この素晴らしい天界に祝福を!   作:勾玉

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第4話 サキュバス店のリッチー③

ピンクと紫を基調とし、甘い匂いの漂うサキュバス店の一角。

 

大きなソファーに隣同士で腰掛け座る私と男性冒険者の二人…

 

その空間はカーテンで仕切られていて、外界から遮断された空間が存在していた。

 

 

私は隣の男性冒険者へとの距離を詰める。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あ、ダメだ、店主さん…そ、それ以上は…」

何かの崩壊が迫るような声が男性冒険者の口から洩れた。

 

 

その声を聞く私も何だか火照って来て、思わず声が漏れる。

「すごい…こんなに…熱く…おっきくなって…ぁん、なんだか…たくましい…ん…」

 

 

人間であった時ですら私の身体はこんな火遊びを知らなかった。

 

「あぁ、て、店主さん…そんなに荒っぽくしたら…も…もう…!!」

私の目の前の男性冒険者が迫りくる崩落に切なげな声を上げる。

 

 

私ももはや、あられもない声を抑えることができない。

「まだ…ぁん…まだいかないで!もっと…もっと!…あぁぁん!」

 

 

 

 

そして私は………

 

 

「ああああああああ・・・・・ア痛!なな、何!?なにするんですかバニルさん!!」

 

突然、後頭部に殴打を受けた私は涙目で後ろを振り返り、仮面の大男の姿を捉える。

 

「えぇい!様子を見に来てみればサキュバス店の接待ブースでカーテンに隠れて何をやっておるか!このアバズレ店主が!!」

「あ、アバズレ店主!?ひ、ひどい!謝ってくださいバニルさん!」

「謝るのは汝のほうだ!店内で卑猥な叫び声を上げながら隠れて花火なんぞで遊びおって!!」

「あぁぁぁ!店内で花火してたことがサキュバスさん達にばれちゃうから、しー!しーです!」

私は慌ててカーテンを閉めなおそうとするが、バニルさんがカーテンを掴んでそれを妨害する。

 

「なにが、しー!だ、汝はこの店を焼失させる気か!この放火魔め!」

「大丈夫です!これはカズマさんからお知恵をいただいて再現した線香花火なるものですが、半径1メートル以内の物や人には自動で炎耐性が付与される魔術を埋め込んでいる魔道具です!延焼なんて絶対ありませんよ!」

 

バニルさんは胡散臭いものを見る目で私を見る。

「ほう、物にも炎耐性が付与されるから、店に着火する心配は無い…と?」

「えぇ、勿論です!超強力な耐性が付与されますからね!」

私は胸を張って答える。

 

バニルさんの尋問が続く。

「それは線香花火を中心に半径1メートル以内の物に有効なのだな?」

「はい!…ば、バニルさん…そんなウォーリーを探すような目で欠陥を探さないで下さい…」

「ふぅむ。して、半径1メートルというが、その線香花火自体に超強力な耐性は…」

 

 

 

「………付与されます…」

 

 

「ふむふむ。なるほどなるほど。で、汝はどうやってその線香花火に火をつけたのだ?」

「そ、それは…イ、インフェルノで…」

 

 

ポチャン。

 

 

線香花火の火玉が燃え尽きて、その下に準備していた水を張った桶の中に落ちた。

 

 

 

「ほうほう、なぜにファイヤーボール…いや、ティンダーや小僧のジッポを使わなかったのだ?」

「そ、それは、ちょっと付与される炎耐性が強すぎまして…その程度の火力じゃ効果が無いー…みたいなー…」

「で、この初心者の街で上級魔法を習得しているのはいったい何名いるのだろうか。」

「えー、そ、そうですねぇ…私と…ゆんゆんさんと…うーん…あ!爆裂魔法でも着火できると思うので、めぐみんさんでもいけるはず…!」

 

私が必死に説明しようとしていると、目の前でバニルさんは大きく息を吸い込んで…

 

「いけるはず…            

 

 

 

 

 

 

 

 

…じゃないわボケェェェェェ!!!」

 

バニルさんのキャラ崩壊気味な声がサキュバスの店に響いた。

 

 

そんな私達のやりとりを私の隣で見ていた男性冒険者さんの顔が引きつる。

「て、店主さん…確かに綺麗な花火だったけれども俺の知り合いには上級魔法を使えるヤツがいなくて…悪いけど商品は買えないぜ…」

そう言って、そそくさとその場を離れていってしまった。

 

