「なぁ、ダクネス」
「どうした、カズマ」
私達二人は屋敷の取っ組み合いの姿勢になったまま言葉を交わす。
どうしてこうなったか、というと、えーと・・・
そう、確か、この男が私のことを肝心な時に役に立たないとか、ハーレム構成員3号だとか、言って・・・
「ぶ、ぶっ殺してやるっ!!!」
「う、うおぉぉぉぉ!なに改めてキレてんだよ!!ちょっとまて、ストップストップ!!」
カズマが焦って私に待ったのポーズをとる。
「おいダクネス、なんか爆裂散歩に行っためぐみん達いつもより遅くないか!?」
「?何をいまさら。アクアも一緒だし、ギルドで食事でもしてから帰ってくるのではないか。」
「いや、そうかもしれないけど・・・」
どうしたのだろう。普段から帰りが遅くなることが常習なこの男が何をそんなに心配しているのだろう。
「ダクネス、ちょっと様子見てきてくれよ。」
「は?言い出したお前が見に行けばいいだろう。」
「いや、俺じゃどうも行けそうになくてさ。」
「・・・?お前は本当に何をいっているのだ。」
普段からおかしな言動をとる男だが、今日は本当におかしいな。
どこかに頭でもぶつけてしまったのだろうか。
「何か気になることでもあるのか、カズ・・・?・・・マ?・・・あれ?」
そういえば、この男は誰だろう。
・・・いや、覚えているはずだ。
だって、私はこの男のことが・・・
「あぁ・・・なんかヤバいみたいだな。」
気付くと、目の前の男は足の先や手の先が透明になって消え始めている。
「ま、待て!!えーと・・・か・・・ず・・・」
「ダクネス、多分、め×みんは、アクセルの街にいると思う。」
「めみん?アクセルの街?それは、ここのことではないか・・・お前、さっきから何を言って・・・」
「俺はこの世界じゃ、存在してはいけないヤツみたいだからさ、独りぼっちな××みんのとこに行って支えてやってくれよ。」
「・・・みん?おい、それは一体・・・」
「×ぐみ×は、多分アクセルの街で、今頃独りで泣いてr・・・」
「おい、お前、消えるのか?お前は一体・・・」
私の目の前で、名前の知らないその男が姿を消した。
■■■
「ア・・アクセルの街・・・」
「ダクネス!気づいたの!?」
目を開けると私はクリスにおぶわれて王都の城下町を進んでいた。
「ぐっ・・・か、体が・・・いた・・・」
「大丈夫!?いや、でも目を覚ましてよかった。無理やり口の中に流し込んだポーションが効いたのかな。ほんと、死んじゃうかと思ったよ・・・」
死んじゃう・・・?
・・・そうか、私は魔王軍幹部の爆裂魔法を喰らったのだった。
それで、その後、誰かに声を掛けられて気を失って・・・
あれはクリスの声だったのか・・・
「クリス・・・ありがとう。・・・それにしても、よくあの時、敵まみれの王城に乗り込んでこれたな・・・。」
「ちょっとね、裏技というか、神業をつかってね。」
「・・・・・・」
盗賊職の侵入スキルの奥義か何かだろうか・・・
いや、それよりも・・・
「クリス、お前・・・傷だらけじゃないか・・・」
クリスには無数の刀傷や青あざ、火傷の跡がある。
この王城の上層から逃げる間に敵にやられたのだろうか。
「いやぁ、王城の中は潜伏スキルで比較的スムーズに行けたんだけど、王城を出てから潜伏スキルの通じないアンデットナイトに襲われてね。逃走スキルでなんとか逃げてこれたけども、少し傷を負っちゃった。」
「・・・もういい。・・・私も自分で歩け・・・うぐぅ・・・」
クリスの背中から降りようとするも、体が思ったように動かない。
その何気ない動作だけで体中に激痛が走る。
「あぁ!動いちゃダメだよ!爆裂魔法なんて喰らっておきながら、まともに休んでもいないんだから。」
クリスが心配してくれるが、私には行かなければいけないところがある。
「・・・アクセルの街・・・」
「アクセルの街?」
「あぁ・・・そこで、私を待っている者がいるはずだ・・・」
「誰の事?」
「・・・わからない」
わからない。でも、不思議と使命感が私の内から湧き上がっている。
アイリス様の居場所がわからない今、その居場所が知れるまで私はその使命感に従うべきだろう。
「王城を移動している間に魔王軍が話しているのを偶然聞いたんだけども・・・」
クリスは言い辛そうに口を開く。
「アクセルの街が次の魔王軍の侵攻点らしいよ。」
「・・・なら、なおさら急がないとな・・・」
そこには、私の実家がありお父様もいる。
そして、私が冒険者として育った大事な場所でもある。
王都同様、アクセルの街もデストロイヤーの襲来を受けて復興中だ。
できるだけ早く街に戻り魔王軍の侵攻に備えなければならない。
「・・・私としてはこんなボロボロなダクネスを、危険なところに行かせたくはないんだけど・・・」
クリスは眉を顰めつつ低い声で言う。
「まぁ、頑固なダクネスだし、ほっといても行こうとするだろうからね。」
「・・・さすが親友。・・・よくわかっているじゃないか・・・」
「せめて動けないダクネスを、実家まで連れてってあげるね。」
「・・・おいおい、王都からアクセルの街までどれだけ距離があると思って・・・」
