本日は3話同時投稿です。
こちらは1話目です。
数時間前、王城のある会議室にて
【アイリス視点】
「・・・というわけで、アクシズ教の毒入り聖水事件は魔王軍幹部の仕業であるということがギルドからの報告で明らかになりました。」
「魔王軍幹部ですか?」
「はい。以前アルカンレティアで討伐されたと思われていたデッドリーポイズンスライムが消滅しきっておらず、冒険者に擬態して我らが城下町に紛れていたとのことです。」
「そうですか・・・」
私は城下町の情勢について、クレアからの定例報告を受けていた。
「すみません、検問が甘かったかもしれません。私の采配ミスです・・・」
クレアは深く頭を下げる。
「いいえ、クレア、擬態されていては容易に判別することは困難でしょう。擬態といえば、エルロードのドッペルゲンガーも厄介な相手でした。」
私はお兄様の姿をしたドッペルゲンガーのラグクラフトを思い出す。
・・・そういえばエルロードの王城の寝室でお兄様の姿をしたドッペルゲンガーにあんなことをされそうになったのだ・・・
ドッペルゲンガーとの一件を思い出して顔が熱くなる。
「・・・?どうされました、アイリス様?何だか顔が火照っているようで美味しそ・・・ではなく、具合が悪そうですが?」
クレアがずい、と接近する。
「いいえ、何でもありません。クレア、よだれを拭いてください。」
クレアは慌ててよだれを拭いた。
「ところで、クレア、今回デッドリーポイズンスライムを討伐したのはどなたでしょうか。魔王軍幹部を討伐した功績を称えて私自ら褒章を授けたいところです。」
「はい、それが・・・討伐者はどこぞの冒険者とのことですが、匿名希望とのことで・・・。」
「匿名希望??」
何か私達に気づかれると良くないことでもあるのだろうか。
「はい、アイリス様。名誉なことというのに、慎ましい冒険者です。」
「・・・もしかして・・・」
「どうなさいました?アイリス様?」
「いえ、何でもありません、クレア。」
「?そうですか、では私は雑務が残っていますのでいったんこれで失礼します。」
クレアは一礼して、会議室をでていった。
私も自室に戻ろうと席を立った時・・・
(アイリス、アイリス、)
私を呼ぶ声が聞こえた。
この声は・・・
「お、お兄様ですか!?」
「あぁ、お兄ちゃんだぞ。王城の内部は把握しているとはいえ、誰にも見つからずにアイリスを探し出すのは結構苦労したぞ・・・」
単身で誰にも見つからず王城に忍び込むなんて・・・ある意味ドッペルゲンガー以上にとんでもない。
いや、それよりも・・・
「い、一体どうしたのですか、突然!?」
私は、突然のことで少しパニック気味に矢継ぎ早に質問を繰り出す。
「お、お兄様!一時記憶を失っていたと伺いましたが、大丈夫ですか?私のことを覚えてくれていますか?どれだけ言ってもクレアはお兄様にあわせてくれないくれないのです!あ、城下町で魔王軍幹部を撃退したのはお兄様達ですよね!」
「ア、ア、アイリス!しー!しー!見つかっちゃう!今度白スーツ達に見つかったら記憶消去以上に大変なことをされそうだから!」
興奮を抑えることができない私にお兄様は必死になって私の暴走を止めようとする。
「もも、申し訳ありません、お兄様・・・ついお会いできたのが嬉しくて止まらなくなってしまいました・・・」
「あぁ、もちろん世界一可愛いアイリスがお兄ちゃんに興奮するのはお兄ちゃんも興奮するが、今は結構急いでいて・・・」
きわどいことを言いつつも、わりと真剣な表情のお兄様に、私も少し冷静さを取り戻す。
「急いで?いかがなさいました?」
「実は・・・」
・・・・・・
エリス様が天界で魔王軍と戦われているということ。
しかし敵が強大で、苦戦されているということ。
そんな普通では信じがたいことをお兄様は語る。
それでも私は知っている。
お兄様が想像の斜め上の出来事に巻き込まれる体質をもつ不思議なお方だということを。
「・・・それでアイリスには、王都のエリス教徒の祈りをエリス様に届ける手伝いをしてもらえないかと思ってな。」
「エリス教徒の祈りを・・・ですか?」
「あぁ、女神ってのは、信者の信仰心が力の源らしくて。下界の俺らが天界のエリス様を助けるためにはこれしかないだろうと思ってな。ベルゼルグ王国はエリス教を国教にしているんだし、アイリスも信者だろ?」
「そうですね・・・では、至急エリス教の教皇様を介して王都の信者の方々にお願いしてみますね。」
「あぁ、エリス教徒も教皇とかアイリスとか偉い人達の言葉なら、エリス様が天界で魔王軍幹部と戦ってるとか突拍子もない話を信じてくれるだろ。むしろ俺は、こんな素直にアイリスが応じてくれたのがビックリだわ。」