私は男性冒険者に手を伸ばす。

「あぁ…!まって!まだとっておきの商品が…!何てことしてくれたんですかバニルさん!もう少しで落とせそうだったのに!」

私がプンスコとバニルさんに食って掛かると、バニルさんは嫌そうな顔をする。

 

「まぁいいです。先日、ダストさんから魔道具の商売方法をご教授していただいて、その方法をとってから魔道具がバカ売れなんです。今まで苦労して売ってきていたのが馬鹿に思えるほどですよー、あーっははははは!」

「なんということだ…赤貧店主がサキュバス店の雰囲気に当てられてキャラ崩壊してしまっておるではないか…。」

 

 

「あーっはっはっはっはっは」

 

私の高笑いがサキュバス店に響く。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

さて、今日も今日とて仕事が始まる。

 

色仕掛け作戦はとても上手い具合に進んでいたが、サキュバスさんのお店を使わせてもらっている手前、サキュバスサービスの仕事を疎かにはできない。

 

既にサキュバス店で働き始めて2週間ほど経ったが、私の顔見知りの男性冒険者のほとんどにこのお店で遭遇している気がする。というか、この街の男性のほとんどがこのお店を利用していたのではなかろうか。

なんという入れ食い独占状態。これでよく女性にその実態がバレていなかったなぁ、と感心してしまう。

 

そんな風に考えていた束の間、キィィと音をたててお店の扉が開く。

今日もいろいろと溜まっている冒険者のご来店だ。

私は来店した冒険者の方にサキュバス直伝のエロい微笑み方でお出迎えの言葉をかけ…

 

「いらっしゃいま…」

 

…ようとして少し動揺してしまう。

 

サキュバス店に姿を現したのは、バニルさんの仮面をつけた金髪のお客様だった。

バニルさんの仮面、先日ゆんゆんさんも着用していたけれども流行っているのだろうか…

 

仮面のお客様は大き目のマントを羽織って体躯のほとんどが隠れているが、そのマント自体が高級な生地であることが一見してわかる。そして、お客様から放たれる気品のあるオーラ。間違いなく貴族のお客様だ。貴族のお客様の来店なんて珍しいこともあるものだ。

 

 

それにしても…

 

仮面で覆われていない部分、サラリとしてツヤのある金髪に顎の形や口元のシャープさなどを見ると、この方は間違いなくアレだ。

 

イケメンだ。

 

男性にしては少し身長は低く細身であるが、イケメンだ。

 

生まれ育ちが全く異なる冒険者が真似しようとしても到底醸し出すことのできないような気品を宿している。つまりイケメンだ。

 

 

 

…ごくり。

 

意図せず私は獲物を見る目でつばを飲み込みのどを鳴らしていた。

 

間違いなくお金持ち(しかもイケメン)。

これは私の色仕掛けをフルに発揮する絶好機会!

そしてあわよくば御近付きになり、玉の輿のチャンス!

貴族様のお財布にかかれば借金なんてポケットマネーでどうにかなってしまうのではないだろうか。

 

 

 

 

私は、キョロキョロとしている貴族様に改めてお声を掛ける。

 

「いらっしゃいませ♡どうぞこちらへ♡」

 

ハートまでつけちゃう。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

貴族のお客様は記入ブースに着席して、サラサラとオーダー用紙に必要事項を記入している。

 

それにしてもこの貴族様、私が挨拶してここまで、私の言葉に相槌を打つだけで一度も声を聞かせてくれなかった。ここまで秘密主義だと是非ともその正体を暴きたくなってしまう。

 

 

…と、記入が終わったようだ。

金髪仮面のお客様は用紙を私へと差し出した。

 

「はい、では少々お待ちくださいね♡」

 

そういって、私は用紙をお店の奥に持っていく傍ら、その記入内容に目を通してみる。

 

…って、紙の枚数増えてません?

