外は、もう夕方だった。
今の季節だと、このノースリーブな格好では少し寒い。
私は両肩を手で抱き、こしこし、とこすって寒さを紛らわせようとする。
その様子を見たヒキニートは、ちょっとためらいながらも、
「あ、あの、良かったら、さっき買った、このジャージ着ない?」
と提案してくれた。
「え?買ったばっかりでしょ?いいの?」
「あぁ、別に無くなるものじゃないし・・・」
そう言って、彼はユニクロの袋にガサガサと手をツッコミ、ジャージを取り出して、タグを歯で噛み切る。
そして、私にジャージを、
「ん!」
といって突き出してきた。
「あ、ありがとう。」
私はジャージを受け取り、腕を通す。
「わぁ、アナタもやっぱり男の子なのね。私には少しだけ大きいわね。肩幅の差かしら。」
新品独特の無機質な匂い。
サラサラした肌触り。
暖かい。
「ありがとうね。」
彼は顔を赤くする。
このジャージはおそらく帰った後クンクンされ、彼の一生の宝物になるだろう。
でもいいの。女神からの贈り物よ。
■■■
ヒキニートから借りたジャージを上に着て、彼と一緒に道を歩く。
晩御飯、どこで食べようか、とか話しつつ歩いていたその時だった。
いわゆる不良と呼ばれる高校生くらいの子達のグループがふざけ合いつつ向かいから歩いてくる。
と、そのうちの一人が私にぶつかってきた。どうやら仲間うちのじゃれあいでどつかれたらしい。
「ひゃあぁぁぁ!!!」
不良に体当たりされ、私は道を転げる。
ヒキニートが慌てて叫ぶ。
「もが!大丈夫か?」
・・・私はもがじゃないんですけど。
ぶつかってきた不良少年Aがこちらを睨んで「ッツ」と舌打ちをする。
その態度にカチンと来てAに向かって私は言う。
「ちょっとあんた、自分からぶつかってきて舌打ちは無いんじゃないの?謝って!ほら早く謝って!」
「ハァ?そんなところに突っ立ていたアンタも悪いんじゃねーか?」
何というテンプレート不良少年。
例えるなら、そう、少年漫画の一話で主人公をいじめるも、覚醒とかした主人公にあっという間に倒される噛ませ不良少年そのものだ。なお、その後、仲間になる展開はよくある(だが弱い)。
テンプレ不良少年Aの仲間達がこっちに近づいてくる。
「おいおい、見ろよスゲェ美人じゃねーか。」「なんだよ、こんな美人と喋る機会ができてラッキーじゃん」「なぁ、姉さん、俺らと遊びにいかない?」「そっちのオタクっぽい彼と一緒じゃつまんないでしょ?俺らとくればもっと楽しぜ。」「ヒャッハー。」
「ハァ!?何言っているの?親の扶養を受けてる身分でこの私を口説こうなんて100年早いわよ。とりあえず、ごめんなさいをしなさい。今日のところはそれで許してあげるから、ごめんなさいをしなさい!」
私のお告げに対してテンプレ不良少年Aが言い返してくる。
「おい、なんかこの女、頭が弱そうだぜ。連れの男は弱そうだし、力づくで連れてっちまおうぜ。」
Aが私の腕を掴んで引っ張る。
「ちょ、やめて!!!やめなさい!!!離して!!!」
「おい、この女、結構力あるぞ。なんて筋肉だ。」
とか失礼な事をいうこの男をどうしてやろうかしら。
と、そう考えていると、青い顔をしながら事の成り行きを見ていたヒキニートがAの腕を掴んだ。
「や、や、やヤメローぉぉぉ・・・てください!ご、ご、ごごめんなさい!本当にごめんなさい!彼女が嫌がっているようなので、ど、ど、どどうにか許してはくれませんでしょうか・・・」
「アァ?何だと?」
「ヒィィィィ!!えーっと、俺ら、これから行かなきゃいけないところがあって・・・えっと、えっと・・・」
ヒキニートは今にもショック死してしまいそうなほど顔を真っ青にして言う。
可哀想なほど頬が引きつっている。
足はガクガク震えているのがわかる。
いかつい不良数名に睨まれて、このまま失禁してしまうんじゃないか、と思わせるほど不憫な姿である。
よくもまぁ、そんなチキンハートで私のために勇気を出してくれたものだ。
・・・ほんの少しだけカッコ良いと思ってしまった。
「アァ!?てめぇ、俺らの邪魔すんの?」
「ヒィィィィ!!!!ごめんなさいごめんなさい!見逃しブふォォォォ!!!」
ヒキニートがAに殴り飛ばされた。
そのまま建物の壁に激突して、気を失う。・・・なんて弱いのかしら。
「ハハハ、マジでよえぇじゃねーか。姉さんも彼氏がこんな雑魚で不憫だねぇ。安心しなよ。俺らそれなりに喧嘩で鍛えてるから、こんなヤツと一緒にいるより安全よ?」
「・・・・・・」
「お、何だこれ?」
Aはヒキニートが取り落とした袋を拾い、中のものを取り出した。
「うん?なになに、限定版?へー、こんなゲームあるんだ。ハハ、俺らに絡んできた彼氏の粗相はこれでチャラにしてやるよ。おっと、あんたは一緒に来なよ。」
Aはヘラヘラ笑いながら私の腕をとる。
それは、ヒキニートが目を輝かせながらボロクソに語っていたゲームだ。
私は、ヒキニートが、このゲームの世界が大好きだと語ったのを覚えている。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
「・・・それを返しなさい。」
私はAに向けて言う。
なぜだかはわからない。
けれども、私にとっても、このゲームがとても大切なものに思えたんだ。
「ハァ?これは俺をイラつかせた慰謝料代わりだっつーの。ほら、来なよ、姉ちゃん」
Aが私の腕に力を込める。
私は、情けない顔で失神しているヒキニートを横目で眺め、
私のためになけなしの勇気を振るってくれた彼を眺め、
「・・・・女神様をキレさせたこと、後悔するんじゃないわよ。」
Aに対して告げる。
「は?女神様?なんだ、この女マジでイカれてんのかよ。」
例え、下界に降りたことで力が大幅に制限されていたとしても・・・
「歯、食いしばりなさい。」
・・・私のステータスで彼らに遅れをとることはない。
「何?やるき?女だからって手加減し『ゴッドブローォォォォォォォォ!!!!』ねヒデブゥゥゥゥ!!!!!」
私の拳が目の前のAの頬にめり込む。
Aは、変な声をだして後ろへ吹っ飛ぶ。
ガッ、と地面に体を打ち付け、そのままAは白目を向いてピクピクしながら気を失った。
「うわぁぁ、何だこの女、ヤベェよ!!!」「何だよ、今のパンチの威力!?」「ってか、なんか技名とか素で叫んでたし!マジヤベェよ!こんな厨二女見たことねぇよ!」「お、おい、とりあえず逃げようぜ!関わり合いにならない方いいって!」
彼らは、その場にAを残してバタバタと逃げていった。
私はAが取り落としたゲームを手にとった。
その時、ちらりとそのタイトルが目に入ったのだった。
『この素晴らしい世界に祝福を!』