こちらは2話目です。
【バニル視点】
我輩は、ポーションが詰まった箱を両手で担ぎ、それを返品すべくアクセルの街を歩いていた。
「全く、賞味期限切れのポーションなど初めて見たわ。あの賞味期限切れアンデッド店主め、いよいよ頭もゾンビ化してきおったか。」
と、我輩の先、頭のおかしい紅魔の娘と成金小僧が連れ立って歩いて行った。
爆裂散歩などというフザけた日課に向かうところなのだろう。
・・・・・・・
「ほう、あのロリータ紅魔族め、やりおったか。」
・・・と、我輩のもとまで二人組の声が聞こえてくる。
「唐突に思い出したんだけど、俺、日本の服屋で買い物をしていた時にコスプレをした美少女に声をかけられたことがあるんだよ。俺よりちょっと年下っぽくて、物凄い美少女でさ、俺のことを、ぽーっと見てて、俺に一目惚れしたみたいな眼差しだったな、あれは。」
「カズマに一目惚れ?という夢を見たのではないですか?もしくは、そのコスプレの女の子は頭がおかしかったに違いありません。」
「そんなこと言ってやるなよ。全然わからない言葉で話してたから外国の人みたいだったし、日本の常識とかわからなかったのかもしれないし。」
「ちなみにどんなコスプレだったのですか?」
「どんなって・・・・あれぇー?なんか魔法使いっぽかったような・・・あれぇー?」
「ほら、やっぱり夢だったのですよ。」
ふむ、マクスウェルのつじつま合わせの力もうまく作用しているようだ。
我輩はそれを確認すると、
「さて、この不良品を処分した後は・・・」
独り言をつぶやき平和なアクセルの街を再び歩き出す。
■■■
【エリス視点】
「ふわぁぁぁぁ」
私は天界の執務室で、大あくびを漏らした。
ここ最近は死者数も少なく、天界の仕事も少ない。とても喜ばしいことなのだが、気が緩んでしまう。
「そういえば昨日、変な夢を見たんですよ。禁忌に触れて天界の牢獄に囚われる夢なんですけどね。」
私は近くの彼に向けて何気なく話題を振る。
「何を言っているんですか、エリス様、そんな事態になって私が出兵しなきゃならなくなったらどうするのですか。嫌ですよ、私は。だいたい、禁忌なことをなされなくても、気がついたら下界に遊びに行かれたりして、こちらも苦労しているのですから。」
苦労していると言いつつも、そこに横になって日本のお菓子を食べながら日本の漫画を読んでいる自堕落な天兵が応える。
ちなみに下界には遊びに行っているのではない。神器を回収したりいろいろ大変なのだ。
「たまには世界がひっくり返るレベルの大事件が起こって、女神として勇者を導きたいものです。」
「ちょwwwエリス様www」
天兵がとってもウザいです。今度、ブラックで有名なあの女神のところへの人事異動でも考えておきましょうか。
「さて、下界の様子でも確認しますか。」
私は、女神の能力を使って下界の様子を確認する。
あそこを歩くのは助手くんとめぐみんだ。
そういえば最近、クリスとして彼らと接してないなぁ。
「たまにはお頭として、部下にカッコいいところでも見せたいんだけどね・・・」
そして、私は、次の神器回収について思いを巡らせる。
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【カズマ視点】
めぐみんと俺は日課の爆裂散歩に来ていた。
「めぐみんの爆裂散歩みたいに俺もスキルを磨く日課でも始めようかな。」
「それはいい心がけだと思います。初級魔法散歩でもするつもりですか?」
「ほら、俺っていったらスティールだろ。常識的に考えて。スティール散歩とかどうよ。」
「それ、ただの連続下着ドロじゃないですか。単に女の子のパンツ盗みまくりたいだけですよね。やめてくださいよ。」
めぐみんが危ない人を見る目で俺を見る。
まぁ、めぐみんの調子が戻ってきたみたいで良かった。