「あそこ、見て。」
クリスは目線を城下町の先へと向ける。
「・・・あぁ、私も気になっていたが、あれは・・・」
クリスの目線の先では、雷撃やら炎やら氷柱やらが生まれては消え、そのもとで戦闘が行われている様子がうかがえる。
「紅魔族が王都の住民の避難のために駆けつけてくれたみたいなんだ。あそこまで行けば紅魔族のテレポート部隊がいるはずだよ。」
「・・・少し距離があるみたいだが・・・」
「大丈夫。もう王城から脱出して、アンデットナイトの群れからも逃げ切ったからね。それに・・・」
クリスは横顔でニカッと笑みを作って言う。
「・・・いつも私はダクネスの背で守られてたんだ。ダクネスがピンチのときくらい、私の背中で守られてよ!」
「クリス・・・ありがとう・・・」
私は親友の頼れる背中に顔をうずめる。
守ることを生業とするクルセイダーの私。
誰かに守られるというのは、いつぶりだろうか。
その安心感に気を抜いてしまった私は、
彼女の背中でまた眠りに落ちてしまう。
そして・・・
■■■
目の前のベットに眠る美少女、彼女はめぐみん。
カズマとアクアと私は、ベットの傍らで彼女の様子を伺っていた。
先ほど、ギルドで突然倒れたという話を聞いて、急いで屋敷に連れ帰りベットに寝かせている。
アクアが言うには命に別状はないようだが・・・
と、ずっとぐったりとしていためぐみんに変化があった。
「・・・うぅ。」
「お、気がついたか!めぐみん!」
「めぐみんが起きたの!?」
カズマとアクアが声を上げる。
めぐみんはゆっくりと目を開き、その目がぼんやりと私達を映す。
「全く!突然倒れたって聞いたから、心配したぞ。」
そう、私たちはめぐみんをずっと心配していたのだ。
「めぐみん、どこか調子の悪いところはないか?」
「私の曇りなき眼によると、原因はあのヘンテコ悪魔ね!うちのめぐみんに酷いことしてまったく!今度みんなでお礼参りにいきましょう!」
私とアクアの声が被る。
めぐみんはぼーっと私達を見ながらゆっくりと口を開く。
「・・・とても、とても怖い夢をみました。カズマ達が私の前からいなくなっていて、このアクセルの街が廃墟のようになっていて・・・どうしよう、どうしようって・・・」
めぐみんは、話しながら震えだす。
目にはうっすらと涙が浮かぶ。
相当に怖い夢だったのだろう。
確かに、みんなが突然いなくなって、アクセルの街が廃墟になるようなことがあれば、私も正気ではいられないと思う。
「おい、大丈夫か、めぐみん?俺らはみんなここにいるから。」
カズマがめぐみんの手を握って安心させようとする。
「そうだぞ。アクセルの街だって、今日も平和だ。めぐみん、外を見てみろ。」
平和な街の景色を見れば、めぐみんも少し安心できるだろう。
めぐみんはゆっくりと起き上がって、躊躇しながらも、窓の外を見た。
そこにはいつものアクセルの街の平和な風景。
めぐみんの充血した瞳に光が戻ってくる。
めぐみんは、ホッと息をついて、こちらを向きなおした。
「・・・いったい、あの夢はなんだったのでしょうか・・・カズ・・・・」
「ん?めぐみん?どうしたの?」
めぐみんはこちらを振り返った瞬間、顔が真っ青になる。
「おい!めぐみん!顔が青いぞ!」
いったいどうしたのだのだろう。
まるで信じられないものを見るような眼だ。
「カ・・・・カズマは?」
「カズマ?」
アクアが首を傾げる。
めぐみんが突然私たちの知らない者の名前を出したのだから当然だろう。
「おい、めぐみん、カズマとは誰のことだ?」
私もできるだけ優しい声を意識してめぐみんに確認をする。
めぐみんは再度震えだす。
「え・・・今、私の手をカズマが握ってくれていて・・・」
「めぐみん、カズマが誰のことかわからないけれども、アナタが震えていたから私が手を握ってあげたのよ。」
「そうだぞ、めぐみん、怖い夢を見て混乱しているのではないか。ついていてあげるから、しっかり休め。」
ギルドで倒れたのもそうだが、本当にこの紅魔族の子はどうしてしまったのだろうか。
何か錯乱する呪いでもかけられてしまったのだろうか。
・・・いやまて。
「な、なんで・・・カ×マ・・・・カズ×は・・・・」
その紅魔族の子はぽろぽろと涙を流す。
この子は・・・
「××みん、私たちがそばにいてあげるから。ほら。」
目の前の青髪の女性が紅魔族の少女の頭をギュッと抱擁する。
この子達は・・・誰だろう。
「ア×ア・・・お願いですから、冗談を言わないでください!ダクネスも!」
「・・・め、めぐ××。」
紅魔族の子は私の名前を呼ぶ。
しかし、私はこの子が誰かが分からない。
「××マを探しに行きましょう!!××ア!ダクネ・・・・ス・・・・」
「ダクネース?誰?」
青髪の女性は眉をひそめる。
「ダクネスは・・・?今・・・そこにいたダクネスは?」
何をいっているのだこの子は。
私なら、ここにいるだろう。
私は目の前の二人のやりとりを呆然と眺める。
「×××ん、ここにいたのは私1人じゃない。あ、屋敷の幽霊の子のいたずらね!今度叱りつけとくわ!」
い、いや、私がここにいるじゃないか・・・!
