この素晴らしい天界に祝福を!   作:勾玉

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第32話 エリス様の憂鬱

【エリス視点】

 

 

魔法無効化の神器を回収した私は天界に戻ってきていた。

 

天界の執務室。日常業務に一区切りつき、ハァと息をつく。

 

そして物思いにふける。

 

・・・・・・

 

私はあの瞬間、どうしてカズマさんを引き留めようとしたんだろう。

 

アクア先輩の話をもう少し聞きたかった?

 

そう、確か、あの時は旅立った先輩のことを羨ましいと思ったんだ。

 

もし先輩でなく私がカズマさんと旅立つことになっていたら・・・

 

・・・・・・

 

確かに銀髪盗賊団としてカズマさんと義賊をしているとき、私は昂(たかぶ)っている。

 

常に危険と隣り合わせなのは確かだけれども、ドキドキしている。楽しいと感じている。

 

とっつぁんの包囲網をかいくぐったときなんて、本当にたまらなかった。

 

思い出すだけで顔がにやけてしまう。

 

・・・・・・

 

 

貴族の邸宅から逃げ切ったあと、地面に寝そべって見上げた夜空の月はなんだかいつもよりも淡く見えた。

 

 

あの時、カズマさんともう少し話をしたいと思った。その時間がもう少し続けばと思った。

 

そして、別れるのが寂しいと・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

・・・・・・

 

 

【挿絵表示】

 

 

「はあああああああああん!!!」

ぐるぐる回るその時の回想と落ち着かない感情に、私は頭を掻いて大声をあげた。

 

「ど、どうしたのエリス!?いきなり悩まし気な声をあげて・・・」

「はぇぇ!?!?」

突然と声をかけられたことに驚いた私が顔を上げると、そこには私の先輩にあたる女神が立っていた。先輩といってもアクア先輩ではない。

 

彼女は時を司る女神にして私の先輩にあたる女神だ。

その先輩が部屋に来て私の目の前に立っていたことにも気づけないくらい私は考えに没頭していたようだ。

 

先輩が訝し気な表情をして私を見ながら問う。

「何か悩みごとかしら?」

「い、いえ、ちょっと下界にいるアクア先輩のことなんかを考えてまして・・・」

「アクア・・・あの駄目神がどうかしたのかしら。そういえばエリスはあのトイレの神様と仲が良かったものね。最近、彼女の姿を見ていないと思ったら地上に遊びに行ってたのね。まったく、日本での業務はどうしたのかしら。」

「あ、あはははは・・・まぁ、地上に降りたのは、いろいろ事情があったようですよ・・・」

 

正直、私は、目の前の先輩に苦手意識を抱いている。

アクア先輩とは真逆の性格、冷静沈着で感情が読めないというか、鉄面皮というか、人間味がないというか、仕事人間というか。まぁ人間ではなく女神なのだけれども。

 

そんなキャリアウーマン系女神は早々に話を用件へともっていく。

「まぁいいわ。エリス、あなたに聞きたいことがあったの。」

「な、何でしょうか?あ、とりあえずお茶でも・・・」

「結構よ。・・・あなた、地上で神器を回収しているようね。」

「えぇ、まぁ。あ、そういえばこの腕輪も回収してきたもので・・・」

「回収した神器ってどうしているの?」

「神器をどうしているか・・・?」

 

意識高い系女神の先輩は脱線もせず淡々と私に問いを向けてくる。

なんだか取り調べを受けている気分だ。

 

「えーと・・・危ない神器なら封印して使えないようにしますし、新たな所有者が見つかるようであれば魔王軍への対抗措置として別の所有者に授けていますが・・・。」

「ふーん・・・」

 

 

・・・なんだろう、すごく嫌な予感がする。

 

 

 

「実はね、エリス、あなたには、天界に敵対する可能性があるんじゃないか、という容疑がかかっているわ。」

 

 

 

「・・・・・・は?」

これ以上ないくらい阿呆な顔になっていた気がする。

 

意味がわからない。

 

なぜ私が天界に敵対しなければならないのだろう。

 