昨日、めぐみんが帰ってきてからポロポロ涙を流すという謎な出来事があったが、めぐみんも原因がよくわからないらしい。
アクアとの爆裂散歩の途中でタイムマシンを見つけてそれで過去の日本に行ってきたようだが、そこでなにがあったか、覚えてないとのことだ。
ただ、何かしら思うところがあるようで、昨日から、めぐみんがやたら俺や仲間達にくっついて行動するようになった。
突然、いなくなるのが心配なのだとか。
と、回想してる間に、タイムマシンがあったという洞窟までやってきた。
「本当に壊しちゃうのかよ?勿体無いなぁ。せめて俺にもタイムマシンとやらを見せてくれよ。」
「駄目です。それでカズマが国に帰りたくなってしまったら困ります。」
「いいだろ、先っちょだけ、先っちょだけでいいから。」
「何ですか?なんかセクハラっぽいのですが。」
めぐみんはふくれ顔をこちらに見せたあと、洞窟の方面を向く。
そして、洞窟に向けて最強の魔法を放つ。
今日は長めの詠唱入りだ。
「『エクスプロージョン』っっっっっ!!」
爆裂魔法の閃光が走り、次の瞬間、大地を震わす轟音とともに、洞窟のあった位置に天まで届きそうな土煙が舞い上がる。
あんなの喰らってダクネスはよく生きていたものだ。あいつは本当に人間だろうか。俺なら骨のひとかけらも残らないだろう。
そして洞窟は、跡形も無く消え去った。
中にあったものも木っ端みじんだろう。
「なんだか今日の爆裂は迫力が違ったなぁ。怒りのパワーがこもってた気がするぞ。」
魔力切れをおこしためぐみんに魔力を分けつつ声をかける。
「でも、俺もせっかくだし過去の日本に戻ってみたかったな。」
実家に戻れるなら、あのゲームをやりたいし、部屋にあった秘蔵のアレやアレなんかを処分したかった。まぁ、今更だけれども。ってか、アレが発掘されてしまったら絶対に日本になんて帰れない。
めぐみんは立ち上がって、ローブに着いた土などをパンパン払いながら言う。
「タイムマシンは可動限界を向かえたとかでつかいものになりませんよ。そもそも、記憶が消えてしまうので乗っても意味ないです。それに・・・」
めぐみんは、唐突に俺の方に歩み寄り、俺の腰のあたりに腕をまわして密着する。
「もしカズマが戻ってこなくなったら、私はきっと、すごくすごく辛いです。」
俺の胸に顔をうずめるめぐみん。
この娘の愛情表現は突然のことが多いから、いつも焦ってしまう。
俺は唐突なめぐみんハグに動揺してどもりながら言葉をハッスル、ではなく発する。
「ま、まぁ、そうだな、大事なのは今だな!ア、アクシズ教の人も今は笑って過ごしなさいって言ってたしな!」
俺のちゅんちゅん丸がデストロイヤーして、めぐみんのお腹にドレインタッチしそうになったので、すかさずめぐみんと少し距離を開ける。
めぐみんは上目遣いで、ぶー、と不満そうな顔をして、プイと向こうをむいてしまう。
そしてそのまま、
「カズマ、私は・・・過去であったことを全く覚えてはいません。ですが、」
辛そうに言葉を吐き出す。
「すごく寂しくて、悲しくて、怖くて、諦めてしまいそうで、死ぬほど痛くて、胸が苦しくて、そんな感情だけが残っています。」
「でも、」
めぐみんがこちらを振り返る。
「そんな中で、なぜかわかりませんが、私が強く決意したことがあります。」
目を爛々と紅く灯しながら、彼女の視線は、まっすぐ俺の目を捉える。
「カズマ、」
「あなたがこの場所に来てくれたことを、」
「私は、絶対に、後悔させません。」
そして、優しく微笑み、言葉を紡ぐ。
「カズマ、」
「私と巡り合ってくれて、」
「私のそばにいてくれて、」
「私に大切な場所をくれて、」
「ありがとう」
めぐみんの満面の笑みは、このくそったれな世界に来てよかったと心から思わせるほどの、最高の笑顔だった。
めぐみん編終了です。
次は初公開のダクネス編に入ります。
あの王女様も登場予定。
そんなに長くならない予定。
推敲のため明日は更新お休みします。