもあるのね。おぉ、これなんて美味しそう。
「すいませーん!とんこつラーメン爆裂盛りとー、あと生ビールください!」
「とんこつラーメン爆裂盛りがおひとつ、生がおひとつですねー。少々お待ちくださいませ!」
そういって店員は厨房にメニューを伝える。
厨房からは、なまいっちょー!、とか、えくすぷろーじょん!、とか声が聞こえてきた。
威勢の良い掛け声に私のワクワクも高まる。
周りを見ると、ラーメンを食べている客に、スマホをいじって客がいる。
ラーメンを目の前にスマホをかざし、カシャ、とかやっている。
多分、インスタでラーメンなう、とかやるのだろう。星4つとかやるのだろう。
楽しそうね。私もスマホを買おうかしら。まぁ天界に電波は届かないのだけれども。
私の隣は高校生くらいのぱっとしない男の子。熱心に何か冊子を読んでいる。
気になってチラりと覗くと、ゲームの説明書的な何からしい。いわゆるオタクさんかしら。
などと店内をキョロキョロしていると、目の前に注文した生ビールが置かれた。
「生いっちょー!」
「ありがとう。」
私は店員にお礼を言って、出された生ビールを口にする。
ごくごくごくごくごくごくごく・・・・
香ばしい麦の匂いが鼻をくすぐる。
ほどよい苦みが口の中に広がる。
シャワシャワした感覚、喉が潤されていく。
「プァーーーー!」
美味しい。
とても美味しい。
昼間から飲むビールは最高だ。
なんだか隣の男の子が、愕然と私を見ている気がするが、私はそんなの気にしない。
更に少し待つと、目の前に注文したラーメンが置かれる。
なんていい匂いだろう。私は蓮華でスープをすくってまずはひとくち。
「ほぅ・・・」
口に広がるとんこつの風味旨味に思わず声が漏れる。
それから私は、夢中でラーメンを食べた。
私のラーメン処女が失われた瞬間だった。
■■■
「ごちそーさまでした!」
スープまで飲み干し店員に告げた。
それにしても美味しかった。機会を見てまた下界に食べに来たい。アルコールが程よくまわってとても気分がよい。
「ありがとうございましたー!!お会計1500円になりまーす!」
「はいはい・・・・・え?」
「え?」
私は、瞬時に酔いがさめた。
気がついたのだ、お金を持っていないことに。
地の文が倒置法になるくらいに焦る。
まずい!どうしよう!
「あー・・・えーっと、ちょっと待ってくださいね・・・」
とか言いつつ、ポケットをごそごそやってお金を探しているふりをする。とりあえず時間稼ぎだ。
訝しげな表情で店員が私を見る。
この顔は、あれ?こいつ金持ってねーんじゃねーか、っていう疑いの表情だ!
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
働かせてくださいとか頭を下げてみるか。私、女神なのに!
と、私がオロオロしていたときだった。
隣の男の子が店員にお金を差し出して言う。
「あ、こっちの人とお会計一緒で。」
どこにでもいそうなぱっとしない顔立ち、さっきまでゲームの説明書を読んでいた高校生くらいのオタク少年が私の分までお金を出してくれたのだった。
「あ・・・」
私は、ぽかんとその男の子を見る。
「さぁ、出ましょう・・・」
男の子は私にさらりと声をかけ、出口に向かって歩き出す。どうやらカッコつけてるようだ。
「お客さん、50円足りませんよ。」
店員から声をかけられて顔を赤くして戻ってきた彼はあんまりカッコよくなかった。
周りのお客さんも痛々しい目でこちらを見ている。彼は真っ赤になってうつむきながら財布をあさる。動揺して小銭を床にチャリーンとか落とすの、もう見てられない。
「はい!ありがとうございましたー!」
私たちは逃げるように店をでた。
■■■
「あの、ありがとうございました。」
私はうつむいたままの彼にお礼をいう。
恥ずかしい思いはしたけれども、困っていたのを助けてくれたのは確かだ。
「・・・あ・・・いえ。」
彼は明らかに落ち込んでいる。完全に黒歴史になってしまったようだ。家に帰ってからさっきのことを思い出し、頭を抱えて悶えるのだろう。
「そ、それよりも、お金が無くて帰りとか大丈夫ですか?もう少し渡します?」
「いえ、お金を使わなくても帰れるので。」
天界へは無料。
帰る姿を人に見られないようにするのだけ注意は必要だけれども。
「そうですか。じゃあ・・・」
彼は超絶美女な私をおいて、さっさと行ってしまった。黒歴史の目撃者からさっさと逃げたかったのかもしれない。
お茶の一杯くらい付き合ってもよかったのに。私はお金がないので彼のおごりなのだけれど。
・・・と、彼の姿が路地に消えてからすぐ、店から店員が出てきた。
「あ、さっきのお姉さん。彼、これを忘れてったみたいなのよね。どっちに行ったか知らない?」
どうやら彼は店にゲームソフトを忘れたようだ。とことんカッコ悪い。
「あの角を曲がっていきましたけれども。」
「ほんと?ありがとう!」
店員はその曲がり角の方まで走っていって確認していたようだが、彼の姿を見つけられずにすぐに戻ってきてしまった。
そして、少し困った顔をして言う。
「見つけられなかったわ。まぁ、大切なものならそのうち取りに来るでしょ。」
「あの、時間あるんで、私も少し追いかけてみますね。」
「ほんと?助かるわ。じゃあ彼を見つけたら、これ、お店で預かってるって伝えてくれないかしら。」
「わかりました。」
彼を探すことになった。
私は慈悲深い女神なのだ。