【ダクネス視点】
レイン殿が生み出したテレポートの光をぬってウォルバクの黒い稲妻が突き抜ける。
が、既にそこに人影はなくなっていた。
「ちぃ、逃がしたわ・・・。」
ウォルバクは苦虫を嚙み潰したように顔をしかめる。
そして私の方を向く。
「王女様の命をとる任務は失敗ね。まったく、邪魔だったらないわ。あなた。」
「ふん、悔しければ、私を屈服させてみるがいい。」
「悔しい?いえ、私は感心しているわ。私の魔法や部下たちの攻撃をあれだけ受けても、顔色を変えないその胆力に。」
部下に囲まれるウォルバクがこちらを見て言う。
「残念だったな、ウォルバク。あの程度では、到底私を満足させることはできない。」
「えぇ。そうでしょうね。だから、最後にあなたにプレゼントをあげるわ。満足してくれると嬉しいのだけれど。」
ウォルバクの黄金の猫科の目が鋭く輝く。
「お前たち、ここから離れて本隊と合流しなさい。私はこの女にプレゼントをあげてから合流するわ。王都陥落に景気よく花火をあげたい気分だし。」
「わかりました!ウォルバク様、この女の硬さは尋常でないので、どうぞ油断なさらぬよう!」
ウォルバクの部下は、そんな言葉を残してウォルバクを残して去っていった。
そこに残ったのはウォルバクと私の二人。
「さて、最期にあなたの名前を聞いておきましょうか。残された人間どもにあなたの武勇を伝えてあげるわ。」
「・・・ダスティネス・フォード・ララティーナ。だが、この名は貴様への冥土の土産とさせてもらう。」
「ダスティネス・・・なるほど。どうりで並々ならない胆力だと思ったわ。」
ウォルバクは愉快そうに笑みをつくる。
「部下も逃がしてしまって、いつまでそんな余裕でいられるか!」
私はウォルバクを掴むために床を蹴り彼女に接近する。
器用さの低い私ではあるが、相手を掴んで動きを封じてしまえば、筋力でねじ伏せることができるだろう。
「『カースド・クリスタルプリズン』!!」
「くッ!!」
ウォルバクが放った氷結魔法は私の腰から下を氷漬けにして床に縫い留める。
「これしきッ!」
私は腰元の氷を両手を組んで殴る。
私の殴った部分にヒビが入る。
大丈夫だ。これくらいならば腕力で破壊できる。
と、ウォルバクの足元に先ほどと同じ真っ赤な魔法陣が浮かび上がった。
「『・・・太古の真名の名において・・・原初の力を解き放て・・・』」
大気がビリビリと振動する。
ウォルバクの手の中に破滅の光が収束していく。
これは、逃げるのは不可能だろう・・・
そして・・・
「これを見ても顔色を変えないなんて、流石ね、ダスティネス卿」
ウォルバクは感心したように言う。
爆裂魔法が完成したようで破滅の光から放たれる熱気がこちらに伝わってくる。
「・・・どうせ爆裂魔法の射程からは逃れられないからな。」
「・・・じゃあ、さよならね。ダスティネス卿・・・」
「それで私を倒しきれるならな。」
「悪いけれども、骨すら残らないわ・・・」
私は魔法耐性を高めるべく、力を込める。
大丈夫・・・
今まで私は耐久力だけを鍛えに鍛え上げてきた。
・・・周りにどれだけ馬鹿にされても。
耐久力で私の右に出るものはいない。
アイリス様のためにも、私は死ぬわけにはいかない。
「・・・『エクスプロージョン』ッ!!!」
ウォルバクがそう叫ぶと同時、
私の目の前が、白く、白く、輝いた。
私の全身を包むのは熱気だろうか。
私の全身を走っているこの感覚は痛みだろうか。
なぜか不気味なほどに音が聞こえない。
何も聞こえない。
私の心臓は止まってしまったのだろうか。
私は立っているのか、倒れたのか。
上はどっちだろう、下はどっちだろう。
私の体はなくなってしまったのだろうか。
だんだんと暗くなっていく。
もしかして既に私は地獄にいるのだろうか。
アイリス様を置いて・・・?
