第30話 月夜の銀髪盗賊団
ゴーン、ゴーン、ゴーン
轟音が邸宅全体に響き渡る。
それは侵入者の存在を知らせる警鐘の音。
「銀髪盗賊団が現れたぞー!こっちだー!」「くそ、見失った!」「もっと隅々まで探るんだ!奴らは逃走スキルや潜伏スキルの使い手だぞ!」「王城では謎のスキルで兵士達を次々昏倒させたそうだぞ!」「しかも無尽蔵の魔力の持ち主とのうわさだ!」「魔法使い職をもっと連れてこい!!」
警備兵の叫び声、駆ける音が邸宅に鳴り響く。
■■■
【クリス視点】
ここはとある大貴族の邸宅。夜も更け、皆が寝静まる時間帯、月光を受け、二対の影が壁に伸びる。
「お頭、神器はこの先の広間を抜けた場所にあるんですよね?」
二対の影の一方の主、銀髪盗賊団のひとり、仮面をつけた黒装束の男、サトウカズマこと、私の助手君が私にヒソヒソと確認の声をむけた。
「そうだね、『宝感知』だと、この広間の先からとっても強い宝のにおいがするよ。だけど、広間には結構な人数の警備兵が集まってきてるね。」
他方の影の主、銀髪軽装の盗賊団の頭、つまり私は、入り口沿いに広間の中をこっそりと覗き込み、助手君に答えた。
「いったんこいつらをどうにかしないといけませんね。」
助手君も同じように広間をのぞき込んだ。
広間には十人ほどの警備兵が集まっている。
私たちの行方について情報共有しているようだ。
私たちはヒソヒソと中に潜入する算段を立てる。
「何かいい作戦はある?」
「そーですねぇ・・・お頭が大声あげて奴らの前に姿を現して、そっちに敵が目を取られている隙に俺が広間に侵入するってのはどうでしょう。」
「キミはサラッとろくでもないことを言うよね。アタシに囮になれっていってんの?そこは普通、男である助手君の役目じゃない!?」
「ほら、俺、男女平等主義者じゃないですか。」
「なんというか・・・こんな時だけ男女平等をふりかざしちゃうあたり、逆に不平等を感じちゃうよね・・・」
私は静かにハァ、とため息をつく。
まぁ、これでいてこの助手君、潜入の場面になると他に類を見ない才能を発揮する。
王城への潜入の時の大立ち回りなんて本職の私ですら感嘆の声をあげてしまった程だ。
あ、いや、私の本職は女神業か。
助手君はあたりを見渡すと、ハッと何かに気づいたような表情する。
「じゃあ、こうしましょう。」
そういって助手君は、背中にかけた小型の弓をとり、矢を番えた。
矢の指し示す先は、廊下の続く先、遠くにあるガラス窓だ。
「ン『狙撃』ッ!!」
助手君の手元から放たれた矢は、遠くにあるガラス窓を正確に射抜く。
ガシャン!と、窓ガラスの弾ける小気味よい音が廊下に響いた。
広間の中の警備兵は、その音を聞いて反応する。
「今の音は!?廊下の方からだ!」
私たちの潜んでる広間の出入口へと複数の警備兵の足音が近づいてくる。
「なるほどね!これで警備兵が廊下の窓に気を取られている隙に広間に潜入しようってことね!」
足音が近づいてきていることを確認して、私は潜伏スキルを発動・・・
「お頭!失礼します!『潜伏』ッ!!」
「え・・・ひゃああ!!」
助手君が私の腰に腕を回しながら、潜伏スキルを発動した・・・・って!ちょっと!そこお尻!お尻さわってる!!ここぞとばかりにわしゃわしゃしてる!!
警備兵たちが潜伏中の私たちの目の前を通り過ぎていく。
・・・ここで大声を出すわけにはいかない・・・
目と鼻の先、警備兵が駆けていく中、私は涙目になりつつ、壁に張り付いて警備兵が過ぎていくのを見送った。
・・・数分後
「うぅぅ・・・アタシ、裁判すれば絶対に君から多額の慰謝料を請求できるよね・・・」
あたりに警備兵の気配がなくなったことを確認して潜伏スキルが解かれた後、私は目に涙を溜め、さめざめ呟いた。
「いやいや、お頭、これはあれです、迫りくる敵からお頭を守るためにやったことであって、言わゆる緊急避難ってやつですって。」
白々しくもそんなことを口走るセクハラ野郎に怒りの眼差しを向ける。
「ねぇ、アタシも潜伏スキル使えるんだから、わざわざボディータッチとか不要だからね。仮に私も混ぜてくれるとしても、触れるのはお尻じゃなくていいんだからね。肩とかにちょろっと触れる程度でいいんだからね!」
「お頭、何をおかしなことを言ってるんですか。別々に潜伏スキル使ったんじゃ、俺がセクハラする大義名分が無くなるじゃないですか。」
「開き直り!?おかしなことを言ってるのは君の方だからね!?」
どうにもこのセクハラ助手、私がクリスである時はやりたい放題である。
知ってのとおり、私は盗賊のクリスであり、この世界を管理する女神エリスでもある。
私がエリスの時は、なんというか、それなりに畏敬の態度を示してくれるのだけれども・・・
だから、私はできるだけ優し気な表情と声(つまり女神モード)で助手君に告げる。
「・・・サトウカズマさん、あなたには部屋でひとりでいるときに、人に見られたくないことをしている時に限って運悪く誰かが部屋に入ってくる呪いが降りかかることでしょう。」
