世にも珍しいダクネス無双回です。
咄嗟に手をかざした私の腕に、グサリと鈍い痛みが走る。
生暖かい液体が私の頬に飛び散る。鉄臭い。
それは切り裂かれた私の腕から飛び散った私の血。
私の腕には一太刀の剣が突き刺さっている。
防御一点振りの私でなければ腕が切り落とされていただろう。
振り下ろしたの者は、私が王都防衛のために連れてきたダスティネス家の騎士だった。
私は寝こみを襲ったその騎士を睨みつける。
「お前・・・気でも違えたか!?」
「お嬢様・・・!御覚悟を!!」
その騎士は私に二撃目を加えようと剣を振りかぶった。
「っくそ!!」
私は咄嗟にその騎士にタックルを喰らわせ体勢を崩した。
「お嬢様!!一撃であの世に行きたければ暴れないでください!!」
「馬鹿者!!どこの世界に主を殺そうとする騎士がいるか!」
私はその騎士の剣をもつ腕を抑えて叫ぶ。
「貴様、剣を向けるべき相手もわからないのか!?誰に何をされた!?」
「剣を向ける相手は貴方ですお嬢様!それがセレナ様のご命令です!!」
「セレナ!?セレナ殿だと!?」
その時、私の中にあったセレナ殿に対する違和感が晴れていく気がした。
あの不気味なプリーストの狙いは兵を操ることだったのか。
セレナは敵国のスパイ・・・?
いや・・・
「・・・魔王軍」
「うぉぉぉぉ!!お嬢様ァァァ!」
騎士は私の手を振りほどき、私に2撃目を加えようと腕を振り上げる。
「させるかァァァ!!」
私は騎士の剣をもっている方の腕を両手でつかみ、
「ハァァァァァァァ!!!」
そのまま全力を込めて部屋の壁に投げ飛ばした。
「ぐほぉっ!!」
騎士は頭を壁に強打して、そのまま意識を失った。
夢でも言われていた気がするが、やっぱり私は剣を持たない方が強いかもしれない。
「はぁ・・・くそっ・・・!」
私は裂かれてだらだらと血の滴る腕を抑える。
言動から、この兵はおそらくセレナに操られていたのだろう。
そして、今までにその予兆はあった。
兵士達がまるで神でも見るかような尋常でない目線をセレナに向けていたことを思い出す。
仮にそれがセレナの力だとしたら、セレナに操られている兵士はもっと大勢いると考えるべきだろう。
「急がなければ・・・」
私は裂かれた腕に簡易な止血を施し、急いで鎧を身に着け剣を下げて部屋を後にした。
■■■
私は王都にいる間、王城で寝泊まりをしていた。
王城で私にあてられた部屋を飛び出した私はアイリス様の私室に向かって一直線に走っている。
階段を上って、廊下を曲がり、広間を超えたその先に・・・
「・・・おい、お前らは東棟の制圧に行け。ベルディア達も予定通り侵攻してきてるみたいだから、私はいったんそっちに合流する。」
王城の兵士たちに指示しているセレナの姿があった。
「セレナァァァぁ!!!」
私は剣を抜いてセレナに向かって走る。
この女を倒せば味方の兵たちの異常もどうにかなるかもしれない。
「ん?ダスティネス卿か・・・あの傀儡め、暗殺に失敗しやがったな・・・」
セレナはぽつりと呟く。
そこには我々の援助に余念のなかった熱心なプリーストの姿はない。
「私を守れ!!」
セレナが叫ぶと、セレナの取り巻きの兵士が数名、私の進路を塞ぎ私に剣を向ける。
「どけぇぇえ!!」
私は、進路を塞ぐ兵士達をタックルで跳ね飛ばす。
「ちぃ!なんて馬鹿力だ。」
セレナは苦い顔をする。
私は、取り巻きの兵たちに囲まれたセレナに向けて剣を構える。
「兵たちを元に戻せ!さもないと貴様の首を切り落とす!」
「まったく、本当にやっかいな奴だなお前は。何度回復や支援をくれてやっても私の思い通りにならないし、正直、私の能力がこうも通じない人間がいるなんて驚いたよ。どんなイカれた状態異常耐性をしてやがるんだ。」
セレナの口ぶりから、兵たちがおかしくなったのはやはりセレナの能力が関係しているようだ。
何かしら状態異常のようだが、私は状態異常耐性も鍛えに鍛えまくっている。そのため無事だったのだろう。
「セレナ、お前は魔王軍の者だな!?」
私の問いにセレナはニヤリと口角を釣り上げる。
「ご名答。私は諜報と謀略を司る魔王軍幹部セレスディナだ。だが、今頃気づいても遅いんだよ!」
セレナは腕を上げて騎士たちに指示を出す。
「おい、お前とお前と・・・あとお前!ダスィネス卿の足止めをしろ!!私はやることがあるからな。先を急がせてもらう。」
「セレナ様!承知しました!!」
セレナの命令を受けた騎士の男と盗賊の男、魔法使いの女の3人が私を取り囲む。
「待てセレナ!!」
ここでセレナを逃がしてしまってはまずい。
まずはセレナを捕まえて騎士たちの乱心をどうにかさせなければならない。
「じゃあなお嬢様、悪いがこの戦いは我々魔王軍の勝ちだ。せいぜいあがくんだな。」
セレナはそう言い、取り巻きの兵たちを伴ってその場を後にする。
私は私を囲む3人に向けて言う。
「お前ら!正気に戻れ!本来の使命を思い出せ!私に刃を向けるとどうなるか、分かっているだろうな!!」
「我々の使命はここであなたの足止めすることです!」
