「おおっと!誰かと思えば清く気高く麗しい高名なプリーストの娘に、凛々しくも美しく不屈の精神を持つクルセイダーの娘ではないか!いらっしゃいませー。」
とある魔道具店の扉を開けると、仮面の悪魔の胡散臭い歓迎を受けた。
「ねぇ、ダクネス、絶対この悪魔、いやらしいこと考えているわよね。」
「あぁ、間違いない。おいバニル、とっとと捌きたい商品をだせ。そしてデメリットの説明義務を果たせ。」
「何をおっしゃっているのかよくわかりませんな、我が親愛なるお客様方よ!まぁ、そちらの椅子にお掛けください、仕入れたての素敵な商品を購入できるラッキーなお客様方!おっと、ただいまお茶をお待ちします。しばし待つが良い!」
満面の笑みを浮かべる仮面の悪魔に私達は胡散臭いものを見る目線を向けつつ、椅子が添えられているテーブルに向かう。
えーと、私はなぜここに来たんだったか・・・
・・・そうだ、私は、隣の青髪青目のアクシズ教プリーストに『巨乳リッチーのところに遊びに行くの!ほら早く準備して!』とか言われて、唐突に魔道具店に連れてこられたのだった。
私達は椅子に掛けてヒソヒソと話し合う。
「ねぇ、アレ、絶対変よ!いい?ダクネス、どんなものが出てきてもNOよ!NOというNO(の)!」
「もちろんだ。あんな態度をとるなんて今までの欠陥商品がかすむほどのとんでもないものを売りつけようとしているに違いない。」
小声で話し合う私たちのもとに仮面の悪魔はお茶と液体の入った小瓶を数本持ってきた。
「汝らは屋敷の庭で野菜を育てているようだな。さて、今日の商品はこちら、どんなお野菜も瑞々しく栄養満点に育つ栄養剤である。」
「あら、確かにうちの野菜たち、ちょっとうちのちっぱい紅魔族みたいに発育が悪くて困ってたのよね。ちょうど栄養剤を探していたところなの。」
仮面の悪魔はニヤリと笑う。
「ふむふむ、そうであろう。そうであろう。」
「ダクネス、お小遣いをちょうだい。」
「おい!NOはどうしたNO(の)だ!」
ロクに商品説明も聞かずにお金を求めたアクシズ教徒に焦って待ったを掛ける。
一緒に来ておいて良かった・・・
「して、どんなデメリットがあるのだ?どうせ、栄養剤を使うと成長が早くなりすぎて収穫時期が一瞬で過ぎて枯れるとかだろう。」
「ぶー。ハズレー」
「んじゃ何かしら、値段が物凄く高いとかかしら?」
「ぶー。ハズレー。」
「ではアレだろう。周りの草まで育ちまくって草むしりが大変になるのだろう。」
「ぶー。ハズレー。」
「何よ!わかんないわよ!四択にしてちょうだい!」
何だかクイズみたいになっているのだが・・・
「野菜の強さが魔王軍幹部クラスになるのだ。」
「ちょっと、なんで野菜とるのに全滅の危険にさらされないとならないのよ!ダメよ!やっぱりこの悪魔はダメ!チェンジよ!巨乳店主をだしなさい!」
アクアが喚きだすと、仮面の悪魔は、やっぱりだめか、といった残念そうな表情でハァと息を吐く。
「この商品を入荷した脳みそカリフラワー幹部店主なら商品の返品に行かせているぞ。」
「じゃあここで待つことにするわ。お茶菓子を持ってきてちょうだい。」
「ほう、悪魔にお茶菓子を所望するとはいい度胸だなダメヨ~ダメ駄女神が!貴様にはデットリーポイズンところてんスライムをお出ししてやるから、美味しく味わってぽっくり逝くがよい!」
「そんなの浄化の力で美味しくいただいてやるわ変態仮面!そろそろ決着をつけましょうか・・・」
「おい、お前たち、店の中で暴れるな!お前たちが本気で暴れると魔道具店が潰れて柄店主が路頭に迷ってしまう!」
今にも戦争がはじまりそうな中、私は慌てて二人の仲裁にはいる。
「えぇい!おい脳筋クルセイダー!やはりこの悪質(アクシズ)教徒は出禁だ!次に来るときにはあの小僧を連れて来るが良い!」
「そ、そうだな、あの小僧だな・・・あの・・・えーっと・・・名前は・・・」
あの小僧・・・
確かに私のパーティーに一人男がいたのだが・・・そいつは・・・
おかしいな。名前が出てこない。
「む?あの鬼畜小僧のことを忘れたのか?」
「い、いや、覚えているぞ・・・あ、あいつだろ、あの、えーと・・・」
「え?ダクネス忘れちゃったの!?あんな強烈な鬼畜ニートなんて忘れる方が大変でしょうに!ダクネスボケちゃった?若年性アルツハイマーなの!?」
「いや、いくら何でもパーティーメンバーのことを思い出せないなど・・・ちょ、ちょっと待ってくれ・・・えーと・・・」
私がうんうん悩む姿をバニルはじっと見ている。
私のことを見通しているのか・・・?
