アクシズ教会に着いた私たちは、そこの信者から問題のエリス教冒険者についての情報を聞き出していた。
ダクネスがなぜかエリス教信者の印の入ったペンダントをこれ見よがし掲げ、一人だけお茶を出されずに真っ赤な顔して喜んでいた以外、特に問題もなく情報を得ることができた。
どうやら、問題のエリス教徒の冒険者、普段は物腰の柔らかな戦士職だったようだが、事件の数日前から人が変わったように荒々しくなってしまったらしい。
ちなみに今現在、その冒険者は消息不明とのことだ。どうやらギルドで捕縛依頼が掲げられていることを察知して身を隠してしまったらしい。
ちなみに、販売停止になっていたアクシズ教の聖水は、近日販売を再開するようだ。
そこで、私達はとある作戦にでることにした。
アクシズ教会で情報収集をした日の翌日の深夜の時間帯・・・私たちはアクシズ教会の聖水が保管されている倉庫にいた。
「それにしても犯人、現れないね。」
アクシズ教の聖水に毒を混入するという特殊な手段をとってくるあたり、何かしら、そのやり方に犯人の趣向性というか、意図というものがあるような気がする。というのはカズマ君の言だ。
「・・・・・・」
そうであるならば、アクシズ教の聖水を再度狙う可能性が高いのではないか。闇雲に探すよりも、改めてアクシズ教の聖水を狙ってくるのを待つ方がよいのではないか、と考え、昨日から聖水の保管してある倉庫を見張っている。
「・・・・・・」
ちなみに、交代で見張ろうということで、この時間はカズマ君とアクア先輩、それに私の三人が見張っている。
「・・・・・・」
見張っているはずなのだが・・・
「くかー、すぴー・・・」
「アクアさん・・・」
「こいつ・・・アクシズ教の女神のくせに、アクシズ教団を助ける気があるのか・・・」
目的の相手が一向に現れず、あまりに手持無沙汰なため、アクア先輩が夢の国に旅立ってしまった。
先輩に目をやり、カズマ君はため息をつく。
「ハァ・・・やっぱりそう都合よく相手さんが現れてくれることも無いか・・・作戦を練り直したほうがよいのかもしれないなぁ・・・」
「ははは、でもまだ二日目だし、もう少し粘ってみようよ。」
「これで何日待つことになるのやら・・・」
やっぱりアクシズ教のことなんてほっといて帰るかぁ、などとぶつぶつ言う彼に、私は、何気に提案してみる。
「ねぇ、君は特定の信仰をもってないんだよね?ならエリス教に入信してみない?」
「いや、これまで無宗教で苦労したことなんてないし。俺は日本で宗教の話とかされると耳を塞いでたくらいだからな。クリスには悪いけど、宗教とかって苦手なんだよ。」
「無宗教で苦労したことは無いの?神や超常的な存在に助けを求めたいとか思ったりしないの?」
「うーん・・・誰かに助けてほしいって思うことはあるけど、まさか本当に神様がいるなんて思ってなかったしなぁ。」
確かに、日本人の多くは神が存在するとは思ってないだろう。
だからといって、それが不幸に直結するわけではない。
実際、神の存在を信じていなくとも、自分の力で人生を切り拓いている人は多い。
むしろ、神に頼らない方が自らの力を信じ、強く生きていけるのではないだろうか。
・・・だとしたら、
「・・・カズマさん、」
・・・この世界にも女神という存在は、
「必要ないのかもしれないですね・・・」
「ん?どうした?・・・!!」
・・・・・・・!!
そのとき、首の後ろあたりにビリリとした感覚があった。
彼も同じように感じたようで驚いた顔をしている。
この感覚は・・・『敵感知』だ!