とりあえず私は周りを見渡し『ドッキリ大成功!』と書かれた立札をもった天使の姿を探す。が、見つからない。

 

「なにキョロキョロしているの?」

「え、え・・・っと、私は神器を回収していただけなのですが、なぜそんな疑いがかかっているんですか?」

確かに神器の力をもってすれば、天界の戦力にも対抗できるかもしれない。けれども、そんなことをしようなど欠片も思っていないのだけれど・・・

「あぁ、勘違いさせちゃってるみたいね。ごめんなさいね。あなたに容疑がかかっているのは、神器を回収しているから、という理由ではないわ。」

「で、ですよね!でしたら、なぜ私にそんな容疑が・・・」

「エリス、あなた、禁忌を犯したようね。」

「・・・は?」

 

本日二度目となる阿呆な顔を目の前の女神へと向ける。

 

禁忌?・・・何だろう。

私が天界規程に背くようなこと・・・そんな・・・あ、カズマさんの蘇生?

でも、あれはアクア先輩の神様レベルの理不尽リザレクションに付き合わされているだけであって・・・いや、最近では私の方もカズマさんの蘇生を後押ししている気もする・・・

 

「あの・・・確かにとある冒険者の方を複数回蘇生させてはいますけれども、あれはちゃんと事後に然るべき手続きをとって・・・」

「そうじゃないわ。」

 

・・・何だろう、ほかに心当たりなんて・・・

 

 

「あなた、タイムリープを使ったわね。」

「はぇ??」

 

本日三度目となる阿呆な顔を目の前の女神へと向ける。

私は全く身に覚えのない指摘をうけて素っ頓狂な声を上げてしまっていた。

タイムリープを使った?

タイムリープとは、簡単にいうと時間を巻き戻す術である。

タイムリープは、天界の秩序の崩壊を招いたり、タイムパラドックスの発生により時空間が崩壊するという説もあるほどに危険なものだ。

そして、タイムリープは成功する可能性がとてつもなく低い。

ゆえに、天界規程によって使用が厳禁とされており、使用者には厳格な罰が与えられ、神格をはく奪されることになっている。

 

そのような代物であるため、それを使う女神は滅多にいない。少なくとも私は使われた例を知らない。

 

 

「わ、私にはまったく身に覚えがないのですが・・・」

「まぁ、タイムリープによって歴史が変わって、タイムリープを使ったという事実自体が改変されたのでしょうね。」

・・・そ、そうなの??

確かにタイムリープで歴史改変がされたことを知覚できるのは、時を司る女神か見通す悪魔くらいだといわれている・・・

 

「で、でも私にはタイムリープを使う理由なんてありませんよ?」

「あなたがタイムリープを使った理由は私もわからないわ。でも別の歴史のエリスには何かしら動機があったんじゃないかしら。」

 

そんな・・・別の歴史の私はなぜそんな馬鹿なことを・・・

もしかして、別の歴史の私は本当に天界への敵対とかを企てていたり・・・

 

・・・いや、私は英雄譚とかが大好きなので、世界を守るにはタイムリープで歴史を変えるしかないとか、そういった方向で絆(ほだ)されるとチョロくもタイムリープを使ってしまうかもしれない。

 

・・・ありえる。

 

自重の気持ちでいっぱいになっていた私に向けて意識高い系女神は言葉を続ける。

「でも、いきなり神格をはく奪されたりはしないわ。天界でも相応の調査をして証拠を揃える必要があるからね。あと、重大なタイムパラドックスが生じていないかの調査も必要だし。」

 

ということは、証拠次第では、私の神格がはく奪されるということか。

確かタイムリープの罪には地獄送りの刑という極刑が科されていたような・・・

 

途端に全身に冷や汗がわき、顔が青くなっていくのがわかる。

 

 

「それで、あなたに上から通達があるわ。」

「な、なんでしょうか・・・」

 

 

 

「あなたの女神の能力と権限を、調査終了まで凍結します。」

 

 

 

「・・・え?」

 




タイムリープ周りの経緯はめぐみん編で語られます
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