「くそー!!!者ども、追えー追えーーー!!!!」
背後でとっつぁんの大声が響く。もう目つぶしから回復したようだ。なんという超人。
邸宅内を警備兵から逃げ回る。
私と助手君は逃走スキルを使っているのだが、相手は速度強化の支援魔法を受けているようでなかなか振り切れない。
むしろこのままだと・・・
「やばい!!追いつかれる!!助手くん!」
「ハァ、ハァ・・・お頭!ここは俺を置いて先に行ってください・・・」
「な、なに言ってんの!?」
女の私を庇って先に行かせるなんて、それじゃキミが捕まって・・・
「ハァ、ハァ、も、もう走れませんお頭・・・最近屋敷で喰っちゃ寝し放題で体力が・・・・」
私は助手君(メタボ予備軍)の後ろに回ってお尻を蹴り上げた。
「しょうがないね・・・『ワイヤートラップ』!」
私は後方に向けて鉄製のワイヤーを張り巡らせた。
後方からとっつぁんが叫ぶ。
「おぉっと!貴様らがワイヤートラップを使うことも把握済みだ!ワイヤー切断部隊前にでろ!」
どうやらワイヤー対策もお持ちのようだ。
しかし・・・・
「これでもくらえ!!!!」
私はそう言って液体の入った瓶をワイヤーが張られた廊下の天井に向けて投げた。
瓶は勢いよく天井にぶつかって割れ、張られたワイヤーに中の液体をまき散らす。
「助手君!!!」
「任せてくださいお頭!『フリーズ』!!!」
・・・・?
「あれ?凍りませんね?」
「助手君!ちがーう!!火がほしかったの!あの液体は油だよ!」
「えぇ!?お頭!それならそうと早く行ってくださいよ!凍らせて切断されにくくする作戦かと思いましたよ!」
「言わなかったあたしも悪いけど!ってか凍らせたら切断されにくくなるの?じゃなくて、ほら!やつらが呆気にとられている今!ほら早く!あぁ・・・冷やしちゃったけど、ちゃんと火つくかなぁこれ・・・・」
警備兵たちに目をやると私達の意図を把握したようでワイヤーの切断に取り掛かりつつある。
「おらぁ!これでも喰らいやがれ!『ティンダー』!!!」
助手君の手のひらに生じた炎は油のかかったワイヤーへとまっすぐ進み、油に着火して激しく燃え上がった。
「あ、あちちち!!!!!くそぉ!誰か、火を消せぇぇぇぇ!!」
炎の舞い上がる廊下の先、とっつぁんの声が響いた。
私と助手君は向かい合って、頷き合い、例のセリフを高らかに叫ぶ。
「「あばよーとっつあーん!」」
「ぐぬぬ、次こそは逃がさんぞ!銀髪盗賊団!」
廊下をかける私たちの背に、とっつぁんからお約束の返事が届けられた。
■■■
貴族の邸宅から無事逃げ切った私たちは街のはずれで足を止めた。
「ハァ・・・ハァ・・・今回も何とかなったね・・・」
「ヒー・・・ヒー・・・フー・・・もう無理・・・もう・・・も・・・モロロロロロロロロ」
「いやぁぁぁぁぁぁ!!」
盛大に胃の内容物を逆流させた運動不足過ぎる我が助手・・・
「ちょ、ちょっと、そこの小川で顔洗ってきなよ。そんなんでよく冒険者が務まる・・・うぷ・・・」
貰いゲロを何とか寸止めして酸っぱい助手君から鼻をつまんで距離をとり、しっしっと小川へ促す。
あ、ちなみに女神はゲロをしないから。綺麗な虹ができるだけだから。
助手君はトボトボと小川に歩いて行った。
しかしまぁ、毎度毎度危ない目に合ってるけど、それでも今まで一度も捕まらない私たちの悪運も相当のものだなと改めて思う。
私たちは二億の賞金首、捕まったらもうアウトなのだけれども・・・
私は回収した腕輪を仕舞うと、ごろんと芝に横になり足を投げ出し夜空を見上げる。
夜空には満天の星が輝き、大きな月が真ん中に鎮座している。
この世界も地球と同じように衛星が周回してるんだな、などと考えてしまう私はやっぱりこの世界の住人とは異質な存在なわけで・・・