剣を構える騎士とダガーを握る盗賊が左右から私に襲い掛かってくる。
「えぇい!邪魔だ!」
私は剣を振って彼らを散らせる。
「『ファイアーボール』!!」
魔法使いが生み出した火の玉が私に向かって飛んできた。
「こんなもの!よけるまでもない!」
私は襲い来る火の玉に突っ込んでいく。
ドムッっと火の玉が着弾して焦げ臭い煙が立ち上がる。
だが、こんなものでは私を足止めすることはできない。
「うぉぉぉぉぉ!!!」
「ひぃ!!こ、来ないで!!!」
正面の魔法使いはファイアーボールにビクともせず迫る私に怯えて後ずさる。
が、私はこれを逃がさない。
魔法使いの細い腰を抱きかかえて鯖折りの体勢に持ち込み、ぎちぎちと締め上げる。
「きゃぁぁぁぁ!い、痛いーーーー!!は、離して・・・!」
魔法使いは握っていた杖で私をペチペチ叩くが、そんなものでダメージを喰らうほど私はやわじゃない。
更に力を強めると、締め上げた腰からバキバキと嫌な音がする。
「あぎギギギ・・・」
彼女の足をつたってぴちゃぴちゃと尿が漏れる。
そして魔法使いは泡を吹いて白目をむき、ぴくぴくと動かなくなった。
そして、攻めあぐねていた騎士の一人に向けて、
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
私は抱えていた魔法使いを力いっぱい投げつけた。
「うわッ!!」
騎士は魔法使いを受け止めるも、抑えきれずに後ろの壁に激突する。
「くそっ!『バインド』」
残った盗賊職の男は私を拘束すべくスキルを放つ。
「くッ!!」
バインドの縄が私の上半身を腕ごと拘束する。
力を籠めてみるも、そう簡単には外れなさそうだ。
・・・しかし、足が使えるならば十分だ。
「ダスティネス卿!!覚悟!!!」
盗賊職の男はダガーを振り上げ私に襲い掛かる。
「くらうかぁぁぁ!!」
私はその男が振り下ろしたダガーを正面から受け止める。
ガンッ!という金属を打つ音が鳴り響き、私のアダマンタイト製の鎧がそのダガーの刃を防ぐ。
そして、私の間合いに入ってきた愚かな男に向けて、
「おぉぉぉぉぉ!」
足を振り上げて金的をくれてやる。
「パうっ!!」
その盗賊職の男はおかしな声を上げてその場に昏倒した。
そして、私は壁に激突させた騎士を睨みつけて、
「私を襲うようなら貴様も同じ目にあわせてやる。」
「ヒぃ!!」
その一言で無力化させた。
■■■
セレナの消えた方に走ったてきたが、セレナの姿を見つけることはできなかった。
「くそ、テレポートか何かで離脱してしまったか・・・?」
と、駆けている途中に、バルコニーを発見した。
確かこのバルコニーからは城下町の様子を一望できたはずだ。
城下町の様子が気になった私はいったんセレナのことを後回しにし、バルコニーに出て城下町を見下ろした。
すると・・・
「こ、これは・・・」
そこに広がっていたのは・・・
「不味い状況だとは思っていたが・・・」
城下町は至る所に火の手があがり・・・
「不味いなんてものじゃない・・・」
アンデットナイトの群れが王城めがけて侵攻している様子が見える。
更には、貴族の屋敷ほどもありそうな巨大なスライムが復興中の街を飲み込んでいる。
こんな状況になるまで魔王軍襲来の報告が無いのは、連絡係もセレナの手に落ちたからだろうか。
「これは・・・もう・・・」
その時、私は決心した。
現状、選べる中でおそらく最も非道で最善の選択肢を。
「ダスティネス卿!!」
と、私を呼ぶ声が背面から聞こえる。
私が振り返るとそこには、初老の執事の男。
「無事だったか!セバスチャン!!」
「ハイデルです。」
「・・・ハイデル、アイリス様は?」
「アイリス様はクレア殿、レイン殿と一緒に私室前の廊下で乱心した者たちと戦っておいでです。私はそれを伝えるべく、あなた様を探しておりました。」
アイリス様は戦闘中・・・
どこに行ったか分からないセレナを追うことよりもアイリス様と合流するのが先か。
「わかった。今すぐアイリス様のもとへ向かう。」
「とりあえず、簀巻きになっているそのロープを切りましょう。」
ハイデルはナイフをとりだして私のロープを切っていく。
「他の城内の者は無事か?」
「わかりません・・・逃げられるものは逃走経路を利用させていますが・・・城内の誰が敵かもわからない状況なので・・・」
この場でハイデルに逃げるよう指示しても危険だろう。一人で行動させるべきではない。
ならばアイリス様のもとへ一緒についてきてもらった方が安全か。
私を拘束していたロープが取り払われると、ハイデルは私の血まみれの腕を見ていう。
「ダスティネス卿、腕の手当をしたほうが・・・」
「いや、これくらいかすり傷だ。唾をつけておけば治る。」
ここぞとばかりに私の言ってみたかったセリフベスト5の一つを口にする。
「ハイデル、アイリス様のもとへ急ぐぞ!」
「・・・承知しました、ダスティネス卿。」
私はハイデルを引き連れてアイリス様のもとへ走る。
ダクネス編はシリアスをふんだんに盛り込んでおります。