ラーメン屋でゲームソフトを回収した後、ヒキニートと一緒にジャージを求めて服屋を目指す。
途中、彼は、あっ・・・、と声を漏らして道脇で足を止めた。
「ん?どうしたの?」
突然止まった彼の目線の先を追ってみる。
ゲームセンターがあった。
気になるゲームでもあるのかしら。
「そういえば私、ゲームセンターに入ったことないわね。」
「マジで?」
彼は少し驚いたような表情を向けてきた。
「いいわ。ちょっと寄っていってみましょう。」
ヒキニートと一緒にゲームセンターに入る。
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店内。
そこかしこ、もの凄い音量の音響が飛び交っている。
ドンドンだの、ギュンギュンだの、にゃんにゃんだの、いやーんだの、って、なんかいやらしい感じの声まで聞こえるわね。神聖な私の耳になんてもの聞かすのかしら。いったいどんなゲームよ。
随分とわちゃわちゃとしている場所だ。
そんなわちゃわちゃとした空間を、彼は一直線に歩き、あるゲーム機体の前まで行く。
私は彼の後ろに立って機体を見る。
「ねぇ、これは何?」
「これは、アーケードカードゲームで、全国のプレイヤー達とカードゲームでバトルができるんだよ。」
「ふーん、あなた、強いの?」
「・・・まぁ、見てろよ。」
彼は機体にお金を入れ、バックから免許証くらいの大きさのカードの束を取り出す。
私はゲーム画面を見たり彼の動作を見たり。
画面には『GAME START』の文字が表示された後、デフォルメされた人物やらモンスターやらがせわしなく動く。
彼はカードを並べたりかざしたり、画面を見て、アー!とかいったり、フッ、とか笑ったりしている。入り込んじゃってる。
ややあって、彼はこちらを振り返る。
「どうだ?」
どうといわれても。
「さっぱりわからないんですけど。」
「え?だから、さっきそのトークンのフェイズ、スキップしたじゃん、・・・で、これトラッシュしたから、このコンボが決まって・・・」
「・・・なるほど。さっぱりわからないんですけど。」
彼は、説明を諦めたようで、ゲームを再開しようとする。
「ちょっと私にもやらせなさいよ。構ってよ。」
彼は驚いた表情でこっちを向く。
「でも、これは覚えるのに時間が必要だからなぁ・・・」
「別にこれじゃなくてもいいわ。何か二人でできるものはないのかしら?対戦しましょうよ。」
そういうと、彼はニヤリと頬を釣り上げた。
「俺にゲームで勝てると思ってんの?」
自信満々にいうので私は返してやる。
「そのドヤ顔も今のうちよ。あなた、神と戦ったことはあるのかしら?」
「神?」
「ふふふ・・・」
謎の強キャラ感を醸し出す私。
彼は胡散臭そうにこちらを見ながら言う。
「じゃあ、あれはどうだ?」
と言って、彼は太鼓の形をした機体に指をさす。
■■■
はっきり言う。このヒキニート、もう引くほどにゲームが強い。
太鼓のゲーム、レースゲーム、格闘ゲーム、ガンシューティング、どうぶつタワーバトル、USAゲーム、果てはじゃんけんに至るまで、いろいろなゲームで彼と戦ったが、私は一勝もできなかった。
「おかしい!おかしいから!じゃんけんなんて、完全に運の勝負じゃない!どんなずるをしたの!?なんで一回も勝てないの!?」
「ごめんな。俺、じゃんけんで負けたことないから。」
彼は、両手を少し上げてヤレヤレ、といった仕草をとる。流石に腹が立つ。
なんか周りに人だかりまで出来てるし。
「くぅ・・・待ってなさい!」
と言って、私は彼のもとを走り去り、人垣をかき分け、ひと目のつかないところに隠れる。
「『ブレッシング』『ブレッシング』『ブレッシング』『ブレッシング』『ブレッシング』『ブレッシング』『ブレッシング』『ブレッシング』『ブレッシング』『ブレッシング』・・・ちょっとエリス!あなたの祝福魔法をちょうだい!」
と、天に向かって声をあげる。
元いた場所に戻る。
「待たせたわね。悪いけれど、今の私は最強よ?誰にも負ける気がしないわ。」
「なんか、さっき、魔法がどうとか叫んでなかった?」
彼は頭の痛い子を見る目で私を見ている。が、気にしない。