私と彼は頷き合って、この場に訪れる敵の姿を物陰から探る。
すると、コツコツと靴の音が聞こえ、その音がどんどん大きくなってくる。
「あ・・・」
私の目がその犯人の姿をとらえた。
その男は、私も知っている、とても信仰心の厚い戦士職のエリス教信者だった。
「・・・そんな・・・何で・・・」
私の頭の中は疑問符でいっぱいだった。
男は毎日エリス教会に通いつめてお祈りをしてくれていたとても真面目な人なのに・・・
「お、おい、クリス大丈夫か!?顔が真っ青だぞ!」
私はショックでその場を動けないでいた。
「おいこらアクア!起きろ!支援魔法だ!目標のやつが来たぞ!」
「むにゃむにゃ・・・あと5分・・・」
「あーもう!これじゃ実質俺一人じゃねぇか!」
カズマ君が頭を抱えて声を上げた。
すると、その声に気づいた男は私達の隠れている方に目を寄越す。
「なっ!お前、なぜここに・・・」
男はカズマ君を見て明らかに動揺の態度を示した。
「ねぇ、知り合いなの?」
私はカズマ君に尋ねる。しかし・・・
「い、いや、まったく知らないんだが・・・」
カズマ君は、ほんとうに心当たりがなさそうな、わけがわからない、といった表情をしている。
「連れはその盗賊だけか・・・そうか・・・」
男はニヤリと顔を歪ませた。どうやら私のことなど取るに足りないといった感じだ。
・・・・・・
「お、おい!クリス!相手がどんな奴かもわからないのに前にでるな!」
隠れていた場所から数歩前にでる私に、カズマ君が注意をくれた。
しかし、私はその男にどうしても確かめたかった。
そして、返答次第では、エリス教の女神である私が・・・
私はその男に問いかける。
「・・・あなたが、アクシズ教の聖水に毒を混ぜたの?」
「ククク・・・あぁそうさ。」
男は邪悪に笑う。こんな笑い方をするなんて、本当に人が変わってしまったかのようだった。
「・・・なんでこんなことをしたの?」
「お前は知らないかもしれないが、俺にはアクシズ教に深い恨みがあってなぁ、ククク・・・」
それを聞いた私は、腰に掲げるマジックダガーに手を添えた。
「お、おい、クリス!」
カズマ君が私に向かって声をあげた。
「・・・黙って。これは私自身が決着をつけなければいけない問題みたいだから。」
「ほう、盗賊ごときが、この俺を倒せると思っているのか。」
目の前の男も腰をおとして攻撃態勢に移行する。
そして、異様な殺気を放つ。
私もマジックダガーの柄を握り、相手を睨みつける。
「待て!クリス!」
後ろで私を止めるカズマ君の声がするが、もう後戻りはできない。
次の瞬間にも死合は始まる。
睨み合う私達の目線がぶつかり合う。
辺りがシン、と静まり返る。
・・・・・・
次の瞬間・・・
「はあああああああああ!」
「おおおおおおおおおお!」
「『ピュリフィケーション』!!!」
「ぎゃあああああぁああああ!!!」
「「・・・え?」」
私とカズマ君は素っ頓狂な声をあげた。
■■■
気が付くと、目の前の男は、私の後ろにいたアクア先輩の浄化魔法を受けて、シュウゥゥゥゥ・・・と煙を上げている。
・・・煙???
「何だかそのエリス教徒、汚物のように私の浄化欲を刺激するんですけど・・・ふわぁぁぁぁ・・・」
先ほどまで眠りこけていたアクア先輩は目をこすりつつ、あくびを掻きつつ、そんなことを言う。
「ぐ・・・き、貴様も隠れていたとは・・・ここはいったん退きゃ・・・」
「『ピュリフィケーション』『ピュリフィケーション』『ピュリフィケーション』『ピュリフィケーション』『ピュリフィケーション』『ピュリフィケーション』『ピュリフィケーション』『ピュリフィケーション』!」
「ぎゃああああ、体が浄化され・・・やめ、ヤメロォォォ!」
「「・・・・・・」」
私とカズマ君は目の前の男が浄化されるのを呆然と眺めるしかなかった。
っていうか、なぜ浄化されるんだろう?私の信者ってそんなに邪悪だったの?
なんとも理解に苦しむ光景を目の前に、私は固まるしかなかった。
そして、それもつかの間、目の前の男は跡形もなく浄化されてしまった。
・・・・・・
「ふぃー、結局私のお手柄だったわね!」
「いや!おかしいだろ!なんで、ただの人間が浄化魔法で浄化されるんだよ!」
カズマ君は、私の心の叫びを代弁してくれた。
「あれ、人間じゃないわよ。」
「「え?」」
「いつだかアルカンレティアの温泉を毒まみれにしてくれたガチムチスライムがいたじゃない。アレよアレ。」
アルカンレティアの件、私も天界から様子を見ていたので知っている。
相手はデットリーポイズンスライムのハンスという魔王軍の幹部だ。
確かに、ハンスは捕食した相手に擬態できるという能力をもっていたはずだけども・・・
「でも、あのスライムって、アクアさんのゴットレクイエムで浄化したんじゃ??」
「したわよ。でも、飛び散ったスライムの一部が浄化を逃れたのかもしれないわね。そこから他の生物を捕食して回復してったんじゃないかしら。まぁ、私も本気を出すまでもなかったから、力はだいぶ衰えてたみたいだけど。」
「じゃあ、エリス教の信者は自ら悪事を働いたわけじゃなくて、ハンスに取り込まれただけだったんだ・・・」
「そうみたいね。」
捕食されて犠牲になった信者は可哀想だが、犯人はスライムの擬態だったという事実が知れれば信者が汚名を被ることはないだろう。
信者の名誉は保たれそうだ。本当に良かった・・・
「さて!もう夜も遅いし、今日は宿に戻って休みましょう!こんな倉庫じゃロクに休めもしないわ!」
「お、お前・・・」
こうして、王都の毒聖水事件は一応の解決を迎えた・・・
・・・のだが・・・
私の本当の戦いは、
これから始まるのだった。