「エ、エリス様・・・女神顔で言うのやめてください・・・マジで勘弁してください・・・調子に乗って申し訳ございませんでした!!」
そんなどうしようもない茶番をしつつも、私と助手君は問題の広間を抜け、神器を求めて先を急ぐ。
危険な侵入においても私達二人とも随分と余裕がでてきたものだとつくづく感じる私だった。
■■■
『宝感知』のアンテナがフルに立つ宝物庫までやってきた。
私が開錠スキルで宝物庫の扉の鍵をいじくっていると、助手君から声がかかる。
「それにしても、今回の神器はアイギスの下位互換って感じですかね。」
確かに、そうとも評価できるかもしれない。
私たちが目的とする神器は、それを装備すると装備者に向けられた魔法を無効化する腕輪だ。
魔法耐性をあげるものならば、紅魔族の里の「魔術師殺し」があるが、あのような大型のものでなく、もちろんバッテリー切れなどにもならない。そもそもあれは神器ではないが。
魔法やスキルを無効化するものならば、聖鎧アイギスがあるが、今回の神器は腕輪なのでもちろんアイギスのように失礼なことを喋るような装備品ではない。
正真正銘の神様印の装備品。RPGでいえばラスボスを倒した後、隠しダンジョンの最奥に眠っているクラスの伝説級の装備品だ。
ところで、この魔力無効化の腕輪やアイギスに対して、どんな存在にもダメージを与えられる最強魔法、エクスプロージョンを放てばどっちが勝つのだろうか。いつかやってみたい。
・・・まぁ、それはよいとして、この神器も例にもれずというか、所有者以外の者が装備すると本来の力が発揮できない。
いや、この神器は、発揮できないというのではなく大きなデメリットを背負うことになる。
すなわち、所有者以外の者が装備すると、最凶クラスの猛毒の状態異常に襲われるのだ。
「そうだねー、悪用なんてされたら大変だけど、まぁ、悪用される以前に装備者が猛毒ですぐ死んじゃうっていうのも危険だよね。それを未然に防止するためにも早々に回収しないと・・・っと、宝物庫の扉、空いたみたいだよ。」
カチャリと音を立てて宝物庫の鍵が外れた。
私たち二人は、ゆっくりと扉を押し開け、宝物庫の中に侵入する。
宝物庫の広さは、助手君の屋敷の居間くらいだろうか。
宝物庫を見回してみる。
敵感知スキルに反応はないようだ。
・・・と、宝物庫の最奥、ご丁寧にも台座に乗せられる形で目的の腕輪が置かれていた。
「うーん、どう見ても怪しいよねぇ・・・」
「でもお頭、あの台座、罠感知にはひっかからないですね。」
私たちは訝しみながら、警戒しながらも台座の傍まで近づく。
そして、神器の腕輪に手をかけた瞬間・・・
「とつげきーーーーーーーーーーー!!!!」
掛け声とともに、複数名の警備兵達が宝物庫の窓から侵入し、私と助手君を取り囲む。
どうやら、宝物庫狙いだとあたりをつけて窓の外に待機していたようだ。
「ハーッハハ!銀髪盗賊団め、我々に気づかずまんまとここに現れおって!!貴様らが敵感知スキルをもつことは把握済みだ!我々は敵感知遮断の魔道具を使って存在を隠していたのだ!」
宝物庫に響く妙に説明口調な声。
複数名の警備兵たちの後ろから声の主が姿を現した。
その姿態は、がっしりとした体格、ジャケットを羽織り、ハットを被った中年の男性。
「でたね、とっつぁん!!」
そう、彼は何故か、私たちの逮捕に異様に執心しており、銀髪盗賊団の名前を聞くとどんな場所にも嬉々として現れる憲兵である。まるで日本で有名な怪盗アニメ、ルパン三世の銭形警部だ。
ちなみに私はテレビシリーズを全て網羅している。
好きなエピソードは『愛のダ・カーポ』
推しキャラは次元大介。
そして助手君も当然このアニメを知っているわけで。私と助手君は、その男を銭形警部の呼称、とっつぁんと呼んでいる。
「銀髪盗賊団め、今日こそ逮捕してやる。この包囲網を突破できるものなら突破してみろ!お前ら、抜かれるなよ!!」
「「「「押忍!」」」」
私たちの周りを警備兵が取り囲み、私達にじりじりとにじり寄ってくる。
四方や上方をチラリと見やるも抜け道になりそうなところが無い。
まさに王手。まるで将棋だね。
「はぁ・・・助手君、四方囲まれちゃって、これはちょっとお手上げかなぁ・・・?」
「そうですねお頭・・・俺らもここまでですかね・・・」
私は息を吐いて諦めの態度を示すべく両手を挙げてとっつぁんの方に向けて歩く。
助手君が私の後に続く。
「おっと、おかしな真似をするなよ。まぁ、素直にお縄にかかるというなら悪いようにはしねぇよ。」
私達の素直な降伏の態度を見てとっつぁんが上機嫌に声を上げた。
「そうだね・・・助手君!!!」
「『ウインド・ブレス』!!!!」
私が唐突にしゃがみ込むと、後ろでこっそりとクリエイトアースで土を生み出していたいた助手君が飛び出し、目の前の警備兵に向けて風の初級魔法で目つぶしを喰らわせた。
「ぎゃー!目が、めがー!!!!」
目の前の警備兵はとっつぁん含め、目を抑えて悶絶する。
「「突破ー!!」」
私と助手君は目の前で悶絶している警備兵達をかき分けて宝物庫から脱出する。
初期と比べて一話毎の文字数が多くなってきてしまっている・・・