「気のせいよ!さぁ、行くわよ!じゃんけーん・・・・」
私は負けた。
■■■
ゲームセンターを後にし、ヒキニートとユニクロに入る。
ユニクロにもジャージがおいているらしい。
一昔前はユニクロといえば、平民御用達みたいなイメージがあった。
初めて入る店内は整然としていて清涼感があった。そして店員の愛想がよい。
なによ、リーズナブルが売りのわりに結構いい雰囲気じゃない。
私は、綺麗に陳列された服をキョロキョロ見渡しながらヒキニートに続いて店内を歩く。
ヒキニートはジャージが置いているコーナーに着くと、陳列された商品を眺めていた。
「どんなのがいいの?」
「まぁ、これといってこだわりは無いけど・・・」
彼は、こっちをちらりと見て、少し顔を赤くして私に質問してくる。
「あのさ、女の子から見て、良さそうな・・・っていうか、変じゃない・・・っていうか、俺に似合いそうなのとか・・・あるかな・・・」
「ハァ?そんなこと聞いてどうするの?引きこもりがジャージ姿を女の子に晒す機会なんてあるわけないでしょ。」
「そっかー・・・だよなぁ・・・」
彼は、ガクッと肩を落として陳列棚に向き直った。
私は、さらっとヒキニートが見ている陳列棚を見渡し、
「まぁ、でも、アタシとしてはこの緑と黒の柄のなんてあなたに似合うと思うのだけれど。」
と、彼に告げた。
彼はびっくりした表情で私を見て、
「あ、ありがとう・・・」
少し頬を赤らめて言う。
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店内は老若男女様々な人がいて、家族連れやカップルも多い。
魔法使いのコスプレをした頭が爆裂していそうな挙動不審な女の子もちらりと見かけた。
日本の未来は大丈夫かしら。まったく。
ヒキニートが会計に行っている間、私も女性ものの商品を見てみる。
天界では神様印の羽衣姿しかしてないし、なんだか普通の女の子になったみたいで心が弾む。
自然に鼻歌などを漏らしながら、陳列棚を物色していると、
「どういったものをお探しですか。」
と店員さんが声をかけてきてくれた。
「え、えっとぉ・・・」
私は突然のことに戸惑って、しどろもどろになる。
「それにしても、お客様、物凄くお綺麗ですね・・・モデルさん?いえ、なんだか、この世のものと思えない美しさというか・・・」
「そうでしょう!私こそが水のめが・・・」
「はい?」
「ど、どうも、ミズノ メガ です。」
「は、はぁ・・・す、素敵なお名前ですね。最上もがさんみたいな。」
でた、最上もが。
「・・・そ、そうだ!こちらなんてお客様にとてもお似合いだと思うんですけれど。いかがでしょうか。」
などといって、その店員は、近くに掛かっていたワンピースを手に取り私にかざしてくれる。
「わぁ・・・」
ちょっと大人っぽくてシンプルながらも遊びのあるワンピースを見て、私は自然と声を漏らしてしまった。
「試着などもできますが、いかがでしょうか。」
「えぇ?いいんですか?着たいです!」
私は嬉々として、頷いた。
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数分後、ヒキニートが会計を終えたみたいで、私を探してやってきた。
私の姿に気がついて、目を見開く。
「ふふん、どう?」
私は、試着したワンピース姿で彼の前でふりふりとポーズを決める。
彼は顔を赤らめて呆然と私を見ていた。
「なによ、何か感想の一つも無いわけ?」
私が彼に詰め寄ると、
「すごく・・・可愛いと思います。」
彼は、緊張した面持ちで、何故か敬語で応えた。
店員はそんな彼に向けて、セールストークを繰り出す。
「彼氏さん、どうですか?彼女さん、すごくお綺麗じゃないですか?いかがですか?こちらのワンピース、プレゼントなんて。」
「彼氏!?」
彼はあからさまに動揺している。
私は、目を輝かせて彼の方を見やる。
彼は、うぅ、と声を漏らし、
「・・・ち、ちなみに、おいくらですか?」
と、うずうずと尋ねる。
「こちらは、12800円です。」
「高っ!!!・・・ごめんなさい。そこまで、お金ないので・・・」
彼は落ち込んだ顔をして店員に言った。