 

 

……

 

………

 

えーっと…夢の内容の欄に書かれている別紙参照ってなんですか。

 

私は用紙に重ねられていた別紙に目を通して、固まってしまう。

 

 

【別紙】

 

 

王都の城下町、人垣をかき分けて私は一人の少女の姿を探し求めて町中を駆け回っていた。

 

「アイリス様!アイリス様!」

 

くそっ、この通りにいらっしゃると思ったのだが…

 

と、正面に、私と同じくアイリス様を探して駆けまわっている同僚の姿を見つけた。私はその同僚へと声をかける。

「レイン、アイリス様は見つかったか?」

「いいえ、クレア様、商店街のほうは一通り見まわって城下町の方々にも聞いて回ったのですが、足取りがまったくわかりません」

「クソっ、ここ最近、アイリス様は我々の探索経路を読んでおられるようだ。探索網をB区画まで広げてみよう」

「…何だかいつぞやのお城でのあの方の逃走劇を思い出しますね…」

「うッ!!…嫌なことを思い出させるな」

 

ここ最近、アイリス様の脱走癖はエスカレートしていって、私もレインも見つけ出すに一苦労していた。

 

レインは増援を要請してくるということでそのままテレポートでいったん城に戻っていった。

 

 

私は先にB区画まで行こうとして…

 

「きゃあああああああ!!」

裏路地から覚えのある声の悲鳴を聞く。

 

この声は…アイリス様!?

 

私は急いで悲鳴の聞こえてきた路地へと駆け込んだ。

 

 

 

…と、そこには町娘のお姿をしたアイリス様が暴漢3人に囲まれている光景が広がっていた。

 

アイリス様は私の姿を見つけて叫ぶ。

「クレア!助けて!!怖いっ!!」

 

暴漢共がアイリス様の目線を追って私の存在に気が付く。

 

「…おっ?なんだ、王城の騎士様がこんなところになんのようだ!」

 

私は腰に掲げていた剣を鞘から抜いて暴漢共を睨む。

「貴様らただで済むと思うな…今襲おうとしている人物が誰かわからないようだが、せいぜい後悔するがいい」

「いくら騎士様だからって女一人で何ができるってんだ、やっちまえ!」

「「オォォォォ」」

暴漢共は3人一斉に私に襲い掛かってくる。

が…

「ふん、遅すぎる」

私は、これらの攻撃を軽くいなして…

 

「『ルーン・オブ・セイバー』!!」

 

一瞬で暴漢共が手にする武器を全て真っ二つに切り裂いた。

 

 

 

■■■

 

 

 

私の前で正座をする暴漢3人。

 

「も、申し訳ありませんでした!とても可愛い子だと思ってついつい誘拐したくなってしまって…まさか王女様だったなんて…で、でも、こんな天使のような子が目の前にいたらそんな気が起きてしまうのはしかたないだろ…」

 

私はその暴漢の弁明を聞いて…

 

「…ふむ、わかりみが深い」

 

この暴漢、よくわかっている。とくに天使のような子という表現が素晴らしい。

私はなかなか見どころのある暴漢に慈悲をかけることにしてやる。

 

「本来は王族を危険な目にあわせたのに対してこの場で打ち首と処すところだが、アイリス様の半端ない可愛さをよく理解しているようなのでここは不問としてやろう」

 

私の情けを受けて暴漢たちは地に頭を擦り付けた。

 

 

「クレア!!」

アイリス様はそれまでカタカタと震えて私達の様子を伺っていたが、ひと段落ついたことを把握して私の胸に飛び込んできた。

「クレア!!怖かった!怖かったです!!」

私のスーツに顔を埋めて泣きつくアイリス様。

その御頭をなでなでしながら私は優しく声を掛ける。

 

「アイリス様、城下町はこのような危険もあります。城を抜け出したくなるお気持ちも分かりますが、あまり心配をかけさせないでください…」

「だって…だって…」

 

アイリス様は涙を目に溜めて私を見上げる。

あぁ、なんと綺麗な吸い込まれそうな瞳だろうか。

 

「…私…クレアに私のことを見つけてほしかったのです…」

アイリス様のか細いお声が私の胸を打つ。

 

アイリス様は少し赤くなって恥ずかしそうに言葉を続ける。

「最近は私もいろいろなことを学ばなければならなくなってきて、前のようにクレアと一緒にいる時間が少なくなってしまって…私…すごく寂しかったのです…」

 

私のスーツを握る手がきゅっと強まる。

「…クレアが私のことなんてどうでも良くなるんじゃないかって…不安で…クレアの気持ちを確かめたくて…」

 

アイリス様は少し俯いて消え入りそうな声を発する。

「クレア…私、もっとクレアと一緒にいたい…」

 

おっと、これはエモい。激エモだ。

 

私はアイリス様をきゅっと抱きしめる。

王族御用達の石鹸の香りがふわりと漂う。超絶美少女の香りだ。

 