いや、私は死ぬわけにはいかない。
アイリス様を残して死ぬわけにはいかない。
クリスにも死ぬなと言われた。
しかし・・・
私の意思とは関係なく、世界の色は黒く、黒く染まっていく。
「ダクネス来ちゃダメ!意志を強く持って!」
・・・誰だ・・・?
・・・聞き覚えのある声だ・・・
そして、暗闇の中、私は、小さな暖かい光を見つけた。
その光は次第に私を包んでいき・・・
■■■
「・・・我が爆裂魔法を受けきっておきながら、これしきの爆裂魔法で気を失うとは・・・いつかダクネスとは決着を・・・と思っていましたが、これは戦わずして私の勝ちみたいですね。」
馬鹿を言うな、めぐみん。私はこれしきの魔法で屈したりはしない!
「ちょっとダクネス!そんな神様崩れの邪神ちゃんドロップキックみたいなやつにあっさりやられないでちょうだい!まったくダクネスはやっぱり私の支援魔法がないと駄目ね。まったく。」
おいおい、アクア。私が何度お前の身代わりとなって守ってやったと思っているのだ。支援魔法がなくとも私はこの程度なんともない!
「おいお前ら、なんちゃって冒険者のララティーナお嬢様にあんまり無謀なこといってやるな。ですよね、ララティーナお嬢様。これに懲りたらあんまり無策に敵に突っ込んでいかないでくださいね、ララティーナお嬢様。」
か、カズマ!ら、ララティーナお嬢様はやめろとあれほどいっているだろう!
まったく、どいつもこいつも馬鹿にして・・・!
いいだろう。
お前たち・・・まとめて・・・
■■■
「・・・・ぶっ殺してやるっッッ!!!!!!!」
「なっ・・・・!!」
私の咆哮がその場に響いた。
ウォルバクは驚愕の表情をこちらに向ける。
「わ・・・私の爆裂魔法を受けて消滅しないどころか意識を保っているですって・・・?なんてふざけた耐久力なの・・・」
「・・・ハァ、ハァ・・こ、こんなもの・・・ハァ、ハァ・・・め、めぐみんの爆裂魔法の威力と比べれば・・・た、大したことないな。ティ、ティンダーと勘違いしたぞ・・・ハァ・・・ハァ・・・おかわりはないのか?」
「めぐみん・・・ですって?」
ウォルバクの頬を一筋の汗が流れる。
めぐみん・・・?
はて、誰のことだろう。
自分で言っておきながら、意識がおぼつかなくて、よくわからない。
「そう・・・あの小さな子が・・・」
ウォルバクはなぜか懐かしそうな表情をする。
「私の負けね。悪いけれども、今の一発で私の魔力は枯渇状態だわ。」
ウォルバクは私を見据えつつも後退していく。
体中に激痛が走るも、私はそれを無視してゆっくりと前進する。
「ハァ・・・ハァ・・・ま、まて、ウォルバク・・・ぶっ殺してやる・・・」
「ぶっ殺されるのは勘弁ね・・・ダスティネス卿、あなたがこの王都から無事に逃げられたら、また会いましょう。」
ウォルバクはそう言って、王城の階下へと降りていく。
私はウォルバクを追って走り出そうとするも、その場のガレキに足を取られて倒れてしまう。
「くっ・・・」
そうだ。
まずはこの王都から脱出しなければ・・・
そして、アイリス様達と合流するのだ・・・
私はそのまま体を引きずり、這って前進する。
「ハァ・・・ハァ・・・」
私が進む道はアイリス様とともに歩む修羅の道。
決して止まることは許されない。
「ダクネス・・・!!!」
誰の声だろう。
さっきも聞いたような・・・。
いや、今はそれどころじゃ・・・
「全く、天界逝きはいったんどうにかなったみたいだけど・・・とりあえずポーションを持ってきたから、これ飲んで!!」
「ハァ・・・ハァ・・・アイリス様・・・今、行きます・・・」
ずるずると体を引きずって前へと進む。
「だ、ダクネス!?」
その時の私は、生死の境をさまよい、正常な思考ができなかったのだろう。
ただ、前進することしか頭になかった。
「ダクネス・・・ごめんね。ダクネス。」
その言葉を最後に、トンと喰らったみねうちで、私の意識は闇に落ちた。
次回、ダクネス編最終回!
サブタイトル『その夢の終わりに新たな希望の光を!』