「何となく、お兄様は想像つかないようなことに巻き込まれる体質の持ち主だと思っていますので。」
「あ・・・あぁ。」
お兄様は、微妙そうな顔をして頷いた。
その時、
「アイリス様ー、お勉強のお時間ですよー」
レインの声が廊下の奥から聞こえた。
「ヤバい!この急いでるときに王城でもめ事を起こすのは避けなきゃな。」
お兄様が潜伏スキルで、その場を去ろうとしつつ、私に声をかけてくれる。
「アイリス、頼んだぞ!」
「あ・・・お兄様!」
私は、お兄様を引き留めようと一瞬思うも、自分のやるべきことを思い返す。
そして、お兄様に教えてもらったいいまわしで・・・
「チョー任せてください、お兄ちゃん!ですから・・・お兄ちゃんも、きっと、魔王を倒してくださいねマジで!アイリス、チョー待ってるから。」
「あ、うん、えーと・・・まぁ、そうだな。お兄ちゃん、頑張っちゃおうかな・・・うん、そのうちな、そのうち!」
そうして、お兄様は潜伏スキルで姿を消した。
「アイリス様?今どなたかとお話しされておりましたか??」
その場に現れたレインが眉根をひそめる。
「いえ・・・それよりも、至急エリス教の教皇と連絡をつないでください。それから、緊急時用の王都全体に届く拡声の魔道具の準備を。」
「ア、アイリス様??」
私からの突然の指示にレインは目が点になる。
お兄様・・・
アイリスはお兄様の期待に応えてみせます・・・!
■■■
城下町の中心近くにある広場。
王都のエリス祭りの際には様々な飾りつけで彩られて、祭りの中心となる場所だ。
広場の真ん中にはステージが設置されており、祭りの演目の舞台となっている。
その日の夜は、エリス祭りの日ではないにもかかわらず、広場が王都のエリス教徒で埋まっていた。
今、その中心でエリス教徒に天界の危機を説いているのはエリス教の教皇様だ。
「・・・というわけで、アイリス様の下にエリス様より天啓が下りました。」
教皇様とお話をする際、まさかお兄様からの依頼であると言うわけにいかず、私が直接エリス様より天啓を授かったということにしている。
教皇様は最初訝し気ではあったけれども、私が必死に訴えたことと、傍らにいたクレアが剣を抜きかけたことで、快い協力の返事を得ることができた。
「それでは、この件に関して、アイリス第一王女殿下より信徒兄弟の皆様へお言葉を賜ります。」
教皇様の取り次ぎを受けた私は教皇様に代わって前に出る。
そしてエリス教信者の方々を見渡し、皆様の心に響くよう、はっきりゆっくりと話を切りだす。
・・・・・・
「親愛なるエリス教徒の皆様、私は、エリス教の信徒の一人にして、ベルゼルグ王国が第一王女、ベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリスです。」
「火急の件とはいえ、これだけ多くの皆様が集まってくださったことに、エリス教の皆様の深く真摯な信仰心を感じております。」
その声は拡声の魔道具によって、王都全域に届いているだろう。
「我が国は国教であるエリス教の教えに従い、そしてエリス様の祝福を賜り、樹立以来、数々の戦に勝利してきました。」
「覚えておりますか。我らの幸運の女神様がベルゼルグ王国領のアクセルの街に降臨されたことを。」
「エリス様が私達の傍におり、いつも私達を見守っておいでなのは信徒の皆様には自明でありましょう。」
「皆様、思い出してください。」
「我らの生が、どれだけの幸運に満ち溢れているのかを。」
「生まれてきた幸せを」
「美しいものに触れたときの幸せを」
「友や家族と心を交わしたときの幸せを」
「何かに打ち込み心より楽しいと感じた幸せを。」
「思い出してください。」
「我らがこれまで、どれだけの祝福を受けてこの場にいるのかを。」
「我々の世界がどれだけエリス様の祝福であふれてるのかを。」
「目を閉じてください。」
「今、我らが母なるエリス様は天界にて、その蹂躙を目論む悪鬼羅刹と戦われております。」
「今、エリス様の慈愛に、加護に、祝福に報いるときは来ました。」
「我が国は武の国!さぁ、我々の祈りをもって、我らの女神とともに戦いましょう!」
「ともに天界を守るのです!」
虚空に向けて剣を振るう。
「『エクステリオン』!!」
放たれた剣閃の光は、宙を切り裂き、月を目指して、夜空の先へ先へと進む。
「我らの祈りがどんな悪意や狂気をも貫く力となります!」
「さぁ!!!」
私は握り締めた剣を月に向かって掲げる。
そして、
「母なる女神エリス様へ!!!!」
天までとどくよう、腹の底から全力で叫ぶ。
「我らの祈りよ、エリス様に届け!!!」