・・・・・・・
そういえばカズマ君から聞いた話では、アクア先輩はたまにぼうっと月を見上げることがあるのだとか。
・・・・・・・
アクア先輩------カズマ君に天界からこの世界に引きずり込まれた女神。
・・・・・・・
私がこの世界で先輩に会うと、天界では見たこともないような表情をいつも見せてくれる。
・・・・・・・
先輩はこの地に降りて何を思うのだろう。
先輩は月を見上げて何を思うのだろう。
女神から解放されるって、どんな感じなんだろう。
仲間と一緒に日々を過ごすって、どんな感じなんだろう。
・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・羨ましいな
「・・・・・クリス?」
「・・・・え?」
「どうしたんだよ、ぼーっと空なんて見上げて。」
声を掛けられてふっと現実に戻った。
「い、いやぁ、ちょっと考え事をね。」
「ふーん、まぁ女神様で盗賊だもんな。俺には考えられないほどの働き者だし、俺には考えられないくらい大きな悩みも抱えてるんだろうな。」
そういって彼は私の隣にごろんと寝転がった。
大きな悩みだなんてとんでもない、ひどく個人的な事だ。
私は自分の腕を枕にして彼の方に体を向ける。
「今回もありがとね。キミのおかげでまたどこかの誰かが救われるよ。」
「今度は俺じゃなくてめぐみんあたりを連れてってくれよ。あいつはいつもやる気いっぱいだし。っていうか、これまでは不法侵入に窃盗、せいぜい傷害くらいだったけど、ついに現住建造物放火にまで手を染めちゃったよ・・・ハァ」
「あそこの廊下は石造りだったから大事にはならないって。大丈夫大丈夫。そもそも私たちは王城で王女様にスティールをかましてるからね。どうあがいても捕まったら極刑だよ。ふふふ。」
「ふふふ、じゃないんだけど・・・ハァ」
彼の、やれやれ、といった態度がなんだか可笑しくて私は笑ってしまった。
そして、彼に何気なく問いを発する。
「あのさ、先輩って今幸せなのかな?」
彼は目線だけこちらにチラリと寄越して口を開く。
「先輩ってアクアのこと?さーなぁ、少なくとも酒を飲んでる時とゼル帝の面倒見てる時は幸せそうだよ。でも、どうなんだろうな。今日なんてめぐみんとのボードゲームでぼろ負けしてダクネスに縋り付いて泣いてたし。そういや昨日はダクネスに飲みすぎだって酒を没収されてめぐみんに泣きついてたな。ん?一昨日もめぐみんの杖を物干し竿代わりにしてブチ切れためぐみんに泣かされて・・・って、あいつ泣いてばかりじゃねーか・・・そんな真面目な顔でどうしたんだよ?」
「え?あ、あぁ・・・ご・・・ごめんね。」
無意識にカズマ君の顔を凝視してしまっていたようだ。
「はっ!つ・・・ついに女神フラグが・・・」
「立ってないから。」
馬鹿なことを言い出した彼に突っ込みを入れた瞬間、彼が叫ぶ。
「あ!!!フラグで思い出した!そういえば今日の夜はめぐみんルートでお泊りイベントが発生してたんだった!CG回収逃すところだった!あぶねぇあぶねぇ!」
「まずそのギャルゲ脳をなんとかしなね・・・」
カズマ君は慌てて立ち上がって私にお別れの言葉を向ける。
「じゃあまた!どうやって天界まで帰るかわからないけど、クリスも気を付けてな!」
「あ・・・ね、ねぇ!」
「ん?」
----もうちょっとだけ話を・・・
私は上半身を起こして彼を引き留めていた。
彼は走り出そうとした足を止めてこちらを振り返る。
私は彼に向けて伸ばしかけた腕を途中で止める。
「あの、いや・・・その・・・あ、ありがとね!」
「?・・・おう、じゃ、またな。」
・・・・・・・
彼が私のもとから離れていく。
私は伸ばしかけた腕を静かにおろす。