ウォルバクは手を振り上げて、
「『カースド・・・」
「やらせるかぁ!」
「・・・ライトニング』!」
振り下ろした手の指の先に割り込むララティーナ。
「ぐッ!!」
黒い稲妻はララティーナへと直進し、彼女の鎧に直撃してその一部を破壊する。
が、レインに与えたような致命傷には及ばないようだ。
「へぇ、私の魔法を受けてその程度のダメージなんてね。」
ウォルバクは感心したような声を上げる。そして部下に向かって命令を下す。
「お前たち、まずは足止めよ。テレポートを使われないよう魔法使いからやりなさい。」
「行かせるかぁ!『デコイ』!」
ララティーナの掛け声に、ウォルバクの連れていた禍々しい姿の魔王軍の兵たち数名がララティーナに向かう。
囮になったララティーナは私たちに向けて叫ぶ。
「ここは私が足止めします!アイリス様たちはここから離脱ください!」
離脱?
ひとりで足止めする気?
「ララティーナ!私も戦います!」
「駄目です!アイリス様は生きなければならない!逃げるのです!」
それなら、ララティーナも一緒に・・・
魔王軍の兵たちがララティーナを取り囲んで激しい攻撃を加える。
「なんだこんな攻撃!朝にもらったダスティネス家の兵からの攻撃のほうが幾分気持ちがよかったではないか!魔王軍の攻撃などこんなものかっ!」
「くっ!なんだこの出鱈目に硬い女は!」
前線ではララティーナひとりに魔王軍の兵たちが手を焼いている。
後ろでは・・・
「レイン!まずは止血を・・・!」
「ハァ・・・ハァ・・・クレア様・・・大丈夫です。まずはテレポートの準備です・・・」
「その傷で何が大丈夫か!!ハイデル止血だ!私はダスティネス卿に加勢す・・・くぅ!」
クレアは、レインを目標として敵の弓兵から放たれる矢を剣ではじき、敵を睨む。
前線に加わろうにもレインやハイデルの傍を離れられない。
・・・混戦
とにかく、重傷のレインを守らなくてはならない。
レインがあと一撃でも受けたら死んでしまうと思え。
それならば、私も前衛のララティーナに加勢してレインの盾とならねばならない。
私はララティーナを囲む敵兵に手にしていたレイピアで切りかかる。
「『エクステリオン』っ!!」
その剣閃は敵兵の一人を真っ二つに切り裂いた。
それを見た敵兵は動揺して私達から一歩距離を置く。
「・・・へぇ、さすが強いといわれる王族ね。黒髪黒目の連中以上の脅威だわ。」
ウォルバクがニヤリと余裕の笑みを浮かべる。
こいつさえ殺れば、あとはどうとでもなる・・・!!
私は有無を言わずにウォルバクに切りかかる。
「『エクステリオン』!!」
「『カースド・クリスタルプリズン』!!」
私の剣閃はウォルバクの前に唐突に現れた分厚い氷の壁にて阻まれ、ウォルバクまでとどかなかった。
「いきなり剣を向けるなんてひどいじゃない。人間の子供は、人に刃物を向けてはいけません、と習うものではなかったかしら。」
「お前は人ではないだろう。」
ララティーナがウォルバクを睨みつけて言う。
ウォルバクはふふ、と余裕の笑みを返す。
そしてウォルバクはその場をさっと見渡して、
「ちまちまやっていると私達が押し切られるかもしれないわね・・・」
片腕を上げて掌を私達の方に向ける。
「・・・ということだから、一瞬で終わらせてあげるわ。」
ニヤリと笑ったウォルバクの足元に真っ赤な魔法陣が浮かび上がる。
「『太古の真名の名において、原初の力を解き放て・・・』」
この詠唱は・・・私が習ったことのないものだ。
しかし、それを聞いたララティーナは、咄嗟に叫ぶ。
「いかん!!爆裂魔法の詠唱だ!!城ごとアイリス様を吹き飛ばすつもりだ!」
爆裂魔法・・・爆裂魔法は攻撃魔法の中でも最高位に位置する魔法。
威力、射程範囲、効果範囲いずれも最大級の魔法、
そんなものをここで放てば・・・
私はレイピアを握る手に力を籠め、
「させません!『エクステリオン』!!」
私がウォルバクに向けて放った剣閃は、しかし、ウォルバクの部下が彼女を庇う形で妨げられる。
その間にもウォルバクの掌に禍々しい破滅の光が完成していく。
「やめろウォルバク!貴様の兵らも巻き込まれるぞ!えぇい!!邪魔だぁ!!」
魔王軍の兵たちを押しのけているララティーナも尋常でない焦りをあらわにする。
その言葉にウォルバクは口元を歪めるのみ。
破滅の光は今にも解き放たれようと眩しいほどに光度を増す。
と、私がウォルバクに集中していた背後・・・
「アイリス様!!テレポートが完成しました!いけます!早く!」
レインの声が響く。
それを聞いたウォルバクは途端に爆裂魔法の詠唱を止める。
「くっ、やはり先に魔法使いをやっておくべきだったわね。」
ウォルバクの手元の破滅の光が掻き消える。
「お前たち、クルセイダーと王女はあとよ!まずは魔法使いの息の根をとめなさい!」
ウォルバクが敵兵たちに命令を下し、敵兵たちがレインに襲い掛かるが・・・
「行かせるか!『デコイ』!」
ララティーナの囮スキルによって魔物たちの足が止まり、標的をララティーナへと変える。
「く・・・くそぉぉ、何だこいつのスキルは・・・!嗜虐心に抗うことができない・・・」
「な、なんて強力なデコイのスキル・・・!」
それを見るウォルバクも舌打ちをして苦い表情をする。
「なんて邪魔なクルセイダーなの・・・!体力も底が見えないし・・・!」
敵がララティーナに密集する中、ララティーナは叫ぶ。
「レイン殿!アイリス様とクレア殿とハイデルを連れてテレポートだ!!」
やっぱり、ララティーナは独りで残る気だ・・・!!