「・・・う、嘘ですよね。」
・・・私が見えないのか?
「め×み×、ほんとうに大丈夫!?ちょっと落ち着いて!そうだ!元気がでるように、今まで誰にも見せたことのない最強の宴会芸を×ぐ××だけに見せてあげるわ!ちょっと準備してくるから待っててね!!!」
「×、×ク×!!!駄目!!お願い!行かないで!!!!」
青髪の女性がバタバタと部屋を後にする背後で、紅魔族の少女が必死に手を伸ばして叫んでいる。
バタン!!
紅魔族の少女は必死になりすぎて、ベットから落ち、顔を床にぶつける。
顔を上げると、零れ落ちる涙と鼻血でぐちゃぐちゃだった。
・・・その時、私の頭にある声がよみがえる。
『ダクネス、多分、××××は、アクセルの街にいると思う。』
『俺はこの世界じゃ、存在してはいけないヤツみたいだからさ、独りぼっちな××××のとこに行って支えてやってくれよ。』
『××××は、多分アクセルの街で、今頃独りで泣いてr・・・』
・・・ああ、多分、あいつはこの紅魔族の少女のことを言いたかったのだな。
そうだ、私はこの少女のところにいかなければならない。
「行かないで!!×××・・・!お願い・・・・ダクネス・・・×××・・・・」
私の名前を呼んで、独り泣いている、この子のところに・・・
フッと窓の外から風が吹く。
目の前の子は、
窓の外に目を向け、
廃墟となったアクセルの街を見て、
・・・どさり、とその場に倒れた。
■■■
私が次に目を覚ましたのはダスティネス家の実家のベットだった。
クリスは無事に私をアクセルの街まで届けてくれたのだ。
私は急いで支度をして、魔王軍による王都陥落の報告をすべくギルドに向かう。
そしてこの物語の舞台は、アクセルの街へと移る。
私はそこで、別の歴史を知るという一人の紅魔族の少女と出会うことになる。
この世界で行われる戦争を盤面ごとひっくり返そうとする頭のふっとんだ紅魔族の少女。
ここから先の物語は、その紅魔族の少女に語り手を譲るべきだろう。
私がおかしな夢を見ることはもうない。
なぜなら、その夢は・・・
ダクネス編終了です。
このすば!らしからぬシリアスな話にお付き合いいただきありがとうございました。
釈然としない感じの終わり方になってしまったかもしれませんが、実力不足の筆者だなぁと思いつつご容赦ください。
なお、分かった方もいるかと思いますが、この回のカズマとのやりとりの夢はめぐみん編7話と、最後のショッキングめぐみんの夢はめぐみん編12話とリンクしています。
ダクネス編だけ読んだという方は、是非めぐみん編とアクア編をお読みください。王都が陥落したこの世界の謎と帰結が明らかになります。
ダクネス編はダクネスのカッコよさを引き出そうと作者なりに頑張ったのですが、いかがでしたか?私はこのすばで一番かっこいいキャラはダクネスだと思ってます。
この王都陥落編は着想段階ではアイリス編としてやるかなぁ、くらいに考えていたものです。
当初この小説にはダクネス編は無い予定だったのですが、ハーメルンでアクア編めぐみん編と続けていって、やっぱりダクネス編が欲しい!と思い立ち、急遽ダクネス編としてまとめたものです。
もし需要があれば、ダクネス編の続きとして、アイリス王女の王都奪還編でも書こうかなぁ。
さて、次は最終章のエリス編です。
エリス様が神格を失って大変なことに!?お楽しみに!