「ふむふむ。なるほどなるほど・・・。これは・・・歴史が・・・うーむ。ちと面倒なことになっているな・・・」
見通す悪魔は顎に手を当てて、何やらぽつりとつぶやく。
「汝、アクセルの街に行くがよい。おそらくそこにいるロリータ紅魔族が厄介なことをしてくれたようだ。」
「は?何をいって・・・アクセルの街なら今ここ・・・」
悪魔はコツコツと私の目の前まで歩いてくる。
「夢から覚める時間だ。我輩も少しやることができた。」
悪魔は手をすっと上げ、その人差し指が私の額に触れる。
「な、なにを・・・」
私はスッと意識が抜けていき・・・
■■■
「・・・んっ・・・」
額に何かが触れる感覚があって私は目を覚ます。
私が目を開くと目の前で、落ち着いた雰囲気を纏う巨乳プリーストが私の表情をうかがうように私の額に手をかざしていた。
「あら、ダスティネス卿、お目覚めになりましたか。」
「セレナ殿・・・あれ?ここは・・・魔道具店では・・・」
「魔道具店・・・?ここは王都近隣の平原ですよ。魔王軍を追い払ったあとじゃないですか。」
王都近隣の平原??魔王軍を追い払った??
・・・・・・
・・・・・・
・・・そうだ。
私は王都の近くに魔王軍が攻めてきたとの連絡を受けて、兵士や冒険者たちと一緒に魔王軍の討伐に出向いていたのだ。
一通り相手勢を追い払い、その場に築いた簡易キャンプで兵たちと休憩を取っていたんだった。
少し眠ってしまっていたようだが・・・。
「ダスティネス卿、何かいい夢でも見てましたか?随分と楽しそうな表情をして眠っておりましたが。」
「あ・・・え?そうでしたか?いや、緊張感が無く申し訳ない・・・」
セレナ殿がふふふ、と笑顔を作る。
この巨乳プリースト、セレナ殿はデストロイヤーの襲来の被害にあった人を助けたいと、数カ月前に王都に現れたプリーストだ。
プリーストとしての責任感が強く、今日のような戦場に率先して参加してくれて、支援や回復を担ってくれる。それゆえ兵士たちや冒険者たちからの信頼も厚い。
厚いのだが・・・
「あら?ダスティネス卿、よく見ると手の甲に傷を負っていますね。今、回復魔法を掛けますね。」
セレナ殿の微笑みはまるで聖母のようだ。
セレナ殿は私の手の甲に掌を掲げて魔法を唱える。
「『ヒール』」
私の手の甲が淡い光に包まれて傷がみるみると癒えていく。
・・・・・・
だが、なんだろうこの感覚は。
セレナ殿の回復魔法で感じる・・・私の意思を奪いに来るようなこの感覚はなんだろう。
まぁ、傷は癒えているのだし、あまり気にしてはいけないか。
「いつもすまないな、セレナど・・・」
私が顔を上げると、
「・・・・・・」
セレナ殿が私の様子をじっと伺っていた。
まるで何かを確認するように・・・
「・・・セレナ殿?私の顔に何かついているか?」
「あっ・・・い、いえ!他に悪いところはないかなぁ、と思って・・・」
「そうですか。いや、大丈夫です。流石の回復魔法の腕ですね。すっかり傷も元通りです。」
「それは良かったです。前衛で相手の攻撃を受けるクルセイダーはとても危険なクラスですからね。無理をなさらないように。」
セレナ殿は微笑んで私のもとから離れていく。
傷ついた者への回復魔法や支援魔法、彼女がいてくれるのは心強い。
のだが・・・
なんだかこのプリーストには違和感を持たざるを得ない。
私は、周りの兵たちの様子を見渡す。
なんというか、セレナ殿を見る目が信頼を通り越して、尋常でない気がする。まるでセレナ殿を神のように崇拝するような・・・
確かにセレナ殿はプリーストとして優秀だ。だが、普通それだけでこんな目を向けるものなのだろうか・・・
いや、神に仕えるクルセイダーの私が聖職者を疑ってしまってどうする。
私は彼女の背中を複雑な気持ちで見送った。