「何を言っているのララティーナ!あなたも一緒に・・・!」
「アイリス様!テレポートは4人が限界です!誰か独りはここに残らなくてはなりません!!」
私は必死に考える。
・・・テレポートで数名を遠くに送った後に、また戻って来て・・・
・・・いや、レインは重症だ。そんな何度も魔法を使う余裕はないだろう。
でも、爆裂魔法をも扱うこの魔王軍の幹部とその敵兵に囲まれている状況に独りで残ったら、耐久力のあるララティーナでもまず間違いなく殺される・・・
それなら攻撃力のある私が残ってこの幹部を瞬殺すれば・・・
でも、『エクステリオン』を二度も防がれている・・・『セイクリッド・エクスプロード』は聖剣が無くて使えない・・・
あぁ・・・考えている間にもレインの命のタイムリミットが・・・
どうすれば・・・どうすれば・・・
私が必死になって考えている間に、ララティーナは勝手に話を進めてしまう。
「クレア殿、すまないが、アイリス様と皆を頼む!!」
「・・・わかりました。」
と、クレアが前線に出ていた私を背後から羽交い絞めにして後ろに下げる。
「は、離しなさいクレア!!ララティーナを独りで戦わせる気ですか!?」
「アイリス様、ダスティネス卿ならば大丈夫です。我が国・・・いや、世界でも屈指のクルセイダーです。こんなところでやられるお方ではありません。」
確かに彼女は世界でも屈指のクルセイダーだろう。
でも、私は納得できない
だって・・・
「ララティーナ・・・」
彼女に手を伸ばす。
「私と一緒にずっと道を歩んでくれるって・・・あなたはついさっき・・・」
うまく言葉が出てこない。
「・・・わ、私がその言葉に・・・どれだけ・・・」
ララティーナは、敵の攻撃を一身に受けつつ、ウォルバクに油断ない眼差しを向けつつも、
「アイリス様、私はいつもあなたと共にあります。我が一族は耐えることに関しては他の追随を許しません・・・。それと・・・」
どこにそんな余裕があるのか、うっすらと笑みを浮かべる。
「アイリス様、外の世界は・・・案外と素晴らしいものです。」
そして・・・
「レイン殿!!早く!!」
「行かせるものかっ!!『カースド・・・」
「駄目ェぇぇぇっ!!ララティーナあァァァ!!」
「・・・『テレポート』!!!」
「・・・ライトニング』!!!」
ウォルバクの指先が黒く禍々しい光を帯び、
それよりも数舜早く現れたテレポートの光が私達を包み込んだ。
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・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
・・・気付くと私達は王都の近隣の村まで移動していた。
遠くに王城を眺められる位置にある村だ。
・・・と、私の後ろに立っていた人物がドサリと崩れ落ちる。
「はッ!!レイン!!」
私は慌てて振り返る。
「ハァ・・・ハァ・・・すみません・・・アイリス様・・・あまり遠くまで行く余裕が無くて・・・」
「よ、よいのです!あなたのおかげで助かりました!それよりあまり喋ってはいけません!!」
レインはハイデルによって止血を終えていたが、かなり血を失っているようで顔が真っ青だった。
「・・・レインは私がおぶります。早く回復魔法で傷を塞がないと・・・」
レインの隣にいたクレアがレインを支えながら言う。
見ると、クレアのトレードマークである白いスーツはレインの血で真っ赤に染まっていた。
「そ、そうですね。この村の教会は・・・」
私が言いかけたその時だった。
遠くに見える王城の上層・・・
カッという光が走り、大きな赤い爆炎が王城の上層階を飲み込んだ。
ビリビリと大地が震動する。
数秒後れてゴゴゴという音が到達し、
王城からかなり距離があるこの場にまで爆風による圧が届く。
その爆心地は今まで私達がいた場所だった。
「ら、ララティーナ・・・」
「ダスティネス卿・・・」
「・・・・・・」
私と一緒にクレアやハイデルもその光景を見て息をのむ。
ほどなく王都の上層部を覆う煙が晴れていき、上層の吹き飛んだ王城の姿が明らかになる。
「「「・・・・・・」」」
誰もがその光景に言葉を失う。
・・・・・・
・・・しかし私たちはここで呆然としているわけにはいかないのだ。
「・・・行きましょう。早くしないとレインが危ないです。」
「アイリス様・・・」
クレアの呟きを背に、私は一歩前に進む。
感傷に浸っている暇はない。
王族として生まれた私が進む道は地獄すら生温い修羅の道。
民を見捨てて逃げた私は、きっと地獄に落ちるだろう。
「先に地獄で楽をしようなど許しませんよ、ララティーナ・・・」
私は王都に背を向けて、一歩、また一歩、道を踏みだす。
来るべき人類の反撃の日に向けて、私は道を歩み続ける。
爆裂魔法の詠唱は原作の引用です。
私の一番好きな詠唱が原作のだからです。
ダクネス編も大詰めです。あと2話くらいです。