「アイリス様、私はいつでもアイリス様と共にあります」

 

私のその一言を聞いたアイリス様は私のことを強く抱き返す。

抱き合ったことで伝わるアイリス様の体温が少し高まって…

 

「クレア…今日の夜、私の部屋に来てくれませんか…」

 

 

 

 

モテキはいりました。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

その夜、私はアイリス様の御部屋に訪れていた。

 

「クレア…今日はありがとうございました。」

「いえ、寂しい思いをさせてしまって、申し訳ありませんでした」

「いいのです。それより…あの…」

アイリス様はベットの隣でもじもじとしている。

 

どうしたのだろう。

 

しばらくして、アイリス様は決心したように掌を握って、俯きつつ恥ずかしそうに言う。

「クレア…今夜は私と一緒に寝ませんか?」

 

「アイリス様…」

 

私は、優し気な笑みを浮かべながらアイリス様のもとに近づく。

 

寝巻のアイリス様の両肩に優しく触れ、アイリス様の潤んだブルーの瞳と視線を交わす。

 

アイリス様の透き通るような白肌色でぷるぷるの頬を私の片方の掌で包み込むと、アイリス様は頬をピンクに染めて、ほぅと息を吐き呟いた。

「クレア…今日は私のことを見つけてくれて、ありがとう。私はクレアをお慕いしています」

 

 

 

………

 

 

………

 

 

………

 

 

 

 

あ…あ…ああアイリスさまぁぁぁぁぁ!

 

えもえものえも!

 

すこすこのすこ!

 

尊い尊い尊い尊い尊い!

 

ATM!

 

A(アイリス様)T(尊い)M(マジで)!

 

 

 

続く。

 

 

 

【別紙終わり】

 

 

 

…続くのか。

 

 

私は仮面のお客様の正体を理解して、ツッコミどころの多すぎる百合百合なその用紙(小説?)を担当のサキュバスさんにそっと手渡して、このことは忘れようと努めるのだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

深夜。

 

仕事が終わって家路(河川敷の段ボールハウスまで)の途中、私は信じられない光景に唖然となる。

 

 

「こ、これは…」

 

 

そこには私が今日冒険者の方に自信をもって進めた魔道具『どんな目的地にでも自動で案内してくれる靴』が道端の目立たない場所に捨ててあった。少し前まで雨が降っていたせいで、泥まみれになっている。

今日おすすめした時は、冒険者の方はあんなに熱心に魔道具の話を鼻の下を伸ばしながら聞いていたのに…。

 

 

…捨てられた靴を拾って、それを黙って見つめながら私は思う。

 

 

確かに扇情的な恰好をすることで魔道具は面白いほど売れた。

しかし、私が提供していた魔道具は購入した冒険者の方にとっては価値の無いものだったのだ。

私は今まで何をやっていたのか。

 

 

…その場で魔道具の靴をハンカチで拭きながら、私は思う。

 

 

私は仮にも魔道具店の店主。

お客様には魔道具で喜んでもらうためにこれまで頑張ってきたのだ…

体でサービスしてお金を得ることは私が望んでいたことではない。

 

 

…履いている靴を脱ぎ、魔道具の靴に履き替えながら、私は思う。

 

 

サキュバス店でのサービスでも限界は感じていた。

あと二週間では到底借金を返すまで稼げない。

もっと主体的にお金を稼ぐことを考えなければならない。もっとしっかりと。

 

 

…私は履いている靴に目的地を告げる。

 

「魔道具さん、私を差し押さえられている私の魔道具店まで送ってくれませんか。」

 

私の声に呼応して魔道具の靴は淡い光を放ち、自動で動き出す。

 

 

 

私の足が魔道具の導きに従い、一直線に魔道具店へと向かい…

 

 

 

 

 

 

…その直線上に存在した馬小屋の壁に、私は正面から激突したのだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

計5回の正面衝突と2回の池ポチャの末、私は普段の5倍の時間をかけて魔道具店に到着した。

 

「うぅぅ…何なのこの魔道具、ちっとも使えない…」

なんだかあまりに惨め過ぎて泣けてきた。

 

「まったく、そんなもの一度検品すれば欠陥であることが理解できそうなのだがな…」

と、魔道具店の屋根の上から声が聞こえてきた。

 

「バニルさん…」

「どうだ店主よ、サキュバス店で何か学ぶことはあったか」

月光を背後にバニルさんがニヤニヤと笑いながら私に尋ねる。

「そうですね、やっぱり私はあのようなサービスよりも魔道具でお客様に喜んでもらいたいということがわかりました。期限があと二週間なので、その間で返済できる方法をもっと自分なりに真剣に考えてみます。」

「ふむ…自分でやり遂げようとする姿勢は立派であるな」

バニルさんはそういって、馬小屋の屋根から降りて私のもとまで歩いてくる。

 

「主体性を持つことは良いことだが、ただ魔道具を売るというだけでは今までと何も変わらんぞ、ポンコツ店主よ」

「…そ、それは、商品を気に入って買ってもらえるようにお客様にしっかりした説明を…」

と、言いかけたのを聞いてバニルさんは、はぁと大きなため息をつく。

「…汝の欠点は自分のイメージにとらわれすぎるところだな」

 

…イメージにとらわれすぎって…今日サキュバス店に来たクレアさんに言ってほしい。

 

「そして汝はいろいろなところで寛容すぎる。寛容さというのは人間の基準では美徳なのであろうが、寛容故に汝は他人の機微に疎い。」

「うぐっ…」

正論を突かれて私はぐぅの音をもらす。

「確かに、サキュバス店のサービスもあのチンピラの色仕掛け抱き合わせ商法も、魔道具販売とは全く異なるように思われるな。汝が体を提供するのが嫌だというのならそれはそれでよいだろう。しかし、どんな取引においても共通することがあるな。」

バニルさんは話を続ける。

「それは相手の需要があった上でのこちらの供給だ。これは全ての取引の基本中の基本だ。汝は順序が逆なのだ。汝がどれだけ供給したいと考えても、相手の需要がなければそこに取引は成立しない。サキュバス店ではそのあたりを理解して欲しかったのであるが…まぁ、期限まで残り2週間、その辺りをよく考えて汝なりにあがいてみるといい」

 

「バニルさん…」

 

意外にも真っ当なアドバイスをくれたことに軽く感動してしまった私はバニルさんをじっと見つめる。

 

 

 

「ではな、店主よ。段ボールハウスに帰るときにはその魔道具の靴は履き替えた方がよいぞ」

バニルさんはそういって魔道具店の反対側へと歩いて行った。

 

何だかんだいって私のことを考えてくれているバニルさんには感謝だ。

明日、サキュバス店に行ってお仕事を辞めさせてもらって、お金の稼ぎ方を本気で考えてみよう。

 

 

 

心機一転を感じた私は家に帰ろうとして……男性冒険者がこそこそと魔道具店の裏に歩いていく姿が見えた。

 

こんな深夜になんだろう?

 

 

「おぉ、きたかきたか」

男性冒険者が向かった先からはバニルさんの声も聞こえる。

 

私は気になって、冒険者が向かった魔道具店の裏をのぞいてみる。

 

そこでは男性冒険者とバニルさんが立ち話をしていて…

「バニルさん、例のものは…」

「あぁ、もちろん用意しておるぞ。我輩は汝の需要を満たすものを供給する自信がある。まずは正面アップと首筋アップ。胸元アップ。それから屈んだ姿のバック、これは引きだな。それとふとももアップ…ふぅむ、なかなかのフェチ具合であるな。全部でしめて5万エリスだ」

「くぅ、少し高いが、永久保存版だ。仕方ねぇ…」

男性冒険者はバニルさんからハガキのようなものを受け取る。

 

私は気になってそっとそのハガキのようなものを盗み見ると…

 

「…ってこれ、私がいかがわしい恰好をしてサキュバス店で働いてる写真じゃないですかあああああああ!いつ撮ったんですかあああああああ!!」

「…うぉっ!?店主さん!?」

「せっかくいい気分で帰れそうだったのに!!バニルさんのバカああああああ!」

「ふむ。リッチーの怒りの悪感情、美味ではないが珍味だな」

「バカああああああああああああああああああ!!」

 

 

深夜のアクセルの街に私の声がこだました。

 

 

 

■■■

 

残   債   務 :2000万エリス

バ  イ  ト  代:6万エリス

魔 道 具 販 売 :200万エリス

ウィズブロマイド販売:5万エリス

猶        予:2週間

 




すごい間が開いてしまって申し訳ないです。

一応プロットはあと2話くらいで消化の予定です。

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